阿曽山大噴火の裁判妙ちきりん第29回~外国籍の窃盗犯が日本に残したラブレター〜

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公開日:2019.2.25

阿曽山大噴火の裁判妙ちきりん第29回~外国籍の窃盗犯が日本に残したラブレター〜

裁判傍聴芸人として名高い阿曽山大噴火による連載『裁判妙ちきりん』第29回!

法廷でしか味わう事のできない裁判のリアルをお届けします!

 

罪名 窃盗

被告人 30歳の住居不定無職の男性

 

事件は去年の11月30日午後7時24分。

 

渋谷ツタヤ2階のスターバックス店内で、被告人が足元に置いていたバッグの中から財布を取り出し、1,000円札6枚を抜き取ったという内容。

 

実名報道された事件なんだけど、被告人はチュニジア人の男性で、警視庁として渋谷と新宿で同様の被害が30件あるので、関与を調べているというニュース内容だったんです。

 

結局、起訴されたのはこの1件のみ。

 

検察官の冒頭陳述によると、被告人はチュニジア共和国で生まれ、短大を卒業後は雑誌モデルとして活躍。その後はスポーツジムでトレーナーとして働いていたという。

 

2018年11月10日に、90日間の在留資格で日本に入国。本件と同様の手口で盗みを繰り返していたらしい。

 

そして、犯行当日。被告人が現場のスターバックスコーヒーに入店すると、チャックが開いているビジネスバッグを床に置いている男性を発見し、テーブルの向かいに着席。

 

左足でビジネスバッグを自分のほうにたぐり寄せ、財布を取り出して1,000円札6枚を抜き取ると、財布は元通りビジネスバッグの中へ。

 

すると、11月上旬から同様の被害があると客にまぎれて捜査していた警察官が、犯行の一部始終を目撃。その場で被告人を捕まえたというのが事件の流れになります。

 

被告人を逮捕するため、スタバで客になりすますという地味な捜査が行われてたんですね。

 

何時間もいるんだろうし、何ペチーノを何杯飲んだのやら。休憩しているように見えて大変な任務ですね。

 

で、手口はお札を数枚取って財布を戻す、中抜きと呼ばれるタイプの盗み。被害者がお金が減ったことに気づきにくいとの言われてるんだけど、犯人視点で言えば、財布を盗んで、さらに戻さなきゃいけないからバレるリスクは2倍。なので、職業的で技術が必要な手口だったりするわけです。

 

弁護人が用意した証拠は被告人が書いた謝罪文。(多分)アラビア語で書かれた文章を日本語に訳して、弁護人が朗読です。

 

弁護人

「私はチュニジアのスポーツジムで長期間休みなく働いていたのでストレスがありました。それで日本へ行こうと思い、日本で勉強するために日本に入国しました。しかし、物価が高いことに驚き、これでは日本語学校に通えないと思い、盗みをしてしまいました。もし、被害者様が許してくれるのなら、2020年の桜が咲く頃、オリンピックが開催される頃、再訪のチャンスがあるかもしれません。インフラがしっかりしていて、日本が大好きです。日本に住む人たちも好きです。日本以上に良い国はありません」

 

という、謝罪文なのか、日本宛のラブレターなのかよくわからない文章。

 

ま、来年のオリンピックで浮かれてるのは日本人だけじゃないとわかったけど。

 

そして被告人質問。

被告人は日本語が喋れないので通訳が間に入ってるけど、その辺は省略で。まずは弁護人から。

 

弁護人

「長時間働いていたと。1日何時間?」

 

被告人

「朝早く、8時とかから夜の8時9時まで。1日12~13時間も働いてました」

 

チュニジアの常識はわからないけど、長時間働かされてるなぁ……とはならないでしょ。

 

これは日本人が働きすぎなのかもしれないけど。

 

弁護人

「休みは週に1度もなかったと」

 

被告人

「はい。それが7ヶ月続きました」

 

弁護人

「それで月収は日本円にして10万円だと」

 

被告人

「あなたの横浜銀行の口座に入っていたお金が168万円。これはスポーツジムで働いてたときの稼ぎですか?」

 

警察や検察の調べで、盗んだ金なんじゃないかと疑われたんでしょう。なので弁護人の方から確認です。

 

被告人

「自分のと父親からのです」

 

弁護人

「父親のお金はいくらですか?」

 

被告人

「120万円くらいです」

 

弁護人

「なぜ、父親のお金が入ってるの?」

 

被告人

「日本語学校に入るための資金です」

 

日本で勉強することを父親は応援していて、金の援助もしてくれているということのようです。

 

弁護人

「被害者には謝罪を受け入れてもらえましたか?」

 

被告人

「許してくれないと聞いています」

 

弁護人

「それだけ怒っているということですよ。渋谷署の留置所にいるとき、私に何の差し入れを頼みました?」

 

被告人

「コーランです」

 

弁護人

「なぜ、コーランだったんですか?」

 

被告人

「犯したことを考えるためです」

 

珍しい差し入れだけど、自分を見つめなおしたかったらしいです。

 

弁護人

「また日本に来たいんですか?」

 

被告人

「日本が好きなので」

 

弁護人

「どこが好きなんですか?」

 

被告人

「たくさんあります。落ち着きますし、よいところなので、生活したいと思っています。日本人も大好きです」

 

弁護人

「大好きな日本人からお金盗ってますけどね」

 

被告人

「ほんと、間違いを犯しました……」

 

と、日本好きをアピールして質問終了。

 

次は検察官から。

 

検察官

「取調べでは、4回盗みをしたと」

 

被告人

「そうなんですが、間違いを犯したと思ってます」

 

検察官

「どこでやりました?」

 

 

被告人

「スターバックス……マクドナルド……ドーナツなんとかって店です」

 

検察官

「今回の店でやったことは?」

 

被告人

「多分、あると思います」

 

という話なので、スタバ以外でも中抜きやってたっぽいですね。ニュースだと30件の被害って報道だったけど、少なくとも4件については被告人の仕業ですね。

 

検察官

「横浜銀行の口座ですけど、これってお父さんは知ってるんですか?」

 

被告人

「知ってます」

 

検察官

「お父さんが直接振り込むの?」

 

被告人

「違います。直接もらったお金を自分で入金しました」

 

チュニジアからの送金記録がないから怪しく思われてたのかもしれませんね。父から120万円直接受け取って、被告人が日本で入金と。

 

ほんとに4回しか盗みやっていないのかという疑念はあるけど、検察官としても証拠はないようで、次の質問。

 

検察官

「あなたは何のために日本に来たの?」

 

法廷版YOUは何しに日本へ?ですよ。ってか、バラエティで見慣れたけど、本来は警察や検察が不良外国人に対して使うほうが自然な質問ですからね。

 

この問いに対し、

 

被告人

「3つあります。1つは、落ち着きたい、晴れ晴れしたくて。2つ目は、勉強したい。3つ目は結婚です

 

唐突の結婚宣言。

 

日本の女性が好きって意味で、日本大好きって言ったようにも聞こえますね。

 

検察官

「勉強結婚って、ビザは観光ですよ」

 

被告人

「勉強したいと入管に申請できるので」

 

勉強も結婚も本人の自由だけど、実際にやってたのは窃盗ですからね

 

さすがに、入管に窃盗の申請出しても認めてはくれないでしょう。

 

裁判官からの質問は一つもなし。検察官は懲役1年6ヶ月を求刑し、弁護人は執行猶予付きの判決を求める弁論をしていました。

 

そして、被告人の最終陳述。

 

裁判官

「最後に何か言いたいことがあればどうぞ」

 

被告人

「今回、自分の行為で教訓を得ました。他人の物を盗むのは、自分の宗教においても許されないとわかりました。なので、もう2度と、盗みはやりませんし、もしやったとしたら絞首刑でかまわないと思います」

 

と述べて閉廷でした。

 

反省してるのは伝わるけど、絞首刑は大袈裟すぎるでしょ。確かに、日本は死刑を執行している数少ない国ではあるけど、窃盗の最高刑は死刑じゃないのでね。

 

そして、6日後。判決です。

 

傍聴席にはビザが切れた外国人の被告人の裁判ということで、制服姿の入国管理局の男性が1人着席。

 

裁判官は被告人を証言台の前に呼ぶと、

 

裁判官

「被告人を懲役1年6ヶ月に処する。この裁判が確定した日から3年間、その刑の執行を猶予する。なお、訴訟費用につきましては国選弁護人に発生した分を負担とします」

 

懲役1年6ヶ月執行猶予3年。訴訟費用一部負担と。判決理由を述べると、

 

裁判官

「執行猶予の判決ですので、刑事裁判の手続きとして一度釈放されますが、在留資格が切れているので別の理由で拘束される可能性があります」

 

と言って閉廷。

 

被告人は刑務官、そして、傍聴席に座っていた制服の男とともに、法廷の奥の扉に消えていったのでありました。

 

 

──もし、この裁判がフィクションだったとして。私は被告人の言葉に対して───

 

 

渋谷スタバに行った帰りにお札が減ってる気がしてたとしたら、気のせいじゃなかったのかよと思うだろうなぁ。ま、2月13日と19日に実際に行われた裁判なのだが

編集部

本記事はベンナビ刑事事件(旧:刑事事件弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ刑事事件(旧:刑事事件弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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