偽計業務妨害とは|適用される事例と逮捕された場合の流れをわかりやすく解説
偽計業務妨害罪という犯罪を耳にすることは、そう多くないかもしれません。
しかし、意外と身近で、誰もが知らず知らずのうちに犯してしまうおそれのある犯罪です。
たとえば、根拠のない悪評をSNSに書き込んだり、飲食店に嘘の注文をして出前を配達させたりと、容易にできてしまいそうなことが偽計業務妨害罪にあたる可能性があります。
実際に上記のような行為に及んでしまい、偽計業務妨害罪で逮捕されるのではないのかと不安に感じている方もいるのではないでしょうか。
本記事では、偽計業務妨害罪の構成要件や刑罰などの基本的な情報をわかりやすく解説しています。
偽計業務妨害罪の罪に問われたときに対応方法なども紹介しているので、すでにトラブルを抱えている方も本記事を参考にしてください。
偽計業務妨害罪とは|偽計を用いて相手の業務を妨害した場合に適用される罪のこと
偽計によって相手の業務を妨害すると、偽計業務妨害罪に問われます。
偽計とは、人を騙したり、人の勘違いや無知を利用したりすることを指します。
まずは、偽計業務妨害罪の構成要件や罰則、威力業務妨害罪との違いについて詳しく見ていきましょう。
偽計業務妨害罪の構成要件
偽計業務妨害罪は、偽計を用いて人の業務を妨害したときに成立します。
偽計業務妨害罪が成立するためには、以下の要件が必要です。
- 偽計を用いたこと
- 相手の業務を妨害したこと
- 故意であったこと
では、偽計業務妨害罪の構成要件について、詳しく見てみましょう。
偽計を用いたこと
構成要件の1つ目は、「偽計を用いたこと」です。
偽計とは、人を騙したり、人の勘違いや無知を利用したりすることをいいます。
たとえば、「この飲食店には大量の虫がいる」などと、事実とは異なる情報をSNSに投稿した場合などは偽計にあたります。
また、必ずしも人に向けた働きかけが必要になるわけではなく、他人の機械や商品に悪質な工作をすることも偽計に該当する可能性があります。
相手の業務を妨害したこと
構成要件の2つ目は、「相手の業務を妨害したこと」です。
ビジネスにおける仕事はもちろん、ボランティア活動やサークル活動などの非営利目的の活動も業務に含まれます。
PTAや同窓会のような反復継続して活動する組織における活動も業務です。
また、実際に業務が妨害されたという結果が生じていなくても、妨害のおそれがあれば、偽計業務妨害罪の構成要件を満たす可能性があります。
故意であったこと
3つ目の構成要件は、「故意であったこと」です。
前項までの「偽計を用いたこと」と「他人の業務を妨害したこと」について、わざとおこなった犯行であることが構成要件のひとつとなっています。
つまり、もしも業務を妨害してしまっても、故意ではなかったと判断されれば、偽計業務妨害罪で起訴されることはありません。
しかし、故意というのは、自身の行為が犯罪だと認識していることや、悪気をもって積極的におこなうことだけを指すわけではありません。
偽計業務妨害罪という罪の存在を知らない場合や、妨害を強く望んでいたとはいえない場合であっても、故意が認められるケースはあります。
また、偽計業務妨害罪としては扱われなかった場合であっても、民事事件として被害者からの損害賠償請求などを受ける可能性は否定できないので注意が必要です。
偽計業務妨害罪の罰則
偽計業務妨害罪の法定刑は、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
刑事裁判になると、法定刑の範囲内で量刑が言い渡されます。
犯行の悪質性や計画性、示談の有無、反省の程度など、総合的な判断によって量刑は決められます。
偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪の違い
偽計業務妨害罪と勘違いしやすい罪に、威力業務妨害罪があります。
いずれの罪も、人の業務を妨害する行為をしたという点で共通していますが、業務を妨害した手段に大きな違いがあります。
偽計業務妨害罪は虚偽の情報を利用した犯罪であり、威力業務妨害罪は暴力や脅迫といった威圧的行為を利用した犯罪だと考えておきましょう。
たとえば、SNSで事実に反した悪口などを書き込むことは偽計業務妨害にあたります。
一方、殴る・蹴る・脅すといった手段を用いた場合や、SNS上において「会場に爆弾を設置した」等の書き込みをした場合は、威力業務妨害にあたる可能性があります。
なお、威力業務妨害罪の罰則は偽計業務妨害罪と同じく、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
偽計業務妨害罪の時効
偽計業務妨害罪の時効期間は、犯罪行為が終わった日から数えて3年です。
時効が完成すると起訴されなくなるため、刑罰に処されることも前科がつくこともなくなります。
もちろん、時効完成後に逮捕されることもありません。
偽計業務妨害罪が適用される例
偽計業務妨害罪は、適用範囲が比較的広いといわれています。
実際の判例などを参考に、偽計業務妨害罪が適用される例を紹介します。
人に働きかけることによって、業務の運営に支障を生じさせた例としては、次のようなものがあります。
- 海上保安庁職員に虚偽の通報をおこない、出動させた
- 犯罪予告をして、会場の警備を強化させた
- 2日間のうちに計61回にわたり不要不急の119番通報をした
- 警察に家族を殺したなどと虚偽の110番通報をし、出動させた
- 無線通信装置を使って電車の運転士に連絡をし、緊急停止させた
- 飲食店に嘘の注文をし、出前を配達させた
- 居酒屋を利用する意思がないのに、宴会予約をして無断キャンセルした
- 営業している店の入口に、休業と嘘の掲示をした
- 大学入試の内容をインターネット上に書き込み、回答を得た
- 特定の企業について、虚偽の内容によって誹謗中傷した
人や会社に対する働きかけではなく、業務に用いる機械や商品に悪質な工作を加えた例としては、次のようなものがあります。
- 海底に障害物を沈めて漁船の網を破損させ、漁をできないようにした
- 店の商品に針を混入させた
- オンラインゲームのデータを改変した
- 暗証番号を盗撮するカメラ設置のために営業中のATMを占拠した
- 実際の使用量よりも電気メーターを少なくする細工をし、支払額を減らした
- パチンコ台の当たり確率を制御する機器を偽物に付け替えた
- 競合他社の新聞紙を真似ることによって、シェアを奪おうとした
このように、偽計業務妨害罪には、さまざまな行為が該当します。
軽いいたずら心や、一時の焦りや怒りに任せて及んだ行為も偽計業務妨害罪にあたる可能性があることを覚えておきましょう。
偽計業務妨害罪で逮捕された場合の流れ
偽計業務妨害罪で逮捕されてしまったら、そのあとはどうなるのでしょうか。
ここでは、逮捕から刑が確定するまでの流れについて、解説します。
逮捕・送検
逮捕されると最長72時間、警察署の留置場などで身柄を拘束されます。
その間、必要に応じて取り調べを受けなければならず、面会できるのも弁護士だけです。
具体的には、逮捕されてから48時間以内に釈放されるか、検察に送検されるかが決定します。
証拠隠滅や逃亡のおそれがないと判断された場合は釈放され、在宅事件となるケースが一般的です。
送検された場合は、検察官が24時間以内に釈放するか、勾留するかどうかを判断します。
勾留
勾留が決まると、原則10日間を限度として身柄拘束を受け、検察官による取り調べや警察の捜査が進められます。
被疑者が黙秘や否認を続けている場合などは、勾留がさらに10日間延長されることもあります。
勾留期間によっては、社会生活に大きな支障が出ることもあるでしょう。
逮捕後、多くの事件で被疑者は勾留されることとなりますが、早期に弁護士へ弁護活動を依頼することで回避できるケースも少なくありません。
逮捕から72時間以内に勾留されるかどうかが決定するため、万が一被疑者となってしまった場合には迅速に弁護士に相談することが大切です。
なお、勾留中は、原則として家族・友人・恋人なども、面会や差入れができます。
ただし、弁護士以外との面会は平日のみで時間や回数も限られているうえ、警察官が同席するなどの制限もあります。
起訴・不起訴の決定
勾留期間が終わる日までに、検察官は、被疑者を起訴するか不起訴とするかを決定します。
勾留中の起訴となると、裁判が終了するまで身柄は拘束されたままです。
ただし、起訴されたあとは、保釈を請求することができます。
保釈金を預ける必要はありますが、保釈が認められれば日常生活を送りながら裁判を受けられます。
日本の刑事裁判における有罪率は99%以上です。
起訴が決まった時点でほぼ間違いなく前科がついてしまうと心得ましょう。
検察官が不起訴とした場合は、その時点で捜査は終了となります。
被疑者の身柄は釈放され、前科がつくこともありません。
裁判・判決
検察官が起訴すると、刑事裁判が開かれます。
初回の裁判は、起訴から1ヵ月~2ヵ月後です。
そのあとも1ヵ月に一度程度のペースで裁判が開かれ、最終回に判決が下されます。
懲役の実刑判決が下されると、そのまま刑務所に収監されます。
しかし、執行猶予がつき、一定期間、問題なく過ごせれば一部または全部の実刑を免れることができます。
また、罰金の判決が出た場合は、検察庁に罰金を納付することで刑罰は終了します。
ただし、罰金の場合にも前科がつく点は注意が必要です。
偽計業務妨害罪に問われたら弁護士へ相談すべき4つの理由
万が一、偽計業務妨害罪に問われてしまったら、まずは弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談や依頼をするメリットについて紹介します。
早期釈放を狙える
弁護士に相談すべき理由のひとつは、早期釈放を狙える点です。
弁護士であれば、逮捕段階で勾留を防ぐための意見書を提出したり、早めに示談交渉したりと、釈放に向けてさまざまな対策をおこなってくれます。
勾留が決まってしまったあとでも、弁護士から取消・変更を請求してもらえば、釈放されることもあります。
弁護士は、依頼者が置かれている状況にあわせて、釈放のための最適な手段を講じてくれます。
示談交渉を任せられる
示談交渉を任せられることも、弁護士に相談するべき理由のひとつといえます。
起訴を回避するためには、起訴前に示談を成立させることが大きなポイントです。
しかし、自分で示談交渉するのは控えたほうがよいでしょう。
たとえ、逮捕や勾留をされておらず、自分で動ける場合であっても、迷惑をかけられた被害者が加害者の示談交渉を快く受け入れてくれることはほとんどありません。
むしろ、顔を合わせることで、いっそう関係性が悪くなり、交渉が決裂してしまうおそれがあります。
また、起訴を免れたいからといって、自分にとって不利な条件での示談に同意してしまえば、のちのち金銭面で苦労することにもなりかねません。
適切に示談を成立させるためには、やみくもに自分で行動するのではなく、弁護士に任せるのが一番です。
起訴されてしまったあとでも、弁護士を介して示談交渉をすることで、減刑されたり判決に執行猶予がついたりする可能性が高くなります。
精神的なサポートになる
弁護士に相談すべき理由としては、精神的なサポートを得られる点が挙げられます。
警察から呼び出されたり、逮捕されたりした場合、誰しもが不安でいっぱいになるものです。
どのようなことを聞かれてどのように答えればいいのか、家族や職場に知られてしまうのか、前科がついてしまうのかなど、さまざまなことが心配になるでしょう。
その点、弁護士に相談すれば、今後の流れや早期釈放に向けてやるべきことなどをアドバイスしてもらえます。
弁護士には守秘義務があるため、話した内容が外部に知られることはありません。
家族や友人には相談しづらいことでも、弁護士であれば安心して相談できるはずです。
事件の早期解決を目指せる
事件の早期解決を目指せることも、弁護士に相談するメリットといえるでしょう。
法的な知識がないなかで、刑事事件を自力で解決しようするのは高いハードルがあります。
逮捕されている場合は自由に動けなくなるうえ、そもそもなにから手をつけてよいのかわからない方がほとんどでしょう。
弁護士に相談すれば、速やかに示談交渉や捜査機関への働きかけに着手してもらえるため、釈放・不起訴処分となるまでの期間が短縮されやすくなります。
その結果、精神的ストレスから早期に解放され、仕事や家庭への影響も最小限に抑えられるようになるでしょう。
偽計業務妨害罪でよくある質問
ここからは、偽計業務妨害罪に関連する、よくある質問に答えていきます。
偽計業務妨害罪は親告罪にあたる?
偽計業務妨害罪は、非親告罪です。
犯罪があったとわかれば、被害者が訴えなくても、警察などの捜査機関によって捜査が開始されます。
また、捜査内容によっては起訴され、刑事裁判を受ける可能性があります。
インターネットで店の悪口を書いてしまった。偽計業務妨害罪にあたる?
軽い気持ちであっても、店への悪口をインターネットに書き込む行為は、偽計業務妨害罪にあたる可能性があります。
たとえば、「料理に異物が混入していた」や「スタッフの対応がひどかった」などの口コミは、店の信用を低下させ、売上の減少につながるおそれのある行為です。
そのため、口コミの内容が事実に反していた場合には、偽計業務妨害罪の罪に問われるおそれがあります。
たとえそれらの行為によって業務に支障が出ていなかったとしても、妨害するに足りる行為がおこなわれた場合には、偽計業務妨害罪が成立する可能性があるため注意が必要です。
バイト先の悪ふざけ動画をSNSに投稿してしまった。偽計業務妨害罪にあたる?
バイト先の悪ふざけ動画をSNSに投稿してしまった場合、偽計業務妨害罪にあたる可能性が高いといえるでしょう。
たとえば、一度廃棄した食品を食器に盛る様子をSNSに投稿したケースなどが該当します。
おもしろ半分で投稿しただけだとしても、それを見た人たちが「このお店は廃棄物を客に出しているかもしれない」と誤った情報を信じ込んでしまえば、客足は遠のくでしょう。
これは、店の業務を妨害することにつながるため、偽計業務妨害罪が成立する可能性は十分にあります。
とはいえ、犯罪が成立するかどうかは個別に判断されるべきものなので、悪ふざけでインターネット上に書き込みや投稿をしてしまった場合は、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。
さいごに|偽計業務妨害罪に問われたらすぐ弁護士へ相談しよう
偽計業務妨害罪は、知らず知らずのうちに犯してしまうおそれのある犯罪だといえます。
もしも自分がしてしまったことが偽計業務妨害にあたるかもしれないという不安があれば、弁護士に相談してみましょう。
また、すでに揉めている場合や逮捕されそうな場合は、一刻も早く弁護活動を依頼することをおすすめします。
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