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心神喪失で無罪になるのはなぜ?責任能力の考え方や無罪に納得できない理由などを解説

心神喪失で無罪になるのはなぜ?責任能力の考え方や無罪に納得できない理由などを解説

刑事事件では「犯人が犯行時に心神喪失状態であっため無罪」となるケースも存在します。

しかし「事件を起こしたことに変わりはないのに、なぜ無罪なの?」と疑問に思う方も多いでしょう。

そこで本記事では、心神喪失状態で起こした事件について、なぜ無罪になるのかについて詳しく解説します。

また、心神喪失で無罪になったあとの手続きの流れや、心神喪失を主張するときに弁護士へ相談するメリットなどについても説明するので、ぜひ参考にしてください。

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心神喪失者が無罪になるのはなぜ?刑事責任能力が認められないから

まずは、心神喪失者が無罪になる仕組みについて、刑事責任の基本ルールから遡って解説します。

大前提|刑事責任を科されるのは3つの要件を満たしたとき

そもそも刑事責任が科されるのは、以下3つの要件を満たしたときに限られます。

  • 構成要件に該当する行為に及んだこと
  • 違法性阻却事由がないこと(正当防衛など)
  • 責任阻却事由がないこと

なかでも、犯行時に精神疾患を患っていたり、若年者であったりしたときには、3つ目の要件である責任能力の有無が問題になります。

たとえば、犯行当時の犯人の年齢が10歳なら刑事未成年者であることを理由に責任能力がないと判断され、刑事責任を問われることはありません。

また、犯行当時に犯人が統合失調症などの深刻な症状に悩まされていたり、覚せい剤の影響で幻覚を見ていたりする場合には、心神喪失・心神耗弱への該当性が問題になり、刑事責任が減免される可能性があります。

つまり、犯行に及んだ被疑者・被告人の属性や精神状況が、「責任能力の有無」という観点で考慮されるということです。

心神喪失は責任阻却事由の要件で問題になる

刑事事件の要件における「責任阻却事由の有無」の項目で問題になるのが、行為者の責任能力です。

責任能力とは、「刑事責任非難に値する能力」を意味します。

また、責任能力が欠如する状態であることを「心神喪失」と呼ばれます。

そして、刑法第39条第1項では、心神喪失者の行為は罰しないと定められています。

なぜなら、心神喪失者には刑事責任能力が存在しないため、刑事責任を科すための要件を満たさないからです。

心神喪失の内容・定義

刑法に規定されているのは、「心神喪失者の行為は罰しない」というルールのみです。

どのような状態の行為者が心神喪失に該当するのかについて、刑法には一切規定がありません。

そこで、最高裁判所は、心神喪失を「精神の障害により、行為の違法性を弁識し(事理弁識能力)、その弁識にしたがって行動を制御する能力(行為制御能力)を欠く状態のこと」と定義しています。

つまり、事理弁識能力または行動制御能力のどちらか一方を欠く状態になると、心神喪失に該当することを理由に刑事責任を科されずに済むのです。

事理弁識能力と行動制御能力のそれぞれの定義は、以下のとおりです。

刑事責任能力の内容
  • 事理弁識能力:自分の行為の違法性を判断する能力(やろうとしていることが悪いことだと理解する能力)
  • 行動制御能力:行為の違法性を弁識したときに当該行為を制御する能力(悪いことだと理解したときに問題の行為をやめることができる能力)

なお、心神喪失と似た概念として「心神耗弱」が挙げられます。

心神耗弱とは、精神の障害によって事理弁識能力・行動制御能力が著しく限定されている状態のことです。

心神喪失のように無罪になることはありませんが、刑の減軽という効果を得られます。

心神喪失の判断要素

心神喪失の状態であったかどうかを判断するときには、病歴や犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様、犯行後の行動、犯行以後の病状など、さまざまな事情が考慮されます。

たとえば、被疑者・被告人が精神鑑定を受けた結果、心神喪失の状況にあったという鑑定書が出されたとしても、ほかの事情を考慮した結果、心神喪失とは判断されないケースもあるのです。

実際、統合失調症を罹患していたとしてもそれだけを理由に心神喪失になるわけではなく、心神耗弱にとどまるという判断がされることもあります。

以上を踏まえると、心神喪失は画一的な基準や医学的所見によって判断されるものではなく、あくまでも裁判所の評価、法律判断によるものだといえるでしょう。

なぜ心神喪失者のように刑事責任能力がない人だと無罪になるのか?

では、心神喪失者が刑事責任能力がないことを理由に無罪になるのはなぜでしょうか。

ここでは、その理由について解説します。

1.犯罪に及んだときに物事の善悪を判断できないから

心神喪失状態にあるということは、事理弁識能力・行動制御能力のどちらかひとつを欠いている状態です。

事理弁識能力を欠いているということは、自分がしようとしている行為が違法か適法か、物事の善悪自体を判断できないことを意味します。

物事の良い悪いを判断できない人物に刑事罰を科すのは、刑法が採用している「責任主義」に反するといえるでしょう。

2.処罰を与えても本人がその意味を理解できないから

心神喪失者に対して刑事処罰を下したとしても、なぜ自分が刑事罰を科されるかを理解することができません。

心神喪失者は物事の善悪を判断できない場合やあるほか、善悪自体は判断できたとしても自分の意思で違法行為をやめることができないからです。

そもそも、刑事罰は犯人に対して、再犯の予防・抑止、更生を促すために科されるものです。

しかし、刑事罰を科される意味そのものを理解できない状態なら、仮に刑事罰を科したところで、再犯予防などの効果を期待することができません。

そのため、心神喪失者に対しては刑事責任を追及しないというルールが徹底されているのです。

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心神喪失を理由に無罪判決が出されることに納得できないのはなぜか?

被害者やその家族にとっては、心神喪失であることだけを理由に無罪になることに納得できない人もいるでしょう。

ここでは、心神喪失を理由に無罪判決が下されることに納得できない理由を紹介します。

1.理由がどうあれ犯罪をしているから

心神喪失を理由に無罪になったとしても、犯罪行為に及んでいること自体は事実です。

本来は重い刑事責任を問われるのに、「加害者本人に斟酌するべき事情がある」というだけで、どれだけ重い罪を犯しても無罪になる、という点にアンバランスさを抱く人は多いでしょう。

2.被害者やその家族が報われないから

殺人罪や窃盗罪などの犯罪には、被害者や被害者家族が存在します。

「何の罪もない犯罪被害者が生命・身体・経済的に不利益を被っているのに、心神喪失者は何の刑事責任も果たしていない」という点に不信感が募る人は多いのでしょう。

3.心神喪失を理由に処罰を逃げているように感じるから

心神喪失が問題になるケースでは、覚せい剤中毒者や飲酒で酩酊状態になった加害者についても問題になることが多いです。

このような人物が「自分は犯行当時に心神喪失状態にあったから」と主張すると、覚せい剤や飲酒などを言い訳にして刑事罰を逃れようとしているような狡さを感じてしまいます。

心神喪失で無罪になった後の流れ

一定の重大犯罪事件を起こしたものの心神喪失などを理由に刑事処分・有罪判決を免れた人に対しては、適切な医療を提供し、社会復帰を促進することが目指されています。

この制度のことを「医療観察法制度」と呼びます。

医療観察法制度が適用されると、以下の流れで心神喪失者に対する対応が決定されます。

  1. 検察官が地方裁判所に対して対象者を鑑定入院させる旨の決定を求めて申し立てをする
  2. 明らかに必要がないと認められる場合を除いて、地方裁判所が対象者を鑑定入院させる
  3. 鑑定入院期間中に、意思が鑑定をおこなって意見書を作成する
  4. 審判期日において、地方裁判所が対象者に対する医療措置の内容などを決定する

なお、医療観察法制度が適用されるのは、以下の犯罪類型に該当する行為に及んだ場合に限られます。

  • 現住建造物等放火罪、非現住建造物等放火罪、建造物等以外放火罪、これらの未遂罪
  • 不同意わいせつ罪、不同意性交等罪、監護者わいせつ及び監護者性交等罪、これらの未遂罪
  • 殺人罪、自殺関与罪、同意殺人罪、これらの未遂罪
  • 傷害罪
  • 強盗罪、事後強盗罪、これらの未遂罪

また、医療観察法制度は、心神喪失・心神耗弱を理由に刑事裁判で無罪や刑の減軽を受けた人だけではなく、「対象行為をおこなったことが認定されたものの、心神喪失・心神耗弱であることが認められるために不起訴処分が下された者」にも適用されます。

このように、心神喪失で無罪や不起訴になったとしても、対象者に対して一定の医療的措置が下されるのです。

心神喪失を理由に無罪を狙うときに弁護士へ相談するメリット

心神喪失を理由に無罪を目指すときには、できるだけ早いタイミングで弁護士へ相談・依頼をすることをおすすめします。

刑事弁護実績やノウハウが豊富な専門家の力を借りることによって、以下のメリットを得られるからです。

  • 犯行時に統合失調症などの影響があったことを立証するために役立つ診断書・鑑定書を独自に用意してくれる
  • 被害者との間で早期に示談交渉をして刑事事件化の回避を目指してくれる
  • 逮捕・勾留による長期の身柄拘束の阻止を目指してくれる
  • 捜査段階から心神喪失を主張して、微罪処分や不起訴処分獲得を目指してくれる
  • 診断書・鑑定書以外に、個別具体的な事実を積み上げて犯行時に心神喪失状態であったことを公判廷で主張・立証してくれる
  • 心神喪失者をケア・バックアップする環境が整っていることを裁判官にアピールして無罪判決獲得の可能性を高めてくれる
  • 事案の状況から心神喪失の認定が難しいケースなら、心神耗弱を求めるなど、柔軟な弁護活動を期待できる

刑事裁判において心神喪失の判断を引き出すのは簡単ではありません。

なぜなら、捜査機関側が用意する鑑定書などの客観的証拠に対抗するために、被疑者・被告人側でもさまざまな証拠を準備しなければいけないからです。

特に、心神喪失が争点になるケースでは、当番弁護士や国選弁護人などの制度を利用するのではなく、刑事事件を得意とする私選弁護人に相談・依頼すべきでしょう。

さいごに|心神喪失者が無罪なのは人権侵害を防止する意味合いもある!

心神喪失者は刑法第39条第1項の規定に基づいて無罪と扱われます。

現行刑法では責任主義が採用されており、事理弁識能力・行動制御能力を欠く人物に対して刑事責任を追及するべきではないと考えられているからです。

しかし、実際に刑事訴追されたケースで心神喪失の判断を勝ち取るのは簡単ではありません。

刑事裁判では、診断書や医師の意見書だけではなく、犯行当時の事情を総合的に考慮し、心神喪失に該当するか否かが判断されるからです。

刑事手続きで心神喪失を争点にする場合には、刑事裁判経験豊富な弁護士のサポートが不可欠といえます。

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この記事の監修者
澤田 剛司 (東京弁護士会)
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編集部

本記事はベンナビ刑事事件(旧:刑事事件弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ刑事事件(旧:刑事事件弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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