執行猶予が得られると、有罪判決を受けても刑の執行が猶予されます。
懲役や禁錮を言い渡されても、通勤や通学など日常の生活が可能となり、社会内で更生するチャンスが与えられます。
令和元年では有期の懲役や禁錮判決を受けた4万9162人のうち3万1065人が全部執行猶予付きの判決が認められています。
参照元:令和2年版犯罪白書 第2編犯罪者の処遇
執行猶予は、どのような犯罪でも認められるわけではありません。
また、執行猶予が認められなかった場合は、実刑も受けることになります。
更生して健全な社会生活を送るためには、刑事事件を得意とする弁護士によるサポートが不可欠です。
執行猶予を獲得する可能性を上げるためにも、ご自身で刑罰に関する基本を把握しておくとよいでしょう。
本記事では、執行猶予についてわかりやすく解説いたします。
【注目】執行猶予付き判決を獲得したい方へ
全部執行猶予付き判決であれば、前科がついたとしても、刑務所に入らなくて済みます。
ただ執行猶予が付かず実刑判決を受ければ、刑務所に入らなければいけません。
執行猶予付き判決を獲得したいのであれば、刑事事件が得意な弁護士に依頼することがおすすめです。
弁護士に依頼すれば、下記のようなメリットがあります。
- 代理人として被害者との示談交渉を代理してもらえる
- 取り調べのアドバイスを受けられる
- 裁判時に有利な情状を説得的に主張してもらえる
刑事事件は早い段階での弁護活動が重要です。
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執行猶予とは?執行猶予制度の目的と意味
執行猶予とは、被告人(加害者)の状況を踏まえ社会内での更生が期待できる場合に、刑の執行を猶予する制度です。
執行猶予がつくことで、社会内での生活を許され懲役や禁錮を回避できます。
そして、執行猶予中に別の犯罪を起こさないまま期間を満了できれば、刑が免除されます。
たとえば、「懲役1年執行猶予3年」という有罪判決の場合、判決を受けてもただちに刑罰は執行されません。
執行猶予期間中の3年間、犯罪を犯すことがなければ、刑は執行されないまま免除されます。
刑事裁判の判決で執行猶予が付くかどうかは、被告人にとっては大きな分かれ道となるでしょう。
執行猶予の目的
執行猶予が付けられる目的は、加害者が更生し社会復帰する機会を奪わないためです。
犯罪が軽微であり、本人も反省しているような場合まで一律に刑務所へ収容することは、逆に社会復帰を困難にしてしまうおそれがあります。
なお、下記の犯罪白書によれば、再犯率は年々加傾向にあるのがわかります。
引用元:令和2年版犯罪白書 第5編再犯・再非行
罪を償い刑務所から出所したとしても、住居や仕事がなく、社会に復帰するのはなかなか難しいのが実情です。
円滑に社会復帰ができないと再度犯罪に手を染めてしまう可能性もあります。
刑務所に収容して社会から隔離するよりも、社会内で更生させるほうが望ましいといえるケースも少なくありません。
執行猶予制度は、被告人の円滑な社会復帰に資する制度でもあるのです。
実刑判決との違い
実刑とは、執行猶予がつかず、ただちに刑務所に収容される懲役刑や禁固刑のことを指します。
なお、実刑であっても、執行猶予付き判決であっても、有罪であれば前科はつきます。
執行猶予がつけば前科を回避できるわけではないため、注意が必要です。
「全部執行猶予」と「一部執行猶予」の違い
執行猶予には「全部執行猶予」と「一部執行猶予」の2つの種類があります。
一部執行猶予の制度は、2016年6月に施行された改正刑法によって新たに設けられた制度です。
一部執行猶予が新設されたことに伴い、刑の全体について執行を猶予する場合を「全部執行猶予」と呼んで区別しています。
全部執行猶予は、執行猶予期間を満了すれば刑の全部が免除される制度のことをいいます。
たとえば「懲役3年、執行猶予5年」の場合は、執行猶予期間である5年間犯罪を犯さなければ、懲役3年という刑が全部免除されることになります。
これに対し、一部執行猶予は、刑期の一部は実刑とし、一部は執行猶予とするという制度です。
一部執行猶予の場合、判決の主文は、「被告人を懲役3年に処する。その刑の一部である懲役6月の執行を2年間猶予する。」のようになります。
上記のようなケースでは、2年半の懲役刑を受けた後で、残り6か月の懲役刑に対し2年間の執行猶予が設けられることになります。
このように一部の期間に執行猶予を設けるのは、被告人の社会復帰を円滑に行うためです。
一部執行猶予の判決が言い渡された場合、多くのケースでは、執行猶予期間中、保護観察に付されています。
執行猶予の期間
執行猶予の期間は1年から5年と定められています。
過去の裁判例から、執行猶予の期間は懲役刑の1.5~2倍でつけられることが多いです。
たとえば懲役2年の場合、執行猶予がつくとすれば3~4年になるケースが多いでしょう。
執行猶予が認められる条件とは?
どのような犯罪でも執行猶予を受けられるわけではありません。
刑法第二十五条では、刑の全部の執行猶予が受けられる者を以下のように定めています。
(刑の全部の執行猶予)
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
引用元:刑法第二十五条
前提として、刑が3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金で収まっていることが必要です。
そのうえで、原則として、以下の条件に該当していれば執行猶予を受けられる可能性があります。
- 禁錮以上の刑を受けたことがない
- 禁錮以上の刑を受けたことがあっても執行後、もしくは免除後5年以内に禁錮以上の刑を受けていない
規定のとおり、初犯でなくても、場合によっては執行猶予が受けられる可能性はあります。
刑の一部執行猶予ができる条件
刑の一部執行猶予の場合は、全部執行猶予の場合と条件が異なります。
(刑の一部の執行猶予)
第二十七条の二 次に掲げる者が三年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、一年以上五年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
三 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
引用元:刑法第二十七条
全部の執行猶予が「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」であったのに対し、一部執行猶予では罰金刑が除外されています。
代わりに、「再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」という要件が加わっています。
また、以前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、刑の全部の執行を猶予されていれば一部執行猶予を受けることが可能としています。
執行猶予を獲得するためできること
条文上「刑の執行を猶予することができる」と規定されているとおり、執行猶予は、上記の要件を満たしていれば必ず認められるものではありません。
執行猶予を得るためには、裁判官に対して積極的に「執行を猶予すべきだ」と主張していく必要があります。
執行猶予を獲得するポイント
執行猶予を獲得するには、2つのポイントがあります。
- 全部執行猶予・一部執行猶予の要件を満たしていること
- 裁判官に、執行猶予とすべき事情を積極的に主張していくこと
そもそも執行猶予を受けられる要件を満たしていることは大前提です。
加えて、裁判官に対して、以下のような執行猶予とすべき事情を積極的に主張していくことが必要となってきます。
深く反省する
社会での更生が可能であると主張するには、再犯のおそれがないことを説得的に主張していくことが重要です。
そのためには、まず前提として、自らが行った罪を認め深く反省している態度を示すことが必要になるでしょう。
身内の人に監督をしてもらう
再犯防止の観点から言えば、仮に執行猶予判決となった場合はどのような生活を送ることになるのか、その見通しを伝えていくことも重要でしょう。
たとえば、家族による監督が約束されていれば再犯に至るおそれは低くなると評価されるため、夫・妻による監督を強化する、一人暮らしをやめて実家で生活するようにするなどの環境整備も重要なポイントとなり得ます。
被害者と示談する
量刑には、ときに被害者の処罰感情が影響します。
被害者がいる場合には、被害者に謝罪のうえで被害を弁済し、示談を成立させることができれば、執行猶予が得られる可能性は高くなるでしょう。
執行猶予が取り消されてしまう行為とは?執行猶予中に注意すべきこと
せっかく執行猶予がついても、猶予中の行動によっては取り消しされてしまう可能性もあります。
ここでは、執行猶予が取り消しになる行為について紹介します。
執行猶予の必要的取消し
全部執行猶予の場合と一部執行猶予の場合で若干異なりますが、以下のような場合には執行猶予が必ず取り消されることになります。
(刑の全部の執行猶予の必要的取消し)
第二十六条 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。
一 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。
引用元:刑法第二十六条
(刑の一部の執行猶予の必要的取消し)
第二十七条の四 次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十七条の二第一項第三号に掲げる者であるときは、この限りでない。
一 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、禁錮以上の刑に処せられたとき。
二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられたとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないことが発覚したとき。
引用元:刑法第二十七条の四
たとえば、全部執行猶予中に禁固刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予が得られないときは、全部執行猶予が取り消されることになります。
依存性の高い性犯罪、薬物事件、万引きなどで執行猶予がついている場合には特に注意が必要です。
専門機関に通院し、治療に専念することが重要となるケースもあるでしょう。
執行猶予の裁量的取消し
以下のような場合には、執行猶予が取り消される可能性があります。
(刑の全部の執行猶予の裁量的取消し)
第二十六条の二 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
一 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
二 第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき。
引用元:刑法第二十六条の二
(刑の一部の執行猶予の裁量的取消し)
第二十七条の五 次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
一 猶予の言渡し後に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
二 第二十七条の三第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守しなかったとき。
引用元:刑法第二十七条の五
たとえば、全部執行猶予中に罰金に処せられてしまうと、執行猶予が取り消されてしまう可能性があります。
罰金刑を科されやすいのは「交通違反」などです。
交通ルールを守るのは当然ですが、執行猶予期間中は特に注意しなければならないでしょう。
執行猶予が取り消されてしまった場合
執行猶予が取り消されてしまうと、判決で言い渡された刑罰がただちに執行されます。
さらに、執行猶予の取消原因となった犯罪についての刑罰も、従前の有罪判決の刑罰に加算されます。
たとえば、「懲役2年執行猶予3年」が言い渡されて執行猶予期間中に再び犯罪を起こし、刑事裁判で新たに「懲役1年」の判決を受けた場合、当該懲役1年の刑罰と、もともとの懲役2年の刑罰が合計されることになり、計3年間刑務所で過ごさなくてはならないということになります。
刑事事件を弁護士に依頼するメリット
刑事事件を起こしてしまった場合は、弁護士にサポートを依頼するのが最善策となります。
弁護士に依頼すれば、代理人として被害者との示談交渉を依頼できたり、環境整備についてのアドバイスをもらえたりすることが期待でき、刑事裁判においても有利な情状を説得的に主張してくれることが期待できます。
適切な弁護活動を行ってもらえれば、執行猶予を獲得できる可能性を高められるでしょう。
執行猶予についてよくある質問
執行猶予について多くの方が感じている疑問を解決していきましょう。
不起訴処分を受けたら会社をクビになりますか?
不起訴処分によって必ずしもクビになるわけではありません。
仮に懲戒処分等の不利益な処分を受けた場合は、会社として不当な対応と判断されるケースもあります。
執行猶予中にどんな制限がありますか?
執行猶予期間中であっても、通常どおりの生活を送るかぎりは特段の制限はありません。
結婚・就職・引っ越しなどが制限されることはないので、気兼ねなく社会生活を送ることができます。
ただし、執行猶予の場合でも前科はついてしまうので、資格制限によって一定の職業に就けない、国によっては渡航を制限されることがあるといった不利益が生じるおそれはあります。
執行猶予が終わっても前科は消えませんか?
執行猶予期間が終われば刑罰権も消滅するので、猶予されていた刑を受けずにすみます。
しかし前科は消えることはありません。
パスポートやビザの発行や渡航はできますか?
パスポートやビザを申請する際に、犯罪歴について記載する欄があり、執行猶予であることについて申告が必要です。
執行猶予期間中の場合、場合によってはパスポートやビザの発行を拒否されたり、期間や渡航できる国が制限されたりする可能性もあります。
仕事の制限や資格の取り消しなどはありますか?
刑の内容によっては、公務員・弁護士・医師など法律によって規制されている一部の仕事に就くことは制限されます。
保護観察を受けている場合は制限が増えるって本当ですか?
保護観察中は、定期的に保護司と面談したり、生活状況を報告したりしなければならなくなります。
また、長期の旅行や転居には保護観察所の許可が必要になります。