幇助と教唆の違いとは?成立要件、刑罰の違い、具体例などをわかりやすく解説

刑法では、正犯者だけでなく共犯者も処罰の対象としています。
この共犯者は刑法上、共同正犯、教唆犯、幇助犯という3つが規定されています。
本記事では、このうち教唆と幇助について、以下の内容を中心にわかりやすく説明します。
- 教唆と幇助の定義や意味が異なること
- 教唆犯と幇助犯の成立要件が異なること
- 教唆犯と幇助犯で適用される刑罰が異なること
- 闇バイトで教唆犯や幇助犯が成立する可能性があること など
本記事を参考に、教唆と幇助がそれぞれどのように違うのかについてしっかりと理解しましょう。
教唆と幇助の違い1.それぞれの定義が異なる
教唆と幇助の定義は、それぞれ以下のようになっています。
- 教唆とは、人をそそのかして犯罪を決意させること
- 幇助とは、正犯者が犯罪を実行するのを容易にさせること
ここでは、教唆と幇助それぞれの定義について説明します。
教唆とは人をそそのかして犯罪を決意させること
教唆とは、他人をそそのかして「犯罪をしよう」という意思を生じさせる行為を指します。
(教唆)
第六十一条 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
2 教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。引用元:刑法 | e-Gov 法令検索
たとえば、以下のような行為をした場合には、教唆が成立する可能性があります。
- 「○○を盗んでこい」などと命令した場合
- 詐欺は簡単だと信じ込ませて実行させた場合
- 金銭を支払って犯罪しようと決意させた場合 など
このようにまだ犯罪する意思がない人をそそのかして、犯罪を決意させた場合は「教唆」に当てはまります。
幇助とは正犯者が犯罪を実行するのを容易にさせること
幇助とは、正犯者(実行者)の犯罪を手助けすることを指します。
(幇助)
第六十二条 正犯を幇助した者は、従犯とする。
2 従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。
(従犯減軽)
第六十三条 従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。引用元:刑法 | e-Gov 法令検索
幇助には、以下のように直接的なもの(物理的幇助)だけでなく、間接的なもの(精神的幇助)も含まれます。
- 犯行に使う拳銃などを用意する
- 犯罪をしやすい家や人を教える
- 正犯者を犯行現場まで車で運ぶ
- 店員の注意を引き付ける役割を果たす
- 犯罪グループと知りながら他人を紹介する など
このような方法で実行者が犯罪をしやすいように手助けをした場合は「幇助」が成立することになるでしょう。
なお、教唆と異なり幇助の場合は、実行者は「すでに犯罪を実行することを決意している」という特徴があります。
教唆と幇助の違い2.それぞれの成立要件が異なる
教唆犯と幇助犯の成立要件は、それぞれ以下のとおりです。
教唆犯の成立要件 |
・教唆行為がおこなわれていること |
幇助犯の成立要件 |
・幇助行為がおこなわれていること |
ここでは、教唆犯と幇助犯の成立要件の違いについて説明します。
教唆犯は、そそのかされた正犯者が犯罪をした場合に成立する
教唆犯は、以下の3つの要件を全て満たした場合に成立します。
- 教唆行為がおこなわれていること
- 教唆に基づく正犯の実行行為があること
- 教唆をするにあたり故意が認められること
たとえば「あの家は金持ちだから強盗しろ」と提案し、その通りに正犯者が実行したら教唆犯が成立します。
しかし、冗談交じりに提案をしていた場合や、異なる理由で犯行に及んだ場合には、教唆犯は成立しない可能性があります。
教唆犯の場合はそそのかす行為があるか、正犯者が教唆に基づいているかなどが重要な要件となってくるでしょう。
幇助犯は、手助けによって正犯者の犯罪が容易になった場合に成立する
幇助犯は、以下の4つの要件を全て満たした場合に成立します。
- 幇助行為がおこなわれていること
- 正犯の実行行為が存在していること
- 実際に正犯の実行行為が容易になったこと
- 幇助をするにあたり故意が認められること
たとえば、幇助犯が調達した拳銃を使って強盗をした場合には、幇助犯は成立しているといえます。
しかし、実際は拳銃を使わずバットを使ったという場合には、幇助犯は成立しない可能性があります。
幇助犯の場合は幇助がおこなわれているか、その幇助により犯行が容易になっているかが重要な要件となります。
教唆と幇助の違い3.適用される刑罰が異なる
教唆犯と幇助犯では、適用される刑罰にも違いがあります。
- 教唆犯の場合:正犯の刑罰と同じものが適用される
- 幇助犯の場合:正犯の刑罰を減軽したものが適用される
ここでは、教唆犯と幇助犯それぞれの適用される刑罰について説明します。
教唆犯の場合は「正犯の刑罰と同じもの」が適用される
教唆犯は、正犯と同じ法定刑が適用されます。
たとえば、殺人罪の教唆をしたときは、死刑または無期もしくは5年以上の懲役が科されます(刑法第199条)。
もっとも実務上は、教唆犯に対しては正犯の刑罰よりも軽減された罰則が適用されることが多いといいます。
なお、拘留または科料のみが定められている犯罪の教唆犯の場合は原則として処罰されません(刑法第64条)。
幇助犯の場合は「正犯の刑罰を減軽したもの」が適用される
幇助犯には、正犯の法定刑を減軽したものが適用されます。
条文には「正犯の刑を減軽する」という規定があり、通常は以下のように減軽されます(刑法第68条)。
正犯の刑罰の種類 |
幇助犯の刑罰の内容 |
死刑の場合 |
無期の懲役もしくは禁錮または10年以上の懲役もしくは禁錮 |
無期の懲役または禁錮の場合 |
7年以上の有期の懲役または禁錮 |
有期の懲役または禁錮の場合 |
その長期および短期を2分の1に減らしたもの |
罰金の場合 |
その多額および寡額を2分の1に減らしたもの |
拘留の場合 |
その長期を2分の1に減らしたもの |
科料の場合 |
その多額を2分の1に減らしたもの |
たとえば、殺人罪の幇助をした場合は、死刑・無期懲役・有期懲役を決めたうえで減軽されます(刑法第69条)。
なお、教唆犯と同じで幇助犯の場合も、正犯が拘留または科料のみの犯罪であれば処罰されません。
教唆と幇助の違い4.具体例でどちらに該当するか確認しよう
教唆犯と幇助犯の違いは、正犯者が実行する意思を持っているかどうかという点です。
- 教唆犯:正犯者はまだ実行する意思を持っていない
- 幇助犯:正犯者はすでに実行する意思を持っている
ここでは、殺害事件を具体例として教唆犯と幇助犯のどちらになるのかの違いを説明します。
教唆犯として扱われる可能性が高いケース
AがBを恨んでいる旨の相談を受けたとします。
この段階では恨んでいるだけで、Aは「Bを殺してやろう」などと思っているわけではありません。
そのときに「そこまで恨んでいるなら殺してしまったらどうだろうか。Bは独身だし、死体は海に捨ててしまえば見つからないだろう」などと助言したとします。
その結果、Aが犯行を決意して殺害行為に及んだ場合には、教唆犯が成立する可能性が高いでしょう。
幇助犯として扱われる可能性が高いケース
CからDの殺人計画に関する相談を受けたとします。
この段階でCはすでに「Dを殺してやる」という明確な意思を持っています。
そのときに「ナイフで殺したりすると証拠を隠滅するのが大変だ。Dが普段から飲んでいる薬を大量に飲ませてしまえば、Dが自殺をしたと偽装できるのではないか」などと助言したとします。
その結果、CがそのアドバイスにしたがってDを殺害した場合には、幇助犯が成立すると考えられます。
闇バイトは絶対に禁止!幇助犯で有罪判決になった事例もある
本件は、2024年10月に北海道でおこなわれた空き巣事件で幇助をしたという事例です。
被告人はタクシー運転手であり、空き巣の実行役を現場へと送り届ける「闇バイト」に応募しました。
本件では空き巣を容易にしたことから窃盗幇助が成立し、懲役1年2ヵ月の判決が言い渡されています。
闇バイトは実行犯を手助けするだけでも犯罪になりますので、絶対に応募をしないようにしてください。
さいごに|教唆はそそのかす行為で、幇助は手助けする行為を意味する
教唆と幇助の大きな違いは「正犯者に対して何をしたか」と「正犯者の犯行の意思がどうか」という点です。
教唆の場合は正犯者をそそのかして、「犯行をする」という決意を持たせた場合に成立する犯罪となっています。
一方、幇助は「犯行をする」意思を持った正犯者を手助けし、実行を容易にした場合に成立する犯罪といえます。
いずれも共犯にはなりますが、それぞれ定義や成立要件、法定刑などが違うため、正しく理解しておきましょう。



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