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インサイダー取引とは|規制の中身や実際にあった事例について解説
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公開日:2018.6.21

インサイダー取引とは|規制の中身や実際にあった事例について解説

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所
上田孝明 弁護士
監修記事
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インサイダー取引とは、会社内部の情報を知る人間が、重要事実についての情報公表前に株式の売買等を行うことを指します。行為による損得自体は問わないため、もしインサイダー取引を行って損をした場合も該当します。

 

インサイダー取引は金融商品取引法で規制されている違法行為です。もし違反した場合には罰金や懲役刑となり、法人は5億円以下の罰金が科せられます。

 

この記事では、インサイダー取引の規制内容や罰則、事例などについてご紹介します。

 

 

インサイダー取引の基本概要

引用元:事務局説明資料|金融庁

 

インサイダー取引については、対象者、重要事実、公表の3点が重要な構成要素で、まずは、それぞれの用語について解説します。

 

対象者

対象者は会社関係者情報受領者の2つに分類されます。

 

会社関係者

インサイダー取引規制によると、会社関係者には、上場企業の取締役や社員はもちろん、パートやアルバイトなども含まれます。さらに、法令に基づく権限を有する者やその会社と契約を締結している者も含まれますので、許認可権限を有する公務員やコンサルタント業者なども会社関係者に含まれます。

 

情報受領者

情報受領者とは、会社関係者を通して重要事実について知った人間のことを指します。以下のケースのように、従業員の母親など、会社内部の人間でない場合も該当します。

 

証券取引等監視委員会は25日、インサイダー取引をしたとして、パナソニックの社員や大和ハウス工業の元社員らに課徴金納付命令を出すよう金融庁に勧告した。

監視委によると、パナソニックの社員は大阪府在住の20代男性。2013年3月に取引先の田中化学研究所が住友化学と業務提携することを公表前に知り、直前に田中化学研究所株を買い付けた。公表後に売却し30万円前後の利益を得た。社員は埼玉県に住む60代の母親に情報を伝え、母親も田中化学研究所株を購入した。課徴金は社員が68万円、母親が50万円。大和ハウス工業元社員は東京都在住の40代男性。監視委は1314万円の課徴金納付命令を出すよう勧告した。13年4月、不動産業のコスモスイニシアと資本業務提携すると知り、コスモスイニシア株を買い付け、約590万円の利益を得た。

引用元:監視委、パナソニック社員と大和ハウス元社員らに課徴金勧告|日本経済新聞

 

重要事実

重要事実とは、会社の株価変動にかかわるような情報のことを指します。インサイダー情報とも呼ばれます。

 

重要事実は、決定事実、発生事実、決算情報、バスケット条項(その他)などに分類されます。

 

決定事実(金融商品取引法第166条2項1号)

決定事実とは、会社が『行うことについて決定』したこと、または公表されている決定に係る事項を『行わないことを決定』した事項が該当します。

具体例としては、新株発行や資本金の減少、買収、会社の合併・吸収、事業の譲渡・譲り受け、新製品・新技術の開発などです。

 

発生事実(金融商品取引法第166条2項2号)

発生事実とは、会社側の意思に関係なく発生した事実が該当します。

具体例としては、災害に起因する損害や主要株主の異動、上場廃止などです。

 

決算情報(金融商品取引法第166条2項3号)

決算情報とは、直近、公表された予想値と比べて一定の差異が生じた場合の決算数値が該当します。

具体例としては、予想値と一定程度乖離した売上高や営業利益、純利益などです。

 

バスケット条項(その他)(金融商品取引法第166条2項4号)

バスケット条項とは、上の3つには該当しないものの、会社の株価変動上場会社の運営、業務または財産に関する重要な事実であって、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす情報のことを指します。例として、株主優待制度の廃止などが該当します。

 

バスケット条項は、2017年3月に発覚したインサイダー取引事件にて、初めて適用されました。

 

3月7日。証券取引等監視委員会(以下、監視委員会)は、旭化成の子会社・旭化成建材の社員がインサイダー取引をしたとして、課徴金の納付命令を出すようにと内閣総理大臣と金融庁長官に勧告した。

監視委員会によれば、2015年10月、この社員は旭化成建材が施工した杭工事にデータの転用・加筆があったことを打合せの場で知った。この社員は、旭化成の株を当時8000株保有しており、うち3000株を同年10月7日と同9日に売却した。

翌週の14日午前10時半。親会社の旭化成はデータ転用・加筆の事実を開示した。前日13日の終値は930円、当日は13円しか下げなかったが、翌日には125円も下げた。20日には一時700円台を割り込むなど、データ転用・加筆の株価への影響は小さくなかった。

この社員は神奈川県在住の50歳代男性だという。現在も旭化成建材の社員かどうかなど「今現在の立場は把握していない」(監視委員会)。少なくとも、当時、工事担当者ではなかった。

引用元:旭化成建材、63万円インサイダー摘発の深謀|東洋経済オンライン

 

子会社に関する重要事実(金融商品取引法第166条2項5号から8号)

上場会社だけでなく、上場していない子会社の重要事実についても、同様に該当します。

 

公表(金融商品取引法第166条4項)

重要事実について公表されたあとであれば、対象者でも株式等の売買が可能です。公表については以下のように定義されており、どれか1つさえ該当すれば公表済みとなります。

 

  • 2以上の報道機関に対して公開され、12時間経過したこと
  • TDnet等により公衆の縦覧に供されたこと
  • 有価証券届出書等に記載し、公衆の縦覧に供されたこと

引用元:インサイダー取引規制の概要|金融庁

 

インサイダー取引が発覚する理由

年度

17~21

22

23

24

25

26

27

28

29

勧告件数

92

26

18

32

42

42

35

51

26

引用元:不公正取引に係る課徴金納付命令勧告の実施状況(平成30年3月末現在)|証券取引等監視委員会

インサイダー取引に関する事件は、毎年一定数発生しています。インサイダー取引は、売買審査内部告発などによって発覚します。

 

売買審査

引用元:売買審査の状況(2016年度)|日本取引所グループ

インサイダー取引の監視については、日本取引所グループの傘下である日本取引所自主規制法人が担当しています。業務内容は、特定銘柄の売買状況に関する調査や、取引状況に関する審査などです。

 

もし違法性が確認できる場合には、速やかに証券取引等監視委員会へ通達、課徴金納付勧告など適切な措置が下されます。

 

内部告発

内部告発によってインサイダー取引が発覚するケースも存在しますが、中には告発したことで会社との関係が泥沼化するようなこともあります。

 

内部告発の報復として降格や解雇の処分を受けたとして、大王製紙の元課長の男性(52)が同社を相手取り、処分の無効確認などを求めた訴訟の判決で、東京地裁(鷹野旭裁判官)は14日、「解雇は無効」と判断し、勤務していれば受け取ったはずの給与の支払いを命じた。告発内容は「真実と認められず、手法や目的も不適当」とし、降格処分は有効とした。

引用元:内部告発で報復解雇は無効 大王製紙巡る訴訟で東京地裁判決|日本経済新聞

実際に会社内部の不正を告発する場合は、知識・経験のある弁護士に事前相談した方が、安全かつスムーズに話が進められるでしょう。

 

 

 

インサイダー取引に関する罰則と事例

インサイダー取引については、金融商品取引法第166条にて禁止されています。

 

(会社関係者の禁止行為)

第百六十六条 …上場会社等に係る業務等に関する重要事実…については、当該子会社の業務等に関する重要事実であつて、…当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け、合併若しくは分割による承継…又はデリバティブ取引…をしてはならない。

引用元:金融商品取引法第166条1項

 

3 会社関係者…から当該会社関係者が第一項各号に定めるところにより知つた同項に規定する業務等に関する重要事実の伝達を受けた者…又は職務上当該伝達を受けた者が所属する法人の他の役員等であつて、その者の職務に関し当該業務等に関する重要事実を知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をしてはならない。

引用元:金融商品取引法第166条3項

 

インサイダー取引の罰則

インサイダー取引の罰則については以下のように定められており、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、法人については5億円以下の罰金が科せられます。

 

第百九十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

十三 第百五十七条、第百五十八条若しくは第百五十九条の規定に違反した者(当該違反が商品関連市場デリバティブ取引のみに係るものである場合に限る。)又は第百六十六条第一項若しくは第三項若しくは第百六十七条第一項若しくは第三項の規定に違反した者

引用元:金融商品取引法第197条の2第13号

 

第百九十八条の二 次に掲げる財産は、没収する。ただし、その取得の状況、損害賠償の履行の状況その他の事情に照らし、当該財産の全部又は一部を没収することが相当でないときは、これを没収しないことができる。

一 第百九十七条第一項第五号若しくは第二項又は第百九十七条の二第十三号の罪の犯罪行為により得た財産

引用元:金融商品取引法第198条の2第1項1号

 

第二百七条 法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。以下この項及び次項において同じ。)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は財産に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。

二 第百九十七条の二(第十一号及び第十二号を除く。)又は第百九十七条の三 五億円以下の罰金刑

引用元:金融商品取引法第207条1項2号

 

インサイダー取引の事例

最後に、実際に起こったインサイダー取引の事例についてご紹介します。

 

2010年4月東京地裁の判決

被告人Y1が、a社のインサイダー情報を得て、被告人Y2及び同Y3に対し、両名の各名義の証券取引口座で同社株券を売り付けるよう依頼し、被告人Y2及び同Y3が、これを引き受けて実行したという証券取引法違反の事案及び被告人Y3が、b社のインサイダー情報を得て、同社株券の買付けを実行したという金融商品取引法違反の事案につき、被告人Y1及び被告人Y3に懲役2年6月、執行猶予4年、罰金500万円、被告人Y2に懲役1年6月、執行猶予3年、罰金200万円、被告人Y1に8462万1900円、被告人Y3に2億7218万1900円の追徴を言い渡した事例

 

裁判年月日 平成22年 4月 5日

裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決

事件番号 平21(特わ)2957号

事件名 証券取引法違反、金融商品取引法違反各被告事件

裁判結果 有罪 上訴等 確定

引用元:文献番号 2010WLJPCA04058003

被告人3名に前科は無いものの、積極的に多額のインサイダー取引が行われており悪質性が高く、合計約3億6,000万円という多額の追徴金の支払いが命じられた事件です。

 

2013年6月東京地裁の判決

経済産業省大臣官房審議官として職務に従事していた被告人が、職務上の権限の行使に関して上場企業の合併や第三者増資の事実を知り、同事実公表前に株券を買い付けるインサイダー取引をしたとして金融商品取引法違反の罪で起訴された事案において、弁護人は本件買付け前に経済新聞に合併、増資に関する記事が公表された結果、合併等は公知の事実となっており重要事実でなくなっていたと主張するところ、同記事により重要事実の公表があったとは認められないなどとして、被告人を懲役1年6月、罰金100万円とするとともに懲役刑の執行猶予3年、追徴金1031万9500円の支払を命じた事例

 

裁判年月日 平成25年 6月28日

裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決

事件番号 平24(特わ)91号

事件名 金融商品取引法違反事件

裁判結果 有罪 上訴等 控訴

引用元:文献番号 2013WLJPCA06286001

経済産業省幹部というキャリア官僚が、インサイダー取引に手を染めた事件です。国家公務員による犯行ということで衝撃も大きく、当時話題を呼びました。

 

2013年11月東京地裁の判決

東証一部上場の通信会社の代表取締役会長付き秘書であった被告人が、訴外会社との業務提携、同社の親会社との間の株式交換を行うことを決定した旨の本件通信会社の業務等に関する重要事項を自己の職務に関して知り、その公表前に自社株式を買い付けるというインサイダー取引をしたとして、金商法違反の罪で起訴された事案において、被告人は、違法性を認識しながら、かつ、株式交換等の事実を知り、それが未公表であることを奇貨として利益を得ようと本件犯行に及んだものと認められるなどとする一方、前科前歴がないこと等を考慮して被告人を懲役2年6月、300万円の罰金、約4470万円の追徴金の刑に処し、懲役刑の執行猶予を4年とした上で、本件犯行の結果取得した本件親会社の株式につき、実体法上は必要的没収の対象となるにもかかわらず、手続規定が存在しないため没収できないのは立法の不備というほかないとして、速やかな是正を望むと付言した事例

 

裁判年月日 平成25年11月22日

裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決

事件番号 平25(特わ)484号

事件名 金融商品取引法違反被告事件

裁判結果 有罪

引用元:文献番号 2013WLJPCA11226003

罰金・追徴金などの罰則は科せられたものの、『インサイダー取引によって獲得された株式については没収できない』という、法の抜け穴が明らかとなった事件です。

 

まとめ

インサイダー取引は、社員だけでなく、パートや会社関係者の家族なども対象者となります。

 

インサイダー取引にあたるとは知らなかった場合や、利益が出ていない場合なども罰せられますので、ご注意ください。この記事が、インサイダー取引の未然防止につながれば幸いです。

 

 

 

参照元一覧

事務局説明資料|金融庁

監視委、パナソニック社員と大和ハウス元社員らに課徴金勧告|日本経済新聞

旭化成建材、63万円インサイダー摘発の深謀|東洋経済オンライン

インサイダー取引規制の概要|金融庁

不公正取引に係る課徴金納付命令勧告の実施状況(平成30年3月末現在)|証券取引等監視委員会

売買審査の状況(2016年度)|日本取引所グループ

内部告発で報復解雇は無効 大王製紙巡る訴訟で東京地裁判決|日本経済新聞

金融商品取引法

この記事の監修者
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所
上田孝明 弁護士 (東京弁護士会)
依頼者を第一に考え、適切な手続と結果にする為の刑事弁護に注力。厳しい立場に置かれているクライアントの力になり、不当な取り調べや失職などの不利益から守るために、逮捕前から裁判終了まで幅広く対応している。
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編集部

本記事は刑事事件弁護士ナビを運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※刑事事件弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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