傷害事件で被害届を出されたら逮捕?取り下げの方法や示談交渉のポイントを解説
傷害事件では、被害者が警察に被害届を提出することも珍しくありません。
被害届が出されると、警察が事件を認知し、捜査を始める可能性があります。
傷害事件の被疑者として捜査対象になった場合、逮捕されて長期間の身柄拘束が続いたり、拘禁刑や罰金刑などの刑事罰が科されて前科が残ったりするおそれがあります。
どのような結果になるのかは事件後の対応次第でも変わり、できるだけ重い処分を回避したいのであれば、迅速かつ的確な弁護活動が必要不可欠です。
本記事では、傷害事件で被害届を出された場合の流れや扱い、被害届を出された場合に加害者側が取るべき対応などを解説します。
【結論】傷害事件で被害届を出されたら捜査・逮捕される可能性がある
傷害事件で被害届を出された場合、警察による捜査が始まって逮捕されたり、刑事裁判が開かれて刑罰が科されたりする可能性があります。
傷害事件では、事件直後に被害者が警察に通報して被害届が出されることもあれば、当事者間での慰謝料などの話し合いが決裂したタイミングで出されることもあります。
なお、被害届と似たものとして「告訴」もありますが、被害届とは性質が異なります。
ここでは、刑事事件の被害届の特徴や、告訴との違いなどを解説します。
被害届とは
被害届とは、犯罪被害者が被害事実について申告する届け出のことです。
警察が事件の発生を認知するきっかけのひとつであり、被害届の提出によって犯人の捜査・逮捕につながるケースもあります。
ただし、被害者によって被害届が提出されても、警察側に捜査義務は生じません。
実際に捜査を始めるかどうかは警察側が判断するため、なかには被害届の提出があっても警察が動かずに放置状態となる場合もあります。
被害届と告訴の違い
告訴とは、犯罪被害者が被害事実を申告し、犯人に対して処罰を科すことを求める意思表示のことです(刑事訴訟法第230条)。
被害届も告訴も「犯罪被害者が被害事実を申告する」という点は共通しているものの、告訴の場合は犯人に対する処罰意思が含まれているほか、警察側に捜査義務なども生じます。
被害届と告訴の大きな違いとしては、以下のとおりです。
| 被害届 | 告訴 | |
|---|---|---|
| 手続きをおこなう人 | 原則として被害者本人 | 被害者本人・被害者の代理人 |
| 被害の申告 | あり | あり |
| 加害者に対する処罰意思 | なし | あり |
| 捜査義務 | なし | あり |
| 手続き期限 | なし | 犯人を知った日から6ヵ月以内(親告罪の場合) |
告訴された場合の流れや対処法など、告訴について詳しく知りたい方は、以下の関連記事をご覧ください。
被害届は取り下げてもらうことも可能
被害届は、被害者本人の意思で取り下げてもらうことも可能です。
被害届が取り下げられたとしても、必ずしも警察による捜査が終了したり、確実に逮捕や刑罰を回避できたりするというわけではありません。
ただし、被害届が提出されたままの状態に比べれば、軽い処分で済む可能性が高まります。
実際に被害届を取り下げてもらうためには、被害者との示談交渉・示談書の作成・示談金の支払い・捜査機関による意思確認などの手続きを経るのが通常です。
傷害罪とは
傷害事件を起こした場合は、傷害罪に問われる可能性があります。
傷害罪とは、他人の身体に暴行などを加えてけがをさせた場合に成立する犯罪です。
(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
引用元:刑法第204条
ここでは、傷害罪の刑罰や時効などについて解説します。
なお、以下の記事では傷害罪の中身について詳しく解説しているので、しっかり押さえておきたい方は関連記事をご覧ください。
傷害罪の成立要件・具体例
傷害罪は、主に以下のような要件を満たしている場合に成立します。
- 傷害罪の実行行為があること(例:殴る蹴る、無言電話や騒音)
- 被害者が傷害を負っていること(例:擦り傷、骨折、睡眠障害、うつ病)
- 行為と傷害の結果に因果関係があること
- 故意があったこと
※暴行の場合は、怪我すると思っていなかったとしても、故意が認められます。
一例として、以下のような行為があった場合は、傷害罪が成立する可能性があります。
- 顔面を殴って青あざを負わせた
- バットで身体を叩いて骨折させた
- 毎日大音量の音を鳴らし続け、隣人に睡眠障害を負わせた など
- 自分が性病にかかっていると知りながら性交に及び、相手に性病を移した など
傷害罪の刑罰
傷害罪の法定刑は「15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑」です(刑法第204条)。
参考までに、法務省が公表している「2024年版 犯罪白書」によると、通常第一審での科刑状況のうち有期刑の内訳は以下のとおりです。
全体的にみると「6ヵ月未満~3年以下」が中心となっており、特に「6ヵ月未満」が最多で全体の約40%を占めています。
| 刑期 | 人数 |
|---|---|
| 25年超30年以下 | 0人 |
| 20年超25年以下 | 1人 |
| 15年超20年以下 | 0人 |
| 10年超15年以下 | 8人 |
| 7年超10年以下 | 21人 |
| 5年超7年以下 | 19人 |
| 3年超5年以下 | 67人 |
| 2年以上3年以下 | 実刑117人、一部執行猶予1人、全部執行猶予382人 |
| 1年以上2年未満 | 実刑261人、一部執行猶予1人、全部執行猶予590人 |
| 6ヵ月以上1年未満 | 実刑149人、一部執行猶予0人、全部執行猶予173人 |
| 6ヵ月未満 | 実刑361人、一部執行猶予1人、全部執行猶予756人 |
通常第一審での科刑状況のうち、罰金の内訳は以下のとおりです。
全体的にみると「10万円~50万円未満」が中心となっており、特に「20万円以上30万円未満」が最多で全体の約34%を占めています。
| 金額 | 総数 |
|---|---|
| 100万円以上 | 0 |
| 50万円以上100万円未満 | 13 |
| 30万円以上50万円未満 | 118 |
| 20万円以上30万円未満 | 134 |
| 10万円以上20万円未満 | 111 |
| 5万円以上10万円未満 | 12 |
| 5万円未満 | 2 |
| 科料 | 0 |
(傷害罪以外の刑法第2編第27章の罪も含む)
傷害罪の時効
傷害罪には、10年の公訴時効が定められています(刑事訴訟法第250条2項3号)。
公訴時効とは、犯罪が起きてから一定期間を過ぎた場合、検察官による公訴提起ができなくなるという制度のことです。
傷害事件の発生から10年が経つと公訴時効が完成し、検察官は被疑者を刑事裁判にかけることができなくなり、前科も刑罰も付かずに終了となります。
傷害罪は非親告罪に該当する
犯罪は、被害者による告訴がないと起訴できない「親告罪」と、告訴がなくても起訴できる「非親告罪」の2種類に大きく分けられます。
傷害罪は非親告罪に該当し、被害者による告訴がなくても起訴することが可能です。
傷害事件の場合、目撃者による通報や病院からの連絡などをきっかけに事件が発覚して捜査開始となり、被害者の告訴なしでも起訴されて刑罰が科される可能性があります。
傷害事件の被害者が被害届を提出した後の流れ
傷害事件の被害者が被害届を提出した場合、基本的には以下のような流れで進行します。
- 被害届の受理
- 警察による捜査・逮捕
- 捜査機関による取り調べ
- 検察による起訴・不起訴の決定
- 刑事裁判での判決
ここでは、傷害事件で被害届が出されたあとの刑事手続きについて解説します。
1.被害届の受理
まずは、傷害事件の被害者が警察署に行き、被害届を提出します。
被害届は「傷害事件が発生した場所を管轄する警察署」に提出するのが通常で、主に以下のような事項が記載されます。
- 被害者の個人情報:住居・職業・氏名・年齢
- 被害状況:被害の発生日時・被害の場所・被害の模様・被害金品
- 犯人の情報:犯人の住居・氏名・通称・人相・着衣・その他特徴 など
原則として、警察は被害届が提出された場合に受理しなければなりません(犯罪捜査規範第61条)。
ただし、なかには警察側が「明らかに事件性がない」「警察が介入する事案ではない」などと判断したりして、被害届が不受理になることもあります。
2.警察による捜査・逮捕
被害届の提出後、警察によって「事件性がある」と判断された場合は、捜査に移ります。
警察による捜査では、事件現場の検証・関係者に対する事情聴取・防犯カメラの映像解析などがおこなわれます。
なお、被疑者の特定に至っても、必ずしも逮捕されて身柄事件となるわけではありません。
以下のような逮捕要件を満たしていない場合は、逮捕されないまま在宅事件として刑事手続きが進行します。
- 罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある(刑事訴訟法第199条1項)
- 逮捕の必要がある(刑事訴訟法第199条2項)
例:逃亡や罪証隠滅(証拠隠滅)のおそれがある(刑事訴訟規則第143条の3)
逮捕の要件や逮捕されるケースについては、以下の関連記事で詳しく解説しています。
3.捜査機関による取り調べ
被疑者の特定後は、警察官による取り調べがおこなわれます。
在宅事件の場合は警察から出頭要請を受け、身柄事件の場合は警察署へ連行されたのち、傷害事件や身上に関する内容などが聞かれます。
多くの場合、取り調べ後は検察へと事件送致され、検察官による取り調べに移ります。
在宅事件の場合は日常生活を送りながら呼び出しに応じることになりますが、身柄事件の場合は最大で逮捕後23日間も身柄拘束が継続するおそれがあります。
在宅事件・身柄事件の流れや違いについては、以下の関連記事で詳しく解説しています。
4.検察官による起訴・不起訴の決定
刑事事件で被疑者を起訴するかどうかは、検察官が決定します。
在宅事件の場合は「十分に捜査がおこなわれたタイミング」、身柄事件の場合は「勾留期間の満了まで」に決定されるのが通常です。
起訴された場合、被疑者は被告人となり、刑事裁判に移行します。
不起訴処分の場合は、刑事裁判にはかけられず、前科も刑罰も付かずに終了となります。
不起訴処分となるケースや不起訴獲得のポイントについては、以下の関連記事で詳しく解説しています。
5.刑事裁判での判決
刑事裁判では、裁判所で弁護側と検察側に分かれて主張・立証を展開し合い、最終的には裁判官によって有罪・無罪や量刑が言い渡されます。
なお、起訴後の有罪率は99%以上と言われており、無罪判決を獲得するのは困難です。
検察官によって起訴された場合は、高確率で有罪判決が下されて前科が付くことになります。
傷害罪の場合は「15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑」が言い渡され、犯行態様などによっては初犯でも執行猶予が付かずに実刑となる可能性もあります。
傷害事件で被害届を出された場合の対処法
傷害事件で被害届を出された場合は、くれぐれも放置するのは避けましょう。
何の対応もせずにいると、水面下で捜査が進行していて突然逮捕されたり、周囲に逮捕の事実が知られて生活に大きな悪影響が生じたりするおそれがあります。
できるだけ重い処分を回避したいのであれば、弁護士による弁護活動が必要不可欠です。
当サイト「ベンナビ刑事事件」では、傷害事件の加害者弁護が得意な全国の弁護士を掲載しています。
電話相談可・夜間休日スピード対応などの弁護士も多く掲載しているので、早いうちに一度相談しておくことをおすすめします。
傷害事件で被害届を出された場合に弁護士へ相談・依頼する3つのメリット
傷害事件で被害届を出された場合、弁護士の力を借りることで以下のようなメリットが望めます。
- 被害届の取り下げを目指して被害者と示談交渉してくれる
- 逮捕されても早期釈放される可能性が高まる
- 不起訴処分や減刑獲得が望める
ここでは、傷害事件での弁護士の主なサポート内容について解説します。
1.被害届の取り下げを目指して被害者と示談交渉してくれる
弁護士は、依頼者の代理人として被害者との示談交渉を進めてくれます。
刑事事件の被害者は、被疑者に対して強い怒りや恐怖心を抱いていたりして、直接連絡して示談交渉を進めようとしても無視・拒否されるケースも珍しくありません。
弁護士が間に入れば被害者も交渉に応じやすくなりますし、被害者側の感情にも寄り添いつつ的確にやり取りを進めてくれて、被害届の取り下げに合意してくれる可能性も高まります。
弁護士なら示談書の作成も一任でき、漏れなく適切な形式で合意内容をまとめてくれます。
2.逮捕されても早期釈放される可能性が高まる
弁護士は、逮捕後の早期釈放に向けたサポートもしてくれます。
傷害事件の被疑者として逮捕されると、最大23日間も身柄拘束を受けるおそれがあります。
弁護士なら、検察官に対して勾留請求しないように求める意見書を提出したり、裁判官が下した勾留決定に対して準抗告という不服申し立てをしたりすることも可能です。
早い段階で弁護士のサポートを受けておくことで、日常生活への影響を最小限に抑えられる可能性が高まります。
3.不起訴処分や減刑獲得が望める
弁護士は、不起訴処分や減刑獲得に向けたサポートもしてくれます。
弁護士なら、逮捕直後でも被疑者との接見が自由に認められており、取り調べ前の段階であれば不利な供述調書を取られないためのアドバイスを受けることが可能です。
さらに、再発防止に向けた治療やカウンセリングも勧めてくれて、弁護士の助言を受けながら取り組むことで、起訴・不起訴の判断時に有利な事情として考慮される場合もあります。
もし起訴されて刑事裁判になったとしても、弁護士は被告人に有利な証拠を用いるなどして検察側の主張に反論し、執行猶予の獲得や刑期の短縮を目指して争ってくれます。
傷害事件の被害届に関するよくある質問5選
ここでは、傷害事件の被害届に関するよくある質問について解説します。
1.傷害事件で被害届を出されたらどうなる?逮捕される?
傷害事件で被害届を出された場合、警察が捜査を始めて逮捕される可能性があります。
ただし、被害届では捜査義務が生じないため、実際に動くかどうかは警察次第です。
なかには、被害届の提出があっても警察が動かずに放置状態となる場合もあります。
もし警察が動いたとしても、法律上の逮捕要件を満たしていない場合は逮捕されず、在宅事件として刑事手続きが進行することになります。
2.傷害事件の被害届の出し方とは?期限はいつまで?
傷害事件の被害届は「傷害事件が発生した場所を管轄する警察署」に提出するのが通常です。
被害届の様式は警察署に用意されていますが、「別記様式第6号(犯罪捜査規範第61条)|e-GOV法令検索」からダウンロードして作成・提出することも可能です。
なお、被害届の提出自体に期限は定められていません。
ただし、傷害罪の場合は10年の公訴時効が定められているため、実質的には公訴時効を迎える前に提出することになります。
3.傷害事件で被害届を取り下げてもらうことは可能?
傷害事件では、被害届を取り下げてもらうことも可能です。
実際に被害届を取り下げてもらうためには、被害者との示談交渉・示談書の作成・示談金の支払い・捜査機関による意思確認などの手続きを経る必要があります。
基本的に弁護士の介入なしで合意を得るのは難しいため、速やかにサポートを依頼しましょう。
4.傷害事件で被害届が提出されたか確認する方法はある?
傷害事件の加害者側が、被害届の提出状況を確認するのは困難です。
警察に連絡したところで「捜査上の秘密である」として教えてくれないのが通常ですし、弁護士を通じて確認してもらったとしても基本的に明確な回答は望めません。
被害者に聞くのが確実ですが、連絡すると捜査機関が「被害者に圧力をかけている」などと判断して不利な状況に陥るおそれもあるため、基本的に確認はできないものと考えましょう。
5.被害者から被害届を出すと脅されている場合はどうするべき?
被害者から「被害届を出すぞ」と脅されている場合は、弁護士への相談がおすすめです。
速やかに弁護士のアドバイスを受けて対応したり、弁護士にやり取りを代わってもらったりすれば、被害届が出されずに穏便な形で終結する可能性もあります。
もし「被害届の提出が嫌なら300万円払え」などの不当な要求を受けた際は、言われるがまま応じるのではなく、証拠を確保したうえで弁護士や警察にご相談ください。
さいごに|傷害事件で被害届を出されたら、ベンナビ刑事事件で弁護士に相談を
傷害事件で被害届が出された場合は、弁護士に相談してアドバイスを受け、被害届の取り下げに向けた示談交渉などのサポートも依頼しましょう。
「必ず警察が動くわけではない」などと考えて放置していると、水面下で捜査が進行して突然逮捕されるリスクもあります。
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