犯罪は全て加害者の責任なのか?|加害者や加害者家族への支援・サポート

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公開日:2020.10.1  更新日:2021.4.27
その他 弁護士監修記事

犯罪は全て加害者の責任なのか?|加害者や加害者家族への支援・サポート

犯罪を犯してしまった場合は、原則として犯人や加害者がその責任を負い、刑罰を与えることで更生や反省を促します。

しかし必ずしも厳しい刑罰を与えることが、更生や反省を促す正しい方法とは限りません。加害者のストレスや悩み、病気などと向き合うことが反省・更生につながることもあるのです。

また被害者と被害者の家族と同様、「加害者の家族」も事件に巻き込まれてしまった被害者のひとりといえます。

どうしても加害者・被害者の当日ばかりに注目が集まりますが、加害者の家族にも支援やサポートが必要です。

この記事では、刑罰を与えることの他にも考えられる加害者の反省・更生や、加害者・加害者の家族に対する支援・サポートなどを紹介します。

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厳しい罰だけが更生の方法ではない

刑事裁判を受けて有罪判決を受けた場合、原則として法律で定められた刑罰を受けることになります。

刑種

内容

刑法

死刑

刑事施設において、絞首による執行

第11条

懲役

1ヶ月以上20年以下の有期もしくは無期懲役、刑事施設での拘置と所定の作業

第12条

禁錮

1ヶ月以上20年以下の有期もしくは無期禁錮、刑事施設での拘置

第13条

罰金

1万円以上の罰金

第15条

拘留

1日以上30日未満の刑事施設での拘置

第16条

科料

1000円以上1万円未満

第17条

刑罰の目的について、再犯防止のための教育刑という考え方と、罪に対する報復のための応報刑という考え方があります。いずれにしても刑罰は人権に対し厳しい制約を課すものです。

日本国外に目を向けると、厳しい刑罰以外の方法で、犯罪者の更生を図り、成果を出している例があります。

 

快適な刑務所があるノルウェーの再犯率は低い

北欧は福祉が充実していることで有名ですが、ノルウェーは福祉の力を刑務所に活かしています。

Halden Prison Room画像引用:犯罪者を世界一甘やかしていると言われる「ハルデン刑務所」の快適な収容ライフ|らばQ

ノルウェーのハルデン刑務所では、清潔なシャワーやトイレ、テレビや冷蔵庫がある部屋や、自由な散歩の時間、充実した図書館などが整備されています。

Halden prison room

画像引用:犯罪者を世界一甘やかしていると言われる「ハルデン刑務所」の快適な収容ライフ|らばQ

軽犯罪に限った収容施設ではなく、凶悪犯もハルデン刑務所に収容されているようです。

そんなノルウェーの再犯率は23%となっており、日本の再犯者率48.7%と比べて低くなっています。

参考:ノルウェーの刑事政策|第54回人権擁護大会シンポジウム第1分科会報告書

参考:刑法犯により検挙された再犯者|平成30年版 犯罪白書

 

欧米では薬物使用の罪を非刑罰化する動きがある

現在日本では覚醒剤の使用や所持、譲渡や譲受をした場合、営利目的がない場合は10年以下の懲役が科せられる場合があります。

しかし欧米諸国では近年、刑罰よりも依存症治療をしたほうが再犯防止の観点では効果的だとされ、非刑罰化の動きがあるようです。

刑罰ではなく社会内での治療を目指したことで、再犯率が低下したという報告もあるようです。

参考:日本の薬物依存対策は時代遅れ。必要なのは懲罰ではなく、社会の中で治療すること|ハーバービジネスオンライン

刑罰によらない加害者の更生サポートと加害者家族が支援を受けられる相談先

犯罪を起こしてしまった人は当然罰を受けるべき、と考えることは、被害者感情として何ら不自然なことではありません。

しかし罰を与えるだけでは、必ずしも更生し、再犯防止できるとは限りません。

加害者に対し、罰以外の方法をとることで更生できる可能性もあるのです。

また加害者本人だけではなく、加害者の家族にも支援が必要な場合もあります。

加害者本人だけではなく周囲の人へのサポートもしつつ、更生を図ることが望まれます。

NPO法人スキマサポートセンター

NPO法人スキマサポートセンターでは、加害者の家族はもちろん、加害者本人の釈放・回復にいたるまで、事件の渦中にある方をさまざまな状況に合わせてサポートしています。

スキマサポートセンターから取材のご協力をいただき、具体的なサポート内容や、実際に回復に至った事例などを伺いました。

 

スキマサポートセンター設立の経緯

加害者の家族に対するサポートが非常に少ない現状にあり、家族の生活や精神は非常に混乱・困窮してしまいます。それらを支援するため、弁護士といった専門家と協力し支援・設立に至りました。

 

スキマサポートセンターの支援内容

スキマサポートセンターでの支援内容は多岐にわたり、家族や本人の状況ごとに対応しています。

加害者に家族に対しては、以下のような支援があります。

状況

支援内容

逮捕時

・転居,刑事手続の説明

・カウンセリング

・報道対策

・生活保護受給

・子どものための養護施設紹介

・ピアカウンセリング

など

裁判中

・加害者本人を受け入れるかどうかの相談

・離婚の支援

・名前を変える手続き

・情状鑑定の支援

など

もちろん加害者本人にも、以下のような支援を行っています。

状況

支援内容

逮捕時

・代理面会

・身元引受人を探す

など

裁判中

・情状鑑定・意見書の作成

・更生支援計画の作成

など

受刑中

・手紙のやり取りのサポート

・出所時・出迎え・通院の付添

・家庭訪問

など

出所後

・カウンセリング

・提携している精神科での受診

・就労支援

・家財道具を含む住居支援

など

 

スキマサポートセンターへの相談者の状況とは

多くの場合、逮捕・勾留されたときに家族が相談します。刑事事件になったがどうすれば良いかわからない、あるいは誰にも相談できないという人の相談が多いです。

また弁護士から、情状鑑定をしてほしいといった依頼も少なくありません。

 

出所後の再出発支援に力を入れている

スキマサポートセンターでは、出所後の再出発のための支援に力を入れています。後述の就労支援や、住居確保などはもちろんですが、精神的な部分の支援もしているのです。

たとえば万引きや薬物、性犯罪など犯罪行動の依存症がある人に対しては、それらの矯正プログラムを受けてもらうこともできます。刑務所内で薬物依存離脱指導や、性犯罪再犯防止指導など、矯正プログラムの指導経験がある人によるものです。

また矯正プログラムとして刑務所で実施していない行動であっても、精神科医や福祉士などと協力し、加害者になってしまった人の心の問題解決に向けた支援をしています。

 

再出発できた事例

スキマサポートセンターでは就労支援に注力しており、精神科との連携などがあるプログラムにも、「自分で就労先を見つけて再出発できるようにする」ことに強みがあります。

面会をして信頼関係を築き、釈放された場合にはすぐにカウンセリングや就労支援、精神科受診などを行います。

就職が決まって、すぐにやめてしまう人もいましたが、そのケースでは家族とのつながりを持ち続け、最終的にはもう1度自分で就職先を見つけたという事例もありました。

 

今後のサポート体制

スキマサポートセンターでは今後、依存症関連の犯罪に対してアプローチを手厚くできないかと考えています。

依存症は精神疾患であるため、医療・心理・福祉の三面でサポートする必要があるためです。

また加害者になってしまった人たちが、安心して暮らしていけるような場所づくりも進められればと考えています。

もしも加害者になって、再出発に不安があるという人は、スキマサポートセンターへの相談を検討してみてください。

特定非営利活動法人スキマサポートセンター

 

NPO法人マザーハウス

NPO法人マザーハウスでは、逮捕から受刑中、出所後まで、加害者になってしまった本人へ、さまざまな支援を行っています。

マザーハウスの理事長である五十嵐弘志氏は、自身が受刑者となった経験があります。そうした環境の中で得た経験から、マザーハウスを設立し、更生改善・社会復帰支援を行うようになりました。

マザーハウスからの協力をいただき、支援内容などについて紹介します。

 

マザーハウスでの支援内容

マザーハウスでの支援内容は、逮捕時から出所後にいたるまで、ニーズに合わせてさまざまなものがあります。

たとえば逮捕・留置・勾留されているタイミングでは、面会や相談、裁判での情状証人、更生支援計画の作成などを行っています。

犯罪者の中には、孤独な状況にある社会的弱者も少なくありません。マザーハウスの更生支援コーディネーターと信頼関係を築き、涙ながらに更生を誓うという人もいました。

一方で社会復帰のための支援もしており、住居支援や生活保護の申請、生活相談やカウンセリングも行っています。働いて社会復帰をしたいという人向けに、企業と提携した就労支援を受けることも可能です。

加害者となってしまったご本人はもちろん、家族の更生ができないかと検討している人は、マザーハウスへの相談を考えてみてください。

特定非営利活動法人マザーハウス

 

NPO法人Step

NPO法人Stepは、虐待やストーカー、DVの加害者となってしまった人への更生プログラムを行っています。

Stepの設立社である栗原加代美代表に、話を伺いました。

 

NPO法人Stepが設立された経緯

Stepを設立する前、DV被害者となった女性が駆け込めるような中期シェルターを運営していました。しかし約9割の女性が、経済的困窮あるいは子どもが居るなどの理由で、DV加害者の元へ戻ってしまう問題があったのです。またDVで離婚した女性を探し出し、元夫が女性を襲うような痛ましい事件も起こっています。

そこで「逃げられないのであれば、加害者に変わってもらうしかない」と考え、NPO法人Stepで更生プログラムをするという決断に至りました。

 

実際に行われる更生プログラムとは

Stepで行われる更生プログラムでは、選択理論を学び7つの悪い習慣を断ち、良い習慣を身につけることを目指します。

断つべき7つの悪い習慣

身につけるべき7つの良い習慣

批判する

傾聴する

責める

支援する

文句を言う

励ます

ガミガミ言う

尊敬する

脅す

信頼する

罰する

受容する

褒美で釣る

意見の違いを交渉する

全52時間のプログラムで、1回あたり2時間、1時間の講習と1時間の振り返り・グループワークなどを行います。

プログラムを受けている人の良い報告を聞いたり、反省とディスカッションを行ったりすることで、少しずつ更生に近づいていきます。

 

Stepへの相談者の特徴

多くの場合は夫からの相談であり、妻から勧められたり、妻に離婚や別居を突きつけられたりすることで相談を受けます。

また更生プログラムを受ける多くの人が、加害者側であるにも関わらず、原因が被害者にあると主張することもあるようです。

2020年8月現在、少しずつ女性の加害者や、お互いに加害者であるケースも増えているようです。

またこれまでの相談を受けた人のうち、多くの加害者が警察沙汰になっており、3割程度は実際に刑事事件に発展したことがあります。

 

DVに対して導入すべきだと思う制度

日本ではDVに関する法整備が未熟で、被害者の保護ばかりが議論されています。しかし被害者の保護と加害者の更生は両輪であり、両方を推し進めなければなりません。

実際、アメリカのカリフォルニア州では、被害者からの電話ですぐに加害者逮捕に至り、強制的に更生プログラムを加害者に行います。そのような警察組織や自治体との連携が、DV被害を減らすことにつながるかもしれません。

 

更生の見込みがないDV加害者はいるか

すべてのDV加害者には、更生の可能性があると信じています。ここまでなら更生、ここからは刑罰といったボーダーラインはありません。

実際、妻に逃げられた夫が、足繁く遠方から更生プログラムに通い、現在では更生プログラムを行う側になったという事例があります。被害者であった妻も夫を理解し、メディアで顔を隠さずに出演するに至りました。

もしもDVをやめたい、もしくは加害者に更生してもらいたいと考えているのであれば、Stepの更生プログラムへの参加を検討してみましょう。

NPO法人 女性・人権支援センター ステップ

 

NPO法人WOH(World Open Heart)

NPO法人WOH(World Open Heart)は、自ら選択できない事情によって差別や排除に苦しむ社会的弱者や少数者(マイノリティ)の支援を目的として設立された団体です。

2008年から、全国に先駆けて加害者家族支援を始め、軽微な事件から重大事件まで全国のさまざまな状況にある加害者家族を支援しています。

WOHからの協力をいただき、支援内容などについて紹介します。

 

WOHの支援内容

家族の逮捕によって、残された家族は、インターネット上での個人情報の拡散、報道陣や慣れない専門家とのやりとりといったさまざまな困難に直面します。

WOHではまず相談者から状況を伺い、必要な支援を提案します。相談内容としては、以下のようなものがあります。

  1. 報道対応
  2. 転居や住居の処分に関する相談
  3. 裁判への協力(科学鑑定・精神鑑定・情状鑑定などの鑑定人紹介など)
  4. 就労に関する相談
  5. 弁護士に関する相談
  6. 被害者対応に関する相談
  7. 加害者との関係に関する相談
  8. 事件の周囲への告知に関する相談

その他にも警察署や裁判所への同行や、代理傍聴、代理面会など、さまざまな支援を受けることが可能です。

「加害者」本人からの直接的な相談は受けておりません。ご家族として、加害者の更生支援を希望される場合は、加害者更生支援団体や専門家を紹介致します。

WOHについてもっと知りたい、もしくは相談したいという方は、以下ページから詳細を確認できます。

特定非営利活動法人World Open Heart

 

まとめ

加害者が更生するためには、刑罰が最も適切な方法であるとは限りません。カウンセリングや更生のための学習、グループワークなどを通して更生させる方法もあります。

刑罰を科すだけでは、特に薬物事犯では、社会からの孤独感などから、再犯に走る場合が多々あります。何よりも一部の人を除けば、罪を犯してしまったことを後悔している人がほとんどです。

また被害者のひとりといっても過言ではない加害者の家族に対しても、再出発ができるような支援が必要です。

そうした人たちは、この記事で紹介した生活支援や更生のサポートを受けることで、日常生活を取り戻すきっかけになるかもしれません。

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この記事の監修者
当社在籍弁護士
弁護士登録後、地方で一般民事・家事、刑事事件を中心に様々な案件を手掛ける。次第に司法アクセスの改善に課題を感じ、2020年に当社に入社。現在インハウスローヤーとして多方面から事業サポートを行う。
編集部

本記事はベンナビ刑事事件(旧:刑事事件弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ刑事事件(旧:刑事事件弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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