阿曽山大噴火の裁判妙ちきりん第38回~反則ではないです〜

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2019.5.10

阿曽山大噴火の裁判妙ちきりん第38回~反則ではないです〜

Asozan_38

裁判傍聴芸人として名高い阿曽山大噴火による連載『裁判妙ちきりん』第38回!

法廷でしか味わう事のできない裁判のリアルをお届けします!

 

 

罪名 傷害、窃盗

被告人 33歳無職の男性

 

事件は去年の8月30日午後11時4分。

 

豊島区内のマンション駐輪場で、被告人は被害男性(27)の背後から腕で頚部を絞めて、頚椎捻挫など全治2週間の怪我を負わせた件。

 

もうひとつは、その後に2万8,000円入りの被害男性の財布を盗んだ件。

 

この事件は現役の総合格闘家がチョークスリーパーをかけて財布を奪ったと大きく報じられた事件です。

 

当時のニュースだと強盗致傷で逮捕って話だけど、起訴は傷害と窃盗。もし強盗致傷のままなら裁判員裁判での審理だったけど、罪名も変わり傍聴席20席の小さい法廷で行われました。

 

検察官の冒頭陳述によると、被告人は高校を卒業後、総合格闘家をやりながら介護の仕事をしていたという。前科はなし。

 

そして、犯行当日。

被告人は午後9時30分に自宅を出て、誰かの首を絞めて気絶させようと思い自転車で池袋方面へ。

 

現場マンションの駐輪場に被害男性がいるのを見かけ、被告人は静かに背後から近づき、被害男性にチョークスリーパーをかけて首を絞めたという。

 

被害男性は頚椎捻挫で気を失ったので、そのすきに被告人は被害男性のスマートフォンと財布を盗み、逃走。

 

スマホと財布のカード類は途中で投棄し、帰宅したらしい。これが事件の詳細です。

 

事件が去年の8月30日で、逮捕が今年の1月30日なので、防犯カメラの映像を元に捜査していたとか何かありそうなんだけど、特に明かされず。

 

ただ、逮捕の前々日に試合に出てたので、そえを見た警察が「あれ?」と思った可能性はありますね。推測ですが。

 

調べに対し、被害男性は

 

「意識が戻ると財布とケータイがなくなっていた。普段の生活でも何があるかわからないと注意するようになり、急に事件を思い出して夜中に起きたり、会社を休んだりしている」

 

と述べているようです。

 

駐輪場で総合格闘家に後ろからチョークスリーパーをかけられるなんて思いもしませんからね。かなりのトラウマでしょう。

 

一方、被告人は「ストレス発散や度胸試しのためにやった」と動機について供述しているそうな。

 

プロの格闘家が度胸試しで一般人に技をかけるって。

 

法廷には、実家からやってきた被告人の母親が情状証人として出廷。2人でストレスの解消法を話し合ったりして、今後の監督を約束していました。

 

そして、被告人質問。まずは弁護人から。

 

弁護人

「チョークスリーパーで被害者の首を絞めた理由は?」

 

被告人

「いろいろなストレスを抱えておりまして、職場の人間関係やケガにより、活動できないことなどで」

 

弁護人

「職場っていうのは介護施設ですよね。どんな悩みですか?」

 

被告人

「言うことを聞くとか聞かないとか、業務をやるとかやらないとか」

 

弁護人

「あなたは聞くほうやるほうね?」

 

被告人

「はい」

 

弁護人

「ケガっていうのは?」

 

被告人

「1年半前にじん帯切りまして、去年の春に逆側のじん帯を切りました」

 

仕事をやらない人がいるという苛立ち、じん帯を切って試合に出られないという焦り。被告人の心に重くのしかかっていたようです。

 

弁護人

「調書には、反抗の動機に“度胸試し。腕試し”って書いてます。どういう意味?」

 

被告人

「悪いことをする、一線を越えてみたいと思ったのをそう表現しました」

 

弁護人

「お金欲しくて首絞めたんじゃないの?」

 

被告人

「いえ、違います」

 

まあどっちにしろ悪いんだけど。

財布狙いで首絞めてるほうがストーリー的に理解しやすいんだけど、被告人は悪いことをするって目的での首絞め。

 

やっぱ後者のほうが怖いよなぁ。

 

弁護人

「起訴はされてないけど、被害者のスマートフォン盗ってますよね。いつ盗ろうと?」

 

被告

「気絶した後にスマホが落ちてるのを見て、瞬間的に盗ろうと」

 

弁護

「財布は? カバンの中にあったんでしょ?」

 

被告人

「いや、最初から開いてました」

 

弁護人

「でも何故、財布も盗ったの?」

 

被告人

「気絶してるし、ついでに盗ってしまおうと思いました」

 

悪いことをするってのが、首絞めだけだったはずが、さらに盗みも加わるんだけど、ハッキリとした理由はないみたいです。一つ悪いことしたら、二つも三つも同じみたいな感覚なんですかね。

 

弁護人

「今後はどのような点に注意して生活していこうと思いますか?」

 

被告人

「このような事件に及んだことを反省して、2度と起こさないように注意していきたいです」

 

と、再犯しないことを約束して質問終了。

 

次は検察官から。

 

検察官

「落ちてたスマホを盗った理由は何ですか?」

 

被告人

「連絡手段を断てると思って瞬間的に」

 

さっきは落ちてたのでと答えてたけど、ちゃんと狙いはあったわけです。

 

検察官

「チョークスリーパーってどんな技ですか?」

 

被告人

「背後から自分の腕で首を絞める技です」

 

検察官

「試合では相手が抵抗するから、なかなか掛けられないですよね?」

 

被告人

「はい」

 

検察官

「そういう技を抵抗できない状況で一般の人に掛けるって、プロとして恥ずかしいとは思いませんでした?」

 

被告人

「……後で」

 

検察官

「不安があって一般人に不意打ち。どうですか、ストレスは解消されました?」

 

被告人

「その時、一瞬は忘れられました」

 

検察官

「自分から格闘家としての将来を潰したんじゃないですか?」

 

被告人

「はい」

 

首を絞めたつもりが、自分で自分の首を絞めてたようです。

 

検察官

「なぜ、こんなことやったんですか?」

 

被告人

「腕試し。やったことない悪いことをしたらストレス発散になるんじゃないかなと」

 

検察官

「何故、犯罪だったんですか?」

 

被告人

「やったことのない、やっちゃいけないことをやってみれば、発散できると思ってしまって」

 

未経験な事柄への憧れなのか、インモラルゆえのドキドキ感を味わいたかったのか。

 

検察官

「1月29日試合出てますね。どんな気持ちで出てたんですか? バレてないから大丈夫だと思ってたんですか?」

 

被告人

「その後は罪意識も薄らいで試合に集中しました」

 

と、検察官としては犯行を忘れているので反省していないとアピールして質問終了。

 

最後は裁判官から。

 

裁判官

「逮捕容疑は?」

 

被告人

「強盗致傷です」

 

裁判官

「どれくらいの罪か知ってます?」

 

被告人

「はい。留置所で調べました」

 

裁判官

「そのままなら、無期懲役か懲役6年以下の刑なんです」

 

実際は傷害と窃盗での起訴だけど、それくらい大変なことをしたんだと言いたいのでしょう。

 

裁判官

「事件から逮捕まで間が空いてるんだけど、もう一回やろうとは思いませんでした?」

 

被告人

「やったことを悔いていたので」

 

裁判官

「やったときは一瞬でもストレス解消になったんでしょ? なぜやらなかった?」

 

被告人

「犯罪行為で人を傷つけたからです」

 

やる前とやった瞬間はストレス解消と思ってたのに、やってみるとそういう気持ちに変わるんですね。

 

裁判官

「私は詳しくないんだけど、スリーパーホールドじゃなく、首を狙うチョークスリーパーは反則技なんじゃないんですか?」

 

 

被告人

「いえ、私が出てる試合では反則ではないです」 

 

裁判官

「そうなんですか。でも、首を絞めてて相手が亡くなるかもとは思わない?」

 

被告人

「失神の前に離せば別に……」

 

裁判官

「それは格闘家の場合でしょ?」

 

被告人

「いや、一般の方でも大丈夫です」

 

裁判官

「ふーーーん」

 

と、技のことを細かく訊いて質問終了。

 

この後、検察官は、プロの格闘家による通り反射的犯行として懲役2年6月を求刑。

 

弁護人は、被告人に前科前歴がないことを理由に執行猶予付きの判決が相当だと弁論していました。

 

裁判官

「これで審理を終えますが、最後に言っておきたいことがあればどうぞ」

 

と、最終陳述を促すと、

 

被告人

「被害者様を傷つけたこと、深く反……」

 

と言ったところで急に泣き出す被告人。

 

ここまで落ち着いてたのに。闘うべき相手は己だったか、涙声で鼻をすすりながら再犯しないと誓って、閉廷でした。

 

 

──もし、この裁判がフィクションだったとして。私は被告人の言葉に対して───

 

逮捕当日に被告人を応援してたらガッカリするだろうなぁ。

ま、4月22日に実際に行われた裁判なのだが

 

 

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編集部

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