禁錮とは?懲役との違いと刑罰の重さをわかりやすく解説
禁錮(きんこ)とは、受刑者を刑事施設に収容する刑罰で、刑務作業が義務付けられていないもののことです。
同じ身体を拘束する罰則である懲役刑よりも軽い罰の位置付けにありますが、禁錮刑の判決を受ける犯罪自体が少なく、主に交通事故などの過失犯や政治犯で適用されることがあります。
禁錮刑と懲役刑は混同されることありますが、刑罰の内容は異なるため、今一度その違いを把握しておくべきでしょう。
この記事では禁錮と懲役との違いを踏まえながら、禁錮とはどのような刑罰なのかをわかりやすく解説します。禁錮という言葉をニュースなどで見聞きしただけの方でも、禁錮・懲役の違いが分かるようになるでしょう。
禁錮刑と懲役刑との違い
冒頭でもお伝えしたように、禁錮刑は刑罰の1つで、刑務所に収容する罰則を言います。また、犯罪者の身柄を束縛する刑罰を『自由刑』と言い、日本の自由刑には以下の3種類があります。
- 懲役刑
- 禁錮刑
- 拘留
一般的に『懲役>禁錮>拘留』の順で刑が重いとされています。
【参考】令和元年版 犯罪白書
平成30年に下された刑事裁判での自由刑に関する判決のうち、94%が懲役刑です。禁錮刑判決は懲役刑の1/10にも満たないので、あまりなじみがないことも頷けますね。
なお、平成30年度の拘留判決は1件しかなかったため、本当に珍しい判決といえるでしょう。
禁錮刑とは
繰り返しますが、禁錮刑とは刑務所に収容され身柄を束縛される刑罰で、懲役刑のように刑務作業が義務付けられる刑罰ではありません。
日本の場合、自由刑は3種類に区分されますが、アメリカやヨーロッパでは、自由刑に区分を設けない法制度が多く、『拘禁刑』という名で一括りにされているようです。施設内での作業義務の有無については、国や州によって違いがあります。
【参考】諸外国の制度概要|法務省
拘留について
自由刑の1つに『拘留』があります。これは1日以上30日未満を刑事施設に収容する刑事罰ですが、実際に拘留の判決を受けるケースはごく稀です。
刑事裁判で身柄を束縛される自由刑の判決を受けると言えば、懲役刑や禁固刑のことだと思っておいて良いでしょう。
懲役刑とは
懲役刑は刑務所に収容されたうえで刑務作業が義務付けられる刑罰です。禁錮刑との大きな違いは、刑務作業義務の有無です。
刑務作業について
刑務作業では、土日祝日休みの1日8時間を基準として働く必要があるため、一般企業と同じような時間働くことになります。作業内容は、金属・木工・洋裁・印刷などの工場での作業が主となり、基本的には単純な作業ですが、生産された物は実際に販売されます。
刑務作業による報酬も支払われますが、金額は月数千円、年間数万円程度と微々たるものです。実際には刑務所内で嗜好品を購入したり、出所後の交通費や一時的な生活費に充てたりする程度の額です。
【参考】法務省:刑務作業
禁錮刑・懲役刑が適用されるケース
禁錮刑と懲役刑の違いは刑務作業の有無だとお伝えしましたが、なぜ同じ自由を拘束する刑罰が分かれるのでしょうか?こちらでは、禁錮刑と懲役刑がそれぞれどのようなケースで適用されるのかを解説します。
禁錮刑が適用されるケース
法務省の公式サイトを見てみると過失運転致死傷罪や内乱罪などの政治犯のみに定められていることがわかります。
ただ、後述するように禁錮刑を受けても自ら刑務作業を希望する受刑者が多くいます。度々、禁錮刑は不要という話も出ており、2020年10月には懲役刑と禁錮刑を一本化した「新自由刑」の創設を求める答申が提出されています。
【参考】懲役、禁錮を一本化 刑の種類変更、刑法制定以来初|JIJI.COM
懲役刑が適用されるケース
上でも解説したように、懲役刑と禁錮刑の判決数を比較すると、『懲役95:禁錮5』程度の比率になります。重大犯罪や再犯などで自由刑の罰則を与えるべきであると判決が下された場合には、ほとんどが懲役刑になるものだと思っておいて良いでしょう。
実際、殺人罪や傷害罪、詐欺罪、窃盗罪などの認知度の高い犯罪の法定刑の多くは、自由刑として禁錮刑は定められておらず懲役刑のみです。
禁錮刑と懲役刑のどちらが重いのか
上でもお伝えしたように、禁錮刑よりも懲役刑が厳しい罰則の位置付けにあります。
禁錮刑の辛さ
禁錮刑には刑務作業の義務がありません。しかし、そのことがかえって辛いと感じる受刑者もいるようです。
想像してみればわかるように、テレビもインターネットもない数畳しかない部屋の中で「1日を過ごせ」と言われても、何もすることがなくて、苦痛に思う人が大半でしょう。
実際に、毎年8割程度の禁錮刑受刑者が自己申告で刑務作業を希望しており、懲役刑との位置付けが不明確になっています。このようなこともあって、懲役刑と禁錮刑の一本化の話も出ています。
刑罰の長さ
刑罰の長さに違いはありません。例えば、懲役刑と禁錮刑の両方が定められている過失運転致死傷罪では、【7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金】と、同じ年数が定められていますし、他の罪でも同様です。
また、禁錮刑でも無期懲役刑のように無期禁錮刑があります(内乱罪などごく一部ですが)。
刑事事件の罰則の種類
刑事事件での罰則は懲役刑や禁錮刑だけではありません。禁錮刑は自由刑に分類され、『生命刑>自由刑>財産刑』で重い罰則となっています。
例えば、『〇年以下の懲役または○○万円以下の罰金』と定められている罪でより厳しく罰すべきであると判断された場合には、財産刑の罰金よりも自由刑の懲役を受ける可能性が高くなります。
生命刑
- 死刑
受刑者の生命を奪う最も重い罰則として死刑があり、日本では絞首刑が採用されています。「極刑=死刑」の認識がある方も多いかもしれませんが、先進国で死刑制度がある国は、日本とアメリカくらいです。
準先進国を加えても、シンガポールと台湾くらいしかありません。実は世界的に見て、死刑を採用している国は少ないのです。
自由刑
- 懲役刑
- 禁錮刑
- 拘留
受刑者の自由を拘束する刑罰が懲役刑と禁錮刑です。他にも拘留がありますが、上でもお伝えしたように実際に拘留を受ける人はほとんどいません。
2021年4月時点では、懲役刑と禁錮刑で区分されていますが、今後一本化されるなどして名称が変わることもあるかもしれません。
財産刑
- 罰金刑
- 科料
- 没収
財産刑は受刑者から罰金を徴収する刑罰です。罰金刑は1万円以上で定められており、判決では○○万円の罰金に処すると言い渡されます。
科料は千円以上1万円未満の罰則金となっており、軽微な罪で判決を受けることがあります。
また、没収が他の刑罰と併せて言い渡されることがあります。これは、犯罪によって得た利益や犯罪に使用したもの(凶器や違法薬物など)を国で没収する刑罰です。
禁錮刑と懲役刑の執行猶予制度とは
裁判で禁錮刑や懲役刑を言い渡されても、執行猶予が付いて直ちに刑務所に収容されない場合があります。
執行猶予とは、執行猶予期間中に他の犯罪を起こさず過ごせれば、刑の免除を受けることができる制度です。
例えば、「禁錮3年執行猶予5年」というような判決を下された場合、5年間犯罪を起こさなければ禁錮刑が免除され、刑務所に収容されることもありません。
他方、執行猶予が付かずにすぐに刑務所に収容されて自由刑が言い渡される判決を実刑判決と言います。
執行猶予がつく可能性がある罪、つく可能性がある人
執行猶予は、直ちに刑務所に収容するのではなく社会内で更生する機会を与えるための制度ですが、殺人などの重罪で付けられることはあまりありません。
刑法第25条では、3年以下の懲役もしくは禁錮刑または50万円以下の罰金の判決に執行猶予が付けられるとあります。
また、以前に禁錮刑以上の刑罰を受けた人にはさらに制限が加わえられています。
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
【引用】刑法第25条
執行猶予を獲得するためのポイント
禁錮刑や懲役刑に相当する犯罪を起こして、執行猶予付き判決を獲得するためには、被害者との示談交渉を進めたり、被疑者・被告人に組むべき事情をアピールすることが必要です。
被疑者・被告人本人が、犯した罪について反省を示し、再犯のおそれがないことを示すことも重要です。
具体的な対応については、個々のケースによって異なりますので、まずは、弁護士に相談して状況に応じた最適なアドバイスをもらうようにしましょう。
また、弁護士費用が支払えないような状況の方でも、国選弁護人制度によって、無料で弁護士に依頼することが可能です。しかし、国選弁護人制度には、デメリットもありますので、関連記事を参考にして制度を理解しておきましょう。
まとめ
禁錮刑は、受刑者の自由を拘束する自由刑の1つです。懲役刑との違いは刑務作業の義務がない点です。
ただ、実際に禁錮刑を受けた方の多くは刑務所内で何もせずに過ごすこと自体が苦痛となり、自ら刑務作業を希望するようです。
禁錮刑は主に過失犯や政治犯に適用されることになり、懲役刑よりも軽い刑罰の位置付けではあります。今後の法改正では禁錮刑と懲役刑が一本化されることもあるかもしれません。
禁錮刑や懲役刑に当たる犯罪を起こしてしまった場合、まずは弁護士に相談して逮捕後の対応についてアドバイスしてもらいましょう。適切な対応を取ることによって執行猶予獲得の可能性が高まるかもしれません。
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