泥酔して暴行|逮捕される?前科はつく?おおまかな流れを解説
泥酔すると、普段は温厚な人でも乱暴になってしまうことがあります。結果として、他人に暴行してしまうケースがあるものです。
しかし、泥酔状態であっても、暴行してしまうと、犯罪が成立して逮捕されてしまう可能性があります。泥酔中の暴行で逮捕されたら、どのような流れで刑事手続が進んでいくのでしょうか。
この記事では、泥酔状態で暴行をして逮捕されたときの流れや、前科をつけないための対処方法を解説します。
泥酔状態での暴行事件は少なくない
泥酔状態の暴行事件は、自分とは関係ないと考えているかもしれませんが、実際には決して少なくない事件です。
たとえば、2019年4月には、プロ野球・巨人の澤村拓一選手が一般人に暴行を振るったとのニュースが報道され、話題になりました。また、2019年8月には元埼玉県幸手市長の渡辺邦夫氏が泥酔状態で女性を殴ったとして、逮捕されています。
このように、強い精神力を求められる有名人・政治家、スポーツ選手などでも泥酔状態での暴行事件を起こしてしまうことがあるのです。
暴行事件は、一般人にとっても決して他人事ではありません。特にお酒に酔っている泥酔状態では、正常な精神状態ではないケースがあるので、暴行事件に発展することは十分あり得ます。
問われる可能性がある罪名
泥酔状態で暴行を振るうと、以下のような罪が成立する可能性があります。
手を出した時点で成立する暴行罪
まず、相手に手を出した時点で、「暴行罪」が成立します。暴行罪が成立するのは、相手がけがをしなかった場合です。
暴行罪の法定刑は、「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」(刑法第208条)です。
相手が怪我をすると成立する傷害罪
暴行の結果、被害者が怪我をしたら「傷害罪」が成立します。怪我をした場合のほか、病気にかかった場合にも、傷害罪が成立します。
傷害罪の法定刑は、「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」(刑法第204条)です。
暴行が悪質な場合は殺人未遂罪
暴行の内容が相手が死亡する危険をはらむ悪質なものだった場合、殺人未遂罪が成立します。殺人罪の法定刑は、「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」(刑法第199条)で、殺人未遂罪の場合、ここから刑が減軽される可能性があります。
相手を死亡させてしまった場合は傷害致死罪
泥酔状態での暴行によって相手を死亡させた場合には、傷害致死罪が成立します。傷害致死罪の法定刑は「3年以上の有期懲役」(刑法第205条)です。
泥酔状態でも責任能力は問われる
泥酔状態なら意識が混濁しているので、責任能力がないとして無罪にならないのでしょうか。法律上、責任能力がない状態は、心神喪失あるいは心神耗弱として扱われる場合があります。
それぞれの詳細を確認しておきましょう。
刑法第39条1項|心神喪失
刑法では、「心神喪失者の行為は、罰しない」とされています。「心神喪失」とは、精神の障害により物事の善悪などをまったく判断できない、又はその判断に従って行動することのできない状態です。
確かに、かなり酷い泥酔状態となって、事理の弁識能力がなくなっていたら、心神喪失状態における犯行として罪にならない可能性があります。しかし、具体的事情にはよりますが、“泥酔していた”というだけで心神喪失状態として責任能力が否定され、無罪となるのは、かなり限定的な場合と言えるでしょう。
また、わざと酒をたくさん飲んで泥酔状態となり、その状態を利用して相手に暴行を振るった場合などには、心神喪失とは認められず、通常の刑が成立することになります。
刑法第39条2項|心神耗弱
刑法では、「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」と規定されています。「心神耗弱」とは、精神の障害により善悪の判断能力を完全に失っているとまでは言えないものの、著しく判断能力が低下している状態です。
心神喪失、心神耗弱にあたるかどうかは、最終的には裁判所の法律的な判断により決定することになります。
したがって、どれくらい飲酒をしていれば心神喪失や心神耗弱にあたるかを一概に言うことはできません。この判断は難しいものがありますので、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
泥酔して暴行した場合の逮捕状況
泥酔状態で暴行をすると、どういった経緯で逮捕されるケースが多いのでしょうか?
現場で取り押さえられて現行犯逮捕
泥酔した人が暴れて周囲の人に暴行をすると、その場で取り押さえられて現行犯逮捕される可能性があります。現行犯逮捕は、逮捕権を持たない私人でもできるので、警察を呼ばれるまでもなく逮捕されることもあるでしょう。
被害届による捜査から通常逮捕にいたる
暴行を振るったその場では逮捕されなくても、後日被害者が警察に被害届を提出すれば、捜査機関による捜査が行われたのちに逮捕される可能性があるでしょう。
こういった逮捕方法を、「通常逮捕」と言います。法律用語ではないものの、一般的に「後日逮捕」と呼ばれることもあるようです。
通常逮捕をすることができるのは、警察・検察などの捜査機関のみです。
告知なく突然逮捕される
警察などの捜査機関によって通常逮捕されるときには、原則被疑者への予告はありません。捜査機関が事件発生後捜査を進め、必要な資料を集めたうえで逮捕状を取得し、逮捕状を携行して加害者の自宅を訪ねます。
多くの場合は、加害者が在宅中である可能性が高い早朝に訪れるようです。この場合は、自宅のドアを開けた時点で、逮捕状を提示されて逮捕されるケースもあります。
大して身の回りの用意もできず、身ひとつで警察に行かねばなりませんし、家族や会社などにも多大な迷惑と心配をかけてしまうでしょう。
泥酔状態の暴行で逮捕されたら前科がつくか
泥酔状態で暴行をして逮捕されたとき、気になるのは「前科がつくのかどうか」ではないでしょうか。泥酔状態でも暴行罪や傷害罪などの犯罪が成立して、有罪判決を受ければ前科がつきます。
前科は簡単に周囲に知られるものではありませんが、ニュース等で報道されたり、就職する際に前科の有無を聞かれたり、資格をはく奪されるケースも考えられるため、避けられる場合は避けるべきと言えるでしょう。暴行で逮捕されたら、なるべく前科をつけないよう迅速な対応を開始すべきです。
逮捕されたら早期に弁護士への相談を
泥酔状態で暴行をして逮捕されたら、なるべく早めに弁護士へ相談しましょう。弁護士へ早期に相談する必要性は非常に高く、タイミングによって弁護士から受けられるサポートに大きな違いがあります。
泥酔状態で暴行して逮捕されたときの弁護士の役割
泥酔状態で暴行して逮捕されたとき、弁護士は以下のような活動をしてくれます。
身体拘束解放に向けた弁護活動
逮捕されたとき、被疑者の方としてはまず「身柄の解放」を目指すべきです。身柄拘束期間が長くなればなるほど、社会生活上の不利益が大きくなるためです。
弁護人を選任したら、弁護士は早急に身柄の解放に向けた活動をすることになります。
外部との連絡手段の確保
逮捕された状態では、家族や会社などの外部と連絡を取り合うことは不可能です。弁護人を専任していれば、弁護人を介して家族などと連絡を取り合うことが可能となります。
被疑者に有利になる情状証拠の収集
暴行で逮捕されたとき、処分を軽くしてもらうには有利な情状を示すための資料が必要です。たとえば、身体拘束から解放された場合の身元引受書や、被害者との示談書などです。
事件について反省していること、家族等による監督を期待でき、再度の犯行に至る可能性がないこと、職場でまじめに働いていることなどは有利な情状となります。弁護人が有利な情状に関する資料を集めて、不起訴処分といった有利な処分を獲得しやすくするよう、努力することになります。
被害者への謝罪
加害者が被害者へ謝罪しようとしても、逮捕され、身体を拘束されていては身動きが取れません。弁護士を通じて被害者に連絡を入れて、謝罪の気持ちを伝えてもらうことも可能になります。
被害者との示談交渉
暴行事件で逮捕された被疑者がなるべく軽い処分を受けるには、被害者との示談が成立していることが重要です。被疑者が自分で示談交渉を進めるのは難しいのが現状ですが、弁護士に任せるとスムーズに交渉を進められるケースもあります。
弁護士への相談は早期なほど良い
暴行事件で逮捕されたとき、弁護士へ相談するタイミングは早ければ早いほど望ましいと言えます。なるべく早く身柄を解放してもらった方が社会生活への影響が小さくなりますし、被害者と示談を成立させられる可能性も増えるでしょう。
【関連記事】弁護士に無料法律相談できるおすすめ相談窓口|24時間・電話相談OK
時間が経てば経つほど不利益が大きくなるので、早急に弁護士への対応依頼を検討してください。
逮捕後に身柄事件になった場合の一般的な流れを解説
暴行で逮捕・勾留され「身柄事件」となったときの一般的な刑事手続の流れは以下のとおりです。
身柄拘束されない在宅事件 |
なお刑事手続には、身柄拘束されない「在宅事件」もあります。その場合、逮捕後3日以内に釈放され、被疑者在宅のまま捜査が進められます。 |
最長48時間|警察が送致を要するか判断
身柄事件となった場合には、警察が検察官へ被疑者の身柄を送るかどうか判断します。極めて軽微な事件でかつ被害者が許しているような場合、検察官へ身柄を送られずに済む場合もあります。
最長24時間|検察が勾留を要するか判断
検察官が被疑者の身柄を受け取ると、その後勾留するかを判断します。身柄拘束が必要と判断された場合には、裁判官へ勾留請求を行い、裁判官が勾留を決定した後に、引き続き身柄拘束が行われます。
最長20日間|検察が起訴を要するか判断
勾留後も引き続き捜査が行われ、被疑者は検察官等による取調べを受けることになります。勾留期間は原則10日、最大20日で、その間に検察官が起訴するか不起訴にするかを判断します。
関連記事:刑事事件の流れ|重要な48時間・72時間・23日以内の対応
起訴されれば判決を待つことになる
起訴されると、刑事裁判を受けることになるでしょう。暴行の場合、罰金相当なら書面審査のみの簡易な手続きで行われる略式裁判となる可能性もあります。
暴行を振るったことが事実なのであれば、無罪は期待できないので、なるべく刑罰を軽くする弁護活動が重要となるでしょう。
不起訴になれば即時釈放される
捜査が終了した時点で検察官が不起訴の決定をすれば、刑事手続はその時点で終了します。被疑者の身柄もすぐに釈放されて、前科がつくこともないので、不利益を最小限にとどめることが可能です。
【注目】無罪判決を得られる確率は0.1%以下 |
いったん起訴されたのち、無罪の判決を受けることは、非常に困難であるのが現状です。
日本の刑事裁判では無罪判決が出される確率は非常に低いですし、そもそも暴行を振るった事実を認めているのであれば、無罪主張を行うことは適当ではありません。
心神喪失や心神耗弱の主張を行うことも不可能ではありませんが、前述のとおり泥酔状態だったというだけでこれらの主張が認められる可能性は低いと言えます。
暴行をした事実を認めているのであれば、不起訴処分を狙う方が現実的です。
泥酔状態で暴行を振るって逮捕されたら、弁護士を介して早期に被害者と示談交渉を進め、不起訴処分の獲得を狙いましょう。 |
まとめ|泥酔状態で暴行して逮捕されたら早急に弁護士への相談を検討する
泥酔状態で暴行を振るった場合、基本的には暴行罪や傷害罪が成立しますが、最悪の場合には殺人未遂罪や傷害致死罪が成立してしまう可能性もあります。また、逮捕に至った場合で社会生活上の不利益を少しでも小さくするには、弁護士によるサポートが必要不可欠です。
早期に被害者との示談を成立させられた場合、その事情が起訴、不起訴の判断にも考慮されて不起訴処分を受ける可能性が上がり、結果として前科がつかないことになることも十分考えられます。
いったん起訴されてしまうと、日本の刑事裁判では有罪判決がなされる確率が99%を超えているため、無罪判決を獲得することは極めて困難と言ってもよいでしょう。特に身柄事件となった場合、被害者との示談交渉にかけられる時間は長くはありません。
なるべく早めに刑事弁護に強い弁護士を探して相談し、接見を要請しましょう。
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