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正当防衛の定義|成立する5つの条件と過剰防衛との違いについて

弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士
監修記事
正当防衛の定義|成立する5つの条件と過剰防衛との違いについて

正当防衛(せいとうぼうえい)とは、犯罪から自分や他人の身を守るために、やむを得ず行った行為のことを言います。

刑法36条1項には「急迫不正の侵害に対して自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずした行為」とあり、正当防衛が認められることで、本来なら違法行為となるものも違法として扱われなくなり、刑事罰を受けないことになります。

一方、自分では正当防衛になると思ってとった行動が正当防衛の法律上の要件を満たしておらず、暴行罪や傷害罪などの刑事責任を問われるケースは珍しくありません。

正当防衛には、刑事上と民事上の2種類がありますが、本記事では刑事上の正当防衛について、正当防衛の定義や成立する要件などについて詳しく解説します。

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正当防衛と認められるための5つの要件

正当防衛については、刑法第36条に記述があります。

(正当防衛)

第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

【引用】刑法第36条|e-Gov

 

正当防衛と認められる要件は、以下の5つです。
 

  1. 不正の侵害であるかどうか
  2. 急迫性があるかどうか
  3. 防衛行為の必要性があるかどうか
  4. 防衛行為の相当性があるかどうか
  5. 防衛の意思があったかどうか

これらの5つ全てを満たさないと、正当防衛とは認められません。

正当防衛は本来、刑事責任を負うべき行為について違法性を否定する概念ですので、そのハードルは相当高くなっています。

刑法36条1項には、「①急迫不正の侵害に対して②自己または他人の権利を防衛するため、③やむを得ずした行為」とあり、この一行の中に正当防衛の定義がすべて含まれていますが、イメーイしづらい方向けに詳しく解説します。

①「急迫不正の侵害」とは?

不正の侵害とは

これは相手の行為が違法性を有する権利侵害行為であるということです。権利侵害とは、簡単にいえば、生命、身体、財産などに対する加害行為ということで、暴力や窃盗などがあります。

なお、相手の行為に違法性がない場合、正当防衛は成立しませんが、これと似た概念で緊急避難となる可能性があります。

急迫性とは

急迫性とは権利侵害行為が切迫していること、すなわち現在進行形で発生していることを意味します。そのため、過去に終了した出来事や未来に発生する可能性のある出来事に対する危険回避は正当防衛に当てはまりません

例えば、刃物を持って暴れていた犯人をロープ等で拘束する行為は、それ自体は正当防衛として暴行罪等が不成立となる可能性が高いでしょうが、そのようにして犯人を制圧した後に犯人を殴って怪我をさせた場合には、正当防衛として認められず、暴行罪傷害罪が成立する可能性があります。

これは、例え刃物を持って暴れるような危険な人物でも、ロープで拘束されて制圧され、もはや暴れる危険性がない以上、それ以降は急迫性が否定されるためです。

また、特定の相手から攻撃されることを予想したうえで、あらかじめ反撃行為(先制攻撃)を行うことも、急迫性が否定されるか、防衛の意思が否定されることから、正当防衛として認められないでしょう。

②「自己または他人の権利を防衛する」とは?

権利とは

ここで言う権利とは 法的に保護すべきとされる権利又は利益であり、一般的には、生命、身体、財産などです。

そして、これらの権利利益の保護の必要性はイコールではなく、生命>身体>財産の順に保護の必要性が高いと考えられています。

防衛の意思とは

不当な侵害に対する防衛の意思があったかどうかも正当防衛の判断基準になります。攻撃を予想してそれに乗じて積極的に傷つけてやろうという場合は、この防衛の意思が否定されることになります。

当該防衛の意思は、主観的に防衛の意思があったかどうかではなく、客観的状況から防衛の意思が認められるかどうかで判断されます

そのため、普段から相手に恨みを持っており、防衛行為の際に相手に憎しみを持っていたとしても、この点のみで防衛の意思が否定されるものではありません。

しかし、客観的状況から、侵害行為を予想していた又は容易に予想できた場合で、かつ、相手を攻撃する以外に危険を回避する手段があった場合であるにもかかわらず、積極的に反撃に転じて相手を加害したという場合には、たとえ身を守るためという意思があったとしても防衛の意思が否定される可能性があります。

③「やむを得ずした行為」とは?

やむを得ずした行為には、必要性と相当性がないと正当防衛とは認められません。

必要性とは

防衛のためにその行為の必要性があったかということです。逃げる余地があったのにもかかわらず、こちらから積極的に攻撃をしていった場合は、上記のとおり防衛の意思が否定されることになります。

そのため、防衛の必要性は、防衛の意思と重複する部分がある概念と言えるでしょう。

相当性とは

侵害の危険を回避するためにとった防衛行為が、防衛のため必要最小限度のものであったといえるかという判断基準です。

不正な権利の侵害に対し、受けた侵害を上回る防衛を行ったのであれば、それは正当防衛ではなく、過剰防衛として違法性が否定されないことになります。

例えば、素手での攻撃に対し、こちらが刃物を使って相手を怪我させるような防衛をとった場合、正当防衛と認められにくくなります

また、相手が自分の財産を傷つけようとしたのに対し、相手の身体に大怪我を負わせ得るような攻撃をした場合も、正当防衛ではなく過剰防衛であると評価される可能性があります。

ポイント

ボクシングや柔道などの格闘、武道経験者は、素手での暴行行為に対し、同じく素手での暴行で防衛をしたとしても、相当な範囲を超える防衛行為をしたとして、過剰防衛と判断されるケースもあるでしょう。

正当防衛と認められることで犯罪ではなくなり罰を受けなくなるが…

正当防衛と認められた場合、形式的には犯罪行為に該当しても、違法性が否定され、犯罪とならないとされています。相手が怪我をしたり死亡したりした場合でも、正当防衛と判断されれば、刑事上の責任を問われることはありません。

そのため、警察や検察の捜査の結果、正当防衛であることが明らかという事例であれば、不起訴として刑事裁判手続きをとられない可能性もあります。

しかし、正当防衛となるかどうかの判断基準は明確ではなく、様々な客観的状況により評価が異なるものであり、「正当防衛であることが明らか」な事例など、ほとんどありません。

そのため、通常、正当防衛を主張した場合であっても、事案が重大であれば逮捕・勾留は免れないでしょうし、不起訴とならず裁判手続に移行する可能性も十分あるでしょう。

この場合、裁判手続きの中で正当防衛の主張を行い、無罪を求めて戦うことになりますが、立証のハードルは高いと言わざるを得ません。

正当防衛の有無が問われた実際の判例

実際に正当防衛の成立・不成立について争われた判例を2つご紹介します。上でも触れましたが、正当防衛の立証は相当ハードルが高く、正当防衛を主張しても認められないものが多くなっています。

一部の行為が正当防衛と認められた判例

合計2度の暴行を行っており、第1の暴行では正当防衛が成立するものの、一連の事件としては正当防衛が認められないと判断された判例です。

 

行為の内容

被害

第1の暴行

因縁を付けられ、フェンスに押しやられ蹴りなどを受ける

→これに対して蹴りなどで抵抗

頭部打撲による頭蓋骨骨折に伴うクモ膜下出血によって死亡

近くにあった高さ60cmの灰皿を投げつけられる

→顔面を殴打、その後相手は転倒し意識を失ったように動かなくなる

第2の暴行

転倒して動かないことを認識したうえで腹部を蹴りつけるなどの行為

肋骨骨折、脾臓挫滅、腸間膜挫滅等

被告人は因縁を付けられ、第1の暴行によって抵抗します。その後転倒して動かなくなった相手にさらに第2の暴行を加えます。

結果的に被害者は死亡し、死因となったのは第1の暴行によるものでした。

第1審では傷害によって人を死亡させたとして傷害致死罪として懲役3年6ヶ月の判決が出ていました。しかし、第1の暴行は正当防衛が成立すると認められ、傷害致死罪の判決は覆ります。

ただし、第2の暴行については、正当防衛成立の余地はないとして、傷害罪で懲役2年6ヶ月の判決を受けます。

これに対して弁護人は一連の事件として正当防衛が成立すると無罪を主張して上告(※)しましたが、棄却されています。

【参考】最高裁決定平成20年6月25日刑集第62巻6号1859頁|裁判所

※上告…第二審に対する不服申し立て

自らの暴行により不正の侵害を招いたものだとして正当防衛が否定された判例

被告人と被害者Aは言い争いになり、まず被告人がAのほおを殴打して走って逃げます。その後、Aに自転車で追われ後方から殴打されます。

倒れた被告人は護身用として持っていた特殊警棒でAの顔面や手を殴打します。これによりAは3週間の怪我を負いました。

被告人側はAの攻撃に侵害の急迫性があり正当防衛が成立すると主張しましたが、被告人自らの不正の行為(暴力)により相手の攻撃(不正の侵害)を招いたとして、正当防衛は認められませんでした。

この、自ら不正の侵害を招き、正当防衛をするような状況を作り出すことを『自招侵害(じしょうしんがい)』と言います。自招侵害については、様々な学説がありますが、こちらのケースでは正当防衛は認められていません。

【参考】最高裁決定平成20年5月20日刑集第62巻6号1786頁|裁判所

正当防衛と過剰防衛の違い

度々登場しましたが、刑法第36条では、正当防衛と共に過剰防衛の記述もあります。

防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

【引用】刑法第36条2項|e-Gov

『防衛のためやむを得ずした行為』が行き過ぎた場合、過剰防衛となります。特に上でも説明したように、『やむを得ずした行為』に正当性と相当性がない場合には、過剰防衛になるかどうかの検討もされるでしょう。

過剰防衛と判断された場合、正当防衛のように罪に問われないことはなく、罰則を受けることとなります。ただし、刑の軽減や免除になることはあり得ます。

防衛のために取った行動が行き過ぎた犯罪行為だったとしても、急迫不正の侵害に対してとっさに取った行動であれば、過剰防衛として刑が軽減されることも考えられます。

ポイント
過剰防衛は罪となるが刑の軽減はあり得る

正当防衛と緊急避難の違い

正当防衛と似た内容で、緊急避難という用語があります。

(緊急避難)

第三十七条 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

【引用】刑法第37条|e-Gov

正当防衛が急迫不正の権利侵害に対して防衛行為として行うものであるのに対し、緊急避難は現在生じている危難(権利侵害)を回避するための行為として、権利侵害の違法性の有無を問いません。

緊急避難も正当防衛と同じで、認められれば無罪になります。例えば、津波などの天災から逃げるため、近くにあった第三者の自転車を無断で使う行為は正当防衛ではなく、緊急避難となり、窃盗罪などは成立しません。

正当防衛の主張は必ず弁護士に相談した上で行うこと

繰り返しますが、正当防衛を主張しても認められることは滅多になく、非常に難易度が高いものだと言えます。

事件を起こして逮捕された人が安易に正当防衛を主張しても、「反省していない」「罪を認めない」などと判断され、余計に自らの立場を悪くしてしまうことが考えられます。

もし、正当防衛が該当し得る状況にある事件で逮捕・捜査されているのであれば、必ず弁護士に相談して詳しい事情を説明するようにしてください。

ある程度の状況を説明することで、正当防衛が成立するかどうかを判断することもできますし、いざ主張する場合になったとすれば、弁護人として説得力がある主張を行ってくれます。

自らの判断だけで正当防衛を主張しても、より厳しい罰則を受ける可能性を高めることになりますので、必ず弁護士に相談するようにしましょう。

まとめ

普通に生活している中でいつ危険に遭遇するかはわかりません。酔っぱらいに絡まれるかもしれませんし、通り魔に遭遇するかもしれません。

その時に「正当防衛には、防衛の必要性や相当性~」などと考えながら行動することは無理です。また、結果的に正当防衛であっても、刑事手続に巻き込まれれば、その被害は甚大です。

そのため、何かしらの危険を感じた場合は、これに立ち向かうのではなく、まずその場から逃げ出すことを考えて下さい。

それでもやむを得ず手を出し、逮捕された場合には、自分が防衛行為として行ったものであることを警察や検察に説明し、弁護人に対応を求めましょう。

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この記事の監修者
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士 (第二東京弁護士会)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。
編集部

本記事はベンナビ刑事事件(旧:刑事事件弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ刑事事件(旧:刑事事件弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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