会社で大金を扱える立場だと「ちょっと借りるだけ」と魔がさしてしまい、会社のお金を横領してしまった人もいるでしょう。
横領が会社にバレると懲戒解雇などの重い処分をうけるとともに、実名報道や起訴される可能性もあります。
横領したことを深く反省しているのであれば、自己判断で動かずに早い段階で刑事事件の弁護が得意な弁護士に相談することが重要です。
弁護士をとおして交渉してもらうことで、不起訴になり解雇されたとしても次の就職への影響を最小限にとどめられるでしょう。
本記事では、横領してしまった人やその家族ができることについて紹介します。
横領してしまい、会社から呼び出されている方へ
横領をすると次のようなトラブルが予想されます
- 損害賠償請求をされる可能性がある
- 懲戒解雇をされる可能性がある
- 刑事告訴されて実名報道・刑事罰を科される可能がある
横領は被害額が大きいため、捜査が複雑化・長期化することがあります。また、横領をした立場上、会社との交渉では弱い立場に立たざるを得ません。
横領が会社に発覚したら弁護士に相談しましょう。次のようなメリットがあります。
- 会社と示談を行って事件化を防げる可能性がある
- 刑事事件化されている場合には弁護活動によって不起訴・執行猶予が目指せる
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会社や警察への対応でお困りの方は、お住いの地域から刑事事件が得意な弁護士を検索し、一度ご相談ください。
横領してしまった人がまずすべき2つのこと
横領してしまった場合、会社にバレていなくても隠さずすぐに対応することが重要です。
ここでは、まずすべき2つのことについて紹介します。
①まず刑事事件弁護士に相談しておく
故意の横領であったり、故意でなくても金額が高額だったりする場合は、会社に話す前に弁護士へ相談しましょう。
横領を行ってしまえば、理由はどうであれこちらの立場は悪く、会社によってはこちらの罪悪感や立場の悪さを逆手に、高額な損害賠償を請求してくる可能性もあります。
どのような対応や応答をすべきか一度弁護士に相談しましょう。
②事実を認め誠実に謝罪する
横領が事実であればそれを認め、誠実に謝罪しましょう。
隠してしまうことで、問題が大ごとになってしまうと被害届が出されてしまったり、会社としても「犯人を絶対に許さない」と怒りの気持ちが大きくなってしまったりします。
こうなってしまうと、後から申し出ても相手の心象を余計に悪くしてしまい、どのような弁解も受け入れてもらえないかもしれません。
また、故意に横領したわけでない場合(うっかり持ち帰ってしまった、など)は、特に早い段階で会社に相談しましょう。
すぐに全額を返し、状況を交え故意でないことを示せば、会社側も納得し注意程度で解決できることもあります。
横領してしまった人のその後の生活
会社だけではなく組合やPTAなど、組織が管理するお金を使いこむ行為も業務上横領です。
業務上横領を一度でも行ってしまうと、その後の生活にどのような影響があるのでしょうか。
業務上横領を繰り替えし行ってしまう
業務上横領の特徴的な傾向には「常習性」が挙げられます。
一度横領に成功してしまうと、ダメだと思っていても「どうせバレないから大丈夫」と心のどこかで思ってしまい、最終的に何百万円から何億という高額なお金を使いこんでしまったケースも珍しくありません。
27年6月から29年7月まで、会社の普通預金口座から計176回にわたり現金を払い戻して着服、横領した疑い。
(引用:産経新聞)
最初の横領は数万円程度で会社にバレていなくても、何度も繰り返すことにより、金額が膨れ上がり最終的には会社にバレ大きな事件となり逮捕に至ってしまう可能性も非常に高いでしょう。
懲戒解雇などの重い懲戒処分がある
会社の就業規則によって規定があれば、単なる自己都合の退職ではなく、解雇処分のなかでも特に不利益を被ってしまう「懲戒解雇」を受けるおそれがあります。
懲戒解雇になってしまうと、退職金が支払われないだけではなく、再就職が難しくなるなど、多大なデメリットが生じるでしょう。
被害届をだされ逮捕・刑事罰を受ける可能性がある
横領の内容や状況によっては、会社が警察に被害届を出し刑事事件として立件されてしまい、逮捕や刑事罰を受けるおそれがあります。
実刑判決を受ければ、自分だけではなく家族の生活にも悪影響が出ます。
家族から縁を切られたり、配偶者から離婚を切り出され子供に会えなくなるリスクは十分にあるでしょう。
逮捕や実刑判決を受け実名報道されてしまうことも
刑事事件として立件され、警察に逮捕されてしまうと、新聞やニュースなどで実名報道をされるリスクもあります。
新聞だけでなくネットにも情報が流出されてしまった場合、一生名前が残ってしまい、今後何かあるたびに指摘される可能性があるでしょう。
横領してしまった人の家族のその後
業務上横領を犯したことによる悪影響は、本人だけでなくその家族にも及んでしまいます。
生活費として費消していた場合は返還義務が生じる可能性も
横領によって得たお金を生活費として費消していた場合は、会社から家族に対して、不当利得として返還請求をされる可能性があります。
もっとも、家族も横領したお金だとは知らなかった場合には、返還義務までは認められないケースが多いようです。
家族も「横領したお金だと知っていた」「そんなに収入があるはずがないとわかっていた」などのように、不当利得だという認識があった場合のリスクだと考えておきましょう。
身元保証人なら賠償請求をされる可能性もある
会社に入社する際に「身元保証人」を求められていた場合は、身元保証人が賠償責任を負う可能性もあります。
横領額が巨額になれば、たとえ生活をともにしていない身元保証人であっても生活が破綻してしまうおそれもあるでしょう。
なお、民法改正によって2020年4月からの入社については身元保証の極度額が設定されていない契約は無効になります。
つまり、今後の身元保証人の責任は「極度額に応じた賠償責任」に限られます。
横領をしてしまった人が受ける可能性のある罰則
刑法では「横領の罪」の章に3つの形態が示されています。
- 第252条 横領
- 第253条 業務上横領
- 第254条 遺失物等横領
特に注目ずべき業務上横領の条文では、
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する
(引用:刑法第253条)
と記載されており、「業務上」という強い信任関係を裏切って横領をはたらく行為であるため、ほかの横領よりも重い刑罰を規定されていることが特徴です。
業務上横領の罰則とは
業務上横領の刑罰は「10年以下の懲役」です。
振り込め詐欺などに代表される詐欺罪と同じ刑罰が規定されているので「つい魔が差した」という言い訳では許されないほどの重罪だと考えるべきでしょう。
罰金刑が規定されていないので、刑事裁判で有罪判決を受けた場合は懲役刑が科せられます。
刑事裁判になれば99%以上の確率で有罪
わが国の司法制度では、検察官が起訴して刑事裁判になった場合の有罪率は99.9%超です。
懲役刑を避けるためには、無罪を主張するのではなく、検察官が起訴する前に「不起訴処分」の獲得を目指すことが最善の策といえます。
「起訴されると99.9%の確率で有罪になる」という事実は、犯罪の容疑をかけられている方にとって非常に不安を感じるものです。
裁判所が横領で有罪判決を下した判例
業務上横領について実際に刑事裁判で有罪判決が下された例をみていきましょう。
ここでは3つの判例について挙げますが、同じようなケースでも必ず同程度の刑罰が下されるわけではないという点に留意してください。
資産管理担当者が5,900万円を投資に使い込み
会社で資金管理を任されていた業務課長が5,900万円を横領した事件では、懲役3年6か月(未決勾留120日を算入)の判決が下されました。
FXなどの投資に失敗した穴埋めとして会社の小切手を換金していた事件で、約737万円の被害を弁償しましたが全額返還には至りませんでした。
被害額が非常に多額であり、犯行の態様も悪質であるため、重い実刑判決が下された事例です。
事件番号 平成30(わ)307
事件名 業務上横領
裁判年月日 平成31年3月25日
裁判所名・部 高知地方裁判所
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社団法人の経理担当が730万円を横領
社団法人の経理担当者が、法人の預金口座から3回にわたって約735万円を引き出して横領し、2年6か月(未決勾留90日を算入)の実刑判決が下された事例です。
高級ブランド品をクレジットカード払いで購入し返済日が迫るたびに横領を繰り返していた、横領の期間が長期にわたっていた、被害弁済は一切なされていなかったなどの状況があり、重い刑罰が下されました。
事件番号 平成29(わ)385
事件名 業務上横領被告事件
裁判年月日 平成30年5月8日
裁判所名・部 高知地方裁判所
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司法書士が遺言執行時に752万円を自分の口座に送金
遺言執行者となった司法書士が、被相続人の預金約752万円を自分の口座に送金した事件では、懲役2年6か月、執行猶予3年の判決が下されました。
生活費の支出に使用していた口座に入金・支出していたため業務上横領に問われましたが、流用が一時的なものであったこと、横領額の全額を遺族に返還していることが評価され、執行猶予が付されました。
事件番号 平成25(わ)953
事件名 業務上横領
裁判年月日 平成26年9月2日
裁判所名・部 神戸地方裁判所 第4刑事部
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横領してしまい呼び出されたときは弁護士に相談
会社に横領がバレてしまった、または穴埋めする資力がなく発覚は時間の問題といった状況に陥った場合は、弁護士に相談しましょう。
弁護士に依頼すれば、次のような対処法でリスクを最小限に抑えられる可能性があります。
会社に被害届・告訴を出さないように交渉してくれる
弁護士に依頼すれば、被害届や告訴を控えてもらうよう交渉してもらい、刑事事件としての立件を避けられる可能性があります。
刑事事件として立件されなければ、逮捕・刑罰のリスクが回避できます。
ただし、たとえ弁護士のサポートを得たとしても、和解する場合には相応額の損害補填や示談金の支払いが必要になります。
親族などに資金援助を求めるといった行動は欠かせないと思われます。
立件後も会社と示談交渉をして不起訴を目指せる
会社が被害届や告訴をしたことによって事件が立件されてしまっても、弁護士が代理人として示談交渉をすすめることで不起訴処分が獲得できる可能性があります。
たとえば、現実的な弁済計画を示して許しを請う、できる限りの弁済をして残額の支払い方法を提案するなどの交渉が成功すれば、被害届・告訴の取り下げも期待できるでしょう。
この交渉では、本人や家族だけで弁済計画を提案しても、信用してもらえない可能性があります。
弁護士を介して約束した弁済計画であることで、信用が上がることが期待できます。
示談交渉には弁護士のサポートが必須といえます。
相談のタイミングは1日でも早いほうが良い
まだ会社には発覚していない、または会社による事情聴取やヒアリングの段階で警察が事態を把握していないといった段階でも、事件を解決するには1日でも早く弁護士に相談すべきです。
会社に横領の事実を告白するにしても、弁護士とともに事前に具体的な弁済計画を練り、弁護士を帯同したうえで対応すれば、事件化は避けられるかもしれません。
警察が事態を把握してしまったあとでも、素早く行動して示談が成立すれば逮捕・起訴が避けられる可能性もあるでしょう。
迷っている間にも事態は着々と深刻化し、時間が経てば取り返しのつかない状況へと陥ってしまいます。
事件を解決するには、1分1秒でも早く弁護士に相談することを強くおすすめします。
さいごに
横領の罪のなかでも、業務上横領はとくに重い刑罰が規定されています。
有罪判決が下されれば確実に懲役に処されるため、早急な対処が必要です。
「つい魔が差してしまった」というケースもあるかもしれませんが、被害弁済を含めた示談交渉が成功すれば逮捕・刑罰を回避できる可能性があります。
横領が会社にバレてしまった、まだ発覚していないが時間の問題だという方は、ひとりで悩むよりもまず弁護士への相談がおすすめです。