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インサイダー取引とは|発覚する理由・罰金や懲役・事例を紹介

インサイダー取引とは|発覚する理由・罰金や懲役・事例を紹介

インサイダー取引とは、会社内部の情報を知る人間が、重要事実についての情報公表前に株式の売買等を行うことを指します。行為による損得自体は問わないため、もしインサイダー取引を行って損をした場合も該当します。

インサイダー取引は金融商品取引法で規制されている違法行為です。もし違反した場合には罰金や懲役刑となり、法人は5億円以下の罰金が科せられます。

この記事では、インサイダー取引の規制内容や罰則、事例などについてご紹介します。

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インサイダー取引の基本概要

引用元:インサイダー取引について|証券取引等監視委員会

インサイダー取引については、対象者、重要事実、公表の3点が重要な構成要素で、まずは、それぞれの用語について解説します。

対象者

対象者は会社関係者情報受領者の2つに分類されます。

会社関係者

インサイダー取引規制によると、会社関係者には、上場企業の取締役や社員はもちろん、パートやアルバイトなども含まれます。さらに、法令に基づく権限を有する者やその会社と契約を締結している者も含まれますので、許認可権限を有する公務員やコンサルタント業者なども会社関係者に含まれます。

 

情報受領者

情報受領者とは、会社関係者を通して重要事実について知った人間のことを指します。以下のケースのように、従業員のなど家族、会社内部の人間でない場合も該当します。

[ワシントン 28日 ロイター] - 米証券取引委員会(SEC)は28日、米アマゾン・ドット・コムAMZN.Oの元財務マネジャーと家族2人を提訴した。2016─18年の間、同社の決算情報を事前に得てインサイダー取引をした疑いがある。 容疑がかけられたのは、アマゾンの税務部門でシニア・マネジャーを務めていたラクシャ・ボーラ氏。同社の業績に関する機密性の高い情報を夫に知らせていたとされる。 訴状によると、ボーラ氏の夫とその父は、事前に得た情報を元にインサイダー取引を実行。不正に約140万ドルを得たという。 連邦証券法の規定に違反しているとして、SECはボーラ氏ら3人をシアトルの連邦裁判所に提訴した。3人は不正に得た総額約142万ドルの返還のほか、審理前利息の約11万ドル、制裁金総額約110万ドルの支払いに合意した。

引用元:米SEC、アマゾン元財務マネジャーら提訴 インサイダー取引で|ロイター

重要事実

重要事実とは、会社の株価変動にかかわるような情報のことを指します。インサイダー情報とも呼ばれます。

重要事実は、決定事実、発生事実、決算情報、バスケット条項(その他)などに分類されます。

決定事実(金融商品取引法第166条2項1号)

決定事実とは、会社が『行うことについて決定』したこと、または公表されている決定に係る事項を『行わないことを決定』した事項が該当します。

具体例としては、新株発行や資本金の減少、買収、会社の合併・吸収、事業の譲渡・譲り受け、新製品・新技術の開発などです。

発生事実(金融商品取引法第166条2項2号)

発生事実とは、会社側の意思に関係なく発生した事実が該当します。

具体例としては、災害に起因する損害や主要株主の異動、上場廃止などです。

決算情報(金融商品取引法第166条2項3号)

決算情報とは、直近、公表された予想値と比べて一定の差異が生じた場合の決算数値が該当します。

具体例としては、予想値と一定程度乖離した売上高や営業利益、純利益などです。

バスケット条項(その他)(金融商品取引法第166条2項4号)

バスケット条項とは、上の3つには該当しないものの、会社の株価変動上場会社の運営、業務または財産に関する重要な事実であって、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす情報のことを指します。例として、株主優待制度の廃止などが該当します。

バスケット条項は、2017年3月に発覚したインサイダー取引事件にて、初めて適用されました。

3月7日。証券取引等監視委員会(以下、監視委員会)は、旭化成の子会社・旭化成建材の社員がインサイダー取引をしたとして、課徴金の納付命令を出すようにと内閣総理大臣と金融庁長官に勧告した。

監視委員会によれば、2015年10月、この社員は旭化成建材が施工した杭工事にデータの転用・加筆があったことを打合せの場で知った。この社員は、旭化成の株を当時8000株保有しており、うち3000株を同年10月7日と同9日に売却した。

翌週の14日午前10時半。親会社の旭化成はデータ転用・加筆の事実を開示した。前日13日の終値は930円、当日は13円しか下げなかったが、翌日には125円も下げた。20日には一時700円台を割り込むなど、データ転用・加筆の株価への影響は小さくなかった。

この社員は神奈川県在住の50歳代男性だという。現在も旭化成建材の社員かどうかなど「今現在の立場は把握していない」(監視委員会)。少なくとも、当時、工事担当者ではなかった。

引用元:旭化成建材、63万円インサイダー摘発の深謀|東洋経済オンライン

子会社に関する重要事実(金融商品取引法第166条2項5号から8号)

上場会社だけでなく、上場していない子会社の重要事実についても、同様に該当します。

公表(金融商品取引法第166条4項)

重要事実について公表されたあとであれば、対象者でも株式等の売買が可能です。公表については以下のように定義されており、どれか1つさえ該当すれば公表済みとなります。

  • 2以上の報道機関に対して公開され、12時間経過したこと
  • TDnet等により公衆の縦覧に供されたこと
  • 有価証券届出書等に記載し、公衆の縦覧に供されたこと

引用元:インサイダー取引規制の概要|金融庁

インサイダー取引が発覚する理由

年度 H17~24 H25 H26 H27 H28 H29 H30 R1 R2
勧告件数 168 42 42 35 51 26 33 29 6

引用元:不公正取引に係る課徴金納付命令勧告の実施状況(令和2年11月末現在)|証券取引等監視委員会

インサイダー取引に関する事件は、毎年一定数発生しています。インサイダー取引は、売買審査内部告発などによって発覚します。

売買審査

引用元:売買審査の状況(2018年4月~2019年3月)|日本取引所グループ

インサイダー取引の監視については、日本取引所グループの傘下である日本取引所自主規制法人が担当しています。業務内容は、特定銘柄の売買状況に関する調査や、取引状況に関する審査などです。

もし違法性が確認できる場合には、速やかに証券取引等監視委員会へ通達、課徴金納付勧告など適切な措置が下されます。

内部告発

内部告発によってインサイダー取引が発覚するケースも存在しますが、中には告発したことで会社との関係が泥沼化するようなこともあります。

内部告発の報復として降格や解雇の処分を受けたとして、大王製紙の元課長の男性(52)が同社を相手取り、処分の無効確認などを求めた訴訟の判決で、東京地裁(鷹野旭裁判官)は14日、「解雇は無効」と判断し、勤務していれば受け取ったはずの給与の支払いを命じた。告発内容は「真実と認められず、手法や目的も不適当」とし、降格処分は有効とした。

引用元:内部告発で報復解雇は無効 大王製紙巡る訴訟で東京地裁判決|日本経済新聞

実際に会社内部の不正を告発する場合は、知識・経験のある弁護士に事前相談した方が、安全かつスムーズに話が進められるでしょう。

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インサイダー取引に関する罰則と事例

インサイダー取引については、金融商品取引法第166条にて禁止されています。

(会社関係者の禁止行為)

第百六十六条 …上場会社等に係る業務等に関する重要事実…については、当該子会社の業務等に関する重要事実であつて、…当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け、合併若しくは分割による承継…又はデリバティブ取引…をしてはならない。

引用元:金融商品取引法第166条1項

3 会社関係者…から当該会社関係者が第一項各号に定めるところにより知つた同項に規定する業務等に関する重要事実の伝達を受けた者…又は職務上当該伝達を受けた者が所属する法人の他の役員等であつて、その者の職務に関し当該業務等に関する重要事実を知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をしてはならない。

引用元:金融商品取引法第166条3項

インサイダー取引の罰則

インサイダー取引の罰則については以下のように定められており、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、法人については5億円以下の罰金が科せられます。

第百九十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

十三 第百五十七条、第百五十八条若しくは第百五十九条の規定に違反した者(当該違反が商品関連市場デリバティブ取引のみに係るものである場合に限る。)又は第百六十六条第一項若しくは第三項若しくは第百六十七条第一項若しくは第三項の規定に違反した者

引用元:金融商品取引法第197条の2第13号

第百九十八条の二 次に掲げる財産は、没収する。ただし、その取得の状況、損害賠償の履行の状況その他の事情に照らし、当該財産の全部又は一部を没収することが相当でないときは、これを没収しないことができる。
一 第百九十七条第一項第五号若しくは第六号若しくは第二項又は第百九十七条の二第十三号の罪の犯罪行為により得た財産
二 前号に掲げる財産の対価として得た財産又は同号に掲げる財産がオプションその他の権利である場合における当該権利の行使により得た財産

引用元:金融商品取引法第198条の2第1項1号

(法人でな第二百七条 法人い団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。以下この項及び次項において同じ。)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。

二 第百九十七条の二(第十一号及び第十二号を除く。)又は第百九十七条の三 五億円以下の罰金刑

引用元:金融商品取引法第207条1項2号

インサイダー取引の事例

最後に、実際に起こったインサイダー取引の事例についてご紹介します。

2019年2月東京高裁の判決

本件は,a社の執行役員であった被告人によるインサイダー取引2件及び取引推奨1件からなる事案である。まず,インサイダー取引についてみると,会社の営業部門の執行役員という立場にありながら,職務上知り得た情報を用いた巧妙なもので,親族や知人を巻き込み2万6200株のa社株を8280万円余りを費やして買い付けるなど取引規模は相応に大きく,態様は悪質である。短絡的,利欲的で動機に酌むべき点はみられず,売抜けによって得た利益も1330万円余りと多額に上る。また,取引推奨についてみると,前記知人にも利益を得させるとともに,自己のインサイダー取引への協力を確実にさせるために行われたもので,結果として実際にa社株が買い付けられ,売抜けにより利益も得られたというのであるから,態様はやはり悪質である。本件各犯行により,被告人が金融商品市場の公正性や健全性に対して与えた悪影響も軽視できない。以上によれば,被告人の刑事責任は相応に重い。
 他方で,事実を素直に認めて反省の態度を示していること,既にa社の執行役員及び関連会社の取締役から解任されていること,元同僚が当公判廷で証言し,今後友人として見守っていく旨約束していること,前科前歴がないことなど,酌むべき一般情状も認められる。
 そこで,被告人を主文のとおりの刑に処した上,今回に限りその懲役刑の執行を猶予することが相当と判断した。
 なお,犯罪行為により得た利益のみならず,取得した財産ないしその対価全ての没収,追徴を定めた金融商品取引法198条の2の趣旨からすれば,本件ではインサイダー取引で取得したa社株の売付代金合計9612万1000円の全額を追徴すべきであり,妻の妹の資金や実妹からの借入金を用いて買付けを行ったことや,現在の被告人の資産額といった事情により,本件が同条1項ただし書を適用して追徴額を減免すべき場合となるとは解されない。

参考:東京地裁裁 平成31年2月27日(Westlaw Japan 文献番号 2019WLJPCA02276002)

被告人の親族や知人を巻き込み株の買付を行った態度は悪質であるが、容疑を認め十分反省の様子を見せており、前科もないことからこのような判決となった。

2017年12月東京地裁の判決

1 被告人Y2は,会社の取締役の職務に関し,公開買付価格が当時の市場価格の2倍以上となる公開買付け情報を知り,発覚するリスクを避けるため,他人にインサイダー取引を行わせて分け前を得ようと,旧知の被告人AことY1に情報を伝達し,実際に180万円の報酬を得ている。
 被告人AことY1は,被告人Y2からの情報提供を受け,2万2000株を合計1988万9000円で買い付け,公表後に全株券を売却し合計4507万8000円を得ている。不正に買い付けた株券の額や売却益からは,インサイダー取引の事案としては相応の規模であり,証券市場の公正さを害し,市場に対する信頼を損なっている。
 2 被告人Y2は,取締役の立場で知った情報を悪用し,発覚しないように工夫して第2の犯行に及んでいるから,被告人Y2の得た報酬額が180万円であることや後記のとおり被告人AことY1のインサイダー取引が同被告人の判断で規模が拡大されたことを考慮しても,その刑事責任は軽くない。
 被告人AことY1は,被告人Y2から情報提供を受けて関与することになったが,自ら資金調達するなどして,インサイダー取引の規模を大きくしたのであるから,その刑事責任は被告人Y2よりも重いということになる。
 3 他方,被告人両名は,それぞれ前科前歴がなく,捜査段階から罪を認め,公判廷でも反省の態度を示し,今後は株取引に関わらない旨述べている。
 インサイダー取引の規模を中心にこれらの事情を総合考慮すると,被告人両名にはそれぞれ主文の懲役刑と罰金刑を併科した上,その懲役刑の執行を猶予するのが相当である。
 4 なお,被告人AことY1の弁護人は,本件買付が借入金でなされたこと,売却代金は債務の返済や他の株購入等により全て費消したことなどを理由に,同人への追徴額を低額にすべきである旨を主張するが,売却代金を債務の返済等に用いている場合には,その相当額を同被告人が実質的に利得したことになるから,当然に追徴すべきであって,弁護人の指摘する諸事情を検討しても金融商品取引法198条の2の趣旨を踏まえると,被告人AことY1に対しては,取得した株券の売却代金全額を追徴することが相当である。

参考:大阪地裁 平成29年12月18日(Westlaw Japan 文献番号 2017WLJPCA12186005)

まとめ

インサイダー取引は、社員だけでなく、パートや会社関係者の家族なども対象者となります。

インサイダー取引にあたるとは知らなかった場合や、利益が出ていない場合なども罰せられますので、ご注意ください。この記事が、インサイダー取引の未然防止につながれば幸いです。

参照元一覧

インサイダー取引について|証券取引等監視委員会

旭化成建材、63万円インサイダー摘発の深謀|東洋経済オンライン

インサイダー取引規制の概要|金融庁

不公正取引に係る課徴金納付命令勧告の実施状況(令和2年11月末現在)|証券取引等監視委員会

売買審査の状況(2018年4月~2019年3月)|日本取引所グループ

内部告発で報復解雇は無効 大王製紙巡る訴訟で東京地裁判決|日本経済新聞

金融商品取引法

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この記事の監修者
上田孝明 弁護士 (東京弁護士会)
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編集部

本記事はベンナビ刑事事件(旧:刑事事件弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ刑事事件(旧:刑事事件弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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