鑑定留置中の生活はどうなる?期間や鑑定留置後の流れも解説

事件を起こして逮捕・勾留された被疑者が精神的な問題を抱えている場合、刑事手続きの途中で鑑定留置処分が下されることがあります。
鑑定留置は、被疑者の精神状況を医学的に診断するために実施され、被疑者の刑事責任の有無を判断するためにも必要なものです。
しかし、鑑定留置処分が下されると、身柄拘束期間が長期化して社会復帰のハードルが高くなるというデメリットも生じます。
身近な人に鑑定留置処分が下されてしまった場合、「留置所でどんな生活を送ることになるの?」「鑑定留置を早めに終わらせるにはどうしたらいいの?」など、不安に感じることも多いでしょう。
そこで本記事では、鑑定留置中の生活実態、鑑定留置に不満があるときに争う方法などについてわかりやすく解説します。
鑑定留置中の生活は、病院施設もしくは拘置所や警察署の留置場で過ごす
鑑定留置とは、被疑者や被告人の心身の状態を鑑定する必要があるときに、期間を定めて病院その他の適切な場所に被疑者・被告人を留置する処分のことです。
鑑定留置の場所は、事案によって裁判所が決定し、病院施設や拘置所、留置場に留置されることになります。
起訴前におこなわれる簡易鑑定の場合、医師が拘置所や留置所に赴く形で1回のみ実施されるのが通常です。
また、より本格的な鑑定が必要だと判断された場合に実施される起訴前本鑑定においては、拘置所や警察署の留置場ではなく、病院に留置されて2~3ヵ月にわたって鑑定がおこなわれることもあります。
簡易鑑定か本鑑定かは犯罪の内容によって判断されるため、どちらになるかは一概には判断できません。
拘置所や留置場で過ごす場合、勾留期間中の生活とほぼ同じ
鑑定留置の場所が拘置所や留置場の場合、普段は拘置所や留置所で過ごすことになり、生活の内容も勾留期間中とは大差ありません。
留置されている被疑者のところへ医師がやってきて面談をしたり、日帰りで病院に診察・検査を受けたりするだけで済むので、生活面で大きな違いはないでしょう。
鑑定留置中(勾留期間中)はどんな生活を送る?
ここからは、鑑定留置中、入院することなく留置場・拘置所に身柄を留められる場合の生活実態について解説します。
数人の相部屋もしくは個室で過ごすことになる
留置場や拘置所で鑑定留置がおこなわれる場合、基本的に数人の相部屋もしくは個室で過ごすことになります。
一般的な留置場・拘置所は、8畳~10畳程度の広さの部屋で、6名程度が定員に設定されることが多いです。
警察署によっては2畳程度の個室が用意されていることもあり、他の被疑者・被告人とトラブルになるおそれがある人物などが収容されます。
また、トイレは留置場・拘置所の室内に設置されていますが、便器の周辺は壁で囲われたボックス型なので、排泄するときに同部屋の他の人に見られることはありません。
ただし、臭いや音は気になる可能性が高いでしょう。
留置場・拘置所が設置されているフロア全体には冷暖房が設置されているので、極端に過ごしにくい環境になることはありません。
なお、留置場は警察署の内部に設置されており、プライバシーに配慮して外部や一般の来庁者からは目につきにくい2階以上の箇所にあるのが通常です。
女性・少年・外国人の部屋は、男性・成人とは別区画に配置される
拘置所や留置場にはさまざまな容疑をかけられた被疑者・被告人が同じ部屋に収容されます。
そのため、収容されている被疑者同士でトラブルが発生することも少なくありません。
そこで、留置中のトラブルを防ぐために、女性や少年、外国人が収容されるときにはさまざまな点で配慮されています。
まず、女性の被疑者・被告人は男性とは別の区画に収容されます。
留置場内での様子や留置場を出入りする姿を男性に見られることはありません。
また、身体検査や入浴時の立会いは、必ず女性の警察官や職員が担当します。
化粧品やヘアブラシなどの使用も認められています。
少年の被留置者は、成人と同じ区画に収容されることはありません。
犯罪行為に及んだ成人と同室に収容されると、さらに非行に走ったり、少年自身が危害を加えられたりするリスクが高まるからです。
さらに、外国人の被留置者については、言語や宗教、食生活、生活習慣の違いに配慮するために、日本人とは別区画に収容されることが多いです。
収容時には外国語版の告知書が用意されて、通訳者を通じて被留置者の不安を除去するなどの工夫がされています。
決められたスケジュールに沿って生活する
鑑定留置中は、決められたスケジュールに沿って生活することになります。
留置場によってスケジュール組みは異なりますが、一般的には以下のような流れで1日を過ごすことが多いです。
- 7時~:起床、掃除
- 8時~:朝食
- 9時~:運動
- 12時~:昼食
- 18時~:夕食、就寝準備
- 21時:就寝
食事のほか、読書やラジオ番組の視聴などが可能
鑑定留置期間は、他の被留置者に迷惑をかけたり、留置場内の平穏を阻害したりしない限り、比較的自由な生活を送れます。
たとえば、原則として1週間に2回以上、最低でも5日に1回以上は入浴できます。
施設内に置かれている新聞や図書は自由に閲覧できるほか、差し入れや自費で購入した本も就寝時間以外は自由に読むことができます。
そのほか、ラジオでニュースや音楽を楽しむことも許されており、自由度は高いといえるでしょう。
なお、勾留期間中は取り調べが、鑑定留置期間中は医師による診断などがおこなわれますが、被留置者の日課の時間割などに配慮して実施されることが多いです。
勾留期間中は、栄養バランスが考慮された食事が3食提供される
勾留期間中や鑑定留置期間中は、1日3食の食事が提供されます。
食事の内容は、国民生活の実情などを勘案して十分なものになるように、定期的に栄養士のチェックがおこなわれています。
現金を所持していれば、自弁もしくは菓子・飲料の購入も一定の範囲内で可能
支給される食事だけで足りない場合には、被留置者の自己負担で食事、菓子類、乳製品、飲料などを購入できます。
ご家族が被疑者の勾留期間・鑑定留置期間中の食生活を心配なさるなら、現金を差し入れることをおすすめします。
鑑定留置の生活が続く期間
鑑定留置期間は事案によって異なりますが、起訴前鑑定の場合には3ヵ月程度の期間が定められるのが一般的です。
鑑定留置がおこなわれている期間中は、勾留期間がストップします。
そして、鑑定留置期間が満了すると、勾留期間が再び進行し、期限までに検察官が公訴提起の判断をするという流れです。
なお、簡易鑑定の場合は勾留期間中に日帰りなどで実施されるため、勾留期間は停止しません。
鑑定留置後の流れ
ここからは、鑑定留置生活が終わったあとの刑事手続きの流れについて解説します。
1.起訴決定
留置期間が終わると、捜査活動で得られた証拠や被疑者の供述、鑑定留置で得られた診断書などを総合的に考慮したうえで、検察官が公訴提起するか否かを判断します。
たとえば、鑑定留置の結果、犯行当時の被疑者の責任能力が備わっておらず、公判を維持できないと検察官が判断したときには、不起訴処分が下されるでしょう。
一方で、鑑定の結果十分な責任能力が認められる場合は、起訴処分が下されます。
2.起訴の場合は刑事裁判
検察官が起訴処分を下した場合、公開の刑事裁判にかけられます。
刑事裁判は、公判期日で証人尋問が実施されたり、鑑定留置の結果などが精査されたりして、裁判官が最終的に判決を言い渡すという流れで実施されます。
日本の刑事裁判の有罪率はほぼ100%なので、起訴処分が下された時点で事実上有罪が確定してしまいます。
そのため、「有罪になりたくない」「前科をつけたくない」と希望するなら、刑事裁判に力を入れるのではなく、鑑定留置段階から不起訴処分を引き出すための防御活動をおこなうことが重要です。
3.不起訴の場合は治療や観察になることも
鑑定留置の結果などを踏まえて検察官が不起訴処分を下した場合、その時点で刑事手続きは終了します。
有罪になることはありませんし、前科もつきません。
ただし、「不起訴処分だからすぐに社会復帰できるだろう」というのは間違いです。
鑑定留置の段階で被疑者の精神鑑定結果に問題があると判断されると、不起訴処分が下されたあと、医療観察法に基づく審判が開かれて、入院・通院などの措置が下される可能性があります。
精神上の問題が原因で犯罪行為に及んだ人物がそのまま社会復帰すると、再び何かしらの事件を起こして被害者が生まれる危険性があるからです。
まず、十分な責任能力がないことを理由に不起訴処分とした場合、検察官が地方裁判所に審判を申し立てます。
審判には、精神保健審判員、精神保健参与員、弁護士、鑑定医などの専門家が関与し、不起訴処分が下された人物に対してどのような措置を施すべきかを判断します。
審判で入院決定が確定すると、厚生労働省指定の病院に入院して専門的医療が実施されます。
入院期間は個別ケースごとに判断されますが、18ヵ月程度の期間が設定されるのが一般的です。
退院後も原則3年程度の通院が必要とされるケースが多いです。
一方、審判で通院決定が確定した場合、原則3年間、通院での療養プログラムが作成されます。
治療経過次第ですが、さらに2年通院期間が延長される可能性もあるでしょう。
また、退院後の生活、通院期間中の生活については、定期的に保護観察所からのチェックが入ります。
これらのプロセスを経ながら、不起訴処分になった人は本当の意味での社会復帰を目指すことになるのです。
鑑定留置に不満がある場合の対処法
さいごに、鑑定留置処分に対して不満があるときの対処法について解説します。
1.まずは鑑定留置理由開示請求をする
鑑定留置処分が下されると、通常の逮捕・勾留期間よりもはるかに長期間身柄拘束されて社会から断絶された状態が続きます。
そのため、鑑定留置に理由がないと思われる場合には、鑑定留置の効力について争う必要があります。
ただ、鑑定留置の効力について争うには、鑑定留置がされた理由を被疑者側で把握しなければいけません。
そこで、鑑定留置の効力について争う場合には、鑑定留置理由開示請求をして、裁判所が鑑定留置を許可した理由を把握することから始めます。
鑑定留置理由開示請求手続きでは、被疑者本人の意見陳述の機会も設けられます。
鑑定留置によって被る社会的なデメリットや心身への悪影響などを裁判官に伝えることで、その後の準抗告や鑑定留置取消請求が認められる可能性が高まるでしょう。
2.準抗告を申し立てる
鑑定留置の効力を争う手段として、鑑定留置処分決定に対する準抗告が挙げられます。
たとえば、鑑定留置をしなくても簡易鑑定で済む場合や、客観的証拠から明らかに犯行当時の刑事責任能力に問題がなかったと認められる場合などでは、準抗告が認められて鑑定留置処分が翻される可能性があるでしょう。
3.鑑定留置取消請求をする
鑑定留置は、鑑定留置状に記載された留置期限まで有効ですが、被疑者の状況や診察の進捗具合次第では、留置期限まで鑑定留置を継続する必要性がないと考えられる場合も少なくありません。
このようなケースでは、鑑定留置取消請求をすることで鑑定留置を終了させ、被疑者の身柄拘束期間を短縮化することができます。
なお、鑑定留置取消請求は鑑定留置期間中何度でもおこなえます。
たとえば、鑑定留置期間中になかなか医師による面談機会が設けられないなどの事態が生じたときには、すぐに弁護士に相談して、鑑定留置取消請求をしてもらいましょう。
さいごに
鑑定留置期間中は、勾留期間と同じような生活が続きます。
逮捕・勾留段階のように取り調べは実施されませんが、留置場から出ることはできず、家族や知人との面会にも大幅な制限が加えられたままです。
そのため、鑑定留置に根拠がないと考えるのなら、できるだけ早いタイミングで鑑定留置取消請求などの対抗策を講じるべきでしょう。
ベンナビ刑事事件では、刑事手続き実務に詳しい弁護士を多数紹介中です。
法律事務所の所在地、具体的な相談内容、初回相談無料などのサービス面から24時間無料で専門家を検索できます。
少しでも疑問や不安があるときには、速やかに信頼できる弁護士までお問い合わせください。



【初回相談無料】即日接見OK!刑事事件はスピードが非常に重要です。当事務所では、ご依頼を受けてからなるべく迅速に接見に伺い、素早い弁護活動を心がけています。休日のご相談やオンライン相談にも対応◎
事務所詳細を見る
【刑事弁護のプロフェッショナル】日本でも数少ない刑事弁護のみを専門的に取り扱うブティックファームです|電話が繋がらない場合は、メールまたはLINEよりお問い合わせください。
事務所詳細を見る当サイトでは、有料登録弁護士を優先的に表示しています。また、以下の条件も加味して並び順を決定しています。
・検索時に指定された都道府県に所在するかや事件対応を行っている事務所かどうか
・当サイト経由の問合せ量の多寡



逮捕された場合の対処法に関する新着コラム
-
身近な人に鑑定留置処分が下されてしまった場合、「留置所でどんな生活を送ることになるの?」など、不安に感じることも多いでしょう。 そこで本記事では、...
-
本記事では、勾留延長の連絡に関する実務の状況、勾留延長されたかどうかを確認する方法を解説します。 また、勾留延長の阻止に向けて弁護士がやってくれる...
-
無免許運転で逮捕された高校生は、長期間の身体拘束や退学処分を受ける可能性があります。早期の身柄解放や退学処分の回避、家庭裁判所・学校と連携を図るため...
-
無免許運転は常習犯の場合、初犯よりも重い処分が下される可能性が高いです。本記事では、無免許運転の常習犯として逮捕された場合に考えられる刑罰の内容や、...
-
これから拘置所での生活が控えている方々にとって、不安や疑問は尽きないでしょう。本記事では拘置所でのスマートフォンや携帯電話の取り扱いについて詳しく解...
-
本記事では、誤認逮捕の被害者が利用できる補償・賠償制度について解説します。 誤認逮捕されてしまった方や、罪を犯していないのに警察から疑われている方...
-
痴漢・万引き・盗撮・横領など、やってもいないのに犯人だと疑われてしまうケースは少なからず存在します。 どうすれば疑いを晴らせるのか悩んでいる方もい...
-
もしも自分や家族が刑事告訴され、警察から連絡があったら、逮捕後の流れや、各段階でやるべきことを確認しておく必要があります。本記事を参考に、早めに弁護...
-
保釈は、刑事裁判の公判を待つ勾留中の被告人が、保釈金を納付して刑事裁判までの間、一時的に身柄を解放させる制度です。ここでは釈放との違いや保釈金の相場...
-
DVは家庭内だけにとどまらない社会問題です。警察に通報されると逮捕される可能性があり、家族や仕事を失うことにもなりかねません。ここではDV通報で通報...
逮捕された場合の対処法に関する人気コラム
-
保釈は、刑事裁判の公判を待つ勾留中の被告人が、保釈金を納付して刑事裁判までの間、一時的に身柄を解放させる制度です。ここでは釈放との違いや保釈金の相場...
-
家族が逮捕されたら、学校や会社への対応や、被害者との示談交渉など、やるべきことがいくつか出てきます。留置場に拘束された本人をサポートするために、ご家...
-
未成年が逮捕された場合と成人が逮捕された場合とでは、その後の手続きが異なる部分があります。この記事では、未成年が逮捕された後の手続きの流れと対処法に...
-
再逮捕(さいたいほ)とは、既に逮捕され勾留状態にある人物を釈放直後、又は勾留中に再び逮捕をすることです。
-
逮捕とは、捜査機関や私人(一般人)が被疑者の逃亡や証拠隠滅を防ぐために一時的に身柄を強制的に拘束することを言います。逮捕された後の流れはどうなってい...
-
供述調書とは、刑事捜査において、被疑者や参考人の供述を記した供述証拠のことです。
-
黙秘権とは、刑事事件の捜査で行なわれる取り調べの際に自分にとって不利益な供述にならないために、終始沈黙し、陳述を拒むことができる権利です。黙秘権は刑...
-
取り調べとは、被疑者や参考人に出頭を求めて、事件に関する内容の事情を聴取することです。取り調べに強制力はありませんが、逮捕・勾留されている被疑者は退...
-
「拘置所に入れられた身内と面会したい。」身内が逮捕され、拘置所に入れられてしまうと誰しもが思うことです。例え刑事事件を起こして逮捕されてしまった人で...
-
誤認逮捕とは、警察などの捜査機関が無実の人物を逮捕してしまうことです。
逮捕された場合の対処法の関連コラム
-
妻が逮捕されてしまった場合、まずは弁護士に相談して、接見してもらい、状況を整理しましょう。この記事では、妻が逮捕されてしまった場合にあなたがすべきこ...
-
刑事事件に強い弁護士とは、どんな弁護士のことなのでしょうか。この記事では、刑事事件に強い弁護士の特徴と、判断ポイント、依頼者の心構え、刑事事件に強い...
-
罪を犯してしまった人は、逮捕や刑事罰などによって罰則を受けなくてはなりません。ただ、『犯罪を起こした=逮捕』ではないことは知っておいてください。軽微...
-
娘が逮捕されてしまった場合はすぐに弁護士に相談しましょう。この記事では、あなたがすべき5つのことから、弁護士の呼び方、弁護士費用の相場、逮捕後の流れ...
-
無免許運転で逮捕された高校生は、長期間の身体拘束や退学処分を受ける可能性があります。早期の身柄解放や退学処分の回避、家庭裁判所・学校と連携を図るため...
-
この記事では、どのような転売行為が逮捕になり得るのか、具体的な違法行為の内容や例を交えながら解説します。すでに転売している人は、違法行為にならないよ...
-
もしも自分や家族が刑事告訴され、警察から連絡があったら、逮捕後の流れや、各段階でやるべきことを確認しておく必要があります。本記事を参考に、早めに弁護...
-
家族が突然逮捕されてしまったとき、いつ、どのようにすれば面会できるか知っているでしょうか?この記事では、逮捕・勾留後の被疑者と面会する際に押さえてお...
-
この記事は、身に覚えがないのに警察から電話が来た人に向けて、その理由と対処法についてお伝えします。警察の用件や電話に出られなかったときの対応方法など...
-
これから拘置所での生活が控えている方々にとって、不安や疑問は尽きないでしょう。本記事では拘置所でのスマートフォンや携帯電話の取り扱いについて詳しく解...
-
逮捕された家族と面会したいと考えていたところ、接見という言葉を知り、気になっている方もいるでしょう。この記事では、接見の意味や方法、弁護士への接見の...
-
再逮捕(さいたいほ)とは、既に逮捕され勾留状態にある人物を釈放直後、又は勾留中に再び逮捕をすることです。
逮捕された場合の対処法コラム一覧へ戻る