阿曽山大噴火の裁判妙ちきりん 第18回 〜法廷を振り回すマイペース被告人〜

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2018.11.30

阿曽山大噴火の裁判妙ちきりん 第18回 〜法廷を振り回すマイペース被告人〜

Asozan_18

裁判傍聴芸人として名高い阿曽山大噴火による連載『裁判妙ちきりん』第18回!

法廷でしか味わう事のできない裁判のリアルをお届けします!

 

 

罪名 道路交通法違反

被告人 64才の無職の男性

 

人定質問を終えたところで、ちょっとしたハプニングが発生。

 

裁判官

「被告人は起訴状を受け取ってますね?」

 

被告人

「キソジョウ…。」

 

裁判官

「こちら。どういう事件について審理するのかって書かれた紙ですけど。」

 

弁護人

「この紙ですよ。」

 

と、被告人に起訴状を見せると

 

被告人

「あったかなあ…。」

 

と、スーツの内ポケットからいくつかの書類を取り出して確認です。

 

裁判官

「記録上は、同居人が受け取ってるみたいだけど…。」

 

被告人

「半介護で自宅を離れてまして。」

 

ルール上、被告人が起訴状を見てないとなると裁判が始められないんです。

って訳で、

 

裁判官

「書記官。謄本を見てもらって。」

 

と、今この場で起訴状の確認とサインです。

その間を繋ぐ感じで雑談っぽく、

 

裁判官

「介護って親御さんですか?」

 

被告人

「母です。」

 

裁判官

「ふ~ん。…で、弁護人! 5日以内ですけど始めちゃっていいですね?」

 

実は、起訴状を受け取ったときによく考える時間が必要なので、5日以内に裁判やっちゃダメなんです。

ま、被告人がOKならいいんだけど。

 

弁護人

「被告人に確認してからですね。」

 

と、初公判を始めていいのかを被告人に訊き、了解を得たので、やっとスタートです。

 

追起訴分の起訴状が初公判に間に合って…というケースはよく見るけど、本起訴でこういうやり取りは超珍しい。

 

 

事件は、今年の1月7日20時20分。

東京都練馬区内の路上で、被告人が酒気を帯び、酒の影響で正常な運転が出来ない状態で普通自動車を運転したという内容。

 

酒酔い運転ってやつですね。

ここ10年くらいで飲酒運転は厳しい罰になってるほど、社会問題の1つですよね。

 

検察官の冒頭陳述によると、被告人は大学を中退し、さらに専門学校も中退。そして、いくつかの会社を転々として、現在は無職だという。

 

前科前歴はなく、今回が初の裁判。

 

そして、犯行当日。

被告人は母の介護をするため、練馬区の自宅を車で出発し、母親が住む家へ向かったという。

 

コインパーキングに車を駐車し、そこから歩いて母宅へ。

 

一通りの介護を済ませ、被告人は歩いて近所の定食屋に行き、飲食。焼酎の緑茶割を500mlとウォッカ410mlを飲んだらしい。

 

定食屋を出たときには足がおぼつかなかったが、歩いてコインパーキングまで行って、そのまま車を運転。

 

走行中、ガードパイプに衝突してバンパーが取れる事故を起こすも、被告人はそのまま走行。

 

そして、犯行現場である練馬区の路上でもガードパイプに衝突。

 

近所の目撃者が110番通報し、駆けつけた警察官により逮捕されたというのが事件の流れです。

 

逮捕から1時間20分後に行われたアルコール検査では、被告人の呼気1リットルあたり0.95mgのアルコール成分が検出されたって話なので、かなり酔ってたと言えるでしょうね。

 

そして、被告人質問です。

まずは弁護人から。

 

弁護人

「なぜ、酒飲んで運転したんでしょう?」

 

被告人

「この日は元々母の介護に行って、それで食事のために外に出て、ま、母の家と食堂の中間位に駐車場があるんですけど。なぜかをよく考えまして、それは過去に事業で失敗して社会性がなくなったというのが理由だと思います。」

 

なんか、法廷の中にいる人全員がポカーンって感じ。

「事業に失敗した人は飲酒運転をする」なんて話は聞いたことないですから。

 

弁護人

「1つずつ訊いていきますね。母の家に向かうとき、酔って車を運転するつもりで出発しましたか?」

 

被告人

「そのつもりはありません。」

 

弁護人

「では、定食屋でお酒を飲んだ後はどうしようと思ってましたか?」

 

被告人

「母の家に戻って食事を出し、朝まで介護の予定でした。」

 

本来は、定食屋で飲食後に母の家まで歩いて戻るはずだったようです。

 

弁護人

「取調べでも答えてますが、運転を始めるときの記憶はない、と。逮捕されるまでまったく記憶ないんですか?」

 

被告人

「高速の真下の側道で、運転してるなぁって気づきました。」

 

弁護人

「どう思いました?」

 

被告人

「こりゃまずいと思ってスピードを落としました。」

 

弁護人

「止めようと思わなかったのは?」

 

被告人

「わかりません。今から思えば、見つからないんじゃないか、家まで帰れるんじゃないかと思ったんじゃないかなと。」

 

ホントは歩いて母の家にいるはずなのに、車を運転してることに途中で気づく異常事態。酒の恐ろしさよ。

 

今後、車は運転しないと約束して質問終了。

 

次は、検察官から。

 

検察官

「運転開始の記憶はないんですよね?」

 

被告人

「はい。」

 

検察官

「現場の前、1回目の事故は気づいた?」

 

被告人

「はい。」

 

検察官

「ぶつけた後、走り出した理由は?」

 

被告人

「記憶にありません。」

 

検察官

「今から振り返ってみると?」

 

被告人

「事故起こしたこと、酔ってること、犯罪ですから逃げたかったのかなぁと思います。」

 

冷静に今考えると、そんな風に思っていただろう、と。でも記憶はなし

 

検察官

「この定食屋で飲むことはあるんですか?」

 

被告人

「はい、ほとんど毎日。」

 

検察官

「毎日!?」

 

と、検察官・弁護人・裁判官が顔を見合わせ。

 

検察官

「母の家に泊まることはありました?」

 

被告人

「毎日ですね。」

 

検察官

「自宅に帰るのは?」

 

被告人

「翌朝か昼間です。車で。」

 

検察官

「取調べでは“火曜と金曜だけ母の家に泊まってた”って答えてるけど?」

 

だから全員で顔を見合わせて不思議そうな表情を浮かべてたんですね。

 

被告人

「火と金だけは去年で、母が悪くなった犯行当時は毎日泊まってました。」

 

なので、自宅から車で母親の家まで来て、夕食は近所の定食屋でお酒を飲みながら済ませ、母の家に戻って朝まで介護という毎日だったわけです。

 

なぜかこの日だけ車を運転した、と。

 

検察官

「ちなみにこんなに飲んで介護できる?」

 

被告人

「はい。30分おきに“水飲みたい” “テレビつけて” “窓開けて”とか呼ばれるくらいなので。確かにこの日はいつもより量は多かったとは思いますが…。」

 

検察官

「母の所に戻るはずが、定食屋出たら車で自宅に向かった…。理由は言えない?」

 

被告人

「はい。ホントわからないです。」

 

覚えてないんじゃ仕方ない。アルコールは変な物質だな。こんな不可解な行動をさせるって。

 

最後は裁判官から。

 

裁判官

「定食屋を出たときですけど、かなり酔ってるという認識は当時ありました?」

 

被告人

「はい。」

 

裁判官

「これじゃ車は運転無理だなとは?」

 

被告人

「そもそも運転の発想がなかったので。」

 

裁判官

「そっか…。」

 

店を出たときの記憶はあっても、エンジンかけたりしてる辺りは覚えてないわけですからね。

 

裁判官

「今、介護のほうは?」

 

被告人

「施設のほうに預けてますので。」

 

と、車に乗らないことを再確認して、質問終了。

 

この後検察官は懲役10ヶ月を求刑し、弁護人は執行猶予を求めて弁論。

 

そして、被告人の最終陳述です。

 

被告人

「懸命に働かなきゃいけない時期に、家にこもってたのが原因です。今後は働いて自分を律します。」

 

と、冒頭の話に戻ると、全員酒のことを訊き忘れてたので、ここで裁判官が焦って追加の質問を。

 

裁判官

「もう今後、酒は慎みますよね?」

 

被告人

「はい。もちろん。」

 

 

 

──もしこの裁判がフィクションだったとして。

私は被告人の言葉に対して――

 

定食屋の店長なら「いっつも歩いて帰ってるのに…」って思うだろうなぁ。

ま、11/19に実際に行われた裁判なのだが

 

 

 

 

 

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編集部

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