阿曽山大噴火の裁判妙ちきりん 第37回~怪しいと思って〜

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公開日:2019.4.26

阿曽山大噴火の裁判妙ちきりん 第37回~怪しいと思って〜

Asozan_37

裁判傍聴芸人として名高い阿曽山大噴火による連載『裁判妙ちきりん』第37回!

法廷でしか味わう事のできない裁判のリアルをお届けします!

 

年度始めは裁判がほとんどありません。日本で最も公判数の多い東京地裁ですら2件しかない日があったのが4月です。

 

公務員の皆さんの人事異動があって、引継ぎ作業もあるので、毎年この時期は少ないらしい。にもかかわらず、春休みを利用して傍聴する学生の多いこと。

 

数少ない裁判が満席で1件も傍聴できずに帰る……なんてのが4月のよくある風景。

 

何年も前から声を大にして言ってるつもりなんだけどなぁ。

 

そんななか、やっと傍聴できました。

 

罪名 詐欺未遂

被告人 21歳 配送業の男性

 

事件は今年の2月9日。

 

氏名不詳の共犯者が渋谷区幡ヶ谷の被害男性(85)宅に電話をかけ、金融機関を装って「返納金の手続きでキャッシュカードが必要で、きらぼし銀行の山田を向かわせるので手渡してください」と伝え、きらぼし銀行の山田を名乗った被告人が被害者の自宅でキャッシュカードの交付を受けたが、被害者の通報で駆けつけていた警察官が現行犯で捕まえたので未遂に終わったという内容。

 

文章にすると長い。起訴っぽく一気に一文で。いわゆる特殊詐欺ですね。

 

この事件は実名報道されてて、被害者が在宅しているのを確認してから現金を奪う「アポ電強盗」が渋谷区内で多発していたので、警察官が押入れに隠れていたらしいんです。

 

で、被告人がキャッシュカードを受け取った瞬間に押入れから警察官登場という、ドッキリみたいな逮捕劇。

 

検察官の冒頭陳述によると、被告金は高校を卒業後、職を転々とし、犯行時は不動産の営業の仕事をしていたという。

 

今年2月上旬。被告人は氏名不詳者から、キャッシュカードを受け取る仕事があると誘われ、了承。

 

指示通り、スーツを着て、幡ヶ谷へ行き、被害者宅へ。被害男性に対し、「きらぼし銀行の山田です」と偽名を名乗り、白い封筒を受け取ったところで、警察官に捕まったというのが事件の流れです。

 

残念ながら冒頭では押入れから飛び出してくる警察官の描写はおろか、押入れにいたのかどうかも明かされませんでした。

 

調べに対し、警察官は

 

「2月8日、被害者からオレオレ詐欺のような電話があったと通報があり、秘匿捜査を開始した。翌9日に、きらぼし銀行の山田が被害者宅に来るというので、キャッシュカードのような物を用意し、封筒に入れて被害者に渡した」

 

と供述しているそうです。押入れの話が聞きたいのに。

 

弁護側の証拠としては、被害者とは10万円で示談済みであること、そして、実家に住む母親が今後の監督を証人尋問で約束していました。

 

そして、被告人質問。まずは弁護人から。

 

弁護人

「2月9日の朝は何してました?」

 

被告人

「熱があり、風呂に入った後ゴロゴロしてました」

 

弁護人

「その後は?」

 

被告人

「登録してない、知らない人から電話がありました」

 

弁護人

「知らない番号が表示されて出たの?」

 

被告人

「とりあえず出てみようと」

 

弁護人

「何故ですか?」

 

被告人

「セミナー事業をやっていたとき、いろんな人に電話番号を書いたメモとか名刺を渡してて、登録していない人からかかってくることがあったので」

 

弁護人

「それでなんて言われたんですか?」

 

被告人

「アルバイトやりませんかと」

 

知らない人からの着信ってだけで身構えるのに、バイトの誘いですよ。

 

弁護人

「バイトの内容は?」

 

被告人

「身内の人から預かって欲しい物があると」

 

弁護人

「何を預かるの?」

 

被告人

「キャッシュカードです」

 

この手の特殊詐欺って、ネットでの募集で連絡してきた人を仲間にして、組織的に犯行をするってイメージですよね。

 

傍聴してきた経験からもほぼそのパターン。こんなかんじで、犯罪者側から突然電話が来ることもあるんですね。

 

弁護人

「どう思ったんですか?」

 

被告人

「怪しいと思って断りました」

 

当然ですよね。警察に情報提供してもいいレベル。

 

すると被告人は続けて、

 

被告人

「しかし、ほんとに身内だから大丈夫だよって言われて、生活に困窮してたので承諾しました」

 

なかなか共感しがたい言動ですよね。被告人が嘘を言ってるかはわかあないけど、これでOKするってのは首をかしげてしまいます。

 

弁護人

「承諾後、向こうから電話は?」

 

被告人

「数分後に、この電車に乗って、この駅で降りてとか指示がありました」

 

ってことは、電話で自分の住所か最寄り駅を伝えたってことでしょうね。度胸があるというか、抜けてるというか。

 

弁護人

「それであなたは?」

 

被告人

「指示された電車には乗れず、次の電車で幡ヶ谷駅に向かいました」

 

弁護人

「次の指示は?」

 

被告人

「駅に着くと電話があり、住所を伝えられたので向かいました」

 

乗る電車を指示されたり、駅に到着してから電話があったりしたことから推測すると、誰かが被告人の見張り役として後ろからつけてそうですね。

 

弁護人

「その住所に行った後は?」

 

被告人

「インターホンを押すと、被害者の方が出てきたので、きらぼし銀行の山田だと名乗りました」

 

弁護人

「何故、偽名を名乗ったんですか?」

 

被告人

「途中の電話の指示で、おかしいなとは思ったんですけど、合言葉が“きらぼし銀行の山田”だと言われたので」

 

ここで初めて疑いを持ったみたいです。

 

弁護人

「被害者は何か言ってました?」

 

被告人

「本当に山田さんですか?と」

 

弁護人

「そう言われてどうしました?」

 

被告人

「そうですと答えると、白い封筒を渡されたのでカードが入ってるなと」

 

弁護人

「その後あなたはどうなりましたか?」

 

被告人

「帰ろうとしたところ、警察官に捕まりました」

 

ここでも押入れの描写はなし。結構インパクトあると思うんだけど。押入れから人が出てきたら。

 

もしかしたら、アポ電強盗が増えつつあるから警察は注意喚起として、こんな地味な捜査もやってるぞと話題になるように警察発表した可能性も捨て切れませんね。実際は物陰に隠れてただけとか。

 

弁護人

「捕まってどう思いました?」

 

被告人

「罪悪感が生まれました。やってはいけな……」

 

と、急に涙声になり、泣きながら反省の弁を述べて質問終了。

 

次は検察官から。

 

検察官

「報酬はいくらって話でした?」

 

被告人

「はっきり言われてないですけど、数万円だと思います」

 

検察官

「さっき、きらぼし銀行の山田の合言葉に疑いを持ったと。なぜ、怪しいと?」

 

被告人

「銀行員でも山田でもないので怪しいなと」

 

検察官

「こういうオレオレ詐欺とかを特殊詐欺ってテレビで見たことありませんでした?」

 

被告人

「特殊詐欺は聞いたことあります」

 

検察官

「内容は?」

 

被告人

「高齢者に電話かけて、お金とかを取りに行く犯罪」

 

検察官

「今回似てますよね。絶対に詐欺ではないと思ってました?」

 

被告人

「いや、絶対とは……。怪しいとは思ってたのでオレオレ詐欺かもと」

 

と、よくある認識の確認をしてからガラッと大きく展開する質問を始めたんです。

 

検察官

「今までこういう事件に関わったことは?」

 

被告人

「初めてです」

 

検察官

「逮捕されたときに他人のカードを持ってたのは何故ですか?」

 

被告人

「母のカードはパソコン買ったときに使ったもので返済のために持ってました。Y名義は苗字違うんですけど、父親がローンで車を買ってくれて持ってるだけです。N名義は一緒に事業やってた男で、たまたま持ってただけです」

 

検察官

「ふーん。あと、メモ帳に“2月7日前橋、めくれた、無し、交通費1万3,260円”とか“2月8日新潟、めくれた、300万予定”って書いてありますけど、何?」

 

被告人

「知らない人から電話があって、単語で。それで単語をメモする癖があるので」

 

検察官

「なぜメモとるの?」

 

 

被告人

「怪しい者かと思って、メモ取りました」

 

どうやら犯行の前日と前々日の日付で意味深なメモをしていたようです。ちなみに、“めくれる”って逮捕されるとか、途中で見つかるって隠語でしたっけ。

 

とにかく、被告人のケータイには知らない人からよく電話がくるんですね。

 

検察官

「あと、検索履歴なんですけど、2月1日に“とばしのケータイとは”で検索してますね。2月4日は“受け子 出し子 アルバイト感覚で引き受けると大変なことになる”さらに同じ日“受け子 逮捕されると初犯でも実刑?”で検索しています。何故?」

 

被告人

「それは、ツイッターやSNS、テレビで犯罪ドキュメント24時的なのを見たときにわからない言葉が出てきたので調べただけです。結局わかりませんでした」

 

検察官

「わからなかった?」

 

被告人

「専門用語が多くてわかりませんでした」

特殊詐欺に関わるのは初めてという被告人の言葉を信じるとしても、その前から接触してたか、少なくとも興味津々なのは間違いなさそうですね。

 

最後は裁判官から。

 

裁判官

「2月9日に誘いの電話があったと。相手は名前を名乗ってました?」

 

被告人

「はっきり覚えてません」

 

裁判官

「身内の名前は?」

 

被告人

「後の電話で被害者の方の名前を」

 

裁判官

「私の名前は何で、誰っていう身内から預かって欲しいという名前は?」

 

被告人

「そのときはありませんでした」

 

裁判官

「かなりおかしなありえない事ですけど。その人はキャッシュカードを預かってもらうために名前を言わずにアトランダムに電話してるわけですか?」

 

被告人

「はい」

 

裁判官

「キャッシュカードを受け取る人を探すために手当たり次第に電話してる人と思った?」

 

被告人

「はい」

 

思ったと断言するなら仕方ない。裁判官のように「信じられない」って考えのほうが一般的な気もするけど、被告人はそういう人なんでしょうか。

 

裁判官

「検索の文字は自分で入力したんですか?」

 

被告人

「はい」

 

裁判官

「結果わからなくて目的は達成できた?」

 

被告人

「理解度としては完璧じゃないです」

 

裁判官

「詐欺関連だというのは?」

 

被告人

「わかりました」

 

検索した2月上旬の時点でぼんやりと認識していたようですね。

 

裁判官

「逮捕されてなかったら受け取ったキャッシュカードはどうする予定でした?」

 

被告人

「カード受け取るまでしか指示がなくてその後の指示があると思ってました」

 

裁判官

「そのカードはどうなると思ってました?」

 

被告人

「暗証番号知らないと引き出せないので受け取った人が被害者から聞きだすのかなぁとか」

 

裁判官

「場合によっては、受け子がそのまま出し子をすることもある。その引き出したお金を別の人に渡すという犯罪です。その一連の組織犯罪に加担したんだと覚えといてください!」

 

と怒ったところで質問終了。

 

最後の発言こそメモ執って欲しかったですけどねぇ。今後検索せずにすみそうだし。

 

この後、検察官は、最初に電話があったときから、被告人は詐欺と認識していて、計画的かつ組織的犯行と指摘した上で、懲役3年を求刑。

 

弁護人は、被告人が反省していること、前科前歴がないことを理由に執行猶予付きの判決が相当だと弁論を述べて閉廷でした。

 

この手の犯罪は、ちょっとずつ手口を変えて行われているので、被害者が減らないと報じられていますね。これだけ注意しろって言われているのに、まだ騙される人が出てくるんですよ。不思議。それ以上に謎なのが、本件の被告人みたいに一番下っ端の受け子をやる人が減らない現実。

 

逮捕されても組織内で下のほうにいるから詳しく知らないか、怖くて本当のことを言えないのが受け子なんですよね。

 

で、最も捕まるリスクが高いというね。組織的には尻尾切りに最適ですよ。

 

──もし、この裁判がフィクションだったとして。

私は被告人の言葉に対して───

 

被告人を捕まえた警察官なら、本当に押入れでずっと待機していたのにって思うだろうなぁ。

ま、4月19日に実際に行われた裁判なのだが

 

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編集部

本記事は刑事事件弁護士ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※刑事事件弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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