在宅事件とは?在宅になる条件やその後の流れ・身柄事件との違いを解説

在宅事件(ざいたくじけん)とは、被疑者が勾留による身柄拘束をされないまま捜査が進められる刑事事件です。
刑事事件には「身柄事件」と「在宅事件」の2種類があります。在宅事件になると、身柄拘束を受けないので被疑者によっては非常にメリットが大きくなります。
ただどのようなケースでも在宅事件になるわけではありません。
以下では在宅事件とはどのようなもので、どういったケースで選択されるのか、流れも含めて解説していきます。
在宅事件の相談ができる弁護士一覧
在宅事件の基礎知識
在宅事件になると、被疑者は自宅で通常通り過ごしつつ捜査を進めてもらうことができます。
家族との生活も普通にできますし会社にも通勤できて、日常生活に特段の不都合はありません。警察の留置場に身柄拘束される身柄事件とは天と地ほどの差があります。
以下では、在宅事件になるための条件や在宅事件になりやすい犯罪を紹介していきます。
在宅事件になる2つの条件
在宅事件になるには、以下の2つの条件を満たしている必要があります。
比較的軽微な犯罪である
1つは犯罪が軽微なことです。殺人や放火、傷害致死、強制性交等の重罪の場合、原則として在宅事件にはしてもらえません。
勾留の必要がない
また、勾留の必要がないことも条件となります。逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがあると勾留が必要と判断されるので、こういった事情のないことが必要です。
逃亡の恐れがないこと
被疑者に定まった住居があり家族と同居しており罪を認めているなどの事情が必要です。
証拠隠滅の恐れがないこと
被疑者が罪を認めており、だいたいの証拠が揃っているので隠滅すべき証拠がないなどの事情が必要です。
在宅事件になりやすいのはこんなケース
在宅事件になりやすいのは、以下のようなケースです。
- 万引きしたが、被害額が少額で被疑者が反省しており、被害者も厳罰を望んでいない
- 痴漢したが、初犯で被疑者が反省しており被疑者は被害者と面識がなく、弁護士を通じて示談交渉をしたいと望んでいる
- けんかのはずみで暴力を振るい暴行罪で逮捕されたが、本人は反省しており普段はまじめな会社員である
- 交通事故を起こして被害者をけがさせてしまったが、被害者は軽傷でこれから示談交渉を進める予定である
ただし万引きや痴漢、暴行罪の場合に在宅起訴になりやすいという意味ではありません。あくまで「被疑者が反省しており逃亡や証拠隠滅のおそれが低い」という付加事情があっての在宅処分です。
同じ犯罪でも、「何度も繰り返している人」や「反省していない人」「住所不定で無職の人」などは勾留されやすくなります。
交通事故でも、死亡事故を起こした場合などには身柄事件になる例が多数です。
在宅事件と身柄事件の違い
在宅事件と身柄事件の違いは「身柄拘束されるかどうか」です。
身柄事件の場合には「逮捕」や「勾留」によって身柄拘束をされた状態で捜査が進みます。
一方で在宅事件の場合には、逮捕も勾留もされないか、逮捕されても勾留されずに釈放されます。
いったん勾留されてもその後解放されて在宅捜査になるケースもあります。このように「身柄拘束されずに捜査が進む」のが在宅事件です。
身柄事件になったら警察の留置場に閉じ込められて何もできず、連日厳しい取り調べに晒されるので被疑者の立場は非常に悪くなりますが、在宅事件になったら普段通りの日常生活を送ることができます。
在宅事件になった際の注意点5つ
在宅事件になると被疑者にとってメリットが大きいことは確かですが、注意点もあります。
在宅事件だからといって罪が軽くなるわけではない
1つは、在宅事件になったからといって罪が軽くなるわけではないことです。
在宅事件になって自宅に帰してもらえると、まるで「無罪放免」になったような気持ちになる方がおられますが、それは違います。
在宅でも捜査は継続しますし時期が来たら起訴される可能性もあります。起訴されたら刑事裁判になって判決を下されます。
在宅事件だからといって情状が良くなるわけではないので、裁判官も罪を軽くはしてくれません。
在宅事件とはあくまで、逃亡や罪証隠滅のおそれが比較的低いと判断されて身柄拘束されずに済んでいるだけなので、被害者と示談をして被害届を取り下げてもらうなどしなければ、結局は罰金刑になったり、ときには懲役刑が適用されて前科がついてしまったりします。
事件が長期化しやすい
身柄事件になった場合、起訴されるまでの期間が短くなります。
逮捕期間が最大3日、勾留期間が最長20日で合計でも23日が限度です。つまり逮捕後23日以内には、必ず起訴か不起訴かの決定があり刑事手続が前に進みます。
一方在宅事件の場合、こうした身柄拘束の期間制限がありません。警察や検察は他の事件との兼ね合いで比較的ゆったりと捜査を進めます。
事件発覚や送検から3か月くらい経ってようやく検事調べが行われて起訴されるケースなども普通にあります。
被疑者の立場からすると、起訴とも不起訴ともわからないどっちつかずの状態で放置されるので、不安定な立場に立たされますし、解決までの日数も長くかかってストレスとなります。
今後逮捕されることもあり得る
在宅捜査になるパターンとして「まったく逮捕されないケース」があります。
つまり当初から逮捕されずに書類だけで送検され、検察官においても勾留をせずに在宅のまま捜査を進められるのです。
この場合、まだ1回も逮捕されていないので後に何らかの重要な証拠が発見された場合などに、捜査機関の判断で突然逮捕されるケースがあります。
「在宅事件になった」と思って安心していても、どのような事情でその判断が覆されるかわからないので安心できません。
弁護士をつけるチャンスを逃しがち
一般的に、身柄事件になったら「権利を守ってもらうために早く弁護士に依頼しよう」と考えるものです。
そのまま身柄拘束が続くと会社にも行けず家族にも迷惑をかけることになりますし、留置場での不便な生活を強いられるなど大変な不利益が及ぶためです。
すぐに刑事弁護を得意としている弁護士を探し、接見に来てもらって弁護を依頼するでしょう。
そうすれば早期に被害者との示談交渉なども進められて、不起訴処分などにしてもらえる可能性も高まります。
しかし在宅事件になるとそれまで通りの生活ができるので危機感がなく、なかなか「弁護士に依頼しよう」という気持ちになりません。
弁護士にアクセスせず、何の防御活動も行わないまま検事調べが終わってしまったら、検察官は「被害者と示談もできていないから起訴するしかない」と判断し、起訴するかもしれません。
そうすれば、前科がつく可能性が高くなります。
結局、在宅事件になって油断したがために最終的な処分が重くなってしまうおそれがあるのです。
【重要】起訴されてから慌てても遅い
在宅事件で重要なことは「起訴されてから慌てても遅い」ことです。
送検されたら在宅事件でも身柄事件でも、なるべく早めに弁護人を選任して被害者との示談交渉などの防御活動を開始することが望ましいと言えます。
早期に対応をすれば、軽微な事件の多い在宅事件では十分に不起訴処分(起訴されず前科がつかない処分)を狙えます。
しかし在宅事件になって油断し起訴されてしまったら、その後に慌てて弁護士に相談してもいったん行われた起訴を取り消してもらうことは不可能です。
在宅でも通常の公判請求をされて懲役刑を選択されるケースはあります。当初から相談していれば不起訴処分を狙える事案でも、起訴後の対応であれば「よくて執行猶予」という結果になってしまう例が存在します。
在宅事件では「起訴されてから慌てても手遅れになる可能性が高い」ことを十分に認識し、「立件されたらすぐに弁護士に相談に行く」ことを心がけましょう。
在宅事件の流れ
在宅事件になる場合の流れには、いくつかのパターンがあります。
逮捕されたけれど勾留されない場合
いったん逮捕されたけれども検察官の判断で勾留請求されない場合や、勾留請求されても裁判所が認めない場合です。
- 逮捕される
- 勾留されずに釈放される
- 捜査が進められる
- 検事調べを受ける
- 起訴か不起訴かの処分を決定される
逮捕も勾留もされない場合
逮捕も勾留もされず、書類上だけで送検されて立件され、捜査が進められる場合です。
- 逮捕も勾留もされずに書類送検される
- 捜査が進められる
- 検事調べを受ける
- 起訴か不起訴かの処分決定される
逮捕・勾留されたが勾留の効果が失われた場合
逮捕されていったん勾留されても、勾留に対する準抗告が認められたり勾留が取り消されたりして途中で在宅事件に切り替わるパターンです。
- 逮捕される
- 勾留される
- 勾留が取り消される、準抗告が認められて効果が無くなる
- 捜査が進められる
- 検事調べを受ける
- 起訴か不起訴かの処分決定される
まとめ
刑事事件の中でも在宅事件になると、身柄拘束をされないのでしばらくは通常の生活を送れるので、被疑者にとっては一安心と言えるでしょう。
ただ、在宅事件は無罪放免とは異なります。不起訴処分を獲得するために、早急に弁護士に依頼して被害者との示談交渉などの弁護活動を進めてもらうべきです。
在宅事件の捜査は長引くこともしばしばですが、被疑者の方もぼんやりしているといきなり起訴されて後悔することになります。
お心当たりのある方はお早めに弁護士までご相談下さい。



【早期釈放/不起訴実績多数】加害者側・被害者側双方で、示談交渉対応多数◆痴漢・盗撮/暴行傷害/事故/窃盗など迷う前に電話◆早めの相談で選択肢を広げることが可能◎◆【即日接見で安心をお届け】
事務所詳細を見る当サイトでは、有料登録弁護士を優先的に表示しています。また、以下の条件も加味して並び順を決定しています。
・検索時に指定された都道府県に所在するかや事件対応を行っている事務所かどうか
・当サイト経由の問合せ量の多寡



刑事事件の基礎知識に関する新着コラム
-
本記事では、心神喪失状態で起こした事件について、なぜ無罪になるのかについて詳しく解説します。 また、心神喪失で無罪になったあとの手続きの流れや、心...
-
風営法に違反すると、経営者・従業員が逮捕される可能性も十分あります。そのため、風営法の規定を正しく理解したうえで、事業を営むことが重要です。本記事で...
-
万引き(窃盗罪)は10年以下の懲役という重い犯罪です。本記事では、統計データを基に実刑判決となるケースや回避方法、弁護士に依頼するメリットまで、具体...
-
盗撮は現行犯だけでなく後日逮捕されるケースも少なくありません。防犯カメラの普及やデジタル証拠の残存性から「時効まで逃げ切る」ことは極めて困難です。本...
-
2023年5月の法改正により逃走罪の対象が拡大され、刑罰も厳格化されました。そのほか、GPS装着制度や刑の時効停止に関する規定が新設されるなど、逃走...
-
本記事では、廃棄物処理法違反について知りたい方向けに、廃棄物処理法違反に該当する代表的な行為、一般人・事業者それぞれの廃棄物処理法違反を防止するポイ...
-
本記事では、犯罪歴が日常生活に及ぼす悪影響、犯罪歴がバレるリスク、犯罪歴が残らないようにするためのポイントなどについてわかりやすく解説します。
-
少年審判がおこなわれることがわかったら、できるだけ軽い処分を獲得するために準備を進めなければなりません。本記事では、少年審判や少年事件の流れ、少年事...
-
単純逃走罪と加重逃走罪は、いずれも対象が勾留された被疑者や受刑者などとなり、一見して違いがわからないかもしれません。本記事では両者の概要や違い、共通...
-
本記事では、刑事裁判における上告と控訴の違い、上訴を検討しているときに刑事裁判を得意とする弁護士へ相談するメリットなどについてわかりやすく解説します...
刑事事件の基礎知識に関する人気コラム
-
逮捕されて有罪になると前科が付きますが、前歴というものもあり、こちらは逮捕されただけで付きます。前科は間逃れても前歴が残ると今後の生活にどう支障がで...
-
犯罪事件捜査の対象になった場合、刑事手続きはスピーディに進行します。早期に刑事手続きから解放されるためには、初動の段階から迅速な対応をとることが肝心...
-
本記事では私人逮捕の条件や私人逮捕によるトラブルの対処法を解説します。
-
【弁護士監修】書類送検を徹底解説!書類送検とは被疑者を逮捕せず、書類のみ(証拠を含む)を検察官に送る手続きです。この記事では、そもそも送検とはどうい...
-
少年院(しょうねんいん)とは、家庭裁判所から保護処分として送致された少年を収容するための施設を言います。
-
鑑別所とは、正式には「少年鑑別所」と呼ばれる施設で、家庭裁判所の少年審判をおこなうにあたって、犯罪を犯した未成年の少年を一時的に収容する場所です。本...
-
観念的競合とは、1つの行動で2つ以上の犯罪を起こすことです。刑罰の考え方としては、2つ以上の犯罪の中で最も重い犯罪の刑罰が対象となります。
-
この記事では親告罪と何か、親告罪に該当する罪を解説したあと、告訴されたときの対処法について紹介しています。親告罪を犯してしまって告訴される可能性があ...
-
刑事裁判と言っても、事件内容によって方法が少し異なります。この記事では刑事裁判の種類や流れの他に、民事裁判との違いやよくある質問(裁判員制度について...
-
在宅起訴とは、刑事事件を起こした被疑者の身柄を拘束しないまま検察官が起訴することをいいます。逮捕を受けないまま起訴されるため日常生活に与える影響は少...
刑事事件の基礎知識の関連コラム
-
いじめは犯罪だと聞いたことがあるかもしれません。自分の子どもが逮捕されてしまうのか、犯罪者になってしまうのか、と不安に感じる方もいるでしょう。本記事...
-
刑法の多くの罪に罰金刑が定められており、犯罪を起こして刑事罰を受けることになると有罪判決のうち約80%以上が罰金刑です。判決を受ける可能性が高い刑事...
-
少年審判がおこなわれることがわかったら、できるだけ軽い処分を獲得するために準備を進めなければなりません。本記事では、少年審判や少年事件の流れ、少年事...
-
罪を犯してしまったものの、証拠がないから大丈夫だろうと安心している方もいるかもしれません。本記事では、警察がどのような状況で動くのか、証拠の種類や重...
-
犯罪事件捜査の対象になった場合、刑事手続きはスピーディに進行します。早期に刑事手続きから解放されるためには、初動の段階から迅速な対応をとることが肝心...
-
業務をしているとき、過失によって事故を起こしてしまったら、業務上過失致死傷罪に問われます。業務上過失致死傷罪に該当するのは、どのような事故のときなの...
-
実名報道されてしまうことのデメリットは多く、一度報道されてしまうと日常生活に大きな影響を及ぼします。この記事では、実名報道されることによるデメリット...
-
本記事では、刑務所と拘置所の違いを分かりやすく解説します。それぞれの施設の目的・収容される方・生活の様子やルールなどについて詳しく紹介するので、ぜひ...
-
家族が留置場に入れられた場合、留置場がどのような施設なのか当然気になるものです。本記事では、留置場の施設概要や一日の流れなどを解説しています。差し入...
-
包丁の持ち運びは、銃刀法違反になる可能性があります。そのため、アウトドアなどで包丁を携帯する際は、 刃体の長さなどについて法的に認められる基準を理...
-
本記事では私人逮捕の条件や私人逮捕によるトラブルの対処法を解説します。
-
刑事裁判と言っても、事件内容によって方法が少し異なります。この記事では刑事裁判の種類や流れの他に、民事裁判との違いやよくある質問(裁判員制度について...
刑事事件の基礎知識コラム一覧へ戻る