阿曽山大噴火の「裁判妙ちきりん」第7回~最期にやりたかったことは…パチスロ⁉~

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公開日:2018.9.14

阿曽山大噴火の「裁判妙ちきりん」第7回~最期にやりたかったことは…パチスロ⁉~

Story7

裁判傍聴芸人として名高い阿曽山大噴火による連載『裁判妙ちきりん』第7話!

法廷でしか味わう事のできない裁判のリアルをお届けします!

 

 

罪名 :建造物侵入、窃盗

被告人:52才住居不定無職の男性

 

事件は去年の9月26日午前0時26分。東京都江東区の営業が終わった立ち食いそば屋に、被告人は合鍵で侵入し、現金35万8,000を盗んだというもの。

検察官の冒頭陳述によると、被告人は中学を卒業後、飲食店での勤務を転々とし、犯行当時は犯行現場である立ち食いそば屋で働いていたという。

そして、去年9月下旬の犯行数日前。被告人は将来の生活に不安を抱き、自暴自棄になった。

そして閉店後の職場に忍び込んで売上金を盗もうと計画し、店を休んでいたという。

 

犯行当日。店が閉まってから持っていた合鍵で店に入り、券売機の売上金が入ったダイヤル式金庫を開け、被告人はお金を奪い店外へ。

翌朝、開店準備で店にやってきた従業員が金庫にお金がないことに気づき、110番通報をしたという。

警察は、被告人が店の合鍵を持っていること、数日前から出勤してないこと、防犯カメラに映った金庫からお金を盗んでいる男に似ていること、銀行口座に不自然な入金があることなどから、犯人の可能性が高いと判断。

今年に入って、被告人を通常逮捕したというのが事件の流れです。

 

 

逮捕の日付は明かされなかったので詳しくはわからないけど、数ヶ月間逃げ回ってたんでしょうね。犯行時は住居も仕事もあったけど、逃げてた時から住居不定無職という訳です。

被告人は取り調べに対し、「店の金を盗み、飲食したり、服を買ったり、パチスロをしようと思っていた。盗んだお金は千円札が多かったので、入金して一万円札に替えた」と述べているという。警察が、被告人の口座に不自然な入金が…と不審がっていたのは逆両替だったという訳。

そして、被告人質問。

 

弁護人

何でこんな事したんですか?

 

被告人

自分でちょっと想うとこあって。それで自暴自棄になって…

 

 

弁護人

自暴自棄になった理由は?

 

 

被告人

仕事をしながら将来のことを考えてて、このままでいいのかと思って

 

そばを茹でることに集中してほしい気もするんだけど、急に人生を振り返ったみたいです。

そばを見ながら、俺の人生は伸びてないだろうか…と思ったのか、十割で生きてないな…と思ったのかは定かじゃないけど。

 

弁護人

このままって?

 

被告人

一年働いても何も変わらないし、50才過ぎて何やってんだって。なんか、もういいかなって

 

 

ちゃんと働いてるんだし、自分を悪く言うこともないと思うんだけど、立ち食いそばで食事の時間も削って働いてるビジネスマンを見て、何かを考えたのかもしれません。

 

弁護人

それがなんで店のお金なんですか?

 

 

被告人

何か楽しいことあったかな、幸せなことあったかなって振り返ったら、無かったんです。それで死のうと思ったんですが、その前に好きなことをしようと思ったんです

 

 

芥川龍之介は『将来に対する唯ぼんやりとした不安』を理由に自殺したけど、被告人はそこにちょこっと加筆して、好きなことをするというポジティブな考えに至ったようです。

 

弁護人

好きなことをするためにお金を盗もうと。その使い途は?

 

 

被告人

自分の好きなこと…服を買ったり、ごはん食べたり、ギャンブルしたり

弁護人

ギャンブルって?

 

被告人

スロットです!

 

ルールを破ってまでして得た金で服と飯と賭け事か。他人の好きな物を悪く言う気はないけど、洋服は着る度に「盗んだ金で買ったなぁ。」って思い出しそうだし、賭け事は自分のお金でやるからドキドキするんだと思うけどね。

飯に関しては、この店美味しいからまかないをタダで食えるだけでもうらやましいけどねぇ。

人の欲求って、こうして文字にするとチープなものだ。

 

弁護人

盗む時ですけど、全部盗みました?

 

被告人

いいえ。翌朝の営業に差し支えると思ったので、つり銭は残しました

働いてた側だからわかってることなんでしょう。元従業員ゆえの優しさか。

 

弁護人

店へのいやがらせじゃないんでしょ?

 

被告人

はい

 

 

被告人

振り返って、どう思います?

 

 

被告人

店長、従業員、会社の人に申し訳ないです

 

弁護人

働いてたんだから、35万円の利益出すの大変ってわかるでしょ?

 

 

被告人

はい

 

立ち食いそばって単価安いもんなぁ。チェーン店だから、これだけ安くできてるんだろうけど。

被告人みたいな事やられたら、それこそ店長と従業員の方が「何やってんだ」って思うわな。

 

弁護人

3年前の裁判で、もう犯罪はしないって誓ってるでしょ?何故またやったの?

 

被告人

その時は本気で思ってました。将来の事を考えたら不安になって…

 

と、固い決意より不安が上回ってしまったとのこと。この後は、再犯しないと約束して質問終了です。

次は検察官からの質問。

 

検察官

結局、楽しい事しました?

 

 

被告人

できませんでした

 

 

検察官

さっき言ってた、楽しいことあったかな幸せなことあったかなってどんなこと?

 

被告人

わかりません

 

楽しいことを経験してなくて、死ぬ前に楽しいことをやりたかったけど、そもそも被告人は楽しいことをわかってなかったのです。

 

 

検察官

みんな、そうそう楽しいことなんてないんじゃない? それでも働くんですよ。

 

被告人

はい

 

 

検察官

楽しいことあったら働かないでしょ

 

その理屈はわからないけど、検察官は仕事のストレスを抱えてるのかもしれませんね。

 

検察官

盗んだ後、何を考えてました?

 

 

被告人

今後どうしようかと

 

盗んでも将来について悩んでたんですね。

 

検察官

警察行こうとか店に謝りに行こうとは?

 

 

被告人

そこまで考えつきませんでした…

 

 

検察官

3年前の判決が、懲役3年執行猶予5年。猶予取消で、今回の刑に加えて懲役3年です。覚悟できてるね?

 

被告人

はい

 

 

と、厳しい刑になると臭わせて質問終了。

最後は裁判官から。

 

裁判官

今52才。このままだと刑務所の入出所で人生終わっちゃいますよ。もったいないと思わない?

 

 

 

被告人

はい…

 

裁判官

身寄りは? 両親とか

 

 

被告人

父が死んだとは聞いてますけど、母はもう消息も…。あと、弟が連絡つくと思います

 

 

裁判官

これで終わりにしなきゃ。人の物を盗ったり、騙したりしない。さっきも言ったけど、もったいないよ。出てきたら、お母さんとか弟とか、連絡取ったらどうですか。少しは気持ち変わりますよ

 

 

と、アドバイスして被告人質問終了。「楽しいこと」がわからない被告人に、親族と会ってみることで「幸せなこと」に気づいてもらいたいと思ったんでしょうかね。

 この後、検察官は懲役1年6月を求刑。

被告人は最終陳述で

「自分を信用してくれた人に迷惑をかけたことを反省しています」

と述べていました。

一緒に働いていた仲間に迷惑かけて、何のあいさつもせずに今に至ってる訳ですからね。心残りなんでしょう。

 

 

もしこの裁判がフィクションだったとして。

私は被告人の言葉に対して――

 

――犯行翌日にシフト入ってたら、小銭だけ残されてもって思うだろうね。

、8/30に実際行われた裁判なのだが。

 

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