お金を取られた証拠がなくても逮捕・起訴される? 刑事事件化する前にやるべき対応
友だちや恋人などのお金を盗んでしまったら、逮捕されてしまうのでしょうか。
たとえ大きな額でなくとも、その可能性は否定できません。
身近な相手であっても、少額であっても、他人のお金を取ってしまったら、窃盗罪に該当します。
本記事では、お金を盗んだ証拠はないが本人にバレてしまったらどうなるのか、逮捕されてしまったらどうなるのか、事件にならないためにはどうすればよいのかなどを解説します。
お金を取られた証拠がない場合は逮捕されるか?
お金を取ったという証拠がなければ、逮捕を免れることはできるのでしょうか。
これは、逮捕のパターンによって異なります。
逮捕には、通常逮捕・現行犯逮捕・緊急逮捕の3種類があります。
窃盗の場合は、通常逮捕または現行犯逮捕となる可能性が高いため、2つのパターンについて説明します。
1.通常逮捕の場合|証拠がなければ逮捕されない可能性が高い
通常逮捕をするには、原則としては証拠が必要です。
通常逮捕は後日逮捕とも呼ばれ、裁判所が発付する逮捕令状によっておこなう逮捕のことをいいます。
警察などが逮捕令状を取得するには、捜査機関から裁判所に対して逮捕状請求書を提出しなければなりません。
逮捕令状が出され、通常逮捕がなされるのは、明確な逮捕理由と逮捕の必要性がある場合です。
捜査機関の疑いだけでは逮捕令状が発付されることはなく、被疑者が犯罪行為をしたといえる客観的で合理的な根拠が必要となります。
したがって、証拠がなければ令状が出されない可能性が高いといえます。
また、逮捕の必要性とは被疑者が逃亡や証拠隠滅をするおそれがあるかどうかが基準となります。
無職で独居の場合、逮捕の必要性が高いと判断されやすいでしょう。
さらに、被疑者の年齢・境遇・犯罪の重さ・態度なども考慮のうえで、逮捕令状を出すかどうかが判断されます。
2.現行犯逮捕の場合|証拠がなくても逮捕される
現行犯逮捕の場合は、犯行が明らかであるため証拠がなくても逮捕されます。
現行犯逮捕は、犯罪をおこなっている最中や直後に逮捕されることです。
その場で犯行に及んでいることが明らかであるため、証拠を準備する必要はありません。
現行犯逮捕をするのは警察官に限らず、窃盗をしている現場に居合わせた方や被害者が取り押さえ、逮捕することもできます。
通常は、そのあと警察を呼び、警察官の取り調べを受けることになります。
身近な方のお金を常習的に盗んでいる場合は、すでに疑われている可能性が高いです。
繰り返すうちにタイミングを見計らって取り押さえられてしまうかもしれません。
逮捕されても証拠がまったくないまたは不十分なら不起訴になる可能性が高い
逮捕されると、最大48時間、警察に身柄を拘束されます。
そのあと検察官に送致されます。
通常は送致から24時間以内に勾留されるかどうかが決まります。
勾留が決まると、最大20日間、検察による取り調べを受けなければなりません。
検察による捜査と取り調べにより、不起訴となれば、刑罰を受ける必要がなく、前科もつきません。
では、起訴されないケースとは、どのような場合があるのでしょうか。
ここでは、嫌疑なしあるいは嫌疑不十分のケースについて紹介します。
1.証拠がまったくない場合|嫌疑なしになる
嫌疑なしとは、被疑者が罪を犯した疑いがないとして、不起訴処分とすることをいいます。
証拠があるものとして逮捕令状が出され、逮捕されても、捜査や取り調べを通じて、事件を起こしたのが被疑者ではなかったことが証明されれば、証拠不十分で嫌疑なしとなります。
捜査を進めるうちに真犯人が見つかることもありますし、被疑者が事件のときに別の場所にいたことがわかるようなケースもあります。
2.犯行を客観的に証明できない場合|嫌疑不十分になる
嫌疑不十分とは、被疑者が事件を起こした疑いは残るものの、犯行の事実を客観的に証明しきれない場合になされる処分です。
嫌疑なしと同じく不起訴となります。
裁判で有罪となる確実な証拠がない場合や、証拠として提出された資料や物品が証拠として不十分な場合などは、嫌疑不十分の判断がくだされます。
嫌疑なしであっても、嫌疑不十分であっても、起訴されなければ有罪にはなりません。
そのため、刑罰を受けることはなく、前科もつきません。
お金を取られたことを証明する際に使われる代表的な5つの証拠
被疑者がお金を盗んだことを証明する証拠となりうるものには、どのようなものがあるのでしょうか。
たとえば、防犯カメラで窃盗の瞬間を映されていたら、映像が証拠になることは想像しやすいのではないでしょうか。
ほかにも、犯行の形跡として指紋が残っているなど、さまざまなパターンが考えられます。
証拠には、直接証拠と間接証拠の2種類があります。
直接証拠とは、犯罪事実を直接証明できるものです。
一方、間接証拠とは、犯罪事実を間接的に推認させるものをいいます。
直接証拠と間接証拠は、状況に応じて用いられ方が異なるものではありますが、証拠としての価値に差はありません。
間接証拠だから、証拠能力が低いということはないのです。
ここからは、窃盗の証拠として用いられるものとして、代表的な5つを紹介します。
1.盗品の所持
被疑者を取り押さえた際、あるいは捜査を進めるうちに、被疑者が盗品を所持していることが発覚すれば、それは被疑者がその物品を盗んだことを示す情況証拠になります。
身近な方の財布やレジからお金だけを抜いたという場合であれば、お金を持っていてもすぐに証明力の高い証拠になるとはいえません。
しかし、財布やバッグごと盗んでいた場合、それらを所持していれば証明力の高い証拠として用いられるでしょう。
盗品は間接証拠として扱われます。
とくに、犯行現場から時間的または場所的に近接しているところで被害物品を所持していれば、窃盗の犯人であることが強く推認されます。
この場合、合理的な説明ができない限り、被疑者となります。
2.目撃者の証言
犯行の目撃証言は直接証拠として用いられます。
例として、電車内で他人の財布を盗み取った瞬間を目撃した証言があげられます。
目撃証言は、防犯カメラの映像やスマートフォンで撮影された写真などに比べると信ぴょう性が低い証拠といえます。
しかし、重要な直接証拠として扱われることは、確かです。
警察官や検察官は、その信ぴょう性を慎重に検討し、証言を信じるに値する事実が多ければ、被疑者を犯人だと認定し得る証拠として扱います。
なお、犯行そのものを目撃していない場合は、直接証拠とは認められません。
たとえば、被疑者がお金や財布を抜き取るその瞬間ではなく、部屋から逃げ出している姿や走り去っていく姿を見たという場合の証言は、状況によっては間接証拠になりえますが、直接証拠としては扱われません。
3.防犯カメラの映像
防犯カメラの映像は、有力な証拠として重視されます。
防犯カメラには、現場で起こったできごとがそのまま記録されています。
証言と違って記憶や見間違いという曖昧さを残しません。
そのため、信用に値する重要な証拠といえるでしょう。
ただし、映像が映し出している角度や鮮明度など、有力な証拠となりえるかどうかは事件やカメラの性質によって異なります。
防犯カメラの映像を証拠として用いる場合、お金を盗む瞬間を防犯カメラに捉えられていれば、直接証拠として使われます。
一方で、犯人だと疑わしき人物がお店や部屋を出入りしている場面が映されているような場合には、間接証拠として使われます。
4.犯行現場の指紋やDNA
犯行現場に残った指紋やDNAは間接証拠となります。
全ての人が異なる指紋やDNAを持っているため、犯行現場に残ったものと被疑者のものが一致すれば、当然、犯人であると推認されます。
ただし、多くの人の出入りがあるお店や、自宅など、犯人の指紋やDNAが残っていても不自然でない場所で発見されたものであれば、証明力が乏しいといえます。
反対に、友人宅など出入りが自由でない場所や行ったことがないはずの場所に指紋やDNAを残してしまった場合には、有力な証拠として扱われます。
5.加害者本人の自白
自白は、犯人を認定するために極めて有力な直接証拠です。
証拠としての価値が高いものであるとされ、捜査中の判断や裁判の判決などに大きく影響します。
そのため、捜査機関で被疑者の自白を得るために、無理な取り調べや自白の強要がおこなわれる危険性が否めません。
そこで、強要された自白などは証拠として扱うことができないよう、憲法や刑事訴訟法で決められています。
また、自白のみでは被告人を有罪とすることができないことも、刑事訴訟法で定められています。
窃盗事件で逮捕するには、自白のほかにも窃盗の被害届など、自白を補強する証拠が必要です。
逮捕・起訴される可能性が低くてもお金を取った人がやるべき対応
お金を取ってしまったとしても、現行犯あるいは常習的に多額のお金を窃盗していた場合でなければ、すぐに逮捕や起訴をされる可能性は低いといえるでしょう。
しかし、身近な方のお金を取ってしまう行為は、信頼を損なう非道徳的な行為です。
これまでバレなかったからといって、繰り返してしまえば、現行犯逮捕につながるリスクもあります。
また、知らず知らずのうちに防犯カメラなどに記録が残っている場合もありますし、指紋を残していないとしても髪の毛などDNAが検出できるものを落としてしまっている場合もあります。
たとえ現時点では逮捕・起訴されていなくても、逮捕・起訴されるリスクが全くないわけではありません。
ここからは、お金を取ってしまった方がやるべき対応を説明します。
1.被害者に対して謝罪と被害弁償をする
やはり、なるべく早い段階で被害者に対する謝罪と被害弁償をおこなうことが大事です。
とくに、友人や恋人など、身近な相手のお金を取ってしまった場合、いつかバレてしまったときに、それが遅ければ遅いほど、関係性が破綻してしまうリスクが高まります。
すぐに反省してやむを得ない事情があったことを説明し、謝罪すれば許してもらえるかもしれません。
しかし、近しい関係にも関わらず長いあいだ騙し続けていれば、相手の心証はどんどん悪くなります。
ほかにも隠しごとやうそがあるかもしれないと、あらゆる点で信じてもらえなくなる可能性があります。
また、謝罪や返金をしておくことで、万が一証拠が出てきた場合でも、刑事事件化することを避けてくれる可能性が高くなります。
刑法第235条が定める窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金刑です。
(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
引用元:刑法 | e-Gov法令検索
万が一有罪となれば、罰金や賠償金を支払う可能性があります。
すでに被害届を提出されていた場合でも、謝罪や被害弁償を申し出て示談交渉をすることで、被害届を取り下げてもらえるケースは少なくありません。
万が一被害届を取り下げてもらえなかったとしても、すでに、謝罪や被害弁償をおこなっていれば、検察が不起訴処分をくだす可能性が高まります。
2.できる限り早く弁護士に相談・依頼する
お金を取ってしまい、逮捕の不安があるなら、できる限り早く弁護士に相談しましょう。
弁護士であれば、相談だけでなく示談交渉を代理することも可能です。
被害届が出されている場合はもちろん、そうでなくとも弁護士に相談・依頼することができます。
自分で示談を申し出ても許してもらえないケースであっても、弁護士からの交渉であれば被害者が応じてくれるというのは、珍しいことではありません。
弁護士に相談や依頼をするメリットとして、次のようなことがあります。
- 逮捕されないようアドバイスがもらえる
- 被害届の取り下げ交渉を委任できる
- 不起訴処分にできる可能性が高まる
- 刑が軽くなる可能性がある など
とくに、すでに被害届が出されたことがわかったときや警察から事情聴取のため出頭を命じられたときは、迅速に相談しましょう。
警察の取り調べや捜査が開始され、逮捕・拘束されてしまった場合、自分に合う弁護士を探すことはとても難しくなります。
なぜなら、所持品は没収されてしまい、パソコンやスマートフォンから弁護士を探すことはできなくなるからです。
出頭するまでの間に、任せられる弁護士を探すことをおすすめします。
お金を取られたという証拠に関するよくある質問と回答
お金を取ってしまった方が不安に感じる、証拠の有無や逮捕に関する事柄について、よくある質問と回答を紹介します。
Q1.証拠があっても逮捕・起訴されない場合はありますか?
証拠があっても、逮捕・起訴されない場合はあります。
逮捕されないケースとしては、在宅事件となった場合です。
自宅に帰ることができ、これまでと同じように生活できる一方、警察からの呼び出しに応じて出頭し、取り調べを受ける必要もあります。
警察の捜査も進められます。
在宅事件となる条件としては、証拠隠滅や逃亡のおそれがないこと、共犯者などに接触するおそれがないことなどが挙げられます。
また、起訴されないケースとしては、起訴猶予があります。
起訴猶予とは、前述の「嫌疑なし」や「嫌疑不十分」と同じく、不起訴処分となる理由のひとつです。
起訴をすれば有罪は確実であっても、罪が軽くて十分に反省している場合やすでに被害者と示談をして和解している場合は、起訴猶予となる可能性があります。
さらに、犯人の性格・年齢・境遇・情状なども踏まえて、判断されます。
起訴猶予になると、裁判を受ける必要はありません。
その時点で刑事手続きは終了となります。
Q2.近接所持の法理とはどのような考え方のことですか?
窃盗事件が起きてから、時間的・場所的に近接している時点で、盗品を所持している人物は、窃盗犯であると推定されることがあります。
これを、近接所持の法理といいます。
もちろん、盗品をもっていたとしても、犯人が落とした盗品を拾った場合や友人から預かった場合も考えられます。
そのため、近接所持をしていたからといって、すぐに犯人だと推認わけではありません。
所持している合理的な理由を答えられない場合にのみ、犯人であると推認されます。
高価なものを知らない人からもらったなど、常識的に考えて不合理な弁解である場合は、推認される可能性が高いでしょう。
Q3.家族のお金なら取っても犯罪になりませんか?
家族のお金を取っても、犯罪にはなりません。
刑法第244条には、親族間の犯罪に関する特例として、窃盗罪などについて、家族の刑を免除する旨が記載されています。
このように家族に対して刑を免除することを、親族相盗例といいます。
刑事裁判をしたとしても、必ず刑罰が免除されるため、捜査をしても意味がなく、警察や検察官が刑事手続きを進めることはありません。
親族相盗例の範囲となるのは、配偶者、直系血族(父母・祖父母・子・孫など)、兄弟姉妹、3親等内の親族です。
内縁関係にある相手などは含まれません。
さいごに|他人のお金を盗んだ場合は早めに弁護士に相談を
友だちや恋人などのお金を盗んでしまったら、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。
加害者側だからといって、相談を遠慮する必要はありません。
たとえ、現時点では警察からの連絡がない状況だとしても、被害者が証拠を集めている段階である可能性も否定できません。
早めに相談し、弁護士とともに反省を伝えることで、信用回復できる可能性は高まるでしょう。
また、万が一警察からの呼び出しなどがあっても、有罪にならないようアドバイスをもらったり、弁護を依頼することが大事です。
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