会社のお金を使い込んでしまったとき、「逮捕されるのか?前科がつくのか?」と不安になりますよね。
業務上横領とは、仕事で会社のお金を管理・保管する立場の人が、そのお金を自分のものにしてしまう犯罪です。
業務上横領罪は初犯であっても、逮捕や実刑の可能性も充分ある犯罪です。
しかし早期に適切な対応を取ることで、不起訴・執行猶予を目指せます。
当記事では、業務上横領罪の基本から初犯時の刑罰について解説。
前科を避けるための対応方法や弁護士に依頼するメリットまで詳しく解説するので参考にしてください。
ご家族や自身が業務上横領罪をしてしまった方へ
業務上横領罪が発覚すると、会社側が取る対処としては「捜査機関に告訴し刑事責任を追及する」「被害弁償を請求されて民事責任を追及する」があります。
業務上横領罪については刑事責任のほか、民事責任についても目を向けなければなりません。
どのように対応すべきかは判断が難しいはずですから、まずは弁護士に依頼することをおすすめです。
弁護士に依頼すれば、会社と交渉し、刑事事件化を防いで穏便に解決できる可能性が高まります。
また刑事事件化を防げない場合でも、弁護活動により早期釈放や不起訴処分も目指すことが可能です。
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業務上横領罪とは?
業務上横領罪は、仕事で預かっている会社のお金や品物などを、不正に自分のものにしたときに成立する犯罪です。
(業務上横領)
第二百五十三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。
引用元:法令検索 刑法253条
具体的には、以下のようなケースが業務上横領罪にあたる可能性があります。
- 会社の経理担当者が、管理を任されている会社の資金を個人的な遊興費に使い込んだ
- 集金担当の従業員が、顧客から預かった売上金を着服した
- 店舗の店長が、レジ内の現金を抜き取り、自分の借金返済に充てた
業務上横領罪は業務上の信頼関係を利用した犯行のため、単純な横領罪よりも重く処罰されます。
業務上横領罪が成立する4つの構成要件
次の4つ全てを満たすとき、業務上横領罪が成立します。
- 業務性があること
被告人が職務や継続的な業務として財物の管理をおこなっていること。単なる一時的な預かりではなく、業務の一環として占有している必要があります。
- 委託信任関係に基づく占有であること
財物の占有が、委託や信頼に基づいて移されたものであること。たとえば会社の経理担当者が金庫を管理するようなケースが該当します。
- 財物が「他人の物」であること
対象となる財物が自己の所有物ではなく、他人に属していることが必要です。
- 横領(不法領得)行為があること
委託された財物を自己のものとする意思のもとに、着服や使用・処分した行為があったこと。
これらの要件が全て揃った場合、業務上横領罪が成立し、刑事責任を問われます。
なお業務上横領罪は非親告罪。
被害者が告訴しなくても、捜査機関の判断で起訴・逮捕が可能です。
業務上横領罪は初犯でも逮捕される可能性がある
業務上横領罪は、たとえ初犯であっても逮捕される可能性が十分あります。
具体的には、次のように悪質性が高いケースや損害が大きい場合には逮捕のリスクが高まるでしょう。
- 被害額が大きい
- 長期間にわたる犯行である
- 巧妙な隠蔽工作をおこなった
- 証拠隠滅や逃亡のおそれがある
- 被害回復がなされておらず被害感情が強い
- 共犯者がいる
一般的に数百万円以上の被害額になると逮捕のリスクが高まると言われますが、少額でも悪質性が高ければ逮捕されることもあります。
業務上横領は、被害額や悪質性にもよりますが、示談で済むケースが多くあります。
しかし、初犯だからといって安心はできません。できるだけ早く弁護士に相談することで、被害者との示談成立や被害弁償により、逮捕のリスクを軽減できる可能性があります。
業務上横領罪の刑罰は10年以下の拘禁
業務上横領罪の法定刑は「10年以下の拘禁刑」です。
罰金刑はないため、起訴され有罪になれば拘禁刑が科されます。
他の横領罪(単純横領罪は5年以下の拘禁、遺失物等横領罪は1年以下の拘禁または10万円以下の罰金もしくは科料)と比較しても重い刑罰が科されています。
これは業務上の信頼関係を裏切る行為が、悪質と評価されるためです。
なお令和5年司法統計年報によると、横領罪(単純横領罪・遺失物等横領も含む)で有罪になったのは455人。
そのうち約80%に1年以上の刑罰が科されています。
| 懲役 |
10年以下 |
7年以下 |
5年以下 |
3年 |
2年以上 |
1年以上 |
6月以上 |
6月未満 |
| 人数 |
2人 |
3人 |
27人 |
39人 |
115人 |
175人 |
85人 |
9人 |
出典:令和5年司法統計年報
初犯で業務上横領罪で逮捕されたときの刑罰
裁判所は、法定刑である「10年以下の拘禁」の範囲内で、事件の悪質性や被害額、示談の成否などを総合的に考慮して量刑を決定します。
初犯であることは有利な情状の一つのため執行猶予や不起訴処分になる可能性は高いですが、実刑判決が下ることも否定できません。
初犯なら執行猶予や不起訴処分の可能性が高い
たとえ初犯で逮捕されても、被害額が比較的多額でなく、真摯な反省と被害弁償・示談がなされれば、執行猶予が付いたり不起訴処分になる可能性は高いといえます。
出来心で犯行に及んでしまったが、すぐに自首した場合も、有利な情状として考慮されるでしょう。
前述した令和5年司法統計年報によると、横領罪有罪になった455人のうち、約66%にあたる299人(※)に執行猶予がつきました。
なお、執行猶予が付くのは、3年以下の懲役または禁錮または50万円以下の罰金の言渡しを受けた場合に限られます。
出典:令和5年司法統計年報
初犯でも実刑判決となるケース
業務上横領は財産犯の中でも比較的重い犯罪のため、初犯であっても被害額が極めて高額だったり悪質な犯行だったりすると実刑判決も十分あり得ます。
具体的には、以下の場合は実刑判決のリスクが高いでしょう。
- 被害額が数千万円単位と極めて高額である
- 横領により会社が倒産に追い込まれた
- 長期間にわたり計画的におこなわれた
- 反省の態度が見られない
- 証拠隠滅を図った
- 被害弁償や示談が全く進まない
一般に窃盗や横領などの財産犯は、被害額が100万円を超えると、初犯であっても実刑判決となる可能性が高まるとされており油断は禁物です。
業務上横領罪で逮捕された場合の流れ

業務上横領罪で逮捕されると、刑事手続きは以下の流れで進みます。
- 逮捕・取り調べ(最大48時間)
- 検察による取り調べ(最大24時間)
- 勾留(最大20日間)
- 起訴か不起訴かの判断
- 起訴されれば裁判
業務上横領罪は犯行の性質上、現行犯逮捕はほぼなく、逮捕状が発布されての通常逮捕です。
逮捕後は警察と検察による取り調べを受けたのち、勾留が必要と裁判所が認めれば、最大20日間身柄を拘束される可能性があります。
その後、検察官が起訴・不起訴を判断し、起訴された場合は刑事裁判へと進みます。
早期の釈放や不起訴を目指すには、弁護士の対応が重要。勾留されれば長期間拘束されるため、家庭や日常生活に大きな影響を与えかねません。
業務上横領罪の初犯で前科を避けるための2ステップ

業務上横領罪で前科を避けるためには、できるだけ早い段階から適切な対応を取ることが重要です。
特に不起訴処分や執行猶予付き判決を目指すには、戦略的なアプローチが必要となります。
1.早い段階で弁護士に依頼する
業務上横領事件は、法的な専門知識が求められる複雑な刑事事件。
できる限り早い段階で弁護士に相談することが、前科を避けるための最も重要かつ効果的なステップです。
弁護士に依頼すれば、警察の取り調べにどう対応すればよいか、具体的なアドバイスを受けられます。
また弁護士は勾留を阻止したり、早期釈放を実現したりするための活動もおこない、事件が深刻化する前に被害回復や不起訴処分に向けた方針を立てられます。
時間が経過するほど選択肢が限られるため、できるだけ早期の相談が重要です。
2.被害者と示談して被害弁償をする
弁護士に依頼したら、被害者である会社側との示談交渉を進めてもらいましょう。
業務上横領罪は非親告罪ですが、被害者との示談成立は不起訴や量刑判断に大きく影響します。
特に、被害金額の全額返還や誠意ある謝罪により、被害者が処罰感情を和らげることで、不起訴や執行猶予付き判決の可能性が高まります。
業務上横領の初犯で弁護士に相談するメリット

業務上横領が初めての犯行であっても、適切な対応を誤ると前科がつく可能性があります。
弁護士の専門知識と経験を活用することで、さまざまなメリットを享受できるでしょう。
早期の示談交渉により事件化を防げる
業務上横領が発覚しても、必ずしもすぐに警察に通報されるとは限りません。
特に初犯で反省の意思が明確な場合、具体的な被害弁償の計画を提示することで、被害届の提出を思いとどまってもらえるケースがあります。
ただし、加害者本人が会社と交渉するのは得策ではありません。
反省の意思や誠意が伝わらなかったり、示談交渉がうまくいかなかったりする可能性が高いです。
弁護士が代理人として謝罪文の作成や返済計画の提案、適切な補償交渉をおこなうことで、スムーズに解決に向かいます。
事件化を防ぐことができれば、前科がつくリスクを完全に回避でき、社会復帰への道筋も大幅に改善されます。
勾留の回避や早期釈放の可能性が高まる
もし逮捕されても、弁護士が逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを主張することで、勾留請求が却下される可能性があります。
また、すでに勾留されている場合でも、準抗告などの手続きを通じて早期釈放を目指すことが可能。
弁護士の適切な弁護活動により身柄拘束期間を短縮できれば、日常生活に与える影響を最小限にとどめられるでしょう。
不起訴処分や執行猶予の可能性が高まる
業務上横領で前科を避けるには、不起訴処分や執行猶予付きの判決を得ることが重要。
弁護士は検察官や裁判官に対して、依頼者の反省の深さや更生への意欲を効果的に伝え、寛大な処分を求める弁護活動をおこないます。
被害弁償や示談の成立、深い反省の姿勢が評価されれば、検察官が起訴猶予を判断する可能性が高まります。
仮に起訴された場合でも、初犯かつ社会的制裁を受けているなどの事情があれば、執行猶予付き判決になる可能性も十分にあり得るでしょう。
会社の対応が適切かアドバイスをもらえる
弁護士は、横領事件に伴う懲戒処分の妥当性を判断し、不当な解雇などを回避するための交渉や法的手続きについてアドバイスできます。
横領の事実があっても、解雇が常に有効とは限りません。
会社から提示された退職勧奨に応じるべきか、懲戒解雇通知の内容が法的に問題ないか、解雇予告手当は支払われるのかなどに対し、弁護士なら適切な判断ができます。
刑事事件と並行して労働問題にも適切に対処することにより、将来の生活基盤を守ることができるでしょう。
精神的な負担が軽減される
刑事事件の当事者となることの精神的ストレスは計り知れません。
しかし専門家である弁護士に依頼することで、法的な見通しや対処法が明確になり、不安が軽減されるのは大きなメリットです。
弁護士は、今後の手続きの流れ、取り調べへの対応、想定される処分などを具体的に説明し、依頼者に寄り添ってサポートします。
精神的な安定を保つことで、適切な判断と行動を取りやすくなり、事件解決に向けた取り組みも効果的に進められます。
業務上横領をしてしまったら「ベンナビ刑事事件」!
業務上横領をしてしまったら、一刻も早く弁護士に相談することが重要です。
初犯や被害額の少ないケースであっても、対応を誤れば逮捕・前科のリスクがあります。
特に業務上横領のような会社との関係が絡む事案では、示談交渉や処分軽減のための戦略がカギです。
「ベンナビ刑事事件」なら、刑事事件に強い弁護士を地域や対応分野からすぐに探すことが可能。
刑事弁護に精通した弁護士と早期に連携し、最善の結果を目指しましょう。
業務上横領罪に関してよくある質問
1.業務上横領と窃盗はどう違う?
業務上横領と窃盗の違いは、盗まれる物を誰が占有しているかという点です。
業務上横領は、会社や顧客から正当に預けられ、管理する立場にある財産を自分のものにしてしまう行為。
一方で窃盗は、占有権限がない他人の財産を無断で奪う行為で、財布や商品を盗むなどが該当します。
信頼を裏切る点で、業務上横領の方が重い刑罰が科されやすい特徴があります。
2.業務上横領で逮捕されても初犯なら懲戒解雇されない?
業務上横領が発覚した場合、初犯かどうかにかかわらず多くの会社では懲戒解雇となります。
就業規則によりますが、横領は最も重い懲戒処分にあたるのが一般的。
金額が少なくても「信頼関係を破壊する重大な違反」とみなされるためです。
3.業務上横領で刑罰を受けたら再就職は難しい?
業務上横領で有罪判決が確定し刑罰を受けた場合、再就職で不利益を被る可能性があります。
刑事罰の経歴は、履歴書の賞罰欄に記載しなければならず、面接時での正直な申告が求められるためです。
特に金融・会計・管理職などお金を扱う職種では採用を避けられる傾向があるでしょう。
ただし、一定の職業を除き、前科があっても再就職自体は可能。
職種を変えたり誠意ある姿勢を示すことが大切です。
4.業務上横領で初犯で実刑になるケースは?
初犯であっても、以下のように犯行が悪質だったり被害額が高額な場合には実刑判決のリスクが高まります。
- 被害額が数千万円単位と極めて高額である
- 横領により会社が倒産に追い込まれた
- 長期間にわたり計画的におこなわれた
- 反省の態度が見られない
- 証拠隠滅を図った
- 被害弁償や示談が全く進まない
初犯なら実刑判決にはならないわけではなく、油断は禁物です。
5.業務上横領罪で返済義務はある?
刑事罰とは別に、横領したお金や物は被害者に返還する義務があります。
使い込んでしまったり自己破産したりしても、返済義務が免除されることはありません。
返済が進めば被害者の処罰感情が和らぎ、刑事処分の軽減や示談成立につながるケースも多く、返済努力は重要です。
6.初犯でも業務上横領では弁護士に相談するべき?
業務上横領は複雑な刑事事件であり、初犯でも弁護士への早期相談が不可欠です。
弁護士は取り調べ対応や勾留阻止、早期釈放のために尽力し、不起訴や前科回避の可能性を高めます。
また被害者である会社との示談交渉や被害弁償もサポートし、処罰感情の緩和により執行猶予の獲得につながります。
時間が経つほど選択肢は狭まるため、できるだけ早い段階で相談しましょう。
業務上横領罪の解決事例
弁護士が介入し、不起訴処分を獲得したり被害届が出る前に解決に至ったケースを紹介します。
弁護士が介入すると示談が適切に成立しやすく、前科がつくのを防げる可能性が高いことがわかる事例です。
1:1,000万円を着服したが示談で事件化を防止した事例
40代男性が勤務先の売上金を長期間にわたり着服し、被害総額が1,000万円を超えた事案で、刑事告発前に示談が成立したケースです。
会社は全額即時返済を求めて被害届提出を示唆していましたが、男性は資金が乏しく、返済は難しい状況でした。
しかし弁護士が介入し、会社が主張する被害額の一部に疑義を示すと、会社側も一部減額に応じ、分割払いでの返済も了承。
最終的に被害届は提出されず、刑事事件化を回避することができました。
2:5,000万円を着服したが不起訴処分を獲得できた事例
30代男性が会社の金銭を複数回にわたり横領し、被害総額が約5,000万円にのぼった事案です。
男性は全額返済が困難な状況ながらも、示談によって刑の軽減を図りたいと考え、弁護士に相談しました。
弁護士の介入により、会社と示談が成立し、将来的に分割で返済していくことで合意。
裁判では示談内容や返済の意思を重視して主張した結果、執行猶予付きの判決を得ることに成功しました。
さいごに
業務上横領罪は、信頼関係を破壊する重罪。
初犯でも悪質性が高ければ実刑判決が下されることがありますが、被害者との示談や返済の意思を示すことで、刑の軽減が期待できる場合もあります。
早い段階で弁護士のサポートを受けることで、勾留回避や不起訴処分、執行猶予付き判決を目指せるでしょう。
被害届が出される前に示談が成立すれば、事件化を防げる可能性もあり、日常生活への影響を最小限に抑えられます。
「会社のお金に手を出してしまった」と思ったら、まずはベンナビ刑事事件で専門家を探し、相談してみてください。