情状酌量とは|定義・類語や実際に適用されたケースを徹底解説


情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)とは、刑事裁判で被告人の量刑を決める際に、被告人に有利な事情を汲みとることを指します。
被告人に対して「情状酌量の余地なし」と判断されるケースもありますが、「情状酌量の余地あり」と判断される事例もあり、両者はどう違うのかわからない方も多いと思います。そこでこの記事では、情状酌量の定義・類語・事例や、情状酌量を獲得するためにはどうすればよいかなどを解説します。
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情状酌量の基本概要
まずは、情状酌量の基本概要について解説します。
情状酌量の定義
情状酌量については、刑法第66条にて下記のように定義されています。
(酌量減軽)
第六十六条 犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる。
引用元:刑法第66条
これは、罪を犯したことに対して被告人に反省の色がみられること、被告人に前科がないこと、被害者との間で示談が成立していることなど被告人に有利な事情がある場合、裁判所の判断で刑を軽くすることができるよ、という内容です。
このような減刑は裁判所が裁量的に行うものであり、裁判所がこれを不要と考えれば減刑する必要はありません。
<判例> 1992年9月に佐賀県にて、被告人A・Bが共謀して、Aの夫とAの実子を殺害。現金や貴金属、通帳などを奪った事件です。裁判所は「非常に身勝手な動機かつ計画的な犯行で、酌量の余地はない」として、死刑判決が下されました。 参考元:平成15年長崎地裁の判決|文献番号2003WLJPCA01310018 |
情状酌量となる際の判断材料
情状酌量の対象は被告人に有利となる一切の事情です。例えば以下のような事項です。
- 犯行の動機
- 犯行の態様
- 犯行後の態度
- 被害回復の程度
- 前科の有無 など
一般には,罪の重さと刑罰との釣合いを考えたり,同じような犯罪の発生を防ぐことや被告人が社会人として立ち直るために役立つものであることも考えたりする必要があります。
引用元:裁判手続 刑事事件Q&A|裁判所
情状酌量の類語(酌量・忖度・斟酌との違い)
情状酌量と似たものとして、忖度(そんたく)・斟酌(しんしゃく)があります。
酌量…裁判官が量刑を確定する際、犯行に至るまでの背景を酌んで減刑すること
忖度…相手の気持ちや、本当に思っていることを推察すること
斟酌…相手の気持ちについて推し量った上で、物事を処理すること
酌量・斟酌・忖度は、いずれも相手の気持ちを考えるという点で共通していますが、それぞれの意味は若干異なります。
酌量は、主に裁判で使われる言葉です。忖度・斟酌はそれ以外の場面でも使われることが多く、忖度が『相手の気持ちを考える』という意味であるのに対し、斟酌は『相手の気持ちを考えた上で、行動に起こす』という点で意味が異なります。
情状酌量の余地ありと判断された事例
この項目では、実際に「情状酌量の余地あり」と判断された事例をご紹介します。
2016年4月大津地裁の判決
2016年4月に滋賀県の食料品店にて、被告人が商品を窃取したとして、窃盗容疑で逮捕された事件。被告人は知的障害をもっており、継続的な支援が必要な状態であることなどから、裁判所は「情状について特に酌量すべきものがある」として、懲役1年と執行猶予4年との判決を下しました。
裁判年月日 平成28年 4月21日 裁判所名 大津地裁 裁判区分 判決 事件番号 平28(わ)56号 事件名 窃盗被告事件 裁判結果 有罪 参考元:文献番号 2016WLJPCA04216005 |
2018年1月東京地裁の判決
2017年6月に東京都の食料品店にて、被告人が商品を窃盗したとして、窃盗容疑で逮捕された事件。被告人は高齢で健康状態が良好ではないこと、認知機能が低下していること、犯行を認めた上で反省していることなどから、裁判所は「情状に特に酌量すべきものがある」として、懲役1年6ヶ月と執行猶予3年との判決を下しました。
裁判年月日 平成30年 1月29日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決 事件番号 平29(刑わ)1416号 事件名 窃盗被告事件 裁判結果 有罪 参考元:文献番号 2018WLJPCA01296001 |
2004年2月神戸地裁の判決
2002年12月に兵庫県の家宅にて、被告人A・B・Cが被害者に対し、暴行を加えた事件。この事件はA・Bが主導となって行ったもので、Cは従属的に加担させられていたこと、そしてCによる暴行の程度はA・Bよりも悪質性は高くないこと、さらに反省の念を示していることなどから、裁判所は「情状に酌量すべき事情が認められる」として、懲役1年と執行猶予5年との判決を下しました。
裁判年月日 平成16年 2月19日 裁判所名 神戸地裁 裁判区分 判決 事件番号 平15(わ)73号 事件名 傷害被告事件 裁判結果 有罪 参考元:文献番号 2004WLJPCA02199002 |
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情状酌量となるケース
情状酌量が認められやすいケースとしては以下のような場合が考えられます。
自首する
まだ被疑者や犯罪そのものが発覚していない段階で、犯罪を犯した本人が警察へ申し出ると、情状酌量の1材料として判断されることもあります。
<判例> 1994年4月に東京都の家宅にて、被告人が被害者(息子)を殺害したとして、殺人容疑で逮捕された事件です。被告人が自首していること、親族が被告人に対して同情的であること、これまで被害者に対して誠心誠意、接していたことなどから、裁判所は「被告人のために酌むべき事情がある」として、懲役3年との判決を下しました。 参考元:平成7年東京地裁の判決|文献番号1995WLJPCA03070008 |
適格な身元引受人がいる
被告人に適格で信頼できる身元引受人がいて、今後の生活について具体的な指導・監督を約束しているようなケースでは、被告人に有利な事情として考慮され、量刑判断に影響を与える可能性が高いです。
具体的にはこのような身元引受人に刑事裁判で情状証人となってもらい、裁判所で具体的な指導・監督の計画について証言してもらうという方法です。情状証人の詳細については、以下の参考記事をご覧ください。
関連記事:情状証人とは|情状証人の役目と注意点|刑事弁護士ナビ
<判例> 2016年7月に長崎県の量販店内にて、被告人が商品を窃取したとして、窃盗容疑で逮捕された事件です。被告人が損害金を供託していること、被告人から反省の念が感じられること、さらに、情状証人として被告人の父親が出廷し、「今後2度と同じことが起こらないよう留意する」と述べていることなどから、裁判所は「やや長期間の執行猶予期間を設け、その刑の全部の執行を猶予するのが相当」として、懲役2年と執行猶予4年との判決を下しました。 参考元:平成29年長崎地裁の判決|文献番号2017WLJPCA09216003 |
被害者との示談
被害者との間で示談が成立しており、被害者から『被告人の寛大な処分を求める』という旨の嘆願書が裁判所へ提出されることもあります。これも量刑判断に大きく影響します。
<判例> 2017年4月に埼玉県の商業施設内にて、乗用車を運転していた被告人がアクセルペダルとブレーキペダルを踏み間違え、被害者Aの所有する車両に衝突した上に、被害者B・C・Dに傷害を負わせた事件です(Bは死亡)。被告人から反省の念が感じられること、被害者との間で示談が成立していること、さらに被害者からは寛大な処分を求める旨の嘆願書が提出されていることなどから、裁判所は禁錮1年8ヶ月と執行猶予3年との判決を下しました。 参考元:平成30年さいたま地裁の判決|文献番号2018WLJPCA01256005 |
できる限り早く弁護士に依頼するのも重要
情状酌量を得たいのであれば、できるだけ早期に依頼することもポイントです。弁護士に依頼せず、被害者側やその親族が示談を持ちかけた場合、「顔も見たくもない」と一蹴されることも懸念されます。ただ、拒否されたからと何もしないでいると、「謝る気がない」とも捉えられ、被害者への印象も悪くなる一方でしょう。
弁護士を呼んで情状立証のためのサポートを受けることで、被告人にとっての不利益を緩和できる可能性があります。
まとめ
「情状酌量の余地あり」と判断されるためには、量刑判断に影響し得るだけの具体的な事情が必要です。
もしご自身が罪を犯して減刑獲得を望む場合は、弁護人とよく相談し、具体的な情状立証を検討してみてください。
参照元一覧 |



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