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警察に採取・登録された指紋データの保存期間|削除されるタイミングについても解説

原綜合法律事務所
原 隆
監修記事
警察に採取・登録された指紋データの保存期間|削除されるタイミングについても解説

犯罪をしてしまったときはもちろん、罪を犯していなくても指紋が警察のデータベースに登録されるケースがあります

なかには、交通違反や事件への関与の疑いがあるだけで警察に指紋を取られた経験があり、不安に思っている方もいるのではないでしょうか。

採取された指紋は、問題がなければ消してもらえるのでしょうか。

警察に採取された指紋データの保存期間については、意外と知られていません。

本記事では、警察に採取・登録された指紋データの保存期間や削除されるタイミングについて詳しく解説します。

指紋データの扱いについて正しい知識を持つことで、無用な不安を解消し、ぜひ必要な対策を講じるヒントにしてください。

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警察に採取・登録された指紋データの保存期間|具体的な定めはない

指紋データは、全ての警察署に設置されている「指紋自動識別システム」というツールによって採取され、登録されます

警察によって登録された指紋データには、実は明確な保管期間が決められていません。

期限に関する規定が書かれているのは、国家公安委員会規則のなかの「指掌紋取扱規則」です。

指掌紋取扱規則によれば、指紋の抹消時期は指掌紋記録に残っている方が亡くなったときか、保管する必要がなくなったときであると記されています。

つまり、法的には明確な時期は決まっていないということです。

亡くなったときと書かれているところからすると、長い間警察のデータベース上に残り続けるのではないかと考えられます。

なお、採取されたわけではなく、証拠品として指紋が残っているケースであれば、多くの場合それほど長い間指紋は残りません。

たとえば、乾燥した物品の表面に指紋がついた場合は長くても数週間ほどしか指紋は残りません。

とはいえ、付着した指紋の状態・物品の材質・証拠品が保管されていた環境などによって残存期間は異なります。

なかには、10年以上前の指紋を鑑定しているような組織もあるため、数十年残ってしまうものもあるようです

警察によって保存されている指紋データが削除されるタイミング

警察のデータベース上の指紋データが削除されるタイミングについて、もう少し詳しく見てみましょう。

【指紋データが削除されるタイミング】
  • 本人が亡くなったとき
  • 保管する必要がなくなったとき

なかでも「保管する必要がなくなったとき」とは、抽象的でわかりづらい基準です

具体的には、どのようなときが「保管する必要がなくなったとき」と判断されるのでしょうか

裁判所の事例を紹介します。

「指紋データを保管する必要がなくなったとき」と裁判所が判断した事例

2016年10月、自宅の近くで進んでいた高層マンションの建設工事に対して抗議していた名古屋市の男性は、建設工事への抗議の際に工事業者の現場監督を突き飛ばしたという暴行の容疑で現行犯逮捕されました。

しかし、周囲の防犯カメラ映像などを検証した結果、この男性が現場監督を突き飛ばした事実はなかったと判断され、2018年2月に名古屋地方裁判所から無罪を言い渡されました。

この事件の捜査において暴行容疑をかけられた男性は、警察によって指紋・DNA型・顔写真データを採取されていました。

しかし、無罪判決が確定したのだから、指紋などのデータを削除してほしいと求め、裁判を起こしました

削除要請の訴訟の判決は、2022年1月18日名古屋地方裁判所で言い渡され、裁判長は国にデータの抹消を命じました。

すでに記載したように、国家公安委員会規則においては、指紋の保存期間の定めがありません。

そこで、本訴訟においては「保管する必要がなくなったとき」とは、どのようなときであるかを検討することになりました。

本訴訟において裁判所は、無罪が確定した以上、余罪や再犯のおそれがないならデータを残しておく具体的な必要性があるとはいえないと解され、「保管する必要がなくなった」と認定したのです。

なぜなら、そもそも国民は憲法13条によって個人として尊重されているからです。

指紋やDNA型をみだりに取得されたり利用されたりしないことも、私たちの人権に含まれていると考えられています。

警察のデータベースの拡充など、国や警察にとって有用な理由を優先すべきではなく、情報漏出や使途への不安を拭うことを第一に考えるべきだと結論づけられたのです

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警察に指紋データを採取される4つのケース

指掌紋取扱規則が、被疑者の指紋や掌紋を犯罪捜査に役立てることを目的として定められていることからも、指紋データを採取されるのは、主に犯罪捜査に寄与するときです。

指紋は一人ひとり違い、細工をしない限りは一生変わりません

そのため、犯罪捜査には欠かすことができないものなのです。

一方で、指紋データは個人情報として強く保護されるべきものでもあります。そのため、正当な理由なく警察などの捜査機関が私たちの指紋データを採取することは認められていません

では、実際に指紋データを採取されるのは、どんなときなのでしょうか。

主な4つのケースを紹介します。

1.令状が発布された場合

令状が発布されれば、たとえ拒んだとしても、指紋データを採取されます

指紋データ採取というのは、検証の一種に分類されます。

刑事事件における検証とは、捜査機関や裁判所が、場所・もの・人などの対象について、存在・性質・状態などを五官の作用によって確認する捜査や処分のことをいいます。

五官の作用というのは、見たり、聞いたり、匂ったり、触ったりすることを指します。

刑事事件における検証とは、以下の2種類です。

  • 令状に基づいて強制捜査や強制処分がなされるもの
  • 令状なしで、任意捜査や任意処分としておこなわれるもの

指紋データの採取は、検証のなかの「身体検査」に分類されます。

これは、個人の尊厳にかかわるものであり、身体の自由を侵害するものといえるからです。

「身体検査」には身体検査令状が必要になります。

身体検査令状が発布されていなければ、原則として指紋採取を強制されることはありません

裁判官が、指紋を採取する必要性があると判断すれば、身体検査令状が発行され、捜査機関は強制的に指紋を採取することができるのです。

第二百十八条

検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。

この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。

引用元:刑事訴訟法 | e-Gov法令検索

2.警察に逮捕された場合

令状が発布されていなくても、例外的に指紋データを採取されるケースがあります

それは、逮捕されているときです。

刑事訴訟法には、被疑者を逮捕などで身柄拘束しているときは、被疑者を裸にしない限り、捜査機関が令状なしに指紋を採取することを許す規定を定めています

③ 身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第一項の令状によることを要しない。

引用元:刑事訴訟法 | e-Gov法令検索

刑事事件で警察に逮捕されたときは、10本全ての指の指紋を採取されます。

また、指だけでなく掌などを含めた掌紋も採取され、両手全体の指紋がデータベースに登録されるでしょう。

逮捕されていれば、本人が拒否しても強制的に採取されるので、抵抗することなくはじめから素直に応じてください

たとえ実際には犯人ではないとしても、犯罪の現場にいた人物など、被疑者として逮捕されていれば、指紋データ採取の対象となります。

3.捜査に協力した場合

被疑者でなくても捜査に協力すれば、指紋を採取されることがあります。

捜査に協力した方の指紋を協力者指紋、掌紋を協力者掌紋といいます。

指紋データというのは、指紋が一致したことで犯人が特定できるという側面もありますが、反対に指紋が合わないことから無実の証明ができるという側面もあるのです。

犯罪現場などに指紋や掌紋を残した捜査協力者の指紋を採取し、犯人ではないことを証明したり、犯人を確実にしぼったりするために使うことができます

また、被害者が指紋を採取されることもあります。

たとえば、痴漢被害にあった被害者が指紋採取をされるケースは少なくありません。

これは、冤罪を生まないためだとされています。

事件に関わりがあるであろう、さまざまな人物の指紋を採取することによって捜査を円滑に進めることができるのです。

4.交通違反をした場合

交通違反をした場合にも、警察に令状なしで指紋データを採取されることがあります

取り締まりを受けた場合は交通事件原票への署名に加えて、左手人差し指の拇印を押すよう求められることが多いでしょう。

また、印鑑を押すよう指示されたときに印鑑を持っていないことから、指印をするように促されることもあります。

ただし、交通違反は刑事事件とは取り扱いが異なり、指印は捜査のためのものではありません

そのため、逮捕されたときのように全ての指の指紋や掌紋までを取られるということはないでしょう。

なお、交通違反で検挙されたときの交通事件原票への指印は強制ではありません。

本来、この場合の指印は、同意に基づいて押させることができるものなので、実は断ることも可能です。

警察による指紋データの採取を拒否した場合はどうなるか?

以下2つのケースでは、捜査機関などは強制的に指紋データを取得することができます

  • 裁判所から身体検査令状が出た場合
  • 被疑者を逮捕した場合

2つのケースにあてはまっているにも関わらず、指紋データの採取を拒否したら、どうなるのでしょうか

1.10万円以下の罰金または拘留が科される

身体検査を正当な理由なく拒むと、10万円以下の罰金または拘留が科されます

拘留とは1日以上30日未満の刑事施設への収容のことを指します。

第百三十八条

正当な理由がなく身体の検査を拒んだ者は、十万円以下の罰金又は拘留に処する。

② 前項の罪を犯した者には、情状により、罰金及び拘留を併科することができる。

引用元:刑事訴訟法 | e-Gov法令検索

情状によっては、罰金と拘留の両方が科されるおそれもあるので注意しましょう。

従わなければ刑罰を科される類のものを、間接強制といいます。

間接強制がなされるとはいえ、指紋データを採取されるよりも10万円以下の罰金や拘留で済ませたいと考える方もいるのではないでしょうか。

しかし、間接強制を拒んだからといって、本当に10万円以下の罰金や拘留で済むかというと、実際にはそうでもありません。

次の紹介するように、強制的に指紋データが採取されることもあるのです。

2.強制的に指紋データが採取される

身体検査令状で認められた方や逮捕された被疑者の指紋データは、強制的に採取可能です。

第百三十九条

裁判所は、身体の検査を拒む者を過料に処し、又はこれに刑を科しても、その効果がないと認めるときは、そのまま、身体の検査を行うことができる。

引用元:刑事訴訟法 | e-Gov法令検索

特に、間接強制では効果がなく指紋が採取できないと認められるときには、直接強制によって指紋を取得することが認められています

これは、東京地方裁判所による昭和59年6月22日の判例から明らかです。

この裁判では、指紋データ採取に一向に応じない被疑者に対する措置として、強制的な指紋データの採取について、「目的を達するため必要最小限度の有形力をもつて直接強制をすることは許されると解される」と判示しました。

さいごに|警察に採取された指紋データは一生残る可能性がある

警察に採取された指紋データは、明確な保存期間が定められていないため、一生残る可能性があります

交通違反や捜査協力など、重大な罪を犯したわけでなくても指紋が採取される場合があるでしょう。

また、被疑者となってしまい無罪が確定した場合でも、データが自動的に削除されるわけではありません。

どうしても削除したい場合は、裁判を通じて削除を求める必要があります

本記事を通じて、やはり指紋データの保存期間や削除に関して不安があるという方は、有料だとしても弁護士に相談してもよいでしょう

指紋の削除のための裁判は必ずしも簡単ではありませんが、専門家から、具体的なケースに応じた適切な対処法やアドバイスをもらうことで、安心できるのではないでしょうか。

法律事務所を探せるポータルサイト「ベンナビ」を活用して、少しでも不安を解消しましょう。

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原 隆 (福岡県弁護士会)
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本記事はベンナビ刑事事件(旧:刑事事件弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ刑事事件(旧:刑事事件弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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