こんなことがわかります
- 痴漢冤罪に巻き込まれた際にやってはいけないこと
- 痴漢冤罪に巻き込まれた際の具体的な正しい対処法
- 痴漢冤罪で捕まったときの基本的な一連の流れ
職場への通勤などで電車やバスなどの公共交通機関を利用している方のなかには、痴漢冤罪にあってしまったらどうしようと不安になることもあるはずです。
「冤罪なのだから、しっかりと説明すれば被害者も警察も理解してくれるはずだ」と考えるかもしれませんが、必ずしもそうとはいい切れません。
なぜなら、冤罪であったとしても、逮捕されたり、起訴されて有罪になってしまったりすることがあるからです。
そのような事態を避けるためには、痴漢冤罪の正しい対処法について事前に知っておくことが、とても大切です。
本記事では、痴漢冤罪を疑われたときにやってはいけないことと、正しい対処法について解説します。
痴漢冤罪で捕まったときの一連の流れについても解説しますので、痴漢冤罪にあったときにも落ち着いて対処できるでしょう。
痴漢冤罪を疑われたら弁護士に電話しましょう。
もしもそのまま駅員室に行ってしまった場合、そのまま現行犯逮捕になる可能性があります。逮捕されてしまうと、次のようなデメリットが生じるでしょう。
- 実名報道される可能性
- 性犯罪者として前科がつく可能性
- 職場の解雇や家族、友人との関係が悪化する可能性
一方で、その場で弁護士を呼ぶと、次のメリットが得られます。
- 逮捕されない可能性がある
- 冤罪であることを主張してくれる
- 痴漢冤罪を職場や家族に知らずに済む
駅員室に連れていかれても、警察が来てからでも弁護士を呼べば、無実のあなたが逮捕される状況を回避できるかもしれません。
あなたの人生を守るためにも、今すぐ弁護士に電話してください。
【結論】痴漢冤罪はすぐに弁護士に相談。逃げない・謝らないを徹底
痴漢を疑われてしまったら、まず最優先すべきことは、できるだけ早く弁護士に連絡することです。
そして、相手に対しては絶対に謝らないようにしましょう。
謝罪してしまうと、それが痴漢行為を認めた証拠として扱われる可能性があるためです。
また、その場から逃げるのもやめましょう。
逃走したことで「やましいことがある」と判断され、警察に逮捕されるリスクが高まります。
警察官が現場に到着した際には、個人情報を求められます。
その際にはきちんと対応しましょう。
ただし、対応に迷ったら「弁護士が来てからちゃんと話をします」と伝えてください。
なお、弁護士が到着する前に供述調書が作成されることがありますが、その際には署名や捺印はせずに、弁護士が来てから対応する旨をしっかり伝えるようにしましょう。
痴漢冤罪に巻き込まれた際にやってはいけないこと5選
痴漢冤罪に巻き込まれた場合、最悪のケースは、逮捕・勾留されたうえで、検察官に起訴され、最終的に有罪判決を受けてしまうことです。
逮捕・勾留されると、最大で23日間もの間、刑事施設に拘束され、社会から隔離された状態になります。さらに、起訴されてしまうと、日本の刑事裁判では、99%以上が有罪になるともいわれており、不利な状況に追い込まれかねません。
つまり、痴漢の疑いをかけられたときには、「逮捕・勾留・起訴・有罪」という最悪の流れをできる限り避けるために、適切な行動を取ることが非常に重要です。
ここでは、痴漢を疑われた瞬間に、絶対にやってはいけない5つの行動について解説します。
【用語の解説】
用語 |
解説 |
逮捕 |
捜査機関によって被疑者の身体を拘束すること。最大で72時間。 |
勾留 |
逮捕に引き続いて、捜査機関が被疑者の身体を拘束すること。最大で20日間。 |
起訴 |
刑事裁判で刑罰を決めるために、検察官が裁判所に訴えを起こすこと。なお、起訴しないことを不起訴という。 |
1.絶対に謝罪しない
痴漢の被害に遭ったと主張する相手から、「この人、痴漢です!」といわれると、反射的に「すみません」と謝ってしまうことがあるかもしれません。
しかし、絶対に謝罪してはいけません。
なぜなら、その謝罪の言葉が、のちの裁判で「痴漢を認めた証拠」として不利に働く可能性があるからです。
痴漢事件では、物的証拠が出るケースは非常に少なく、被害者や被疑者・被告人の供述(証言)が重要視されます。
そのため、あなたが謝罪してしまうと、被害者の供述として「私が痴漢だと指摘したあと、相手が私に謝りました」と記録され、その事実が裁判で不利な証拠のひとつとして扱われるおそれがあります。
そして、裁判官からは「痴漢をしていないのであれば、驚いて否定するはずである。謝罪したということは、痴漢行為を前提とした発言だったのではないか」と判断される可能性があります。
「私は痴漢をしていません」「あなたが痴漢被害に遭われたのは事実かもしれませんが、それをおこなったのは私ではありません」といったように、謝罪はせずに、あなた自身が痴漢をしていないことを相手に伝えましょう。
2.その場から逃げない
かつて一部のテレビ番組などで、弁護士が「痴漢冤罪にあったら、その場からすぐに逃げるべきだ」といった趣旨のアドバイスをしたことがあり、それがあたかも痴漢冤罪の対処法として広く周知された時期がありました。
しかし、その場から逃げるのはまったくおすすめできません。
逃げることで逮捕・勾留の可能性が高まるだけではなく、裁判においても「逃げた」という事実が不利に働くからです。
逮捕・勾留が認められるには、法律上「身体拘束の必要性」が要件とされており、これはたとえば証拠隠滅の可能性や逃亡のおそれがあると判断された場合に該当します。
つまり、その場から逃げるという行為自体が、「逃亡のおそれがある人物」として扱われる理由になり得るのです。
そのため、逃げ出そうとして周囲の人に取り押さえられると、警察が到着した時点でそのまま逮捕される可能性が極めて高くなります。
また、仮に逃げきれたとしても、防犯カメラなどから身元が特定され、後日逮捕されるリスクも十分にあります。
さらに、刑事裁判では痴漢の事実について、被告人や被害者の供述のほか、情況証拠なども判断材料になります。したがって、逃げる行為は、あなたに不利な事実として働く可能性があるでしょう。
このように、その場から逃げる行為は、さまざまな不利益が伴います。痴漢を疑われても、その場から逃げることはやめましょう。
3.可能であれば目撃者を探す
痴漢を疑われた場合、可能であれば目撃者を探すことが非常に重要です。
目撃者の証言は、不起訴処分の獲得や、万が一裁判に進んだ際にも、あなたにとって有利な材料となるからです。
不起訴には大きく分けて、「嫌疑なし」「嫌疑不十分」「起訴猶予」の3種類があります。
あなたが痴漢をしていないことを証言してくれる目撃者がいれば、「嫌疑なし」や「嫌疑不十分」による不起訴の可能性が高まります。
仮に裁判に進んだとしても、目撃者がいることで「痴漢の事実がなかった」と主張する強力な根拠となります。
可能であればその場で、「痴漢に間違われています!私が痴漢していないところを見ていた方はいませんか?」「痴漢に間違われています!別の人が痴漢していたのを目撃した方はいませんか?」などと周囲の人に呼びかけて、目撃者を探してください。
4.警察に個人情報を隠さない
警察が駅事務所に到着すると、氏名・住所・電話番号・勤務先などの個人情報を尋ねられます。
このときは、これらの情報について正直に、素直に答えるようにしてください。
これは、逮捕や勾留を避けるためです。
冤罪を強く主張するあまり、個人情報の開示を拒む方もいますが、それは逆効果です。
情報提供を拒否すれば、「逃亡のおそれがある」と判断され、逮捕されるリスクが高まってしまいます。
なお、勤務先を警察に伝えたとしても、通常は警察から連絡がいくことはありません。
しかし、警察に勤務先を伝えず逮捕された場合には、所持していた名刺や携帯電話のデータなどから結果的に勤務先が特定され、在籍確認のために連絡がいくことがあります。
このように、個人情報を警察に伝えないと、かえってさまざまなリスクが伴います。
警察から個人情報を求められた際は、隠すことなく個人情報を伝えるようにしてください。
5.供述調書に署名・捺印しない
警察が到着すると、そのまま警察署に連行され、取調べを受けることになります。
このとき、あなたひとりの判断で供述証書に署名・捺印をしてはいけません。
なぜなら、供述調書は不起訴処分や裁判における有罪・無罪の判断に大きな影響を与える重要な書面だからです。
「自分自身が伝えたいことは伝えたのだから、問題ないのでは?」と考えるかもしれませんが、そうとは限りません。
あなたが気づかないうちに、不利な内容が記録されている可能性もあります。
なお、供述調書に署名・捺印をしていなければ、その調書は原則、証拠として提出できません。
これは、刑事訴訟法第322条1項に明記されています。
第三百二十二条
被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。
引用元:刑事訴訟法第322条1項
取調べには基本的に応じる必要がありますが、このときは、「弁護士が到着してから、取調べに応じます」「供述調書への署名・捺印は、弁護士と相談してからにします」という旨を伝えましょう。
そして、弁護士のアドバイスを受けてから、取調べに対応してください。
痴漢冤罪に巻き込まれた際の具体的な3つの対処法
痴漢冤罪に巻き込まれた場合、初期段階での行動がその後の展開を大きく左右します。
そのため、最初の数時間の対応が極めて重要です。
痴漢冤罪に巻き込まれた際には、早急に以下の行動を取り、対処してください。
1.すぐに弁護士に相談する
まずは直ちに弁護士に相談しましょう。
スマートフォンを開き、痴漢事件に強い弁護士を検索して電話をかけます。
弁護士によっては夜間や休日でも対応しているため、できるだけ早く駆けつけてくれる弁護士を選ぶとよいでしょう。
このとき、駅員室への同行を求められたり、所持品の提示を求められたりする場合があります。
しかし、まだ逮捕されているわけではないため、弁護士を呼ぶこと自体に問題はありません。
その場で弁護士に連絡したら、弁護士が来るまで待つ姿勢をしっかりと示すことが大切です。
弁護士が早期に介入することで、警察の取調べや身柄拘束のリスクを最小限に抑えられます。
2.早急に家族・勤務先に連絡する
次に、家族と勤務先に連絡します。
こうすることで、事態の悪化を防ぐことができます。
まずは、勤務先に電話し、「体調不良で休みます」と連絡を入れましょう。逮捕されてしまうと行動が制限され、勤務先に電話できなくなります。
その結果、無断欠勤になってしまうからです。
事前に連絡を入れることで、解雇のリスクを下げられます。
勤務先への連絡が終わったら、家族にも連絡します。
痴漢冤罪に巻き込まれたことと、現在いる駅を正確に伝えましょう。
また、自分で弁護士を見つけられない場合は、私選弁護人を呼んでもらうよう依頼します。
これは、逮捕されると、自分で弁護士を手配することができなくなるためです。
3.事件直後のやり取りを録音する
事件直後のやり取りは、その後の捜査や裁判において重要な証拠となります。
そのため、スマートフォンなどの録音機能を使用し、できる限り全てのやり取りを記録するようにしましょう。
たとえば、自分が一貫して痴漢行為を否認していることや、被害者が供述している内容などの会話は、冤罪を証明するための重要な手がかりとなります。
録音による記録は、痴漢冤罪を晴らすうえで極めて有効な証拠となるため、必ずおこないましょう。
痴漢冤罪で名刺を渡して立ち去るのにはリスクがある
弁護士のなかには、「駅事務室に行くと逮捕につながる可能性が高いので、事務室に行かずに名刺を渡して立ち去るべきだ」とアドバイスする方もいます。
しかし、ほとんどの場合、女性は痴漢行為を受けたと認識しているため、男性に対して強い怒りを持っています。
そのため、名刺を渡しただけでは納得しない可能性が高いでしょう。
また、その場にいる駅員も、このような状況を見れば、あなたを駅事務室に連れて行こうとするはずです。
あなたが強引に立ち去ろうとすると、それ自体が逃亡とみなされるおそれもあります。
名刺を渡してその場から立ち去るという対応は、かえって状況を悪化させる可能性があるため、避けたほうがよいでしょう。
痴漢冤罪で捕まったときの基本的な流れ
痴漢冤罪が発生した際に焦ってしまう主な理由として、「このあと有罪になってしまうかもしれない」「どういった流れになるかわからない」の2点が、考えられます。
起訴されるか、有罪になるかはケースバイケースであり、一概にはいい切れません。
しかし、手続きの流れについては、類似のケースが多く見受けられます。
基本的には、以下の流れで進むことが一般的です。
- 駅事務室に誘導される
- 警察に通報される
- 警察官が到着し取調べを受ける
- 逮捕もしくは連行される
- 警察署で取調べを受ける
- 逮捕から48時間以内に検察官に送致される
- 送致から24時間以内に勾留請求を判断する
- 最大20日間の身柄拘束を受ける
- 起訴または不起訴を判断する
- 刑事裁判で判決が下される
ここでは、それぞれの流れについて詳しく解説します。
1.駅事務室に誘導される
被害を訴えた相手方は、ホームなどにいる駅員に状況を伝え、その後、駅員の指示にしたがって駅事務室へ誘導されることが一般的です。
駅事務室へ移動した後は、駅員から痴漢の事実について質問を受けることになります。
なお、「駅事務室に行かない」という選択肢を推奨する意見もありますが、実際は難しいのが現状です。
駅事務室への同行を拒否すると、周囲の駅員が集まり、騒ぎが大きくなる可能性があるからです。
そうなると、弁護士や家族、勤務先への連絡が困難になることも考えられるため、駅事務室への同行を拒否しないほうが無難でしょう。
2.警察に通報される
駅事務室に同行するかどうかに関係なく、駅員や周囲の人が警察に通報します。
その後、警察官が到着するのを待つことになります。
待っている間に、駅員は被害を訴える人物に事情を聴取します。
また、目撃者や証人がいる場合には、事件の内容について聞き取りをおこないます。
3.警察官が到着し取調べを受ける
通報を受けて、警察官が現場に到着します。
そして、警察官による簡単な取調べを受けます。このとき、早ければあなたが呼んだ弁護士も到着する可能性があります。
しかし、弁護士がいない場合には、自分で警察に事情を説明することになります。
この際、「私は痴漢をしていません」とはっきり伝えることが大切です。
警察は、双方の供述を聞き取ったうえで、今後の対応を決定します。
4.逮捕もしくは連行される
到着した警察官による取調べの結果、痴漢の疑いが強いと判断された場合、そのまま逮捕されます。
一方で、さらなる取調べが必要と判断された場合には、警察署へ連行されます。
なお、この時点で弁護士が到着している場合、逮捕や警察署への連行を回避できる可能性があります。
そのため、できるだけ早く弁護士を呼ぶことが大切です。
5.警察署で取調べを受ける
警察署に連行されたあとは、警察官による取調べを受けます。
痴漢事件の状況だけでなく、これまでの生い立ちや生活状況などについても質問されることがあります。
このときも、「私は痴漢をやっていません」と一貫して主張し続けましょう。
なお、すでに逮捕されていて弁護士が付いていない場合には、当番弁護士を呼ぶことが可能です。
当番弁護士は、取調べに関するアドバイスや注意点を教えてくれます。
不利な供述調書を取られないためにも、必ずアドバイスを受けるようにしましょう。
取調べが終わると、その内容をもとに供述調書が作成されます。
6.逮捕から48時間以内に検察官に送致される
逮捕されると、最長48時間の身柄拘束がおこなわれます。
警察はこの時間内に取調べをおこなって、事件の記録と被疑者の身柄を検察官に送致しなければなりません。
ただし、在宅捜査となった場合には、身柄拘束はおこなわれず、送致のタイミングは警察の判断に委ねられます。
警察が必要と判断すれば、同じように検察官に送致しますが、犯罪の疑いが不十分と判断された場合には、検察に送致されずに捜査が終了することもあります。
7.送致から24時間以内に勾留請求を判断する
送致によって事件を引き継いだ検察官は、24時間以内に勾留請求をおこなうかどうかを判断します。
勾留とは、被疑者の身柄を引き続き拘束する手続きであり、引き続き取調べをおこなう必要があると判断された場合に、勾留請求がおこなわれます。
特に、痴漢冤罪のように事件を否認している場合には、「逃亡や証拠隠滅のおそれがある」と見なされやすく、勾留が請求される傾向にあります。
勾留が裁判所に認められると、最低でも10日間は、警察署の留置場などで過ごさなければなりません。
8.最大20日間の身柄拘束を受ける
勾留請求が認められて10日間の勾留が実施されたあと、さらに捜査が必要と判断された場合には、検察官が勾留の延長を請求します。
この延長請求が認められると、さらに10日間の身柄拘束が継続されます。
その結果、逮捕から勾留の期間は合計で最長20日間となり、その間、実社会から隔離された状態が続くことになります。
たとえ痴漢冤罪であっても、無実を証明する手段が十分でない場合には、このような長期の身柄拘束を受けることがあるのです。
9.起訴または不起訴を判断する
検察官は勾留期間中に起訴するか、不起訴にするかを判断します。
不起訴となった場合には、すぐに釈放され、事件は終了します。
しかし、起訴された場合には、刑事裁判が開始されるまで引き続き身体拘束を受けることになります。
なお、起訴には「正式起訴」と「略式起訴」の2種類があります。
このうち、略式起訴では裁判手続きを経ることなく、罰金や過料が科されることで事件が終結し、早期に釈放されることになります。
ただし、罪を認めることが前提となるため、痴漢冤罪のように無実を主張する場合には正式起訴によって裁判を受け、無罪を争うことになるのが一般的です。
10.刑事裁判で判決が下される
正式起訴されると、刑事裁判において有罪か無罪かが最終的に判断されます。
痴漢冤罪であっても、無実を証明できなければ、有罪判決が下され、罰金や懲役といった刑罰がいい渡される可能性があります。
さらに、事件を否認している場合には、「反省の態度がない」とみなされて、より厳しい判決が下されるおそれもあります。
現状の日本の刑事裁判においては、起訴された場合の有罪率は99%以上とされており、現実的には無罪を勝ち取ることは非常に難しいというのが実情です。
痴漢冤罪で捕まった場合のリスク3選
痴漢冤罪によって逮捕された場合、被疑者には重大な社会的・法的なリスクが伴います。
主には、以下の3つのリスクが考えられます。
- 会社を解雇されるおそれがある
- 刑罰が科される可能性がある
- 長期間の身柄拘束を受ける
それぞれのリスクについて、以下で詳しく見ていきましょう。
1.会社を解雇されるおそれがある
痴漢冤罪で逮捕されると、会社から解雇されるおそれがあります。
その理由は、逮捕によって欠勤を余儀なくされるからです。
さらに勾留請求が認められた場合、最長で20日間、職場に出勤できない状態が続きます。
この間、会社と連絡を取ることも難しくなり、無断欠勤と見なされたり、職場復帰が困難になったりするリスクがあります。
また、たとえあとから冤罪を証明できたとしても、「従業員が逮捕された」という事実自体が会社の信用に影響を与える可能性があります。
そのため、企業によっては社会的信用を損なう行為として解雇理由になり得ることもあるのです。
無罪が確定すれば不当解雇として争うことは可能ですが、現実的には職場に戻ることは難しくなるケースが多いのが実情です。
2.刑罰が科される可能性がある
痴漢冤罪であっても、起訴されて有罪判決が下されると、罰金刑や懲役刑といった刑罰が科されるリスクがあります。
痴漢行為に該当すると判断された場合に問われる代表的な罪は、各都道府県が制定している「迷惑防止条例違反」です。
この条例は、都道府県ごとに名称や細かな内容が異なりますが、一般的には6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金といった罰則が定められています。
初犯で前科がなければ、おおよそ30万円前後の罰金刑で終わることが多いものの、被害者の供述内容や状況次第では、懲役刑が科せられることもあります。
3.長期間の身柄拘束を受ける
たとえ痴漢が冤罪であったとしても、警察や検察によって身体が拘束され、外部との連絡が取れない状況が続けば、「痴漢をしたかもしれない」といった憶測や、実際には無実であったとしても「警察に逮捕された」という事実だけで、社会的信用を大きく損なう可能性があります。
日本には「推定無罪の原則」があり、「何人も有罪判決が確定するまでは無罪と推定される」という基本的な原則が存在しますが、現実社会では疑われた時点で信頼を失ってしまうケースが多いのが実情です。
会社に勤めている方であれば、不当な配置転換や解雇といった不利益処分を受ける可能性があり、さらには家族や友人との関係が壊れ、離婚や絶縁といった私生活への深刻な影響も考えられます。
痴漢冤罪における実際の裁判例3選
ここでは、痴漢を原因として起訴されたものの、裁判によって無罪となった裁判例3つを紹介します。
1.微物検査などによって無罪となった裁判例
2004年の4月、17歳女性に痴漢をしたとして、大学教授が強制わいせつで逮捕、起訴された事例です。
一貫して被告人は痴漢の事実を否定していたものの、東京地裁および東京高裁では有罪判決がでて、被告人は最高裁判所に上告しました。
最高裁判所では、微物検査によって被告人の手から被害者の繊維が検出されなかったことや、被告人が一貫して犯行を否認していること、被害者の供述に不自然な点があることなどを理由に、地裁・高裁の判断を覆して無罪判決としました。
裁判年月日 平成21年 4月14日 裁判所名 最高裁第三小法廷 裁判区分 判決
事件番号 平19(あ)1785号
事件名 強制わいせつ被告事件 〔電車内痴漢無罪事件・上告審〕
裁判結果 破棄自判 上訴等 確定 文献番号 2009WLJPCA04149001
2.ビデオ撮影の証拠などによって無罪となった裁判例
2011年12月、バス乗車中だった高校生が同乗していた中学校教諭に痴漢されたとして、迷惑防止条例違反で起訴された事例です。
東京地方裁判所では、被害者供述の信用性は否定できないとされて、被疑者に40万円の罰金刑が下されました。
無罪であることを主張し、被告人は東京高等裁判所に控訴しました。
控訴審では、バスに搭載された車載カメラによって、左手はつり革を持っており、右手は携帯電話を操作していたことが明らかになり、痴漢の事実を示す証拠がないことから無罪となりました。
裁判年月日 平成26年 7月15日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(う)1069号
事件名 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反
被告事件
裁判結果 破棄自判・無罪 文献番号 2014WLJPCA07156002
3.十分な証拠がなかったことから無罪となった裁判例
2012年の12月、電車に乗車中の女性が、男性に手くびを掴まれ、股間に押し付けられたとして強制わいせつで起訴された事例です。
東京地方裁判所は、被害者の供述に一貫性があり信用できる一方、被告人の供述には信用しがたいものがあるとして、1年2ヵ月の実刑を下しました。
被告人はこれを不服として東京高等裁判所に控訴しました。
控訴審では、被害者の供述について、被害事実に関しては信用性があるものの、被告人が犯人であると判断した部分に関しては重大な疑問が残り、被告人が犯人であると立証するほかの決定的な証拠がないことから、無罪と判断されました。
裁判年月日 平成14年12月 5日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平14(う)66号
事件名 強制わいせつ被告事件
裁判結果 破棄自判 上訴等 確定 文献番号 2002WLJPCA12050002
痴漢冤罪にについてよくある質問
最後に、痴漢冤罪に関してよくある質問とその回答を紹介します。
1.駅事務室に警察が来た段階で逮捕になりますか?
駅事務室に警察が来た時点で逮捕されているかどうかは、状況によって異なります。
たとえば、駅事務室に入った段階で現行犯逮捕された事例がある一方で、私服警察官が痴漢現場で現行犯逮捕した事例もあります。
また、現場から立ち去った場合でも、目撃証言や防犯カメラの映像をもとに、後日、裁判所から逮捕令状を取得し逮捕されるケースもあります。
したがって、警察が来たから必ず逮捕というわけではなく、その場の状況によって異なるのが実際のところです。
2.痴漢冤罪で相手を訴え返すことはできますか?
痴漢被害を受けたと主張する相手が、意図的に被害を訴えた場合、相手を訴え返すことが可能です。
刑事責任としては、「名誉棄損罪」や「虚偽告訴罪」を問うことができるでしょう。
また、民事責任としても、痴漢冤罪によって精神的苦痛や社会的な不利益を受けたとして、「損害賠償請求(慰謝料請求など)」を起こすことも可能です。
3.痴漢冤罪で被害者の主張はどのくらい重要視されますか?
痴漢事件における被害者の供述は、「主観証拠」とされ、記憶や感情に左右されやすい傾向があるといわれています。
近年では、こうした主観的な供述よりも、客観的事実を証明できる「物的証拠(客観証拠)」がより重要視される傾向にあります。
たとえば、被害者の衣服に付着した皮脂などのDNA型鑑定の結果(鑑定書)がその代表的な例です。
もっとも、こうした鑑定結果は「被疑者が被害者の衣服に触れた」という事実を示すに過ぎず、「犯人が故意に触れたのか」「過失で偶然触れただけなのか」までを明確に証明することはできません。
そのため、物的証拠の重要性が高まっているとはいえ、被害者の供述が軽視されているわけではありません。
依然として、供述の内容や一貫性は判断材料として重視されているのが現状です。
4.痴漢冤罪で捕まったときの弁護士の呼び方は?
痴漢冤罪で逮捕された場合、警察官に対して「当番弁護士を呼んでください」と伝えることで、弁護士を呼ぶことができます。
当番弁護士は、逮捕後に1回のみ無料で面会できる制度です。
もしくは、家族に連絡し、弁護士を手配してもらう方法もあります。
弁護士を呼ぶことは、このあとの勾留されるかどうかの判断にも大きく関わってくるため、できるだけ早く弁護士に接見してもらうことが大切です。
まとめ|痴漢を疑われたら弁護士に相談しよう
痴漢冤罪によって不当な社会的制裁を受け、人生に深刻な影響を及ぼすケースも実際に存在します。
なかには、「満員電車で女性の近くに立っているだけで、痴漢に間違えられるのでは…」と不安を感じる方もいるでしょう。
一方で、「無実なのだから堂々としていればいい」と考えて対応した結果、「この人痴漢です!」と声をあげた女性と激しい口論になってしまうケースも考えられます。
痴漢を疑われた場合、対応を誤ることで、かえって不利な状況に追い込まれるおそれがあります。
もしトラブルに巻き込まれた場合には、できるだけ早く弁護士に連絡してください。
弁護士は、あなたのもとへ駆けつけ、状況に応じてあなたの無実を証明するために「意見書の提出」や「示談交渉」などのサポートをしてくれます。
特に法律知識のない方にとっては、弁護士が心強い味方となるでしょう。
痴漢冤罪を晴らしたいと願うのであれば、「ベンナビ刑事事件」から痴漢事件に強い弁護士を検索し、直ちに相談するようにしましょう。