【5分でわかる】殺人未遂罪の構成要件とおおよその量刑
相手を殺害する意思をもって殺害行為に及んだものの被害者が死亡しなかった場合、殺人未遂罪が成立します。
また、被害者が無傷であっても殺意をもって加害行為を行った場合、殺人未遂罪が成立する可能性もあるでしょう。
殺人未遂罪では、基本的に殺人罪と同じく死刑または無期もしくは5年以上の懲役が科せられますが、「未遂」ということが考慮され、懲役3年前後からおよそ7年程度に収まることがほとんどです【参考:裁判所 特別資料1(量刑分布) 平成20年4月~平成23年8月判決宣告分】。
この記事では、殺人未遂の構成要件や、罪の重さ、殺人未遂の判例などについて紹介します。
殺人未遂罪とは?成立するための構成要件
相手を傷つけただけでは傷害罪にも該当しますが、どこから殺人未遂罪になるのでしょうか。ここでは、構成要件について紹介します。
殺人未遂の成立には「殺意」の有無が最も重要
殺人未遂罪の成立するには、殺意があることが重要です。
殺意の有無については「殺してやる」という気持ちだけではなく、行為の内容・態様、結果の重大性、行為前・行為後の言動、その他諸般の事情を総合考慮して判断されます。
そのため、たとえ積極的に殺害しようとする強い意志がなくても、その行為によって被害者が死亡する可能性が高いとわかっていながら行った場合(ナイフで刺す・鈍器で頭部を殴打するなど)、殺意が認められ殺人未遂罪が成立するケースもあります。
一方で、出刃包丁で多数回切りつけるなど全治3ヶ月の暴行を加えた事件では、被害者の殺害を企図するほどの動機が認められない上に、切り付け方が水平にとどまることから、殺意が認められないと判断され、悪質な傷害事件と判断され殺人未遂罪は成立しませんでした(平成29年12月19日金沢地裁 文献番号 2017WLJPCA12196002)。
被害者が無傷でも殺人未遂罪は成立する
殺人未遂は「殺害行為に及んだものの被害者が死亡しなかった場合」に成立するため、被害者の負傷の有無は関係ありません。
殺意を持って行った行為であれば、殺人未遂罪が成立します。
実際に、別居中の夫を殺害しようと、夫が日常的に飲んでいた焼酎に毒性物質のある液体を混入し殺害しようとした事件では、夫が飲酒しなかったことにより無傷でしたが、殺人未遂罪が成立しました。
殺人未遂罪の罰則と減刑の余地
殺人未遂罪に関する量刑は上記で取り上げた刑法を見ると分かるように、基本的には殺人罪と同じ刑罰が科せられますが、未遂という部分が加味されて刑が減刑されます。
ここでは罰則と量刑の相場などについて紹介します。
殺人未遂罪の罰則とおおよその量刑
殺人未遂罪は第203条に明記されていますが、具体的な刑罰は記載されていません。そのため、第199条にある殺人罪の刑罰を適用できるという解釈がされます。
殺人未遂罪の法定刑は死刑または無期懲役、もしくは懲役5年以上です。ただし、被害者が死亡していない場合、通常「未遂犯」として刑が減軽されるため、殺人未遂罪で死刑や無期懲役となることはほとんどありません。
犯行方法や被害者の傷害の程度などで変わってきますが、殺人未遂罪における量刑の相場は懲役3年~15年だとされており、殺人未遂罪に関与する全体の判決のうち、実際には懲役3年前後からおよそ7年程度までが半数以上を占めるとされています。
参考:「殺人未遂における量刑の相場」
懲役15年以上が認められた殺人未遂罪の判例
被害者の数や反省する態度、犯行動機などで量刑は大きく変わります。以下のような事件では、懲役15年以上の判決が下されました。
【懲役20年】出所後わずか1ヶ月半のうちに、逆恨みにより無関係な他人2名に対し、重症を負わせた事件(平成31年3月25日 前橋地裁 文献番号 2019WLJPCA03256008)
【懲役18年】交際相手と別れ、さみしさから二度にわたり、帰宅女性に近づき殺意を持って複数回突き刺し重傷を負わせた事件。非常に身勝手な理由であった上に、被告人は公判において、明らかに虚偽の弁解をするなど反省の情を見せず、被害者に対しても慰謝の措置を行わなかった(平成19年11月2日 札幌地裁 文献番号 2007WLJPCA11029001)
【懲役15年】飲食店「a」の経営者Aとaの常連客であったBに対し重症を負わせた事件。強い殺意が認められ、犯行内容が執拗かつ相当に危険で悪質なものであったと判断できる(令和2年7月16日 静岡地裁沼津支部 文献番号 2020WLJPCA07166003)
殺人未遂罪の「未遂」に対する減刑の余地
刑法第43条では犯罪を行っても最後まで成し遂げられなかった場合、減刑が認められることが定められています。
第八章 未遂罪
(未遂減免)
第四十三条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
引用元:「刑法 第43条」
そのため、殺意を持って犯行に及んだものの被害者が死亡に至っていない場合、「未遂犯」として刑の減軽が認められます。
殺人未遂に対する減刑の限度
減刑にも限度があります。減軽の具体的な度合いについては刑法第68条で規定されており、有期懲役の場合ではその長期及び短期の2分の1を減刑することが可能です。
殺人未遂罪(殺人罪)の刑罰は最小で懲役5年であるため、その半分である2年6カ月が最も短期間になる懲役刑であることが分かります。
第十三章 加重減軽の方法
(法律上の減軽の方法)
第六十八条 法律上刑を減軽すべき一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による。
一 死刑を減軽するときは、無期の懲役若しくは禁錮又は十年以上の懲役若しくは禁錮とする。
二 無期の懲役又は禁錮を減軽するときは、七年以上の有期の懲役又は禁錮とする。
三 有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の二分の一を減ずる。
四 罰金を減軽するときは、その多額及び寡額の二分の一を減ずる。
五 拘留を減軽するときは、その長期の二分の一を減ずる。
六 科料を減軽するときは、その多額の二分の一を減ずる。
引用元:「刑法 第68条」
殺人未遂罪で執行猶予が付くケース
殺人未遂罪に対し懲役2年6カ月~3年の間で判決が下された場合、執行猶予付きの懲役刑になる可能性があります。
執行猶予付きの判決では実刑と異なり、ただちに刑務所に入ることはありません。被告人は社会のなかで更生の機会が与えられます。
なお、執行猶予付きの判決でも前科はつくものの、執行猶予期間の満了まで問題なく生活できれば懲役刑が取り消されます。
以下のようなケースで、執行猶予付きの判決がくだされました。
- 【懲役3年4年間の執行猶予】就寝中のA(被害者)を金づちで殴り殺害しようとした事件。Aの負傷の程度が深刻とは言えず、Aも処罰を望んでいないこと、被告人がAに長年苦しめられていたなど犯行動機や経緯に酌むべき事情が多い、被告人もおおむね事実を認め反省している事情などがあった(令和2年9月15日 仙台地裁 文献番号 2020WLJPCA09156005)
- 【懲役3年5年の執行猶予】生後7日の実子に対し、首を絞め殺害しようとした事件。犯行内容が危険で悪質だった一方で、被告人の殺意が突発的で軽度の知的障害を持ってい ること、全治7日間と比較的負傷の程度が低いこと、被告人が反省しており、被告人の夫が更生支援を誓約していることなどの事情もあった。(令和2年9月14日 福岡地裁小倉支部 文献番号 2020WLJPCA09146001)
殺人未遂の罪が減軽となる3つのポイント
殺人未遂罪で逮捕された事件でも、以下のポイントが考慮されて減軽される可能性があります。
1:犯行態様や動機などの情状
犯行に関する実際の状態や事情については一般的に『情状』と呼ばれます。加害者側の情状をくみ取った上で『情状酌量の余地がある』と見なされる場合において減軽されます。主な情状の項目は以下の通りです。
犯行態様 |
被害者を襲った方法や使用した凶器の種類・用法など |
犯行動機 |
被害者への恨みがあった場合は同情の余地がある |
被害結果 |
被害者のケガの程度や肉体的・精神的な後遺症の有無など |
加害者の年齢や性格 |
年齢が低いと更生できる可能性は比較的高くなる |
再犯の可能性 |
加害者の前科などが考慮される |
なにより本人が深く反省しているかも重要です。犯行態様や動機などに酌むべき事情があったとしても、本人が全く反省していなかったり、次こそは殺すなどと犯行予告をするようなケースでは、一定の減刑があったとしても、執行猶予がつけられないと判断されてしまうケースもあるでしょう。
家族や専門機関からの支援の有無なども重要なポイントになります。今後、社会の中で更生できる期待が高ければ執行猶予付き判決を受けることも可能です。
2:殺意がないことの証明
被害者への殺意が無ければ、殺人未遂は成立しません。そのため、殺意があることの証明がされない場合、殺人未遂では無罪となり、暴行罪又は傷害罪が成立します。
殺人未遂罪より暴行罪や傷害罪の方が罰則が軽いため、殺意がないことが証明できれば大幅な減刑もゼロではありません。
もっとも、単純に「殺すつもりはなかった」と表明するだけでは意味がありません。殺意の有無はあくまで客観的状況を総合考慮して判断されます。そのため、加害者が殺意を否認したとしても、他の客観的事情(例えば、綿密な犯行計画があった、死亡の危険の高い犯行方法であった等)から殺意を認定される可能性は十分にあります。
3:被害者との示談交渉や慰謝料の支払い
被害者との間で裁判前に示談成立していたり、慰謝料の支払いなどが一部でも行われていたりすれば、減刑される可能性は高まります。
これは、本人が反省し、慰謝の気持ちを持っていると判断されるからです。
実務的には、示談交渉は弁護士に慰謝料の支払いは家族に対応してもらうしかありません。
殺人未遂で逮捕された際の流れ
刑事事件で逮捕されてから流れについては、以下図の通りになります。警察での取調べや検察での捜査では終了する時間が規定されていますが、途中で嫌疑が晴れたり不起訴であった場合に加害者は釈放されるようになります。
釈放されるタイミング
逮捕された場合は、上図のとおり、一定期間身体拘束が続きます。身体拘束が解かれるタイミングは、被疑者段階と被告人段階で異なります。
被疑者段階の場合
被疑者段階で釈放されるケースは、以下のとおりですが、殺人未遂の場合は考えにくいです。
- 逮捕後勾留請求がされない又は勾留請求が却下された
- 勾留期間満了後に処分保留又は不起訴になった
被告人段階の場合
起訴され、被告人となった場合は、裁判所の許可が下りれば保釈金を支払って釈放してもらうことも可能です。殺人未遂で起訴されて保釈が認められるケースは基本的にありません。
殺人未遂の加害者にも弁護士に依頼する権利がある
殺人未遂で逮捕された人物に対して弁護人が付くことに疑問を感じる人も少なくないでしょう。しかし、日本国憲法第37条には、全ての被告人は公平な裁判を受けるために弁護人に依頼する権利があると明記されています。
また、公判は弁護士がいないと開かれないので、被告人が弁護士依頼を望んでいなくても、裁判所から国選弁護人が選任されます。
したがって、殺人未遂の被告人にはすべからく弁護人が付きます。
第37条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
引用:「日本国憲法第37条」
まとめ
殺人未遂は障害の有無で判断されません。凶器や動機、ケガの程度などから殺意の有無を判断していくことになります。
また、酌むべき事情がある場合は減刑される可能性があるため、殺害を決意した事情がある場合は弁護士によく相談するようにしましょう。
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