詐欺罪は刑法246条で規定されている犯罪で、法定刑は10年以下の懲役と定められています。
罰金刑がありませんから、重大な犯罪といってよいでしょう。
もし詐欺罪で逮捕されると刑務所で拘置にされる可能性があるうえ、重大なものであれば新聞やニュースなどでも報道されてしまい、刑事裁判の判決も出ていないのに「犯人扱い」になってしまう可能性もあります。
ただし、犯罪を犯して逮捕されたとしても、必ず実刑になるかといえばそうとも言い切れません。
前科・前歴の有無や詐欺の被害額、詐欺の様態によっては、不起訴処分や執行猶予付き判決を獲得できる可能性もあります。
本記事では、詐欺が成立する要件や詐欺罪の刑事手続で知っておきたいことについて解説します。
ご家族や自身が詐欺罪で逮捕された方へ
詐欺罪で逮捕されると、10年以下の懲役を科される可能性があります。
そういった事態を防ぎ、不起訴や執行猶予付き判決を獲得するためには、すぐに弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士ならば、下記のような弁護活動を効果的におこなえます
- 逃亡や証拠隠滅をする可能性がないことを資料の提出とともに主張し、勾留を防ぐ
- 被害者と示談・損害賠償をおこない宥恕文言(処罰を望まないこと)を得る
- 反省文の提出や贖罪(しょくざい)で反省の意を示す
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刑法第246条|詐欺罪
詐欺罪は、刑法第246条に規定されています。
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
引用元:刑法第246条 詐欺罪
詐欺罪は1項・2項に分かれています。
振り込め詐欺や結婚詐欺といった一般的にいう詐欺行為にあたるのが1項で、無銭飲食や無賃乗車などのように詐欺行為によって支払いを免れる手口を罰するのが2項です。
このような分類があるため、それぞれを「1項詐欺」「2項詐欺」とも呼びます。
詐欺罪で有罪になった場合の刑罰
詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役です。
1項・2項ともに同じ刑罰が規定されています。
懲役刑のみで罰金刑は定められていないため、有罪判決を受けた場合は確実に懲役刑が科されるという意味では非常に重い罪だといえるでしょう。
なお、刑事事件における公訴時効は7年(刑事訴訟法第250条)、民事における時効は3年(民法第724条)と定められています。
ただし、詐欺罪は特に成立の判断が難しい犯罪のひとつです。
一般的にいう詐欺的な行為も、構成要件に照らすと刑法の詐欺罪には該当しないケースも少なくありません。
詐欺罪の構成要件
詐欺罪が成立するには、次の4つの構成要件をすべて満たしていなければなりません。
行為 |
内容 |
欺罔 |
人を錯誤に陥らせる行為 |
錯誤 |
観念と真実との不一致 |
財物の処分行為 |
被害者の錯誤に基づく財産的処分行為によって財物を得ること |
因果関係 |
欺罔・錯誤に基づき財産処分行為をした |
欺罔行為(ぎもうこうい)は、人をだまし欺く行為です。
詐欺罪において欺罔行為は、人に対しておこなわれることで成立します。
ここでいう「人」というのは、財物について事実上または法律上、財産的処分行為ができる権限、またはその地位に立っているもののことを指します。
次に錯誤についてですが、財産の処分行為をするように動機づけられるもののことを指しています。
「どうせ嘘だろう」と思いながらもしぶしぶお金を渡すようなケースでは、錯誤に陥っていないため詐欺罪は成立しません。
財産の処分行為とは、被害者が財産上の利益を加害者に渡すことを意味します。
お金を振り込むなどの行為が該当します。
最後の因果関係とは、財産の処分行為に、欺罔と錯誤との因果関係があることです。
錯誤や欺罔があっても、別の名目で加害者にお金を渡したのであれば、詐欺罪には該当しません。
このように、詐欺罪として成立するには、行為者の人を欺く行為(欺罔)によって、相手方が嘘を真実だと信じ(錯誤)、それに基づいて被被害者から加害者に財産が渡り(財物の処分行為)、財物の占有を行為者または第三者に移転する(因果関係)という4つの要件が必要です。
構成要件をひとつでも欠いてしまうと詐欺罪の成立は否定されます。
財物を交付する前に嘘に気づき、財産の移転を免れた場合は詐欺未遂となります。
オレオレ詐欺で構成要件を理解する
詐欺罪の構成要件は、難しい用語が登場するためわかりにくい面もあるかもしれません。
そこで、特殊詐欺として代表的な「オレオレ詐欺」を例にとって、構成要件別の行為を一覧で確認しましょう。
行為 |
オレオレ詐欺での行為 |
欺罔 |
「オレだけど」「会社のお金を使い込んで今日中に弁済しないと解雇される」などと身分を偽って、現金が必要な理由の嘘を伝える |
錯誤 |
「息子が大変なトラブルに陥っている」と信じ込んでしまう |
財物の処分行為 |
指定された銀行口座に現金を振り込む |
因果関係 |
「トラブルに遭った」という嘘を信じて現金を振り込んだ |
結婚詐欺・寸借詐欺・不動産詐欺・架空請求詐欺など、どの手口でも同じように4つの構成要件に分解できます。
詐欺の共犯として巻き込まれる場合がある
詐欺事件の加害者になってしまう状況は、自分自身が積極的に相手をだました場合だけではありません。
思いがけず詐欺事件に加担したかたちになり、詐欺の共犯と扱われてしまうケースも増加しています。
たとえば「高収入のアルバイトがある」という話にのって、指示された住宅に出向いてキャッシュカードを受け取ってきただけでも、振り込め詐欺の受け子として共犯で罰せられてしまうでしょう。
詐欺だとは知らずに巻き込まれても、厳しい処分がくだされるおそれがあるので要注意です。
思いがけず詐欺の共犯として容疑をかけられてしまった場合は、素早い対処が必要です。
ただちに弁護士に相談しましょう。
詐欺罪で逮捕されたときの流れ
詐欺事件を起こして逮捕されてしまうと、次のような流れで刑事手続を受けることになります。
ここでは各手続きの内容や期間などを解説します。
最長48時間の警察取調べ
警察に逮捕されると、警察署の留置場に身柄を拘束されながら、警察官による取調べを受けます。
逮捕容疑となった事実を認めるのか、どのような行為を自認するのか、反論はあるのか、詐欺行為ではないと否認するのかなど、この段階ではおもに「認める・認めない」を焦点に取調べが展開されるでしょう。
詳しい取調べに至らないのは、逮捕から48時間以内に検察庁に送致するというタイムリミットがあるからです。
身柄を拘束されても寝食の時間は確保されるほか、送致前の手続きや検察庁への移動なども必要になるので、実際に取調べがおこなわれる時間は半日程度が限界でしょう。
なお、逮捕後72時間は弁護士を除いて面会できません。
検察官の持ち時間は24時間
送致を受けた検察官は、24時間以内に起訴・不起訴を判断し、起訴しない場合は釈放しなくてはなりません。
ただし、この段階では取調べが尽くされていないケースがほとんどなので、検察官は身柄拘束の延長を求めて裁判所に勾留の許可を請求します。
最長20日間の勾留
裁判所が勾留を認めるのは原則10日間までです。
ただし、10日間が経過するまでに捜査が尽くされていない場合は、延長の請求によってさらに10日間の勾留が認められます。
つまり、勾留の期間は最長で20日間です。
詐欺事件は事件の全容が入り組んでいるケースが多いため、「勾留の必要性がない」または「延長の必要はない」と判断される可能性は低いでしょう。
勾留が決定すると、被疑者の身柄は検察庁から警察に戻されます。
基本的には、警察署の留置場や警察本部の留置センターに留置され、期限内は警察官による取調べを受けながら、2~3回程度の検察官調べも受けるのが一般的な流れです。
なお、逮捕後72時間を過ぎれば面会可能ですが、証拠隠滅や逃亡などの恐れがある場合や組織犯罪の可能性がある場合などは、引き続き面会を禁止する接見禁止の処分がくだされることもあります。
起訴後の刑事裁判で刑罰が確定
最長20日間の勾留が満期を迎える日までに検察官が起訴すると、裁判所にて刑事裁判がおこなわれます。
罰金刑が定められている犯罪であれば、手続きが簡易的な略式裁判で裁かれることもありますが、懲役刑しかない詐欺罪の場合は略式裁判にはなりません。
刑事裁判では、被告人の尋問や証拠の取調べなどがおこなわれ、裁判官による有罪・無罪の決定とあわせて「どの程度の刑罰が適当か」が判断されるでしょう。
詐欺罪は10年以下の懲役なので、1か月以上10年以下の範囲内で量刑が決定し、刑罰が確定します。
不起訴なら刑事裁判を受けず事件終了
検察官が起訴した場合は刑事裁判が開かれますが、起訴しなかった場合は刑事裁判が開かれません。
「起訴しない」という判断がくだされた場合は不起訴処分となり、即日で釈放されて事件が終了します。
初犯でも不起訴や執行猶予になるとは限らない
これまでに詐欺事件などを起こした前科や前歴がない場合は「初犯」の扱いとなります。
初犯であることは、刑事手続においてさまざまな面で有利にはたらくと考えて間違いないでしょう。
ただし前科や前歴がないからといって、必ずしも不起訴処分や執行猶予付き判決が得られるわけではありません。
とくに詐欺事件の場合、「被害額が高額」「犯行が組織的かつ悪質」「余罪が多数ある」などの事情によっては、初犯でも実刑判決がくだされてしまうおそれがあります。
たとえ初犯であっても、不起訴処分や執行猶予の獲得に向けて最善を尽くす必要があるのです。
示談が成立すれば不起訴や執行猶予になる確率が上がる
示談とは、被害者と加害者の双方による話し合いによって、法廷外で事件を解決する手続きです。
加害者の反省や謝罪の意とともに、返金や被害弁償などを含めた示談金を支払い、被害届や告訴の取り下げを求めます。
被害者がこれに応じて被害届・告訴を取り下げれば、捜査機関や裁判所は「犯人への処罰を求める意思がなくなった」と評価するため、不起訴処分や執行猶予付き判決がくだされる期待が高まるのです。
初犯であっても確実に軽い処分がくだされるわけではないので、不起訴処分・執行猶予付き判決を望む場合は被害者との示談成立を目指しましょう。
示談には弁護士の協力が不可欠
示談交渉を進めるには、弁護士の協力が必要不可欠です。
逮捕されている加害者は自由に外出できないので物理的に交渉不可能ですし、加害者の家族が被害者にコンタクトを取ろうとしても相手にされないケースもあります。
公正な第三者として弁護士が交渉することで、無用な警戒心を和らげるとともに、適切な相場の範囲内での示談金交渉が可能となるでしょう。
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反省と再犯防止の意思が不可欠
示談では「ただ奪ったお金を返済すればいい」というものではありません。
罪を犯したことを心から反省し、二度と罪を繰り返さないという再犯防止の意思を示すことで被害者の心が動くのです。
詐欺で相手からお金をだまし取ってしまったのであれば、真摯に謝罪したうえで、反省の意思や再犯防止の誓いを伝えて許しを請うようにしましょう。
類似の詐欺行為
刑法第246条の詐欺と類似した行為として、電子計算機使用詐欺罪と準詐欺罪があります。
刑法第246条の2|電子計算機使用詐欺罪
電子計算機使用詐欺罪は、刑法第246条2項の補充類型であり、電子計算機が人に代わって自動的に財産権の得喪、変更の事務を処理している場合における不法な財産上の利得行為を処罰するものとされています。
第二百四十六条の二 前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。
引用元:刑法第246条の2 電子計算機使用詐欺罪
条文からは内容がわかりにくいですが、簡単にいうと「機械をだます行為」が電子計算機使用詐欺罪にあたります。
他人名義のクレジットカード情報を悪用してネットショッピングで代金を決済したり、プリペイドカードを改ざんし残額を増やして利用したりする行為が処罰の対象です。
電子計算機使用詐欺罪は、詐欺罪を補充する目的で規定されています。
「相手が機械なので『だます』という行為が成立しない」という争いを経て規定されているという性格をみれば、比較的新しいかたちの詐欺行為に対応するものだといえるかもしれません。
刑法第248条|準詐欺罪
判断能力が十分に備わっていない未成年者や、精神的な疾患によって正常な判断ができない人から、誘惑的な方法で金品などを差し出させて財産上の利益を得る行為は「準詐欺罪」にあたります。
第二百四十八条 未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて、その財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。
引用元:刑法第248条 準詐欺罪
詐欺罪と似ていますが「欺罔・錯誤がなくても成立する」という特徴があります。
判断能力がない者の財産的処分行為によってなされたものであることが要件となり、相手が自ら金品を差し出す能力がない場合は窃盗罪に変化する可能性もあるでしょう。
法定刑は詐欺罪と同じく10年以下の懲役です。
詐欺罪の手口と判例
実際に起きた詐欺事件について、手口や判例を解説します。
保険金詐欺
数人が共謀のうえで故意に自動車事故を起こし、保険会社から約1,675万円の保険金をだまし取った事件では、懲役3年6か月(未決勾留130日算入)の判決がくだされました。
被告人に反省の態度が全く見られず、詐取金の総額が高額であったため、このような判決となりました。
反省や弁済がいかに重要かを物語る事例といえるでしょう。
参考
- 神戸地裁 平成25年7月9日(Westlaw Japan 文献番号 2013WLJPCA07099003)
結婚詐欺
詐欺の古典的な手口として有名なのが結婚詐欺です。
2020年7月には、7人以上女性に対して結婚をほのめかし、お金をだまし取ったとして40代男性が逮捕されました。
被害総額は3,900万円を超えるとのことです。
結婚詐欺は「結婚を理由に財産をだまし取る」という手口なので、一般的な会話に登場するような「結婚を約束していたのに既婚者だった」「結婚するといっていたのに別の相手に心変わりした」というケースは詐欺罪には問われません。
電子計算機使用詐欺
インターネットバンキングに不正な情報を与えて、預金口座の残高を28億円も増額させたなどの罪に問われた事例では、複数の詐欺行為が重なって(併合罪)共犯者2名にそれぞれ懲役14年(未決勾留日数350日・330日をそれぞれ算入)という厳しい判決がくだされました。
同種の手口のなかでも類を見ないほどの巨額被害であり、非難は免れないとして、上限に近い刑罰が科せられた事件です。
詐欺事件の量刑判断に「被害額」が含まれている端的な事例だといえるでしょう。
参考
- 京都地裁 平成30年4月26日(Westlaw Japan 文献番号 2018WLJPCA04269011)
さいごに
詐欺罪で逮捕された場合、警察や検察での取り調べを経て起訴されれば、刑事裁判にて判決がくだされます。
法定刑は10年以下の懲役で、罰金刑は定められていません。
たとえ初犯でも、被害額や悪質性などによっては不起訴処分や執行猶予付き判決を獲得できない可能性もあります。
実刑判決を避けるためには、被害者と示談交渉を進める・反省や再犯防止の意思を積極的に主張するなどの対応が重要です。
刑事事件が得意な弁護士に相談して、最善を尽くしましょう。