阿曽山大噴火の裁判妙ちきりん 第14回 ~スリルに狂った窃盗犯~

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2018.11.2

阿曽山大噴火の裁判妙ちきりん 第14回 ~スリルに狂った窃盗犯~

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罪名 常習累犯窃盗

被告人 43歳無職の男性

 

事件は今年の9月5日午後8時過ぎ。

JR西船橋駅のホーム上で、被告人が女性のリュックから現金2,705円やキャッシュカードなどが入った財布を盗んだという内容。

 

電車の外というシチュエーションがちょっとだけ珍しいけど、いわゆるスリ事件です。

 

人は事件の中身を知ると勝手に動機を想像するんですよね。恨みがあったから殴ったんだろうとか、急いでたからスピード違反をしたんだなとか。脳がそういう作りなのかもしれませんね。

 

で、お金を盗んだという事件の場合です。理由は単純ですよね。お金が欲しいから。お金はもういらないという人はいないし(もし不要な方がいらっしゃいましたら編集部まで連絡を)、お金を欲しがっているという部分では犯人の気持ちを理解できる人は多いはずです。

 

普通のスリならばの話ですけど。

 

検察官の冒頭陳述によると、被告人は高校を卒業後、職を転々として現在は無職、親と同居中。

 

前科は8犯ですべて窃盗。

20歳のころから刑務所の入出所を繰り返しているという。

 

そして、犯行当日。

被告人は市川駅でJR総武線に乗車し、リュックを背負った被害女性の後ろに立ち、リュックのファスナーを下ろして手を入れ、財布を盗もうと試みたらしい。

 

しかし、ちょうど(本八幡?)駅に到着し、人が乗り降りしたので窃盗断念。そのまま電車に乗っていると、被害女性が西船橋駅で下車したので、被告人も一緒に後をついて電車を降りたとのこと。

 

すると、被害女性はエスカレーター手前が混雑していたので立ち止まり、被告人はその隙にリュックのファスナーを下ろして長財布を抜き取ったという。

 

しかし、その一部始終を見ていた警察官が現行犯で逮捕したというのが事件の流れになります。

 

「偶然にも警察官がいたから逮捕になったわけね」と思ったら、全然違ってました。

 

調べに対し、この警察官は、

 

警察官

この日は朝8時10分からスリの警戒にあたっていました。

不審な男がいたので追跡すると、山手線に乗って渋谷駅で降り、また山手線に乗って新宿へ行き、再び山手線で目黒駅下車。

そして山手線で品川駅から京浜東北線に乗り換え、大井町駅で改札の外へ出て行きました。

 

被告人が逮捕される12時間も前から、私服姿でスリ犯人を捕まえるべく不審な奴に目をつけ、被告人の後をつけていたんですね。

 

あのギュウギュウ詰めの満員電車の中に、移動のためじゃない目的の人も乗ってるわけですね。

いろんな仕事があるもんだ。

 

そして警察官は

 

警察官

夕方過ぎ、再びその男を発見し、追跡しました。

すると西船橋駅のホーム上で女性のリュックから財布を盗んだので、逮捕しました。

 

と供述しているそうな。

 

追うのをやめたのに、偶然再会したみたいです。

これが七夕だったりすればロマンチックですけど、警察とスリですからね。

 

そして、被告人質問。

 

まずは、弁護人から。

 

弁護人

この日はどこに行ってたんですか?

 

被告人

大井町のほうのクリニックです

 

弁護人

なんのためですか?

 

被告人

何度も盗みを繰り返してきたので、その治療のためです

 

 

医師からはクレプトマニア(窃盗症)と診断されて、その病気を治すために通院していたみたいです。

 

弁護人

刑務所から出所したのが7月。いつからクリニックに通ってるんですか?

 

被告人

7月17日です

 

弁護人

どれくらいの頻度で行くんですか?

 

被告人

平日週5日。朝10時から夜の7時までです

 

かなり根気のいる通院ですね。そう簡単には治らないってことでしょう。

 

弁護人

どんな治療ですか?

 

被告人

認知症行動療法です。クレプトマニア同士で話をしたり、カウンセリングを受けたり、運動したり、映画を見たり……

 

 

弁護人

効果は感じましたか?

 

被告人

結果は本人次第、本人が重要だなと

 

 

弁護人

治療の帰りの犯行ですよ。今から振り返ってどう思います?

 

被告人

意志の弱い部分があったので

 

通院を続ける意志の強さはあったはずなのにねぇ。

どんな努力をしても、盗みをしないための治療後に盗みをやってしまったらすべて帳消し。これが窃盗症の恐ろしさというべきか。

 

弁護人

実家暮らしで親に援助してもらってたんだから、お金には困ってなかったでしょ。なんで財布盗んだの?

 

被告人

お金欲しさより、盗みそのものが楽しくなっているというか。スリルや達成感ですね

盗んだのはお金だけど、お金が欲しかったわけじゃないと。スリルや達成感を味わいたいなら犯罪以外にもあると思うんだけど、スリのスリルか。

行為自体に面白さを感じちゃってるんだもんなぁ。

 

弁護人

親が法廷に来てないですよね?

 

証人

前回出廷して、再犯させないとか、監督するって誓ったんですけど、これはもうダメだとキレられまして

 

弁護人

今後はどう治療しますか?

 

被告人

通院ではなく入院して、医師の許可が出るまでそこにいようと思います

 

 

と、親から厳しく言われたことで、入院して完治させると約束です。

 

次は検察官からの質問。

 

検察官

朝10時に大井町のクリニックなのに、朝8時頃に新宿駅にいたのはなぜですか?

 

被告人

財布を盗ろうという気持ちがありました

 

検察官

その後、目黒駅や渋谷駅に行った理由は何ですか?

 

 

被告人

盗れそうな人がいるか、探すためです

 

 

窃盗症を治したいという意志でクリニックに出かけているのに、その前後で盗みをやりたくなっていたということですね。

 

検察官

なぜ、この女性だったんですか?

 

被告人

後ろにリュックを背負っていて、ファスナーを下ろしても気づかないだろうと

 

検察官

いつもリュックを狙うの?

 

被告人

そうです

 

いろんなタイプのスリがいるだろうけど、リュックに財布を入れておくのは危険かもしれませんね。

みなさん、防犯対策として覚えておきましょう。

 

最後は裁判官から。

 

裁判官

自由に使えるお金はいくらありました?

 

被告人

オークションで出品物が売れたので、逮捕前は4〜5万円ありました

 

 

ホントにお金欲しさじゃなかったのかを確認したいようです。

 

裁判官

なにに使っていましたか、お金

 

被告人

カラオケ行ったりですね

 

 

裁判官

カラオケ行くのに足りなかった?

 

被告人

いいえ、足りてます

 

裁判官

ですよねー

 

なにかストレスが溜まって犯罪に走ってしまったと主張する被告人の場合、法廷ではストレスの解消を今後どうするかって話になることが多いんだけど、大抵がスポーツかカラオケ。

 

被告人はその王道のカラオケが趣味みたいなんだけど、カラオケではスリルや達成感は得られなかったってことなんでしょうね。

うまく歌うとかの達成感はあると思うんだけど、まったく別ものなのか。

 

この後、検察官は懲役5年を求刑。被告人は最終陳述で

 

被告人

今後このようなことがないよう、精神的に強くなるためにどうすればいいかよく考えて生活していきたいと思います

 

と述べて閉廷でした。

 

出所してくると40代後半。人生はまだまだ長いとはいえ、早く治さないとなぁ。

 

 

 

 

 

──もし、この裁判がフィクションだったとして。

私は、被告人の言葉に対して──

 

 

私服警官なら、もう再会したくないって思うだろうなぁ。

ま、10月19日に実際に行われた裁判なのだが。

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編集部

本記事は刑事事件弁護士ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※刑事事件弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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