阿曽山大噴火の「裁判妙ちきりん」第3回 ~毎日競輪場に通う前科6犯~

~いざという時の備えに~刑事事件マガジン

 > 
 > 
 > 
阿曽山大噴火の「裁判妙ちきりん」第3回 ~毎日競輪場に通う前科6犯~
キーワードからマガジンを探す
Sidebar_writer_recruit
刑事事件マガジン
2018.8.20

阿曽山大噴火の「裁判妙ちきりん」第3回 ~毎日競輪場に通う前科6犯~

Story3

裁判傍聴芸人として名高い阿曽山大噴火による連載『裁判妙ちきりん』第3話!

法廷でしか味わう事のできない裁判のリアルをお届けします!

 

もしこの裁判がフィクションだったとして。

私は被告人の言葉に対して――

 

罪名:常習累犯窃盗

被告人:50才無職の男性

 

事件は今年の6月7日午後10時半。JR渋谷駅のホーム上で、被告人が女性のショルダーバッグ内から16万円入りの財布を盗んだというもの。

検察官の冒頭陳述によると、被告人は高校を卒業後、自動車整備士として働き、職を転々としていたが、犯行時は無職で生活保護を受給して生活していたという。

 

犯行当日。被告人は山手線電車内でスリを思い立ち、大きく口の開いたショルダーバッグを抱えていた被害女性の近くへ。

渋谷駅に到着すると、被告人は被害女性の後をつけ、一緒に下車。ホーム上で財布を盗り、自分のカバンに入れ、再び山手線電車内に戻ろうとしたところ、犯行を見ていた女性から「あなたのですか?」と声を掛けられたらしい。

焦った被告人は中央改札の方へ歩き、逃走しようとしたところ、女性が「この人、スリです!」と大声を出し、駅員に捕まったというのが事件の流れになります。

 

そして、被告人には前科があって、その数、前科6犯。平成13、17、19、22、26年に同じスリ事犯で5度実刑判決を受けている常習犯なのです。

東京地裁1階のタブレットで開廷表を見て被告人の名前を目にした時、法廷前の予定表で被告人の名前を確認した時、いずれも何も思わなかったんだけど、被告人が刑務官に連れられて入廷してきた瞬間、もしやと思ってたんです。

顔を見た時に「この人、電車内のスリの人じゃなかったっけ」と(今回の事件はホーム上のスリですよ)。

 

これは、帰宅して8年前の裁判傍聴のメモ帳を見返してから分かった事なんだけど、平成22年に行われた前々回の裁判を傍聴してたようです。

長いこと傍聴していれば皆さんも経験すると思いますが。

さて、メモを見返すと、被告人はギャンブルで散財し、その負け分を補う為にスリをくり返していたというのが犯行理由。ギャンブルは主に競輪をやっていて、理由は父親がやっていた予想屋の仕事を引き継いだのでハマったと。ま、あくまでも8年前の法廷での話です。

 

そして今回。2018年は取り調べに対し「仕事もせず、毎日のように松戸競輪場に通っていた。手癖が悪く、保護士からも人混みに行かないよう言われていた」と供述しているらしく、時が経っても競輪好きは相変わらず。相変わらずというか、毎日通ってたとなるとギャンブル依存のバンクをグルグルと加速つけて回っているようにも思えてきます。

法廷には、被告人の父親が情状証人として出廷です。先代の予想屋ですよ。

弁護人

今年2月に息子さんが出所してきて、同居していたと。どんな様子でした?

 

証人

本を50冊置いて、駅のチラシとか貰って就職しようとね、ハローワーク行ってたんで安心してたんですけど

 

弁護人

再び窃盗しないよう注意してた?

 

証人

してます。家内が今病気でねぇ、それでやらないねってね

かなり言葉足らずなんだけど、被告人の母親は病気で入院しているらしく、看病が必要だから盗みなんかやるはずがないと思っていたとのことです。

続いて検察官からの質問。

 

検察官

保護士からはギャンブル場へは行かないよう言われていたと。でも実際は行っていたようですね

 

証人

就職探してると思ってて

息子の行動の予想がハズレていた訳です。

 

検察官

就活してるか話を聞くべきだったんじゃないですかね?

 

証人

今後は一緒に面接とか行きますので

あまり現実的ではないような気も。50才の男の面接に父親同伴って。

 

検察官

それは難しいんじゃないですか?

 

証人

家内も病気で、私も背中が曲がってきてますけど、しっかりついて行きます

 

検察官

ずっとついて行く訳にいきませんよね

 

証人

家内が病院で当分は任せられるので

どこまで本気なのやら。仮に本気だとしても、重要なのはお父さんじゃなく被告人本人ですけどね。

その被告人への質問です。

 

弁護人

犯行時の収入は?

 

被告人

(刑務所からの)作業賞与金があって、収入は生活保護費です

 

弁護人

いくらですか?

 

被告人

月3万円です

 

弁護人

支出は?

 

被告人

1万5000円位です

かなり厳しい経済状況ゆえ、仕事は探していたという。

 

弁護人

犯行当日。何時に家を出ましたか?

 

被告人

午前11時頃です

 

弁護人

どこへ行きました?

 

被告人

歩いて松戸競輪場です

 

弁護人

賭け事はしたんですか?

 

被告人

しました。1万円負けました

どう考えても車券を買っている場合じゃないのだが。

 

弁護人

その後、どこに行きました?

 

被告人

上野駅に向かいました

 

弁護人

何故、松戸から上野に?

 

被告人

レースの前夜版が夜に出るので、それを買おうかな、と

情報を入手して翌日もやる気マンマン。

 

弁護人

発売まで時間ありましたよね?

 

被告人

山手線に乗って時間潰そうかなと

グルグル回る環状の山手線に競輪選手を重ねて見ていたのか、何周かして前夜版の発売を待とうと考えたみたいです。

 

弁護人

山手線は盗み目的で乗った訳じゃないと。何故、盗ったんですか?

 

被告人

口の開いたバッグをたまたま見かけましたので

 

弁護人

ホーム上だと防犯カメラもあるし、人もいるし、なんで車内で盗らなかったの?

 

被告人

いや~、そんな事気にする余裕もありませんでした

考えが噛み合ってない気もするけど、周りに注意を払って盗んでいた訳じゃなかったようですね。

 

弁護人

くり返し盗みをやる原因は何ですか?

 

被告人

お金を使い果たしてしまうことです

 

弁護人

今回の犯行動機は?

 

被告人

競輪で負けたことです

 

弁護人

今後どう生活します?

 

被告人

賭け事をやめ、まじめに働きます

と、ギャンブル引退宣言です。父親の仕事を継いで予想屋もやっていたから知識も豊富だろうけど、遂に競輪と決別の時。

次は検察官から。

 

検察官

出所してから、何回ギャンブル場行きました?

 

被告人

競輪場だけですけど、もう何回なのか……。職探し以外の日すべてです

 

検察官

また盗みやれば刑務所に行くって分かってましたよね。何故やったの?

 

被告人

たまたま財布が見えてしまって……

 

検察官

前回もホーム上でのスリ。法廷では2度しないって言ってたみたいですけど、またやるんじゃないんですか?

 

被告人

私の場合は賭け事をやめる、あとまじめに働いて収入を得る。これができれば大丈夫です

これだけ聞けば口先だけかと思う人もいるかも知れないけど、個人的には信じたいし、賭けをやめる方に賭けたい。

被告人の人生、ラスト1周のドラが鳴ってる感じだし。

この後、裁判官からの質問は無く、検察官は懲役5年を求刑です。

そして、最終陳述で被告人は背筋を伸ばして、

 

被告人

ギャンブルしない事、仕事することを約束します。母親が週3回の透析を受けています。これも私のせいだと思ってます。

一生、母の面倒みていきたいので……

と、再犯しない事を誓って閉廷でした。

 

 

もしこの裁判がフィクションだったとして。

私は被告人の言葉に対して――

 

――私が被害者なら、口の広いカバン持ってる方に非があるように聞こえるな、と思うだろうね。

 

ま、実際にあった裁判なのだが。

 

《バックナンバー》

第2話「妻子に逃げられた大麻常習者」

Prevent_banner
編集部

本記事は刑事事件弁護士ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※刑事事件弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

阿曽山大噴火に関する新着マガジン

阿曽山大噴火に関する人気のマガジン


阿曽山大噴火マガジン一覧へ戻る