阿曽山大噴火の裁判妙ちきりん 第36回~傍聴席に現れた謎の男〜
裁判傍聴芸人として名高い阿曽山大噴火による連載『裁判妙ちきりん』第36回!
法廷でしか味わう事のできない裁判のリアルをお届けします!
罪名 強盗未遂
被告人 21歳の住居不定無職の男性
事件は去年の10月17日午後2時44分~47分の間。
杉並区の高円寺南三郵便局に、被告人とA被告人(法廷では実名)は共謀の上で押し入り、女性局員に示して現金を要求したが、局員らが要求に応じなかったので未遂に終わったという内容です。
事件は去年の10月で、逮捕が今年2月。で、初公判が4月ということで、世間的には忘れられていた事件かもしれません。
犯行当日は包丁を持った強盗が逃走中ということもあって、夕方のニュースではヘリコプターによる生中継をしていたほどの出来事だったんですけどね。
人間は忘れない生き物というか、興味の移ろいが激しいというか。
個人的には、この犯行当日の夜に高円寺で飲み会が予定されていたので、現場の近くにいたんです。
警察官がたくさんいたのは覚えてて、街行く人々が「郵便局強盗だって」と喋っていたのを何度も見かけたんだけど、初公判の傍聴席には10人弱しか人がいないという不人気っぷり。
ほとんどの事件がそうだけど、第一報重視でその事件を起こした人が何を考え、何があったのかまで知ろうという人は少ないんでしょうね。
そして、罪状認否。
裁判官
「検察官が朗読した起訴状に何か間違いはありますか?」
被告人
「共謀って書いてありますけど、特にそういう感じではないんで……」
裁判官
「うーーん……A被告人と関わりはありました?」
被告人
「大きな関わりはないです」
裁判官
「事件について話し合ったりしてないの?」
被告人
「金返せとは言ってましたけど」
と、起訴状では触れられていない部分を言及したところで、
裁判官
「うーーーん……弁護人のご意見は?」
弁護人
「無罪主張ですけど、今、被告人が言った通り煽るような言動があったのは事実です」
裁判官
「教授じゃなく、無罪主張だと?」
弁護人
「はい」
ということで否認です。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は中学を卒業すると大工として働き、その後は職を転々としていたという。
前歴は4件あるが、前科はなし。
A被告人と知り合ったきっかけは明かされなかったけど、被告人は2018年7月に友人B宅でA被告人とともに3人で同居をスタートさせたという。
しかし同居から1ヶ月後、A被告人が(友人B宅から?)お金を持ち出して逃げてしまったらしい。
被告人と友人Bは必死に探し、A被告人の居場所を見つけ出すと、友人B宅に連れ戻したという。
そして被告人は、A被告人の免許証を取り上げてコピーを取り、全裸にし、包丁を示しながら返金を迫るようになっていたとのこと。
犯行当日の10月17日。
被告人とA被告人が2人でテレビを見ていたら、札幌市内のパチンコ店の景品交換所で強盗未遂があったことを伝えるニュースが流れていたという。
すると被告人が、「この犯人、地元の後輩だ」と言い出し、「結果出してない情けないやつだ」と文句を言った後に、A被告人に対して、「お前も銀行強盗くらいやれるだろう」と提案。
これに対し、A被告人は「銀行は無理だけど、せめて郵便局な…」と譲歩して、郵便局強盗の共犯が成立。
マスクと帽子を準備して、2人は高円寺へ向かい、現場の近くへ。
被告人は少し離れた場所からA被告人の動きを見張っていたという。
しかし、A被告人が1時間経っても動かないので、被告人が近づき、早く強盗するように催促。意を決したA被告人が単独で包丁を持って高円寺南三郵便局に入り現金を要求。局員が応じなかったので走って逃げたというのが事件の流れになります。
何かのきっかけで2人の間には上下関係ができ、被告人の指示によりA被告人が強盗をさせられたという珍しい事件なんです。
あくまでも検察官の冒陳によるとって話だけど。
調べに対してA被告人は「最初は被告人と対等な関係だったが、だんだんと金を作ってこいと暴力を振るわれるようになった。交通違反の罰金で数十万必要と言っていた」
と暴力を振るわれていたと供述し、友人Bは
「A被告人が昨年8月頃に現金を持ち逃げした。2人の間には上下関係があった」
と第三者の立場からも被告人が上に立っていたと供述しているようです。
暴力や圧力によって強盗を強要するなんてことがあるんですね。
被告人は否認してるので、証拠調べで閉廷だったんだけど、実はこの裁判は冒頭のほうでとんでもないことが行われていたんです。
開廷前。
ポロポロと傍聴人が入ってきて、少しずつ埋まっていく傍聴席。
東京地裁は毎日傍聴してる人も多いから知った顔が多いんだけど、見慣れない若い男性が入ってきたんです。しかも、帽子をかぶったまま着席。法廷内は帽子禁止なので目立つ!
そして、裁判スタート。
検察官が起訴状を朗読し、裁判官が黙秘権の告知を終えるとアクシデント発生です。
帽子をかぶったままで傍聴していた男性が、ポケットからスマートフォンを取り出し、カメラのアプリを立ち上げて、動画撮影を始めたんです。
裁判所は敷地内の撮影が禁止なので、ロビーも廊下も食堂も撮影禁止。
言うまでもないけど、法廷内も撮影禁止。
にもかかわらず、堂々とスマホで動画撮影ですよ。
裁判官も気づいていないのかスルー。ってか、帽子かぶってても注意しないわけですからね。
私語禁止だから「禁止ですよ」って声を出して注意するのも変だし、そもそもメモ取ってるからそんな余裕もないし。
その男性も録画するときのスタート音がしなかったから、音を消すアプリを使ってるのか撮影がバレないようにしてる印象を受けたんですよね。
開廷前にテレビカメラが撮影するの以外で、動画撮影してる人をはじめて見たのでビックリ。
で、最も気になったのは男性が撮影していた部分。
なんと、罪状認否だけを撮ってたんです。
まるで何かの証拠にするみたいに。まるで誰かに見せるために撮っているかのように。
もしかしたら、被告人を監視している立場の人が存在するってことなのか?
強盗を実行したA被告人は被告人に指示されて、その被告人は法廷で何を喋るかチェックされて。
何か組織的なものを感じますね。
次回は5月10日予定で、A被告人と友人Bの証人尋問が行われます。
また盗撮する人が現れるのか?
撮影に関して裁判所がゆるすぎるって気もするけど。
──もしこの裁判がフィクションだったとして。私は被告人の言葉に対して───
郵便局に居合わせた人なら、脅されてやってたのかよと驚くだろうなぁ。
まぁ、4月3日に実際に行われた裁判なのだが。
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