痴漢の被害届を取り下げてもらうには|痴漢の被害届と逮捕・起訴
痴漢行為で逮捕・勾留・起訴された場合、出勤できない、職を失うなど、日常生活に深刻な影響が生じる可能性があります。
この場合、早期に的確な対応をすることで、このリスクを可能な限り抑制することが期待できます。
例えば、的確な弁護活動により被害者が被害届を取り下げることで、長期の身体拘束や重い刑事処分を回避できるかもしれません。
【関連記事】【被害者向】性犯罪被害の相談窓口|弁護士のサポート内容も紹介
被害者との示談
痴漢事件の場合、通常、被害者から捜査機関に対して被害届が提出されます。
被害届とは、被害者による犯罪被害にあったことについての申告です。被害届自体に法的な意味・効力はありません。しかし被害者が被害届を取り下げた場合、被害者が刑事処分を求めないことを意味します。被疑者にとって、有利な事情とし考慮されます。
実際どのような場合に、被害者は被害届を取り下げるのでしょうか。
示談の成立により取下げられる場合がある
被害届を取り下げるかどうかは被害者が判断する問題であるため、被害者はいつでもこれを取り下げることができます。
ただし一度被害届を提出した被害者が、被害届を任意撤回は通常ありません。これがされるのは、被害者・加害者間で示談合意が成立し、当該合意に基づいて被害届の取下げがされる場合です。
示談とは、被疑者・被害者が話合いにより事件を解決することをさします。当該合意が成立した場合、被害者に被害届を取下げてもらうことが多いです。
もちろん、示談には応じるが、被害届の取下げには応じないという被害者もいますので、示談成立=被害届の取下げを意味しないことは注意しましょう。
示談成立・被害届の取下げにより刑事処分が軽減される可能性がある
起訴前に被害者との間で示談が成立し、被害者が被害届を取り下げた場合、捜査機関はこの事実を重大に受け止めます。
結果として、「あえて刑事事件として起訴する事を要しない」と判断する可能性があるのです。
また身柄を拘束されている場合には、これ以上の身柄拘束を要しないとして、即時釈放となる可能性もあるでしょう。
痴漢事件のように被害者のいる犯罪において、示談成立の有無は刑事処分に対して、大きく影響する可能性があります。
痴漢被害者との示談交渉を本人が行うのは難しい
では、被害者と示談する場合は通常はどのような流れになるのでしょうか。
この場合、身柄を拘束されていてもいなくても、加害者本人やその関係者が被害者に直接コンタクトして示談交渉を行うのは通常困難でしょう。
痴漢のような場合、加害者は被害者とは面識がなく連絡先を知らないのが通常であり、連絡先を知っていても被害者が直接の接触を極端に嫌うことが多いためです。
痴漢事件で被害者との示談交渉を進めるには、弁護士に対応を依頼が必須といえます。詳細については、以下記事も参考にしてみてください。
痴漢をしてしまったときに相談できる弁護士
痴漢に限らず刑事事件の被疑者となってしまった場合、相談・依頼できる弁護士には、いくつかの種類があります。
国選弁護人
国が選任する弁護人であり、費用は原則として国が負担します。
刑事事件で逮捕され、勾留決定を受けた被疑者は選任を希望する事が可能です。国選弁護人も私選弁護人も基本的な職務の範囲は同じですし、能力的にいずれが優れているということも一切ありません。
しかし国選弁護人は、逮捕後に勾留が決定された時点から選任可能となります。そのため、短い期間ではありますが逮捕~勾留までの期間については国選弁護人によるサポートを受けることはできません。
また国選弁護人の費用は、公的負担によるものです。そのため弁護活動内容には、一定の限界があります。私選弁護人と比べて、手厚いサポートを受けられない可能性があることは、否定できません。
私選弁護人
被疑者・被告人が自ら選任する弁護人であり、費用は自己負担です。
私選弁護人は、選任時期に制限がありませんので、逮捕直後はもちろん、逮捕前からも将来逮捕された場合に備えて契約しておくことも可能です。
また支払った費用に応じて、サービスを受けられます。たとえば外部への連絡や差し入れなど、国選弁護人よりも幅広いサポートを受けられる可能性があるでしょう。
私選弁護人の弁護士費用については、以下記事も参考にしてみてください。
当番弁護士
当番弁護士は、逮捕・勾留されている被疑者が、一度だけ無料で呼ぶことのできる弁護士です。
例えば、逮捕直後に当番弁護士に接見してもらい、今後の見通しや取調べへの対応についてアドバイスをしてくれますし、外部との最低限の範囲で連絡を取ってくれます。
もちろん頼れる弁護士であれば、そのまま私選弁護人として依頼することも可能です。
当番弁護士は、逮捕された場合に即時接見することができる弁護士として極めて有用ではあります。しかし、その職務範囲は非常に限定的であるため、継続的な刑事弁護活動を依頼するのであれば、選任弁護人として選任するしかありません。
弁護士の選び方
もしも私選弁護人を依頼する上で、見るべきポイントを紹介します。
性犯罪に強い弁護士を選ぶ
刑事事件の中でも、刑事事件・性犯罪に強い弁護士を選ぶことができれば、それに越したことはないでしょう。
痴漢や盗撮、児童ポルノや児童買春(援助交際)など、刑事事件・性犯罪の事件解決実績が高い弁護士であれば、対応ノウハウも蓄積しているので安心感があります。
フットワークの軽い弁護士を選ぶ
刑事事件は、時間との戦いの側面があります。特に逮捕・勾留など身柄拘束を受けている事件では、この点が顕著です。
そのため、刑事事件を依頼する弁護士は、フットワークが軽く、接見にもすぐ対応してくれるような弁護士の方が安心かもしれません。
また接見・弁護活動のたびに、時間と費用を要すると、弁護活動に制限が出る可能性があります。可能であれば、身柄拘束を受けている場所の近くの弁護士への相談を検討すべきでしょう。
被疑者の立場を理解してくれる弁護士を選ぶ
刑事事件では、被疑者・被告人と弁護人の間の信頼関係が重要です。
弁護士が被疑者の立場や、気持ちを理解してくれるかどうかは、信頼関係の構築に重要となります。可能であれば、相性の合う刑事弁護人を選任する方が良いかもしれません。
痴漢で逮捕されるときの流れ
痴漢事件で逮捕される場合には、「現行犯逮捕」の場合と「通常逮捕」の場合の2種類があります。それぞれの詳細を見ていきましょう。
- 逮捕
- 逮捕とは、被疑者の身柄を比較的短期間拘束する刑事手続を意味します。
現行犯逮捕
痴漢行為を現地で確認した者に、その場で逮捕される場合が現行犯逮捕です。
例えば痴漢途中に被害者に手を捕まれ、そのまま駅員に引き渡され、駅員に身柄を拘束されたり、到着した警察官に身柄を拘束されたような場合がこれに当たります。
痴漢の場合、多くの場合は現行犯逮捕が多いようでしょう。現行犯逮捕は令状が不要であるうえ、一般人でも逮捕可能です。
通常逮捕
痴漢行為の現行犯逮捕はされていないものの、被害届やその他の証拠から逮捕につながる場合があります。このように犯罪の嫌疑が明らかになり、逮捕令状に基づいて逮捕される場合が通常逮捕です。
この場合の「その他の証拠」としては、監視カメラの映像、被害者・目撃者の目撃供述などがあり得ます。
このような証拠により犯人である嫌疑が認められれば、裁判所は逮捕令状を発行しますので、捜査機関は令状に基づいて逮捕することができます。
痴漢で逮捕された場合の流れについては、以下記事も参考にしてみてください。
被害届が出れば時間が経っても痴漢は逮捕される
上記の通り、痴漢行為で逮捕されるのは現行犯逮捕だけではありません。
痴漢をしてその場は何事もなくやり過ごすことができても、被害者が痴漢被害を警察に訴えれば、逮捕される可能性があります。
被害届を受けて捜査した結果、加害者による犯罪の嫌疑が認められれば、令状に基づいて後日に通常逮捕されるのです。
実際に痴漢で通常逮捕されたケース
実際に、痴漢行為をした後日、通常逮捕された事例があります。
京王井の頭線の電車に乗っていた大学生が、女子大生の下半身を触るなど痴漢行為を行い、路線に下りて逃走した事件です。
本件では防犯カメラの映像といった証拠から被疑者が特定され、電車の安全な運用を妨げた威力業務妨害と、迷惑防止条例違反によって逮捕されました。
刑事事件で起訴された場合の有罪率は99%以上
痴漢で逮捕された場合、その後、勾留・起訴される可能性があります。
日本の刑事裁判では統計上99.9%以上は有罪判決が出ていますので、仮に起訴された場合には、たとえ事実を否認していても無罪判決を受けることは容易ではありません。
起訴されて有罪判決を受ければ、裁判所の決定する刑罰を受けることになりますし、前科が付きます。
しかし起訴されずに不起訴となった場合、刑事裁判を受けることがありませんので、このような不利益を受けることはありません。
示談と不起訴
示談が成立すれば、必ず不起訴になるわけではありません。しかし痴漢事件のように被害者のいる犯罪では、示談成立の有無が、刑事処分に大きく影響する可能性があります。
起訴・有罪判決による不利益を回避したいのであれば、被害者との示談については積極的に検討するべきでしょう。
上記でも説明したとおり、示談を検討している場合、弁護士が刑事事件に強みを持つかどうか、すぐに相談できるかどうかが非常に重要です。
痴漢は被害届がなくても逮捕できる
注意点として、被害届には法的な意味はありません。被害者が被害届を出さなくても、捜査機関は痴漢事件を立件して、捜査を進めることができます。
あまり想定されないケースではありますが、被害者が被害届を出さなくても、痴漢事件で逮捕されるということはあり得ます。
被害届がなくても警察は捜査を行える
被害届は、捜査機関に「捜査のきっかけ」を与える事実上の申告に過ぎず、法的な意味のあるものではありません。
警察は、通常、被害者からの被害届を受け付けて、これを理由として捜査を開始しますが、被害届以外の方法で犯罪を察知した場合も捜査は開始できます。
被害者による告訴も不要
被害届とは別に、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、処罰を求める「告訴」があります。
「告訴」は法的に意味のあるもので、これを受理した捜査機関は、告訴事実について捜査する義務を負うのです。痴漢事件で、被害者が被害届を超えて告訴をするということもあります。
犯罪には「告訴」がなければ訴追できない犯罪(親告罪)があり、名誉毀損罪や器物損壊罪等は親告罪です。
しかし、痴漢行為で成立し得る迷惑防止条例違反や強制わいせつ罪は親告罪ではありませんので、被害者による告訴がなくても、やはり捜査機関は捜査を進めることができます。
迷惑防止条例
各都道府県の定める迷惑防止条例では、電車や路上、人が多く集まるイベント会場など、公共の場所での痴漢行為を処罰対象としています。
痴漢行為の行為態様が悪質とまではいえない場合には、条例違反で処理されるのが通常でしょう。
強制わいせつ罪
強制わいせつ罪は、暴行や脅迫の手段を用いて被害者の犯行を著しく困難にしてわいせつ行為をしたときに成立する犯罪です。
痴漢行為が悪質である場合(例えば、電車の中などで相手の下着の中に手を入れたような場合)、条例違反ではなく強制わいせつ罪として処理される可能性があります。
相手が13歳未満の場合には、暴行や脅迫がなくても、わいせつ行為を行えば直ちに強制わいせつ罪が成立する可能性があります。
痴漢の罪状に関する詳細は、以下を参考にしてみてください。
被害届と告訴の違い
上記の通り、被害届と告訴は、以下のような違いがあります。
被害届 | 被害者が「このような被害がありました」と捜査機関に犯罪被害を申告すること |
告訴 | 被害者が「このような犯罪の被害に遭ったので処罰してください」と捜査機関に犯罪事実を申告し、処罰を求める意思表示をすること |
被害届には法的意味はありませんが、告訴には法的意味があり、捜査機関に捜査義務が生じることは前述のとおりです。
まとめ
痴漢行為で逮捕された場合について、簡単に解説しました。もしも自身や身内が被疑者になってしまった場合、逮捕・起訴のリスクは避けられません。
被害届・告訴がなくても、痴漢は捜査が可能です。不起訴や有利は判決を望むのであれば、示談成立によりこれらを取り下げてもらう活動をすべきでしょう。そのためには速やかに弁護人のサポートを受けて、的確に対応する必要があります。
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