内乱罪とは|該当する罪名や刑罰・過去の事件をわかりやすく解説
内乱罪(ないらんざい)とは、国家の秩序を転覆させる目的で暴動を起こす重大な罪です。仮に、革命が成功した場合はその行為が正当化され犯罪性は否定される危険犯とされています。
過去の事件で内乱罪が検討されたことはありますが、実際に判決で内乱罪が適用されたことはありません。現実的に起こることも考えにくい内乱罪ですが、刑法77条には内乱罪が規定されています。
今回は、内乱罪とはどのような罪なのか。実際に検討がされた事件はどのようなものなのかを解説していきます。
内乱罪とは|内乱罪の定義と罰則
刑法77条には、
国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪
とあります。統治機構とは、国会・内閣・裁判所の事を言い、その統治機構を転覆・破壊させる目的で起こす暴動、すなわち革命やクーデターを実行した場合に成立する罪です。
暴動(暴行行為)とは
ここで言う暴動とは、大勢の人物が集合して、暴力・脅迫を行ない、一地方の平穏を侵害する行為です。ここでの暴力は、人に対する行われるものではなく、物に対しても行われる広義のものです。また、殺人・傷害・放火などの行為も内乱罪の暴行行為に吸収されます。
内乱罪の罰則
内乱罪を実行した者は、その集団内での立場や役割によって違います。
首謀者|死刑または無期禁錮
内乱行為を先導した人物、つまりリーダーには【死刑または無期禁錮】の重い罰則が設けられています。
謀議者|無期禁錮または3年以上の禁錮
謀議者や群衆を指揮したリーダー挌の人物は【無期禁錮または3年以上の禁錮】が設けられています。
従事者|1年以上10年以下の禁錮
内乱を計画している集団に対して、職務的に従事した人物は【1年以上10年以下の禁錮】です。
不和随行者|3年以下の禁錮
不和随行者は、内乱行為の参加者です。参加者は【3年以下の禁錮】となっています。
革命が成功した場合は処罰されない
このような内乱罪ですが、仮に内乱行為により革命が成功した場合は想定されていません。万が一革命が成功した場合、革命の実行者が国の統治者となるため、処罰がされなくなります。
内乱罪の未遂も処罰の対象となる
また、内乱罪が未遂に終わった場合も処罰の対象となります。未遂とは、国家転覆を目的とした暴動行為は行ったが、実際にはその地方の平穏が侵害されなかった場合の事で、革命が失敗したということではありません。
未遂の場合は、不和随行者や単なる参加者は処罰の対象とはなりません。
内乱罪に関連する罪と罰則
また、内乱を準備したり、計画した段階でも処罰されるようになっています。
内乱予備罪(ないらんよびざい)
内乱を予備した人物は、【1年以上10年以下の禁錮】となります。予備とは暴動行為の準備の事ですね。また、暴動に至る前に自首をした場合は、刑が免除されます。実行に着手した後の自首は刑の任意的免除となります。
また、内乱予備罪を教唆した人物は、破壊活動防止法違反で【5年以下の懲役または禁錮】に処されます。
内乱陰謀罪(ないらんいんぼうざい)
内乱を陰謀した人物も、【1年以上10年以下の禁錮】です。陰謀とは内乱の計画をした人物ですね。こちらも、暴動に至る前の自首は刑の免除、実行に着手した後の自首は刑の任意的免除となります。
内乱陰謀罪を示唆した人物も、破壊活動防止法違反により【5年以下の懲役または禁錮】の処罰がされます。
内乱幇助罪(ないらんほうじょざい)
武器や資金、食料、土地などを供給し、内乱や内乱の予備・陰謀を幇助した人物は【7年以下の禁錮】となっております。こちらも、暴動に至る前に自首した場合は刑の免除、実行着手後の自首は刑の任意的免除となります。
内乱等幇助罪を教唆した人物も、破壊活動防止法違反により【5年以下の懲役または禁錮】に処されます。
内乱罪と外患誘致罪や騒乱罪との違い
このような内乱罪ですが、同じく暴動を起こすような罪として「外患誘致罪」と「騒乱罪」がありますので、内乱罪との違いと定義についてご説明していきます。
外患誘致罪(がいかんゆうちざい)
内乱罪と同じく、国家転覆を目的とした行為の罪として「外患誘致罪」というものがあります。法定刑には死刑しか設定されていない恐ろしい罪です。
内乱罪との違いは、国家転覆させるために、外国と共謀して日本に対して武力行使を誘発しているというところです。内乱罪は、国内で集団を作り国家転覆を図る行為でしたね。外患誘致罪も今まで刑として適用されたことはありません。
【関連記事】
▶「外患誘致罪の定義|必ず死刑となる重大犯罪の適用条件」
騒乱罪(そうらんざい)
同じく、暴動を起こすことに対する罪として「騒乱罪」があります。内乱罪との違いは、国家転覆を目的としていた統治機構に対する暴動か(内乱罪)、単に一地方を脅かす程度の暴動だったか(騒乱罪)です。
ここ50年ほどは騒乱罪で刑が執行された事例はありませんが、過去に騒乱罪による多くの逮捕者を出した事件がいくつかありました(新宿騒乱=743人逮捕など)。
【関連記事】
▶「騒乱罪とは|成立する要件と騒乱罪が成立した事件まとめ」
内乱罪が判決で適用されたことはない|内乱罪が検討された事件
そもそも、国家を転覆させ得るような暴動が滅多に起きない事や、首謀者に対する罰則が、死刑もしくは無期禁錮しかない強権的な罰則でもあるため、検察や裁判所も適用に対して非常に消極的で、今までに内乱罪が判決で適用されたことは一度もありません。
しかし、内乱罪の適用が検討された事件は今までにいくつかありますので、最後にそちらをご紹介したいと思います。
二・二六事件
二・二六事件は、1936年に青年将校ら1,483人を率いてが起こした、クーデター未遂事件です。総理大臣官邸や警視庁、新聞社などが襲撃を受けました。内乱を起こした人物らが青年将校や下士官兵などの軍人だったため、刑法の内乱罪ではなく、陸軍刑法による軍法会議で裁かれています。
軍法会議により、首謀の18名が陸軍刑法の「反乱罪」で死刑。7名が無期禁錮刑の判決を受けました。
参照:「二・二六事件‐Wikipedia」
五・一五事件
五・一五事件は、1932年に青年将校らが起こした反乱事件です。当時の内閣総理大臣犬養毅が殺害された事件です。こちらも実行者のほとんどが軍人だったため、主に陸軍刑法の反乱罪が適用されました。
また、一部民間人も反乱に加わっていましたが、殺人罪などにより有罪判決を受けています。
参照:「五・一五事件‐Wikipedia」
神兵隊事件
神兵隊事件は、1933年に国家改造を図って閣僚や元老などの襲撃を計画したクーデター未遂事件です。実行前日から早朝にかけて集合したところを警察に検挙されました。検挙された54名は内乱予備陰謀罪に該当するとして審理が進められました。
初の内乱罪による刑事裁判となったこの事件ですが、判決は刑の免除となりました。
参照:「神兵隊事件-Wikipedia」
三・一運動
三・一運動は、1919の日本統治時代の朝鮮で起こった日本からの独立運動です。検察側は、内乱罪の適用を求めましたが、朝鮮高等法院の公訴事実に基づき、内乱罪ではなく騒擾罪(そうじょうざい=現在の騒乱罪)が成立するとして京城地方法院に事件が移送されました。
参照:「三・一運動‐Wikipedia」
オウム真理教事件
第二次世界大戦以降は、オウム真理教事件において、新見智光の弁護側がオウム真理教事件の内乱罪成立を主張し、「首謀者以外は死刑が適用されない」と裁判で争ったことがありますが、裁判所の判決により否定されえました。新見智光は、2012年に殺人罪により死刑が確定しました。
参照:「オウム真理教事件-Wikipedia」
まとめ
いかがでしょうか。このように、実際に刑事事件として適用されることはほとんどない内乱罪です。内乱罪が適用されるような出来事が起きるということは、国家を転覆させかねない歴史的な事件であると言えるでしょう。
身近な犯罪ではありませんが、刑法にはこのような罪も規定されています。
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