詐欺罪は刑法246条で規定されている犯罪で、法定刑は10年以下の懲役と定められています。
もし詐欺罪で逮捕されると、例え無罪でも最長で23日間の身体拘束(勾留)、さらに新聞やニュースで報道されてしまい、刑事裁判の判決も出ていないのに「犯人扱い」になってしまう可能性もあります。
ただし、詐欺罪で逮捕されたとしても、必ず実刑になるかといえばそうとも言い切れません。
本記事では、詐欺罪が成立する要件や弁護士に無料相談できる窓口、詐欺罪の刑事手続で知っておきたいことについて解説します。さらに弁護士費用の相場や逮捕後の流れも解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
ご家族や自身が詐欺罪で逮捕された方へ
詐欺罪で前科を付けたくない(不起訴)や懲役を避けたい(執行猶予付き判決の獲得)するためには、すぐに弁護士に依頼しましょう。
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刑法第246条|詐欺罪
詐欺罪は、刑法第246条に規定されています。
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
引用元:刑法第246条 詐欺罪
端的に言えば、重要な事実に対して嘘をつくなどして、被害者のお金や財物を騙し取ることが該当します。
振り込め詐欺や結婚詐欺といった一般的にいう詐欺行為にあたるのが1項で、無銭飲食や無賃乗車などのように詐欺行為によって支払いを免れる手口を罰するのが2項です。それぞれを「1項詐欺」「2項詐欺」とも呼びます。
だまし取った金額の規定は設けられていないため、例え1万円をだまし取った場合でも、詐欺罪に該当します。
詐欺罪で有罪になった場合の刑罰
詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役です。
懲役刑のみで「罰金刑」は定められていないため、有罪判決を受けた場合は確実に懲役刑が科されるという意味で、非常に重い罪だといえるでしょう。
また、略式起訴と呼ばれる簡易的な裁判手続きを取ることが出来ず、必ず公判請求(刑事裁判)をされることになります。
ただし、必ずしも実刑がつくわけではありません。被害額や相手との示談、弁護士による交渉によって、不起訴・執行猶予が認められる可能性があります。詐欺罪は弁護士に相談するのが重要と言えるでしょう。
なお、刑事事件における公訴時効は7年(刑事訴訟法第250条)、民事における時効は3年(民法第724条)と定められています。
詐欺罪の逮捕率

2022年(令和5年版)の犯罪白書を見ると、詐欺罪の逮捕率は42.4%でした。この数値は警察が事件を認知したうち、被疑者を特定し検挙した割合を示しています。
さらに特殊詐欺(オレオレ詐欺や預貯金詐欺など)の検挙率は54.8%。
実際に警察が認知していない事件も多いため、実際の逮捕率はもう少し低い可能性がありますが、約50%の確率で逮捕されることが分かります。
もし詐欺罪に関わってしまった人は、弁護士に相談するのがおすすめです。現時点で取るべき対応を適切にアドバイスしてくれます。
詐欺罪の懲役年数は「量刑」によって決まる
平成30年版の犯罪白書で確認してみると、詐欺罪の懲役年数の中央値は2~3年が多いことが分かりました。
懲役6か月未満 |
4 |
懲役6か月以上1年未満 |
104(執行猶予29) |
懲役1年以上2年未満 |
1217(執行猶予812) |
懲役2年以上3年以下 |
2270(執行猶予1361) |
懲役3年を超え5年以下 |
461 |
懲役5年を超え7年以下 |
78 |
懲役7年を超え10年以下 |
18 |
懲役10年を超え15年以下 |
4 |
引用:平成30年版犯罪白書
結果を見ると、全体の約84%が懲役1年から3年となっています。
執行猶予が付く事例も多くあるため、詐欺罪=懲役というわけではありません。
ただし、逮捕前後から、できるだけ早いタイミングから迅速に動くことが、判決に大きく影響する可能性があります。
ベンナビ刑事事件を使えば、すぐに無料相談できる弁護士が見つかります。まだ逮捕されていない状態でも、既に警察から電話が来ている状態でも、気軽に電話してみてください。
詐欺罪の構成要件
詐欺罪が成立するには、次の4つの構成要件をすべて満たしていなければなりません。
構成要件 |
内容 |
例 |
①欺罔行為 |
人を錯誤に陥らせる行為 |
嘘を付く、偽りの条件を提示するなど |
②錯誤 |
観念と真実との不一致 |
相手が本当に信じていること
(どうせ嘘だろうと思っている場合は該当しない) |
③財物の処分行為 |
被害者の錯誤に基づく財産的処分行為によって財物を得ること |
お金を振り込む、宝石や貴金属を加害者に渡す |
④因果関係 |
欺罔・錯誤に基づき財産処分行為をした |
①②③の条件に因果関係がある |
このように、詐欺罪として成立するには、行為者の人を欺く行為(欺罔)によって、相手方が嘘を真実だと信じ(錯誤)、それに基づいて被被害者から加害者に財産が渡り(財物の処分行為)、財物の占有を行為者または第三者に移転する(因果関係)という4つの要件が必要です。
構成要件をひとつでも欠いてしまうと詐欺罪の成立は否定されます。なお、財物を交付する前に嘘に気づき、財産の移転を免れた場合は詐欺未遂となります。
オレオレ詐欺で構成要件を理解する
詐欺罪の構成要件は、難しい用語が登場するためわかりにくい面もあるかもしれません。
そこで、特殊詐欺として代表的な「オレオレ詐欺」を例にとって、構成要件別の行為を一覧で確認しましょう。
行為 |
オレオレ詐欺での行為 |
欺罔 |
「オレだけど」「会社のお金を使い込んで今日中に弁済しないと解雇される」などと身分を偽って、現金が必要な理由の嘘を伝える |
錯誤 |
「息子が大変なトラブルに陥っている」と信じ込んでしまう |
財物の処分行為 |
指定された銀行口座に現金を振り込む |
因果関係 |
「トラブルに遭った」という嘘を信じて現金を振り込んだ |
結婚詐欺・寸借詐欺・不動産詐欺・架空請求詐欺など、どの手口でも同じように4つの構成要件に分解できます。
詐欺の共犯でも詐欺罪で逮捕される可能性がある
詐欺事件の加害者になってしまう状況は、自分自身が積極的に相手をだました場合だけではありません。
思いがけず詐欺事件に加担したかたちであっても詐欺罪は成立します。
たとえば「高収入のアルバイトがある」という話にのって、指示された住宅に出向いてキャッシュカードを受け取るという行為だけでも、詐欺罪の構成要件は満たしていることになります。
平成30年12月11日最高裁判決
[判示事項]
指示を受けてマンションの空室に赴き詐欺の被害者が送付した荷物を名宛人になりすまして受け取るなどした者に詐欺罪の故意及び共謀があるとされた事例
[裁判要旨]
マンションの空室に宅配便で現金を送付させてだまし取る特殊詐欺において、被告人が指示を受けてマンションの空室に赴き、そこに配達される荷物を名宛人になりすまして受け取り、回収役に渡すなどしていること、被告人は同様の受領行為を多数回繰り返して報酬等を受け取っており、犯罪行為に加担していると認識していたこと、詐欺の可能性があるとの認識が排除されたことをうかがわせる事情は見当たらないことなどの本件事実関係の下では、被告人には、詐欺の故意に欠けるところはなく、共犯者らとの共謀も認められる。
引用:最高裁判所判例集
詐欺だとは知らずに巻き込まれても、厳しい処分がくだされるおそれがあるので要注意です。
思いがけず詐欺の共犯として容疑をかけられてしまった場合は、素早い対処が必要です。
ただちに弁護士に相談しましょう。
詐欺罪で逮捕されたときの流れ
詐欺事件を起こして逮捕されてしまうと、次のような流れで刑事手続を受けることになります。
ここでは各手続きの内容や期間などを解説します。

最長48時間の警察取調べ
警察に逮捕されると、警察署の留置場に身柄を拘束されながら、警察官による取調べを受けます。
逮捕容疑となった事実を認めるのか、どのような行為を自認するのか、反論はあるのか、詐欺行為ではないと否認するのかなど、この段階ではおもに「認める・認めない」を焦点に取調べが展開されるでしょう。
詳しい取調べに至らないのは、逮捕から48時間以内に検察庁に送致するというタイムリミットがあるからです。
身柄を拘束されても寝食の時間は確保されるほか、送致前の手続きや検察庁への移動なども必要になるので、実際に取調べがおこなわれる時間は半日程度が限界でしょう。
なお、逮捕後72時間は弁護士を除いて面会できません。
検察官の持ち時間は24時間
送致を受けた検察官は、24時間以内に起訴・不起訴を判断し、起訴しない場合は釈放しなくてはなりません。
ただし、この段階では取調べが尽くされていないケースがほとんどなので、検察官は身柄拘束の延長を求めて裁判所に勾留の許可を請求します。
最長20日間の勾留
裁判所が勾留を認めるのは原則10日間までです。
ただし、10日間が経過するまでに捜査が尽くされていない場合は、延長の請求によってさらに10日間の勾留が認められます。
つまり、勾留の期間は最長で20日間です。
詐欺事件は事件の全容が入り組んでいるケースが多いため、「勾留の必要性がない」または「延長の必要はない」と判断される可能性は低いでしょう。
勾留が決定すると、被疑者の身柄は検察庁から警察に戻されます。
基本的には、警察署の留置場や警察本部の留置センターに留置され、期限内は警察官による取調べを受けながら、2~3回程度の検察官調べも受けるのが一般的な流れです。
なお、逮捕後72時間を過ぎれば面会可能ですが、証拠隠滅や逃亡などの恐れがある場合や組織犯罪の可能性がある場合などは、引き続き面会を禁止する接見禁止の処分がくだされることもあります。
起訴後の刑事裁判で刑罰が確定
最長20日間の勾留が満期を迎える日までに検察官が起訴すると、裁判所にて刑事裁判がおこなわれます。
罰金刑が定められている犯罪であれば、手続きが簡易的な略式裁判で裁かれることもありますが、懲役刑しかない詐欺罪の場合は略式裁判にはなりません。
刑事裁判では、被告人の尋問や証拠の取調べなどがおこなわれ、裁判官による有罪・無罪の決定とあわせて「どの程度の刑罰が適当か」が判断されるでしょう。
詐欺罪は10年以下の懲役なので、1か月以上10年以下の範囲内で量刑が決定し、刑罰が確定します。
不起訴なら刑事裁判を受けず事件終了
検察官が起訴した場合は刑事裁判が開かれますが、起訴しなかった場合は刑事裁判が開かれません。
「起訴しない」という判断がくだされた場合は不起訴処分となり、即日で釈放されて事件が終了します。
初犯でも不起訴や執行猶予になるとは限らない

これまでに詐欺事件などを起こした前科や前歴がない場合は「初犯」の扱いとなります。
初犯であることは、刑事手続においてさまざまな面で有利にはたらくと考えて間違いないでしょう。
ただし前科や前歴がないからといって、必ずしも不起訴処分や執行猶予付き判決が得られるわけではありません。
とくに詐欺事件の場合、「被害額が高額」「犯行が組織的かつ悪質」「余罪が多数ある」などの事情によっては、初犯でも実刑判決がくだされてしまうおそれがあります。
示談が成立すれば不起訴や執行猶予になる確率が上がる
示談とは、被害者と加害者の双方による話し合いによって、法廷外で事件を解決する手続きです。
加害者の反省や謝罪の意とともに、返金や被害弁償などを含めた示談金を支払い、被害届や告訴の取り下げを求めます。
被害者がこれに応じて被害届・告訴を取り下げれば、捜査機関や裁判所は「犯人への処罰を求める意思がなくなった」と評価するため、不起訴処分や執行猶予付き判決がくだされる期待が高まるのです。
初犯であっても確実に軽い処分がくだされるわけではないので、不起訴処分・執行猶予付き判決を望む場合は被害者との示談成立を目指しましょう。
示談には弁護士の協力が不可欠
示談交渉を進めるには、弁護士の協力が必要不可欠です。
逮捕されている加害者は自由に外出できないので物理的に交渉不可能ですし、加害者の家族が被害者にコンタクトを取ろうとしても相手にされないケースもあります。
公正な第三者として弁護士が交渉することで、無用な警戒心を和らげるとともに、適切な相場の範囲内での示談金交渉が可能となるでしょう。
ベンナビ刑事事件では、刑事事件のなかでも詐欺事件が得意な弁護士を探せます。
すぐにでも弁護活動を受けたい方はぜひご利用ください。
反省と再犯防止の意思が不可欠
示談では「ただ奪ったお金を返済すればいい」というものではありません。
罪を犯したことを心から反省し、二度と罪を繰り返さないという再犯防止の意思を示すことで被害者の心が動くのです。
詐欺で相手からお金をだまし取ってしまったのであれば、真摯に謝罪したうえで、反省の意思や再犯防止の誓いを伝えて許しを請うようにしましょう。
類似の詐欺行為
刑法第246条の詐欺と類似した行為として、電子計算機使用詐欺罪と準詐欺罪があります。
刑法第246条の2|電子計算機使用詐欺罪
電子計算機使用詐欺罪は、刑法第246条2項の補充類型であり、電子計算機が人に代わって自動的に財産権の得喪、変更の事務を処理している場合における不法な財産上の利得行為を処罰するものとされています。
第二百四十六条の二 前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。
引用元:刑法第246条の2 電子計算機使用詐欺罪
条文からは内容がわかりにくいですが、簡単にいうと「機械をだます行為」が電子計算機使用詐欺罪にあたります。
他人名義のクレジットカード情報を悪用してネットショッピングで代金を決済したり、プリペイドカードを改ざんし残額を増やして利用したりする行為が処罰の対象です。
電子計算機使用詐欺罪は、詐欺罪を補充する目的で規定されています。
「相手が機械なので『だます』という行為が成立しない」という争いを経て規定されているという性格をみれば、比較的新しいかたちの詐欺行為に対応するものだといえるかもしれません。
刑法第248条|準詐欺罪
判断能力が十分に備わっていない未成年者や、精神的な疾患によって正常な判断ができない人から、誘惑的な方法で金品などを差し出させて財産上の利益を得る行為は「準詐欺罪」にあたります。
第二百四十八条 未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて、その財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。
引用元:刑法第248条 準詐欺罪
詐欺罪と似ていますが「欺罔・錯誤がなくても成立する」という特徴があります。
判断能力がない者の財産的処分行為によってなされたものであることが要件となり、相手が自ら金品を差し出す能力がない場合は窃盗罪に変化する可能性もあるでしょう。
法定刑は詐欺罪と同じく10年以下の懲役です。
詐欺罪の手口と判例
実際に起きた詐欺事件について、手口や判例を解説します。
保険金詐欺
数人が共謀のうえで故意に自動車事故を起こし、保険会社から約1,675万円の保険金をだまし取った事件では、懲役3年6か月(未決勾留130日算入)の判決がくだされました。
被告人に反省の態度が全く見られず、詐取金の総額が高額であったため、このような判決となりました。
反省や弁済がいかに重要かを物語る事例といえるでしょう。
参考
- 神戸地裁 平成25年7月9日(Westlaw Japan 文献番号 2013WLJPCA07099003)
結婚詐欺
詐欺の古典的な手口として有名なのが結婚詐欺です。
2020年7月には、7人以上女性に対して結婚をほのめかし、お金をだまし取ったとして40代男性が逮捕されました。
被害総額は3,900万円を超えるとのことです。
結婚詐欺は「結婚を理由に財産をだまし取る」という手口なので、一般的な会話に登場するような「結婚を約束していたのに既婚者だった」「結婚するといっていたのに別の相手に心変わりした」というケースは詐欺罪には問われません。
電子計算機使用詐欺
インターネットバンキングに不正な情報を与えて、預金口座の残高を28億円も増額させたなどの罪に問われた事例では、複数の詐欺行為が重なって(併合罪)共犯者2名にそれぞれ懲役14年(未決勾留日数350日・330日をそれぞれ算入)という厳しい判決がくだされました。
同種の手口のなかでも類を見ないほどの巨額被害であり、非難は免れないとして、上限に近い刑罰が科せられた事件です。
詐欺事件の量刑判断に「被害額」が含まれている端的な事例だといえるでしょう。
参考
- 京都地裁 平成30年4月26日(Westlaw Japan 文献番号 2018WLJPCA04269011)
さいごに
詐欺罪で逮捕された場合、警察や検察での取り調べを経て起訴されれば、刑事裁判にて判決がくだされます。
法定刑は10年以下の懲役で、罰金刑は定められていません。
たとえ初犯でも、被害額や悪質性などによっては不起訴処分や執行猶予付き判決を獲得できない可能性もあります。
実刑判決を避けるためには、被害者と示談交渉を進める・反省や再犯防止の意思を積極的に主張するなどの対応が重要です。
刑事事件が得意な弁護士に相談して、最善を尽くしましょう。