阿曽山大噴火の「裁判妙ちきりん」第2回 ~妻子に逃げられた大麻常習者~

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2018.8.10

阿曽山大噴火の「裁判妙ちきりん」第2回 ~妻子に逃げられた大麻常習者~

Story2

裁判傍聴芸人として名高い阿曽山大噴火による連載『裁判妙ちきりん』第2話!

法廷でしか味わう事のできない裁判のリアルをお届けします!

 

もしこの裁判がフィクションだったとして。

私は被告人の言葉に対して――

 

 

罪名 大麻取締法違反

被告人 40才前後と思われる(人定質問の最初を見逃したので)会社員の男性。

 

事件は今年3月。東京都内の自宅で、大麻を含む乾燥植物片3,325g所持したという内容。

 

被告人は罪状認否で「間違いありません」と罪を認めていました。

検察官の冒頭陳述によると、被告人は専門学校を卒業して調理師として働き、現在は食品関係の会社に勤務しているという。そして、前科はなく今回が初めての刑事裁判になります。

 

被告人は平成20年に初めて大麻を使用したとのこと。

犯行当日は、警察官が妻子も住んでいる自宅にやって来て、家の中を捜索したところ、乾燥大麻が発見されたというのが事件の流れになります。

普通に生活していて、警察が大麻を持ってないかどうかを確かめに家まで来るってことはないと思うので、密売人とか被告人が大麻を購入した先から情報を得て、本件逮捕に至ったと推測できますね。

 

取調べに対して被告人は

 

「初めて大麻を知ったのは10年前。友人の中で、大麻を紙で巻いてタバコの様に吸っている人がいたので、吸わせてもらった。少し頭がボーッとしたような感じだった。それ以降はしばらく使う事はなかった。4年前にヘルニアになり、その痛みをやわらげるために使い始めたが、言い訳にならないのは分かっている」

 

と、きっかけなどについて供述したようです。さらに、

 

「今回は所持していた物は、去年12月に新宿区歌舞伎町付近で外国人の男から購入した。私から近づくと『イル?』と言ってきたので、うなずくと『カクセイザイ、タイマ…』と片言で薬物の名前を言い出したので、大麻と言ったところでうなずいた。すると、ビニール袋に入った大麻を見せられ『ゴカイブン。サンマンエン』と言われた。3万円を渡して買った」

 

と、入手した時のことも事細かに供述したようです。

 

普通は、奥さんとか親とか上司が情状証人として出廷することが多いんだけど、誰も証言台に立つことはなく、被告人質問です。まずは弁護人から。

弁護人

初めてのきっかけは?

 

被告人

う~ん、一番最初は、興味本位の流れから。みんな使ってたので

 

弁護人

それが約10年前ですかね。調書にはヘルニアになった4年前って話も出てきますけど

 

被告人

ヘルニアになって、自分で使い始めました

 

弁護人

椎間板ヘルニアだったと。腰が痛い時に使ってた訳ですかね?

 

被告人

痛みがやわらぐのと、ボーッと酔ったような感じになれるので

 なので、4年前からは自分で大麻を入手して使用していたって事ですね。

 

弁護人

新宿で外国人から購入したと。毎回そこなんですか?

 

被告人

いや、この前がそこで、渋谷とか六本木とか……

 

弁護人

情報はどこで入手するの?

 

被告人

誰からって訳ではなく、黒人の方から、向こうから声をかけてくるので、売ってる人なんだな、と

違法薬物の裁判ではよく聞くやり取りなんだけど、ホントの話なんですかね。

密売人の方から話しかけてくるってのは。私も東京在住なんで、新宿、渋谷、六本木に行く事もあるけど、一回も違法薬物を売ってる人に声かけられた事ないんですけど。常連だと密売人に顔覚えてもらえるから、声をかけられるんでしょうか。違法薬物を必要としてるか否かを密売人は判別出来るんでしょうか。

密売人の間では私は無視されてるようなので、不思議な話に聞こえるんですよね。

 

弁護人

周りで使ってる人は?

 

被告人

昔はいましたけど、今はまったく……

弁護人

もっぱら、一人?

 

被告人

そうです

 と、誰かと共に使用してる訳じゃないとアピールした後、家庭の話です。

 

弁護人

奥さんとの仲は良好ですか?

 

被告人

離婚しました……。留置場出る時に実家に離婚届だけが届いて、それっきり……

 

弁護人

留置場にいたのは3日間ですよね?

 

被告人

はい

 

弁護人

それまでは同居してたわけですよね

 

被告人

はい

 

弁護人

留置場出てから会いました?

 

被告人

一度も……

家にいきなり警察がやってきて、大麻が見つかり逮捕。取り調べを受け、3日後に家に戻ると奥さんも子供もいないという状況。

実家に離婚届が送られただけで、何の話もできてない中、今こうして裁判を受けてるわけですな。

そりゃあ、情状証人で奥さんがやって来るはずないですね。

 

弁護人

今、振り返ってどう思います?

 

被告人

くだらない事をしたなぁと後悔してます

代償は刑事責任以上にデカイですね。

 

続いて、検察官から。

 

検察官

押収された大麻って何回分?

 

被告人

10回とかだと思います

パケに入った大麻を見せながらの質問です。

 

検察官

どれ位の頻度で使ってたの?

 

被告人

3〜4ヶ月でそれがなくなるかな、と

月に2〜3回のペースで大麻を吸ってたということでしょう。

 

検察官

調べでは大麻の代わりにお酒にすると。大麻の代わりになる物は他にないですか?

 

被告人

いや、お酒もやめようと思ってます

 

検察官

ふ~ん。どうなんです。今までも大麻やめようと思ったことあったんじゃないんですか? 自分の意思だけじゃ、やめられなかったんじゃないの?

 

被告人

……

何も答えられずに黙っていると、

 

検察官

やめる為に何をやるのか、具体策を教えてください

 

被告人

やめる為に何かをするんじゃなく、…やめる!

と、断言です。これは超珍しい宣言です。すかさず検察官が、

 

検察官

病院で治療するとか、自助グループのミーティング参加するとか考えないの?

と呆れた様子。

 

被告人

あ~、そういう事考えてなかったです

なんという呑気な。離婚のことで頭がいっぱいだったのかもしれないけど、裁判で必ず訊かれることでしょ。

 

検察官

逮捕から4ヶ月経って考えてないの?

 

被告人

……

と、追い込まれたところで質問終了。

 

最後は裁判官からの質問です。

 

裁判官

やめる為に何かをやるって発想なかったんですか?

 

被告人

絶対にやらないという気持ちがあれば……

 

裁判官

意志を持つのは前提。楽になりたくて使ってたんでしょ。いずれそういう時が来ますよ。だから続けてたんだから。自分のどこが悪かったと思います?

と、30秒程考えて、

 

被告人

難しいっスね

なんじゃそりゃ。

 

裁判官

それを考えるのが向き合うって事じゃないですか? 逮捕されたり家族が出てったり、考えるきっかけはあったと思うんですけどね。どうしてくだらない事やったのか。自分のどこが弱くて問題なのか。それをふまえてどうするかですよ。やめるという気持ちも大事だけど。大丈夫ですか?

 

被告人

はいっ!!!

と、最後の返事だけは立派な被告人。

 

この後、検察官は、長期に渡って大麻を使用していたので親和性が高く常習的であるとして、懲役8ヶ月と大麻2袋没収という求刑。

弁護人は、家族に迷惑かけないように屋上で吸っていたこと、前科がないことなどを挙げ、執行猶予付きの判決をお願いです。

 

被告人は最終陳述で

 

被告人

今後、大麻を吸わないという、すいませんという事でした

と、力なく答えると

 

裁判官

このまま判決言い渡しますね

と、即日判決です。

結果は、懲役8ヶ月、執行猶予3年と大麻2袋没収でした。

 

裁判官が判決理由の朗読を終えると、

 

裁判官

あなたのやり取りを聞いていると、事件に向き合ってるとは思えません。薬物は思っている以上に繰り返しますからね。あなたも立派な大人なんですから、そこをよく考えてください

と、アドバイスして閉廷でした。やめる為に何もしないなんて断言する被告人は初めて見たなあ。

 

もしこの裁判がフィクションだったとして。

私は被告人の言葉に対して――

……私が奥さんなら、4年間も屋上で大麻吸ってたのかよと思うだろうな。

ま、実話なのだが。

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編集部

本記事は刑事事件弁護士ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※刑事事件弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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