公務員が痴漢で逮捕されたら|懲戒処分を避ける方法と弁護士の必要性
公務員が痴漢で逮捕されたという場合、最終的に懲戒免職となる可能性も否定できません。このようなリスクを少しでも抑えたいのであれば、逮捕直後から的確な刑事弁護を受けることが大切でしょう。
この記事では、公務員の方が痴漢で逮捕されたら、どういったことが予想されるのかを紹介します。不利益を避けるには、どのような対応をすると良いのか、参考にしてみてください。
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公務員の痴漢行為はどんな罪にあたるか
痴漢は態様が悪質なものでない場合には「迷惑防止条例違反」という犯罪行為として立件されます。迷惑防止条例違反とは、公共の場所における暴力行為や迷惑行為などを禁じる、都道府県の条例です。
たとえば電車や広場、イベント会場など人の多く集まる場所での痴漢行為は、迷惑防止条例で処罰対象とされています。
迷惑防止条例違反となった場合、6か月以下の懲役刑または100万円以下の罰金刑と定めている都道府県が多いです。地域によっては、刑事罰の内容が異なる可能性があります。
一方で痴漢の態様が悪質なケースでは、刑法の「強制わいせつ罪」として立件される可能性があります。
強制わいせつ罪とは、暴行や脅迫によって相手の抵抗を著しく困難にしつつ、わいせつ行為をしたときに成立する犯罪です。刑罰は6か月以上10年以下の懲役刑と、迷惑防止条例違反に比して格段に重いです。
痴漢をした場合は上記のいずれかの犯罪が成立する可能性が高く、これは公務員が行為者でも同じです。
【関連記事】痴漢とは|主な罪状と痴漢事件の特徴
公務員が痴漢をするとどうなるか
公務員が痴漢行為をすると、職場ではどのようなことが起こるのでしょうか。
公務員の不祥事・非行に対する処分はいくつかあるので、それぞれ確認していきましょう。また処分を決定する組織についても、把握しておいてください。
考えられる懲戒処分の例
公務員が公務員としての立場にふさわしくない非行を行うと、戒めるための制裁として、懲戒処分を受けることがあります。懲戒処分は段階的に分かれており、注意だけで済む場合から職を失うことまであります。
公務員に対する懲戒処分としては、以下のような処分が予定されています。
種類 |
内容 |
免職 |
懲戒処分として即時解雇する |
降任 |
職務の等級・階級を引き下げる |
定職 |
一定期間職務従事をさせない |
減給 |
給与を一定の範囲で減額する |
譴責 戒告 |
非違行為の責任を確認し、将来を戒める |
公務員が痴漢行為を行い、これが職場に知られた場合には、その行為態様等に応じて、上記の懲戒処分に処される可能性があります。
判断をするのは人事院もしくは人事委員会
懲戒処分を行うかどうか、行うとしてどのような処分とするかは「人事院」または「人事委員会」という行政機関が判断します。
国家公務員の場合には国の機関である人事院、地方公務員の場合には自治体の機関である人事委員会が決定します。
決定に対して不服を申し立てることも可能ですが、不服申立てをしても結論が変わるとは限りません。
逮捕されても懲戒されるとは限らない
公務員が痴漢により逮捕されたら直ちに懲戒処分となるというわけでもありません。
逮捕された時点では、痴漢行為をしたのかしていないのか明確ではない場合もあるからです。例えば、逮捕されたけれども被疑事実を否認しているというケースは想像しやすいでしょう。
以下では、懲戒処分をするかどうかを決定づけるポイントと、懲戒処分となった場合に想定される処分について見ていきます。
懲戒処分となるかどうかは痴漢行為をしたと認められるかどうか
逮捕は犯罪の嫌疑がある場合になされますが、これはあくまで嫌疑であって事実とは限りません。そのため、逮捕されても、直ちに犯罪行為を行ったということにはならないのです。
懲戒という重大な処分を行うには、非違行為の事実があることが、明確に認定される必要があります。
そのため、公務員の痴漢行為を理由に懲戒処分を行うのであれば、痴漢行為があったと客観的に認定できることが必要です。
逮捕された時点では、痴漢行為の認定が困難なときもあり、そのような場合には、懲戒処分を決定するには早すぎるということになります。
逮捕された場合に想定される刑事処分
痴漢で逮捕された場合、最終的にどのような刑事処分となるのでしょうか。基本的には以下のような決着となります。
不起訴処分
検察官が裁量によって、起訴しない決定をすることです。罪を犯していない場合、罪を犯したという証拠が不十分である場合、罪を犯していることが証拠上明らかでも敢えて起訴する必要がない場合などは、不起訴として処理されます。
罰金刑
強制わいせつ罪の場合には罰金刑はありませんが、迷惑防止条例違反の場合は罰金刑も予定されています。
そのため、犯罪事実が悪質ではなく、事実を認めているような場合には、略式手続で罰金刑となる可能性が相当程度あるでしょう。略式手続といっても、刑罰は刑罰ですので前科がつきます。
懲役刑
迷惑防止条例違反場合や強制わいせつ罪には、懲役刑も予定されてます。そのため、悪質な痴漢行為の場合には、正式に刑事裁判を経て懲役刑が宣告される可能性もあるでしょう。
懲役刑には執行猶予のない実刑判決と、執行猶予付き判決の二通りがあり、前科があったり、痴漢行為が極めて悪質であったりした場合は、実刑判決となる可能性があります。そうでない場合は、執行猶予判決となる可能性が高いと言われています。
執行猶予がついた場合には、直ちに収監されることはなく、執行猶予期間が問題なく経過すれば刑罰は効力を失うとされています。ただし、有罪判決ですので前科としては残ります。
無罪
被告人が罪を犯したことについて、合理的な疑いが残るような場合は無罪となります。
痴漢行為で起訴された場合であれば、被告人が事実を否定しており、かつ被告人が故意に痴漢行為を行ったことの証拠が十分でないという場合、無罪となる可能性も否定できません。
有罪として扱われない決着は2種類
上記の中で有罪扱いにならないのは、不起訴処分と無罪判決の2種類です。
無罪判決の場合には、犯罪事実を行ったと認定ができないので、理論的には懲戒事由も存在しないということになります。この場合は懲戒処分がされない、もしくは既にされている懲戒処分の効力を、争う余地があります。
他方、不起訴の場合には、必ずしも犯罪事実が認められないというわけではありません。例えば起訴猶予は犯罪事実は認められるものの、敢えて起訴を要しないという処分です。
そうすると、不起訴の場合には、必ずしも懲戒処分もされないというわけではありませんので注意してください。
逮捕されたら起訴前の対応がポイント
刑事事件の被疑者となり逮捕されてしまったという場合、速やかに的確な刑事弁護を受けることがおすすめです。刑事処分により生じるリスク・不利益を緩和することが期待できます。
日本の司法では、検察官により起訴される統計的な割合は4割弱程度といわれていますが、起訴された場合に有罪となる確率は99%以上とされています。
統計的観点でのみ見れば、起訴されてしまえば基本的には有罪となり前科がつくと考えてよいかもしれません。
起訴される人は全体の37.5%
平成30年(2018年)の犯罪白書によると、検挙された全体件数のうち、実際に起訴された件数は37.5%です。
この数字には痴漢以外の犯罪も含まれているので、「痴漢で逮捕されても62.5%は不起訴」という意味ではありません。
しかし統計的に「逮捕されても起訴されないケースの方が多い」という意味では、参考になるでしょう。起訴されない場合には、有罪判決を受けて前科がつくことはありません。
起訴後の有罪率は99%以上
日本の刑事司法では、起訴後の有罪率は99.9%以上であると言われています。これは検察官が確実に有罪に持ち込める案件を選別して起訴しているためです。
そのため、たとえ被疑事実を否認していたとしても、検察官が起訴という判断をした場合、無罪判決を得ることは容易ではないのが通常です。
【関連記事】起訴されると99.9%の確率で有罪|不起訴処分となる3つのポイント
逮捕後に適切な対応が必要
上記の通り、痴漢に限らず刑事事件の被疑者として逮捕された場合には、その後勾留されて長期間身柄が拘束される可能性があります。
また勾留満期に正式裁判で起訴されれば、保釈されない限り身柄拘束は続くでしょう。起訴された場合、統計的にはほぼ100%有罪となってしまうというリスクもあります。
したがって、刑事事件で逮捕された場合、速やかに的確な刑事弁護活動を受けるべきといえるでしょう。上記記のリスクを少しでも抑制するため、刑事弁護人のサポートは必須です。
弁護士に助言と対策をしてもらう
痴漢といったの犯罪で逮捕されたら、すぐに弁護士を呼んでサポートを受けることがおすすめです。
例えば、逮捕直後から被害者との示談協議を進めることができれば、勾留を要しないとして勾留されない可能性があります。
仮に勾留されても示談が速やかに成立すれば、それ以上の身柄拘束を要しないとして、釈放される可能性もあります。
また示談成立の事実を重くみた検察官が、事件を起訴しないという判断をする可能性もあります。
このように早期に弁護活動を受けることは、刑事手続きにおいて避けられない不利益を、できる限り緩和することが期待できます。
【関連記事】逮捕後すぐに弁護士を呼ぶべき4つの理由・弁護士の種類と呼び方
弁護士が被疑者のためにしてくれること
刑事弁護人による弁護活動に制限はありませんが、基本的には以下のような役割が期待されます。
取り調べに対する対処方法のアドバイス
捜査官による取り調べに対し、どのように対応したら良いのか、具体的なアドバイスをもらえます。
取調べで供述した内容は全て刑事事件の証拠となりますので、不用意な供述や迎合的な供述をすることで、不利益な証拠が作成されてしまい、不測の不利益を被るということもあり得ます。
刑事弁護人のアドバイスがあれば、このような不利益をできる限り回避できるかもしれません。
被害者との示談交渉
痴漢のような被害者のいる犯罪では、被害者との間で示談が成立しているかどうかは、刑事処分に大きく影響する可能性があります。
刑事弁護人は身柄を拘束されている被疑者に代わり、被害者との間で示談交渉を進めてくれます。
検察官に対する意見の上申
捜査機関は犯罪事実を立証するために取調べを行っていますので、被疑者に汲むべき事情があるかどうかについては積極的に調べることはしません。
刑事弁護人は、被疑者に斟酌すべき事情があることを調査し、資料をまとめ、被疑者に変わって捜査機関(検察官)に対してこれを主張することもできます。
検察官は被疑者を起訴するかどうかを判断する上で、あらゆる事情を総合的に考慮します。刑事弁護人から主張された被疑者に、有利な事情が重視されれば、刑事処分を軽くする判断に傾く可能性があります。
相談できる弁護士の種類
刑事弁護人には、国選弁護人と私選弁護人があります。
国選弁護人は国が選任する弁護人であり弁護費用は原則として国が負担します。私選弁護人は自らが依頼・選任する弁護人であり、弁護費用は自己負担です。
国選弁護人も私選弁護人も基本的な職務の範囲は同じですし、能力的にいずれが優れているということも一切ありません。ただ、両者には以下のような違いがあります。
国選弁護人は、逮捕後に勾留が決定された時点から選任可能です。短い期間ではありますが、逮捕~勾留までの期間について、国選弁護人によるサポートを受けることはできません。また国選弁護人の費用は公的負担によるものですので、一定の限界があります。私選弁護人に比して手厚いサービスを受けられない可能性があることは否定できません。
私選弁護人は、選任時期に制限がありません。逮捕直後はもちろん、逮捕前からも逮捕に備えて契約しておくことも可能です。また支払った費用に応じてサービスを受けられますので、国選弁護人よりも幅広いサービスを受けられる可能性もあります。
たとえば外部との連絡や、差し入れ、証拠収集の活動範囲など、手厚く手広くサポートを受けられる可能性があるのです。
いずれも一長一短ですので、弁護人を国選とするか私選とするかは、自身の状況を踏まえて慎重に検討すると良いでしょう。
【参考記事】私選弁護人と国選弁護人を比較|どちらに相談するか迷っている人必見
公務員が痴漢で逮捕された場合の流れ
公務員が痴漢で逮捕された場合、どのような流れで刑事手続きが進行するのか、確認しておきましょう。
公務員であっても刑事手続は民間人同じ
公務員は一般的に、多くの民間人とは異なる特殊な立場になることがあります。しかし刑事手続きの流れにおいては、被疑者が公務員でも民間人でも、全く同じです。
基本的には以下のような流れになります。
逮捕~送致~勾留
刑事事件の被疑者として逮捕された場合、48時間以内に検察官に身柄と事件が送致されることになるでしょう。
送致を受けた検察官は、24時間以内に勾留を請求するべきか否かを判断します。勾留しないと判断すれば、直ちに身柄は解放されるでしょう。しかし勾留すべきと判断すれば、裁判所に勾留請求が行われ、裁判所が認めた場合勾留となります。
勾留~起訴
逮捕後に勾留された場合、勾留決定から最大10日間身柄を拘束され取調べを受けます。
勾留満期に更に捜査が必要となる場合、そこから最大10日間身柄拘束が延長されるでしょう。検察官は、勾留満期までに被疑者を起訴するかどうかを判断します。
なお、逮捕後に身柄拘束がされない場合はこのような期間制限はなく、検察官は身柄を拘束しないまま捜査を進め、然るべき期間内に起訴・不起訴の判断をします。
起訴~刑事裁判
検察官が事件を起訴しなければ、不起訴処分として刑事事件は基本的に終了します。刑事裁判を受けることはありませんので前科がつくことはありませんし、身柄も即時解放されます。
しかし正式裁判で起訴された場合には、刑事裁判を待つ身となりますが、基本的に身柄拘束は継続します。
この時点から被告人として保釈申請ができるようになり、保釈が認められば身柄は解放されますが、認められなければ身柄は刑事裁判で判決(無罪判決や執行猶予付判決)が出るまで解放されません。
判決
刑事裁判で有罪となれば、裁判所が定めた範囲で刑罰を受けることになります。無罪となれば、当然、何も刑罰を受けることはありません。
痴漢で逮捕された場合の流れについて、詳細は以下も参考にしてみてください。
【参考記事】痴漢で逮捕されたらどうなる?逮捕後の流れとやるべきことを解説
職種によってはマスコミによる報道が考えられる
公務員による犯罪は、社会による関心が高い事実は否定できません。刑事事件の被疑者として逮捕されただけでも、マスコミに報道されてしまう可能性は十分にあります。
逮捕時点では犯罪を行ったかどうかは明確でないのが理論的には正しいのですが、世間は逮捕=犯人というイメージを強く持っています。
上記報道は、公務員人生において致命的になる可能性があるでしょう。そのため公務員の場合は、そもそも逮捕されるような言動を慎むことが強く求められるといえそうです。
【参考記事】実名報道とは|匿名報道との判断基準とプライバシー侵害等の問題点
まとめ
公務員が痴漢で逮捕されたとき、ご自身やご家族でできることは非常に限られます。
逮捕された事自体が社会生活への致命傷となり得ることは、公務員特有のリスクと言えるかもしれません。
公務員でも民間人でも刑事事件の被疑者となった場合に、的確な対応を要するのは同じです。この場合は、刑事弁護人のサポートをうけることを積極的に検討しましょう。
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