介護殺人で被害者が死亡した事案につき執行猶予判決を得た事例(裁判員裁判)
罪名 | 解決結果 |
---|---|
殺人罪 | 執行猶予 |
母親が交通事故に遭った。意識不明の重体からかろうじて意識を回復したものの、全身不随で話すこともできない寝たきり状態となった。退院後、本人が自宅に母を迎えて介護生活を始める。昼夜を問わずつきっきりの介護を10年間継続した。
その後、本人は体調不良を感じるようになり、将来を見通せない生活もあいまって、精神的に追い詰められていった。やがて、本人は、このまま介護を続けていくことは困難だと感じ、死ぬしかない、かといって母を置いて死ぬわけにはいかないと思い詰め、母を殺し、自らも自殺を図った。
結果として、母は死亡し、本人は一命をとりとめた。
怪我の回復後、殺人罪で起訴された。
事件当時の本人の思考経過にやや論理的な飛躍がみられ、長年にわたる介護疲れが本人の精神状態に悪影響を及ぼしていると思われた。そこで、裁判所に対し、事件当時の本人の責任能力の有無とその程度をみることを目的とした精神鑑定を請求したところ、裁判所に採用された。精神鑑定の結果、心神耗弱状態と判断された。
公判では、本人は事件当時心神耗弱状態にあり、責任能力が制限される状態にあったことに加え、長年にわたり献身的に母を介護してきたこと、母を置いて自分だけが死ぬわけにはいかないという動機であったことなどの情状面を主張した。結果は、執行猶予判決であった。
~ 弁護士からのコメント ~
殺人罪という重大犯罪ではあるが、介護という近時の社会問題が背景にあり、もともと同情の余地がおおいにある事案であった。その点だけを強調するという弁護方針もあり得たと考えられるが、精神疾患に至っていてそれが事件に寄与した可能性があると考え、精神鑑定を求めたことが、上記の判決結果の大きな要因になったと考えられる。