阿曽山大噴火の裁判妙ちきりん第39回~償いの言葉〜

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公開日:2019.5.17

阿曽山大噴火の裁判妙ちきりん第39回~償いの言葉〜

Asozan_39

裁判傍聴芸人として名高い阿曽山大噴火による連載『裁判妙ちきりん』第39回!

法廷でしか味わう事のできない裁判のリアルをお届けします!

 

 

罪名 傷害

被告人 29歳無職の男性

 

事件は今年の2月26日午前5時26分。

目黒区内のグループホームの居室内で、被告人が女性(85)の頭や腹を殴り、頭部打撲など全治1週間の怪我を負わせたという内容。

 

介護施設職員が認知症の女性を殴ったとして大々的に報じられた事件です。

 

検察官の冒頭陳述によると、被告人は専門学校を中退後職を転々とし、複数の介護施設で働いてきたという。

 

一昨年の9月から現場の介護施設で働くようになったらしい。

 

犯行時は夜勤で9人の入居者を1人で介助するように頼まれていたという。

 

あるとき、被害女性の息子が不自然なアザを発見。不審に思い、部屋に防犯カメラを仕掛けたところ、被告人が暴力を振るっている場面が撮影されていたので事件が発覚した、というのが逮捕の経緯です。

 

いろんな裁判を傍聴していると、こういう小型カメラはトイレやスカート内の盗撮のときにしか名前が挙がってこないけど、本件のようにちゃんと有意義に使われてもいるわけですね。

 

被害女性の息子は調べに対し、

 

「母は85歳。認知症で、2日に1回面会に行っていた。今年、母のコメカミに黄色いアザがあるのを見つけた。その一週間後、今度は左のコメカミにアザがあった。これは自然にできる怪我ではないと思いシフトを調べると、両日とも直前が被告人の担当であることがわかり、部屋に小型カメラを設置した。

認知症で何も言えないのに乗じて、暴力を振るうのは許せない」

 

と供述しているそうです。

 

この人がいたからこそ、事件が発覚したということですね。

 

この後、検察官は息子さんが撮影した部屋内の映像を上映です。

 

ただし、この法廷は裁判員裁判を行う壁にモニターが設置されてる広めの法廷ではなくて、傍聴席20席のモニターもない最も小さい法廷なんで、公判がスタートする前から、1台のテレビモニターが証言台と柵の間に置かれていたのでした。

 

当然、映像は裁判官に見せるための上映なので、傍聴人はテレビの裏側しか見えない状態。音声はなく、3つの角度からカメラを仕掛けていたらしく3パターンの映像の上映。しんと静まる5分間……。

 

一方、被告人は取調べで

 

「入居者は9名で、そのうち5名が認知症だった。5名のうち、被告人以外は会話もできて、しっかりしていたので叩いたら被害を訴えると思った。被告人は喋ることもできず抵抗できないので狙った。強く叩くとアザが残ってバレるので、アザができないように注意していた。お腹は少しふくよかだったので、頭より強めに殴っていた」

 

と述べているらしい。

 

怖いですね。被告人と被害女性の息子さんの話を合わせると、起訴された以外にも何度か殴ってたんだろうなぁというのは想像に難くない。

 

そして、被告人質問。まずは、弁護人から。

 

弁護人

「まず、被害者とそのご家族への気持ちを述べてください」

 

被告人

「私の愚かな行為で、このようなことになったこと、ご足労いただいたこと、一生消えることのない傷を与えてしまいました。一生、許されることはありません」

 

と、謝罪の言葉を述べると、クルッと踵を返し、傍聴席の方を向いて、

 

 

被告人

「申し訳ありませんでした!」

 

と、深々と一礼。すると裁判官が、

 

裁判官

「こっち向いてくださーーい」

 

と、冷静に注意です。

 

弁護人

「被害者の頭を殴ったということですけど、具体的にどれくらいの強さですか?」

 

被告人

「デコピンのような……。大きな力ではなかったと思っています」

 

弁護人

「そうは言っても、調書にはデコピンじゃなく、殴ったと書いてますよ?」

 

被告人

「取調べのときに“他の表現も使いますか?”」と言われましたが、怪我をさせたことに変わりはないので承諾しました」

 

前述の通り、傍聴席からはさっきの犯行の映像は見えてないのでわからなかったけど、デコピンをしていたらしいです。ま、これは後で検察官に指摘されるんだけど。

 

弁護人

「犯行の動機は何ですか?」

 

被告人

「イライラするのを抑えられなかったです。たくさんの理由がありますが、被害者以外にも介護があり、深夜に転倒しないよう見回りする、緊張感のある仕事でした。そんななか、わざとじゃないんですけど、被害者は足を組んだり、介護しづらい体勢だったので叩いてしまいました。あと、他の仕事も掛け持ちでやっていてストレスを抱えていたと思います」

 

いろいろ絡みがあってということのようです。

 

弁護人

「被害者を選んだのは何故ですか?」

 

被告人

「衝動的だったので、事前に選んでたわけではありません。無抵抗だったので、イライラを抑えることができませんでした」

 

弁護人

「入居者のなかで、最も弱い被害者を叩いたことについてどう思ってます?」

 

被告人

「私は子供のころ、イジメを受けていました。それで弱い人の助けになれればと思って介護の仕事をしていましたが、いつの間にか身勝手になり、弱い立場の人を傷つけていました」

 

弁護人

「雇用関係はどうなりました?」

 

被告人

「懲戒解雇になりました」

 

弁護人

「今後仕事はどうするんですか?」

 

被告人

「介護の仕事は2度とやらないようにします。私に資格はありません。介護とは違ったかたちで、人に尽くして笑顔にする仕事がしたいと思っています」

 

子供の頃の経緯から、人を助けたい楽しませたいと考えているようですね。

 

弁護人

「事件が報道されましたけど、影響は?」

 

被告人

「家族や知人に事件が知られ、街を歩くのが怖いです。しかし、当然の報いと思ってますし、私の罪の醜さを知り、反省するきっかけにもなりました。一生償っていかなければと思っています」

 

と、報じられたことにより、反省を深めることができたと述べて質問終了。でも、人は忘れっぽいですけどね。あれだけ騒がれた事件でも覚えてなかったりするし。

 

次は検察官から。

 

検察官

「取調べでは“普通の判断ができなくなっていた”と。力の加減はできてた?」

 

被告人

「強い力で大怪我させたら、殺してしまうとは思ってたので」

 

検察官

「怪我しないと思ってた?」

 

被告人

「力の加減をすれば大丈夫だろうと」

 

検察官

「さっきデコピンって言ってましたけど、映像見ると、デコピンじゃなくゲンコツですよ!」

 

被告人

「あ、デコピンのような強さという意味で言いました」

 

どうやら握りこぶしで殴ってたみたいです。

 

こんなにデコピン、デコピン言い合う裁判も珍しいけど。あくまでも額を指一本で……という力の強さの例えみたいですね。

 

最後は裁判官から。

 

裁判官

「結局、何回やったんですか?」

 

被告人

「1月中に1回。2月に2回です」

 

裁判官

「他の入居者に暴力は?」

 

被告人

「それはありません」

 

裁判官

「ふーーん……そうですか」

 

するとここから間髪入れず、質問の波状攻撃です。

 

裁判官

「被害者は今も施設にいるんですか?」

 

被告人

「知りません」

 

裁判官

「気になる?」

 

被告人

「はい。私のせいで悪くなってないかと」

 

裁判官

「他は? 他に気になること」

 

被告人

「謝りたいです」

 

裁判官

「それはわかってるけど、相手のことで気になるのは?」

 

被告人

「以上になります」

 

裁判官

「それだけ!!」

 

と、驚いたように目を開くと、

 

裁判官

「もし、あなたの親が同じ被害に遭ったらどう思います?」

 

被告人

「許せないです」

 

裁判官

「ここにいるの怖いと思ってるんじゃないかと心配しない? あなたに暴力振るわれた部屋ですよ」

 

被告人

「……今言われて思いました」

 

裁判官

「一生償うとか言って具体的に考えてないじゃない」

 

被告人

「どういう判決になるのか、懲役であれば服役した後に……」

 

裁判官

「懲役かどうかはボクが決めるからいいです。あなたは被害者に何ができる?」

 

被告人

「謝罪は当然だと思っています」

 

裁判官

「具体的に考えられてます? 心配してるのはそこですよ。施設にも迷惑かかってますよね。今どうなってます?」

 

被告人

「世間に知られてます」

 

裁判官

「入居者は減ってます? 家族が“預けてられへん”って話になってます?」

 

被告人

「知りません」

 

思わず関西弁が出るほど、興奮している裁判官。

 

裁判官

「保釈されて今何やってます?」

 

被告人

「事件のことを考え、実家にこもってます」

 

裁判官

「そのわりに、相手のこと考えられてないですよね、出てくるのは自分のことだけで」

 

被告人

「正直、被害者が何を望んでいるのか……」

 

裁判官

「すいませんとか、一生償いますとか、抽象的な話をしてる場合じゃないんですよ!」

 

と、説教して質問終了。

 

ホント、一生○○しますなんて最も抽象的な約束だもんなぁ。法廷ではよく耳にするけど。

 

このあと、検察官が懲役1年を求刑して閉廷でした。

 

そして、4日後の判決。

結果は、懲役1年執行猶予3年訴訟費用負担ありでした。初犯ですしね。猶予付きなのは想定内。

 

最後に、

 

裁判官

「一生反省謝罪って言うのは簡単。誰でも言えます。それを実行しないと意味がないと僕は思います。前回の法廷で言ったこと、あなたが考えてること、被害者の家族は見てると思います。行動が伴わないと、なんだ口だけなのかと思われますよ。よくお考えください」

 

と、説諭を述べて閉廷でした。

 

 

 

──もし、この裁判がフィクションだったとして。

私は被告人の言葉に対して───

 

 

介護施設に親を預けているとしたら、うちのほうは大丈夫なのかって思うだろうなぁ。

ま、4月22日と26日に実際に行われた裁判なのだが。

 

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編集部

本記事は刑事事件弁護士ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※刑事事件弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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