テロ等準備罪とは|新設の背景や該当行為・違反の罰則を解説


テロ等準備罪(てろとうじゅんびざい)とは、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団が重大な犯罪を計画、および計画実行のための実行準備行為が行われた際に罰する法案です(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律:第6条の2)。正式名称は『組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案』。
テロ等準備罪の概要
テロ等準備罪は、組織的犯罪集団を取り締まる法案として新設されました。テロ等準備罪の採決については、国会で何度も激しい議論が繰り広げられましたが、2017年6月15日に成立、同年7月11日より施行されました。
テロ等準備罪の新設で変わったこと
テロ等準備罪が新設されたことで、主に次のようなことが変わりました。
組織的犯罪の未然防止
現在、世界のさまざまな国々でテロ事件が発生しており、今後日本が標的にされる可能性も考えられます。
テロ等準備罪が新設されたことで、組織的犯罪集団による犯罪行為を未然に防止できるようになりました。
TOC条約の締結
これまで日本は国連加盟国(全193ヶ国)の中で、TOC条約を締結していない数少ない国の1つでした。
TOC条約とは、2000年に国連総会で採択された組織的な犯罪集団による犯罪行為を取り締まるための条約で、正式名称は『国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約』です。(外務省:国際組織犯罪防止条約(TOC条約))
TOC条約を締結するためには、組織犯罪に関する国内法が成立している必要があり、これまで日本は『未成立状態』とみなされ締結対象外となっていました。
そこでテロ等準備罪が新設されたことにより、ようやく日本もTOC条約国の仲間入りを果たしました(2017年8月より発効開始)。
テロ等準備罪と共謀罪との違いとは
テロ等準備罪は、しばしば『共謀罪』と呼ばれることもあります。
共謀罪はテロ等準備罪の成立前に法案として審議されていた犯罪です。法案として審議されていた条文も、組織的犯罪集団の活動や共謀に関わる犯罪の予備をした場合の規制(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)と大部分は同じです。
細かな違いとしては、共謀罪では犯罪を計画しただけでも有罪となるのに対し、テロ等準備罪では計画したのち実行準備行為が行われてはじめて有罪となる、という点が挙げられます。
テロ等準備罪の正式名称である『組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律』には、“テロ等準備罪”“共謀罪”のいずれも使用されておらず、いずれも俗称です。
そのため、両者を区別する実益は特にありませんし、一般的にも特に区別して使用されてはいません。
テロ等準備罪が『現代の治安維持法』と呼ばれる理由
テロ等準備罪を現代の治安維持法と考える層も一定数存在します。
治安維持法とは、『私有財産制度の否認や国体の変革を目的とした結社を禁止する法律』です。1925年4月21日より施行されましたが、徐々に戦時中の宗教・反戦主義など個人思想の弾圧にも適用され、第2次世界大戦敗戦後に廃止。悪法の1つとしても有名です。
『現代の治安維持法』と呼ばれる理由としては、テロ等準備罪の条文に含まれる“組織的犯罪集団”や“準備行為”などについての定義が明確でないため、今後処罰対象が拡大して一般人も対象となる可能性があるという点が挙げられます。
2017年5月には、金田法務大臣が「写真を撮りながら歩くとテロ等準備罪の下見に当たる」と発言したことも大きな話題となりました。
テロ等準備罪に該当するケースと罰則
テロ等準備罪は次の3つの要件すべてを満たすと成立します。
罰則については、死刑・無期や、10年を超える懲役・禁錮を定めた罪で共謀した場合は5年以下の懲役・禁錮、4~10年の懲役・禁錮を定めた罪で共謀した場合は2年以下の懲役・禁錮と定められています(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律:第6条の2)。
組織的犯罪集団が関わっていること
重大な犯罪の実行を目的に集まった集団が関わっていることが対象となります。例として、テロ集団・暴力団・振り込め詐欺集団などが挙げられます。同窓会やコミケサークルなどの一般集団については対象外です。
2人以上が犯罪を計画していること
2人以上の組織的犯罪集団によって、現実的かつ具体的な犯罪計画が練られていることが対象となります。
実行準備行為を行っていること
計画に基づき、かつ計画を前進させる行為を行っていることが対象となります。例として、資金調達や現場下見などが挙げられます。
テロ等準備罪が一般人の生活に及ぼす影響
政府は「テロ等準備罪が新設されても一般国民の生活に何ら変わりはない」(法務省:テロ等準備罪について)と主張していますが、今後処罰対象が拡大する可能性も考えられます。
一般人に影響を及ぼすケースとしては、たまたま組織的犯罪集団のLINEグループに加入しており、犯罪計画について知らないままチャット内容に“既読”をつけてしまった場合などが挙げられます。この場合、“犯罪行為に関与した”とみなされて家宅捜索される可能性はゼロではありません。
テロ等準備罪について採決が荒れた背景
2017年6月15日に開かれた参院選本会議では、与党が中間報告を行い採決が省略されるなど、野党からは「強行採決だ」と批判する声もあがりました。
このようにテロ等準備罪について採決が荒れた背景には、賛成派と反対派とで意見が激しく対立したことが挙げられます。それぞれの主な意見内容についてピックアップします。
テロ等準備罪についての賛成意見
2017年6月14日より開催された参院選本会議にて、自民党の西田昌司氏は「2019年にラグビー・ワールドカップ、2020年に東京五輪・パラリンピックが開かれる。テロを差し迫った脅威と認識し、万全の対策を講じなければならない」と発言。テロ等準備罪の必要性について強調しました。
テロ等準備罪についての反対意見
同会議にて、共産党の仁比聡平氏は「犯罪と無縁の国民が、警察のさじ加減一つでプライバシーを侵害され、深く傷つけられる重大な危険がある」と発言。また採決の省略について民進党(※2017年9月に事実上解党)の蓮舫代表は、「究極の強行採決だ。言論の府をあまりにも軽視している」と批判しました。
まとめ
テロ等準備罪が新設されたことによって、日本もTOC条約国の仲間入りを果たすなど、国際的に大きな一歩を踏み出すことになりました。テロ等準備罪について批判の声もあがっている分、政府の今後の動向にはますます注目が集まっていくことでしょう。
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