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刑法第230条とは?名誉毀損罪に関する条文と違法性阻却事由について解説

刑法第230条とは?名誉毀損罪に関する条文と違法性阻却事由について解説

名誉毀損の可能性がある行為をしてしまったら、刑法第230条を理解することが非常に重要です。

刑法代230条は、名誉毀損罪についての規定で、その内容や適用範囲を知っておくことが、万が一の場合の備えになります

本記事では、刑法第230条について、どのようなときに名誉毀損罪が成立するのか、どのような刑罰が科されるのかなどを詳しく紹介します。

また、名誉棄損罪が成立しないケースや、侮辱罪などについても説明するので、ぜひ参考にしてください。

本記事をきっかけに正しい知識を持ち、不安や疑問を解消して、弁護士への相談など適切な対応をしましょう。

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刑法第230条は名誉毀損罪について規定した条文

刑法第230条では、名誉毀損罪について規定されています。

(名誉毀損)

第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

引用元:刑法|e-Gov 法令検索

名誉毀損罪は、おおまかにいうと、事実を示すことによって他人の社会的評価を貶める行為についての罰則規定です。

名誉毀損罪が成立すると、法定刑として3年以下の懲役・禁錮・50万円以下の罰金のうち、いずれかが科されます

名誉毀損罪の成立には、次の要件が全て満たされる必要があります。

  • 事実を示して他人の名誉を毀損する行為であること
  • 公然性がある、つまり不特定または多数が知ることができる状態であること
  • 違法性が阻却される事由がないこと

よく似た罪に侮辱罪(刑法231条)がありますが、成立要件の大きな違いは「事実の摘示の有無」です。

(侮辱)

第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

引用元:刑法|e-Gov 法令検索

名誉毀損罪は、「◯◯さんが勤務先のお金を横領している」「○○さんが同僚と不倫している」「◯◯さんは過去に犯罪を犯して刑務所に入っていたことがある」など、具体的に事実を摘示している場合に適用されます

侮辱罪は、「バカ」「デブ」「ブス」などの人に対する評価であり、悪口のような抽象的な暴言であっても適用されます。

刑法第230条第1項の条文の意味をわかりやすく解説

刑法第230条第1項によると、名誉毀損罪にあたるのは「公然と」「事実を摘示し」「人の名誉を毀損する」したものだとされています。

気を付けてほしい点は、「その事実の有無にかかわらず」、名誉毀損罪が成立するとされている点です。

適示された事実が虚偽であろうと、本当のことであろうと、名誉棄損罪が成立する可能性があります

1.「公然と」とは

「公然と」とは、適示された事実を不特定または多数の人々が認識できる状態を指します。

具体的には、多くの人が集まるイベントなどの公開の場における発言や、インターネット上での投稿・記事・動画などが該当します。

なお、たとえ直接伝える相手が特定かつ少数であったとしても、その情報が不特定の多くの人々に広まってしまう可能性が高いと判断されれば、公然性が認定されることがあります

つまり、記事や動画の閲覧数が少ない場合や、特定の人だけが見られる裏アカウントのようなかたちで公開したものであっても、その内容が広まる可能性があるなら、公然性が認められる可能性があります。

また、現実に相手が認識することまでは不要で、認識できる状態であれば公然性は認定されます

2.「事実を摘示する」とは

名誉毀損罪の成立要件には「事実の摘示」をすることが必要です。

「事実の適示」にいう事実とは、人の社会的評価を低下させるような事実でなければなりません。

たとえば次のような発言は、名誉毀損罪でいう「事実の摘示」に該当します

  • ○○さんは以前、詐欺で逮捕されたことがある
  • ○○さんが自宅で大麻を吸っている
  • ○○さんが同僚と不倫している
  • ○○さんが店のレジからお金を盗んだ など

適示の方法は、口頭に限られません。

文書や図面を利用したり、噂話としてこれを流すといった形で適示することも含まれます

3.「人の名誉を毀損する」とは

名誉毀損罪は、人の社会的評価を保護することを目的としています

そのため、社会的評価を下げるような他人の名誉を傷つける行為が処罰の対象となります。

ここにいう「人」とは、自然人のほか、法人等の団体も含まれます。

したがって、名誉毀損の対象となるのは、幼児も含んだ人はもちろん、企業などの法人や団体も含まれます。

名誉とは、人や法人の信用や名声などの、社会から受ける一般的な評価全般をいいます。

ポイントは、個人の自尊心やプライドなどの主観的な名誉感情を傷つけることではなく、外部的な社会的評価を低下させる行為であるという点です。

したがって、たとえ誹謗中傷がなされたとしても、個人の自尊心やプライドが傷つく程度であれば罰せられることはありません。

なお、実在する誰かを特定できないときは名誉毀損にはなりませんが、イニシャル・伏せ字・匿名表記などにしていればよいというわけではありません。

第三者がみて容易に誰のことかを特定できる内容であれば、名誉毀損が成立する余地があります

4.「事実の有無にかかわらず」とは

刑法第230条第1項では、名誉毀損罪の成立は「その事実の有無に関わらず」と規定しています

つまり、誹謗中傷や名誉を損なう内容の真偽について問われるわけではないのです。

これは真実であっても、真実でなくても、名誉毀損罪が成立するということです。

「本当のことをいっただけ」という主張は通用しません

また、本当のことではなく「ただの冗談だから問題はない」という主張も通用しません。

冗談だとしても、示された内容が虚偽であった場合は、別途、信用毀損罪や業務妨害罪といった犯罪が成立する可能性もあります。

ただし、刑法第230条の2においては、公共の利害に関する事実に限って、一定の要件を満たす場合には、名誉毀損に該当する行為であっても違法性が否定され、罪に問われないケースもあります

第二百三十条の二第一項

前条(刑法第230条)第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

引用元:刑法|e-Gov 法令検索

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刑法第230条第1項と第2項の違い|第2項は死者の名誉に関する規定

刑法第230条第2項では、死者の名誉毀損に関する規定が定められています

第二百三十条第二項

死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

引用元:刑法|e-Gov 法令検索

条文によると、死者の名誉毀損については「虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない」と規定されています。

つまり、死者の名誉を毀損する行為については、虚偽の事実を適示した場合に限り処罰されます

本当のことである限り、たとえその内容が名誉を傷つけるものであっても、処罰の対象とはならないのです。

死者の名誉を保護するとともに、死者=歴史上の人物についての報道や、歴史的な研究発表を阻害しないようにするためです。

刑法第230条に規定されている3つの法定刑|懲役刑、禁錮刑、罰金刑

名誉毀損罪を犯すと、どのような刑罰が科されるのでしょうか

ここでは、刑法第230条に規定されている3つの法定刑について説明します。

3年以下の懲役刑または禁錮刑

名誉毀損罪の法定刑には、3年以下の懲役刑または禁錮刑があります

懲役刑と禁錮刑は、どちらも刑務所に収容される刑罰ですが、特に次の2点が異なります。

  • 刑罰の重さ
  • 刑務作業の有無

日本の刑法で規定されている全ての刑罰を、重さ順に並べると次のようになります。

死刑>懲役>禁錮>罰金>拘留および科料

つまり、一般的に懲役刑と禁錮刑では、懲役刑のほうが重いとされています。

刑務作業の有無という点では、懲役刑には刑務所内での刑務作業が義務付けられていますが、禁錮刑なら刑務作業を強制されることはありません

刑務作業は、受刑者に規律ある生活態度を習得させる目的で、炊事や洗濯など日常生活に関わる作業や、物品の製造・印刷・洋裁・農業などの生産活動をさせるものです。

社会貢献作業や職業訓練もなされます。

禁錮刑では、刑務作業の義務はないものの、希望すれば作業をおこなうこともできます。

なお、3年以下の懲役刑または禁錮刑には、執行猶予がつくことがあります。執行猶予がつけば、刑罰の執行が一定期間猶予されます

執行猶予期間中に再犯をしなければ、刑罰は免除されるため、刑務所に収容されずに終えることができます。

50万円以下の罰金刑

名誉棄損で有罪になると、50万円以下の罰金刑が科せられることがあります。

罰金刑は、犯罪行為に対する刑罰の一つとして、犯した罪に応じて国に金銭を支払う形式の財産刑です。

財産刑には、以下の種類があります。

  • 罰金
  • 科料

なお罰金では、1万円以上の金額が科されます。

科料とは、罰金よりも低額で1,000円以上1万円未満の金額を徴収する場合をいいます。

罰金刑の上限額は、刑法やそのほかの法律に基づく罰則規定で定められていて、50万円以下の罰金刑は、比較的軽微な犯罪に対して科されることが多い刑罰です。

罰金刑は、簡易裁判所でおこなわれる書面上の簡易な略式裁判によって言い渡されるのが一般的です。

刑法第230条の2は名誉毀損罪の違法性阻却事由に関する条文

名誉毀損の要件を満たしても、刑法第230条の2に基づいて、「特定の条件」を満たす場合には、名誉毀損罪が成立しないことがあります

(公共の利害に関する場合の特例)

第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。

3 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

引用元:刑法|e-Gov 法令検索

このように、以下の条件を満たすと、犯罪として処罰されないこととなります。

  • 公共の利害に関する事項であること
  • 専ら公益を図る目的であったこと
  • 真実であるとの証明があったこと

「公共の利害に関する事項」とは、市民が民主的自治を行う上で知る必要がある事実をいいます。

事実自体の内容や性質によって判断されます

また、個人のプライバシーに関する私生活上の行為は原則として公共性が否定されますが、例えば個人の政治家や官僚などの公職にある人物・宗教団体・有名企業の幹部など、社会的に強い影響力を持つ立場の人物に関する事実であれば、公共性が認められる可能性もあります。

「専ら公益を図る目的があること」とは、公共の利益を増進させることが主たる動機となって事実を適示したことをいいます。

例えば、政治家のスキャンダルや企業の不正など、公に広めるべき重要な情報を伝えることを専らの目的にしてなされたものであることをいいます。

たとえ公共の利害に関する事項であっても、報復目的や、被害の弁償を受ける目的、他者の好奇心を満足させることが目的であれば、公益目的であったとはいえません。

「真実であるとの証明があったこと」とは、適示された事実の重要な部分について、真であるとの証明がなされなければなりません

なお、最後の真実性の証明の要件は、そもそも上記の2つの要件が認められる場合にはじめて問実題となる要件となります。

上記の2つの要件が認められないのであれば、そもそも、被害者のプライバシー保護の見地から、真実性の証明は許されません。

公開の法廷で事実の真否を明らかにすることにより、被害者に再度、名誉毀損による苦痛を与えることは不当だからです。

そして、これらの条件を全て満たせば、名誉毀損罪として処罰されることはなくなります。

さいごに|他人の名誉を毀損した場合はできる限り早く弁護士に相談を

名誉毀損罪での逮捕は比較的少ないといわれていますが、とはいえ、侮辱罪の法定刑が引き上げられたことからも、金銭、誹謗中傷行為全般に対して、厳しい目が向けられています。

その意味で、捜査機関としても、悪質な名誉毀損行為や侮辱行為に対しては、厳正に対処することが要請されています

もし名誉毀損にあたる行為をしてしまった場合は、すみやかに適切な対応をとることが重要です。

心あたりや不安がある方は、なるべく早めに弁護士に相談しましょう。

弁護士であれば、被害者との示談交渉をスムーズに進めることができます。

示談によって被害者からの告訴を取り消してもらえれば、刑事事件としての捜査は終了します。

また、告訴が取り消されない場合であっても刑罰が軽くなる可能性があります

そのほかにも加害者側になってしまった方がやるべき法的なアドバイスや、取り調べや裁判への臨み方など、個別のケースに応じた対応策を提案してくれます。

このようなお悩みでお困りの方は、なるべく早めに弁護士に相談し、被害者や捜査機関との折衝を依頼しましょう。

「ベンナビ刑事事件」といった窓口を活用して、信頼できる弁護士を見つけてください。

なお、名誉毀損行為は、民法上でも不法行為となりかねない行為です。

刑事と民事の名誉棄損の違いについて確認されたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。

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この記事の監修者
亀井 瑞邑 (兵庫県弁護士会)
刑事弁護人の中では比較的珍しい、国選被害者参加弁護士として犯罪被害者のための活動も行ってきました。法律の専門家として、皆様の今後の人生が少しでも前向きになるよう、全力でサポートさせていただきます。
編集部

本記事はベンナビ刑事事件(旧:刑事事件弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ刑事事件(旧:刑事事件弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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