殺人未遂における公訴時効の基準と公訴時効が停止する条件

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2017.5.7

殺人未遂における公訴時効の基準と公訴時効が停止する条件

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殺人未遂罪による公訴時効は現行で25年であり、平成17年の法改正以前に発生した殺人未遂事件では15年の公訴時効が適用されます。なお、公訴時効に関しては刑事訴訟法で適用される時効で、犯罪行為を終えてから一定期間が過ぎると起訴ができなくなることを意味します。

 

また、特殊な事例ですが大阪府警にて捜査関係資料が放置され、多くの事件が公訴時効が成立した問題が平成28年6月に発覚しました。昭和50年~平成24年に起きた2270事件が時効成立し、そのうち殺人未遂事件は20件あったとされます。
参考:「大阪府警が殺人の捜査資料10件放置・時効 放置件数は計2270件

 

一定期間が経過すれば起訴できなくなる公訴時効について、今回は殺人未遂罪に加えて関連する傷害罪も合わせて、時効期間と時効停止の条件を解説していきます。

 

 

 【目次】
殺人未遂事件における公訴時効は25年
刑事訴訟法では刑罰の重さによって公訴時効が定められている
刑法上では殺人未遂罪における最高刑は死刑
未遂減免により実際の量刑は懲役5年以下が多い
平成16年までは殺人未遂事件の時効は15年
殺人未遂罪の公訴時効が停止する2つの方法
時効停止と時効中断の違い
事件について起訴をされると公訴時効が停止する
被疑者(加害者)が国外にいる場合も時効が停止する
実際に公訴時効が成立した殺人未遂事件
時効成立後も未解決のままであるケース
時効成立後に犯人を特定できたケース
殺人未遂罪が成立せず傷害罪が認められるケース
加害者側に殺意が認められない場合は殺人未遂罪が成立しなくなる
傷害罪の公訴時効は10年
加害者側は誠意を持って情状を主張することが大事
まとめ

 

殺人未遂事件における公訴時効は25年

殺人未遂事件に関する公訴時効は25年ですが、その理由については刑法と刑事訴訟法で確認できます。法律上では罪に対する最も重い刑罰の程度を基準に公訴時効が決められ、一覧は下記表の通りになります。

 

《被害者を死亡させた場合の公訴時効一覧》

罪の法定最高刑

公訴時効期間

死刑

無期限

無期の懲役または禁錮

30年

20年以上の懲役または禁錮

20年

20年未満の懲役または禁錮

10年

 

《被害者を死亡させていない場合の公訴時効一覧》

罪の法定最高刑

公訴時効期間

死刑

25年

無期の懲役または禁錮

15年

15年以上の懲役または禁錮

10年

15年未満の懲役または禁錮

7年

10年未満の懲役または禁錮

5年

5年未満の懲役または禁錮・罰金刑

3年

拘留など

1年

 

刑事訴訟法では刑罰の重さによって公訴時効が定められている

刑事事件全般において、公訴時効は罪の程度で公訴時効が決められています。具体的には刑事訴訟法第250条で規定されていますが、例えば無期懲役である場合は15年の公訴時効になり、罰金刑の場合は3年の公訴時効であることが分かります。基本的には罪が軽いほど時効期間が短くなるといえるでしょう。

 

第二百五十条  時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。

一  無期の懲役又は禁錮に当たる罪については三十年

二  長期二十年の懲役又は禁錮に当たる罪については二十年

三  前二号に掲げる罪以外の罪については十年

○2  時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。

一  死刑に当たる罪については二十五年

二  無期の懲役又は禁錮に当たる罪については十五年

三  長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については十年

四  長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年

五  長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年

六  長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年

七  拘留又は科料に当たる罪については一年

引用元:刑事訴訟法 第250条

 

なお、死刑に対しては25年の時効が定められていますが、人が死亡した場合の事件においては公訴時効の規定がなくなります。全体的な法定刑に関する公訴時効については「法定刑ごとの公訴時効一覧」の記事で解説しているのでご参考ください。

 

刑法上では殺人未遂罪における最高刑は死刑

次に殺人未遂罪における刑罰について以下の刑法で確認すると、殺人罪と比較して殺人未遂罪は減軽の対象になりますが、刑法上では殺人罪と同様に死刑または無期懲役、もしくは5年以上の懲役が科せられることになります。

 

第二十六章 殺人の罪

(殺人)

第百九十九条  人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

引用元:「刑法 第199条」

 

(未遂罪)

第二百三条  第百九十九条及び前条の罪の未遂は、罰する。

引用元:「刑法 第203条」

 

第八章 未遂罪

(未遂減免)

第四十三条  犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。

引用元:「刑法 第43条

 

なので、被害者が死亡しなかった場合において、最高刑が死刑であることを条件に殺人未遂罪の公訴時効が25年であると判断できます。

 

未遂減免により実際の量刑は懲役5年以下が多い

殺人未遂罪における最高刑が死刑であると説明しましたが、殺人未遂で死刑や無期懲役になる可能性はほとんどありません。刑法第43条で規定されている未遂罪の減軽により、懲役5年以下の量刑になるケースも多く、執行猶予付きの軽い懲役刑で判決が下されることもあります。
参考:「殺人未遂における量刑の相場

 

平成16年までは殺人未遂事件の時効は15年

なお、刑事訴訟法については平成17年1月1日に改正法が一度施行されていて、平成16年までは15年の公訴時効が殺人未遂罪で適用されていました。

 

公訴時効に関連する刑事訴訟法は改正が多く平成22年の改正までは、人を死亡させた罪における死刑に対しては25年の公訴時効が適用されていました。公訴時効の対象から除外されたのは比較的最近のことであり、今後も公訴時効の規定が変更される可能性はあるかもしれません。

 

殺人未遂罪の公訴時効が停止する2つの方法

殺人未遂罪における25年の公訴時効を停止させる方法は2通りありますが、『時効停止』と『時効中断』の違いについて先に確認していきましょう。なお、基本的なことですが公訴時効期間は犯罪行為が終わったタイミングで始まります。

 

第二百五十三条  時効は、犯罪行為が終つた時から進行する。

○2  共犯の場合には、最終の行為が終つた時から、すべての共犯に対して時効の期間を起算する。

引用元:「刑事訴訟法 第253条

 

時効停止と時効中断の違い

殺人未遂罪の公訴時効を止める場合は時効停止になります。似たような言葉で時効中断もありますので、以下で2つを比較しました。5年の時効期間を参考例として図で記載しています。

 

時効停止

 

時効停止は時効期間が単純に止まることを意味するため、停止期間が過ぎれば時効が再開されます。殺人未遂罪を含む刑事訴訟法は、一般的には時効停止の制度のみ適用されます。

 

時効中断

 

対して時効中断の場合は、損害賠償請求権や差押えといった民事訴訟法などに関連する制度であり、時効中断の条件が成立した時点で時効がリセットされます。なので、例えば5年の時効期間において2年で時効中断の条件を満たした場合、残りの3年は消えて改めて5年間の時効が発生することになります。

 

事件について起訴をされると公訴時効が停止する

刑事事件に関する時効が公訴時効と呼ばれているのは、公訴の提起(起訴)で時効が停止するからです。法律上は起訴から判決の間まで時効が停止します。また、共犯者についても時効の停止が適用されることが刑事訴訟法第254条で定められています。

 

第二百五十四条  時効は、当該事件についてした公訴の提起によつてその進行を停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始める。

○2  共犯の一人に対してした公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有する。この場合において、停止した時効は、当該事件についてした裁判が確定した時からその進行を始める。

引用元:「刑事訴訟法 第254条

 

被疑者(加害者)が国外にいる場合も時効が停止する

また、犯人(加害者)が海外に逃げている場合も公訴時効の停止が適用されます。以下の通り刑事訴訟法第255条で規定されていて、仮に加害者が海外へ逃亡して隠れても時効が停止するため処罰を免れられなくなります。

 

第二百五十五条  犯人が国外にいる場合又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかつた場合には、時効は、その国外にいる期間又は逃げ隠れている期間その進行を停止する。

○2  犯人が国外にいること又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかつたことの証明に必要な事項は、裁判所の規則でこれを定める。

引用元:「刑事訴訟法 第255条

 

実際に公訴時効が成立した殺人未遂事件

公訴時効が成立した事例はごく僅かですが、現在も犯人が特定できないまま時効期間を過ぎた事件や、時効が成立してから犯人が見つかったケースなどがあります。

 

時効成立後も未解決のままであるケース

有名な事件として、昭和59年~60年に発生したグリコ・森永事件を取り上げます。昭和59年3月に江崎グリコ社長を誘拐して身代金を要求し、その後も脅迫や放火を起こした事件になりますが、そのほか東京と愛知で青酸入りの菓子をバラ撒いたことによる殺人未遂罪について平成12年に公訴時効が成立しました。今もなお、犯人は捕まっていないままです。
参考:「グリコ・森永事件

 

時効成立後に犯人を特定できたケース

また、平成6年に看護師の女性が大阪市内で刺された殺人未遂事件において、時効成立後の平成22年に犯人の男が見つかりました。犯人は容疑を認めましたが罪に問うことはできないため、書類送検をして事件は完結します。
参考:「時効成立後『自分が刺した』 殺人未遂事件、男が認める

 

なお、いずれの事件も平成17年の改正前になるため、当時の殺人未遂罪における15年の時効が適用されました。このように公訴時効が成立することで加害者を罰することができなくなるので、過去の事件を含め刑事事件における時効の撤廃を求める動きがあります。

 

殺人未遂罪が成立せず傷害罪が認められるケース

殺人未遂罪に関しては犯行状況や殺意の有無によって、量刑の軽い傷害罪になるケースもあります。仮に犯行に及んだ加害者が本気で被害者を殺そうとは思わなかった場合、適切な供述をすることで減軽される可能性もありますので公訴時効と合わせて主張する上でのポイントを確認した方が良いでしょう。

 

加害者側に殺意が認められない場合は殺人未遂罪が成立しなくなる

殺人未遂罪から傷害罪に判決が変わった事例として、知人男性の背中を日本刀で刺したとある事件を参考に取り上げます。日本刀で刺された被害者の傷は浅く加害者は弱い力で刺したと見なされたことで、求刑では殺人未遂罪を基準に懲役8年だとされていましたが、裁判長は殺人未遂罪の適用を認めず傷害罪として懲役2年8カ月の判決を言い渡しました。

 

また、殺意の有無を確かめるポイントとして犯行後、加害者が止血のためタオルを渡した事実より殺意が認められなかったのも、傷害罪の決め手の一つになりました。
参考:「工藤会系組幹部に2年8月の実刑判決 殺人未遂は認めず傷害適用

 

傷害罪の公訴時効は10年

なお、傷害罪の刑罰については刑法第204条で規定されていて、15年以下の懲役または50万円以下の罰金であることが分かります。なので、刑事訴訟法第250条の基準により傷害罪の公訴時効は10年で定められています。

 

(傷害)

第二百四条  人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

引用元:「刑法 第204条

 

加害者側は誠意を持って情状を主張することが大事

殺人未遂罪と傷害罪の見極めでは、加害者の供述や態度が重要になるでしょう。事件当時の犯行状況や加害者自身の素性など、量刑を判断する『情状』を的確に伝え、加害者への謝罪を明確にするべきです。

 

ただし、加害者に同種の前科がある場合などは不利になる可能性が高いです。再犯の可能性を匂わせるような要素があると裁判官や被害者からの信用を得ることが難しくなります。そのほかにも量刑の基準がありますが、詳細は「殺人未遂における量刑の加重減軽を決める基準」で解説しているので、合わせてご確認いただければと思います。

 

 

まとめ

殺人未遂における公訴時効の基準について解説しましたが、25年の公訴時効が成立して逃げ切れる可能性はほとんどないと言ってよいでしょう。

 

また、自分が容疑者として逮捕されてしまった場合は早めに弁護士へ相談することをオススメします。殺人未遂に関与する刑事事件では殺意の有無によって量刑が大きく変わりますので、弁護士のアドバイスをもらいながら適切な供述対応をとるべきでしょう。

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編集部

本記事は刑事事件弁護士ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※刑事事件弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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