未遂罪で処罰され得る犯罪一覧|未遂の種類や量刑への影響などについても解説
- 「スーパーで万引きをしようとして店員に見つかった」
- 「振り込め詐欺の電話をかけたが相手に気づかれて失敗した」
このように、犯罪を完遂できなかった場合でも「未遂罪」として処罰される可能性があることを知っていますか?
「未遂だから大丈夫」と思っていても、法的な処罰を受ける可能性はゼロではありません。
そのため、万が一犯罪未遂行為をおこなった心当たりがあるなら、いち早く対処することが大切です。
本記事では、未遂罪が成立する条件や対象となる犯罪の種類、実際の処罰内容について詳しく解説します。
今後の対応について見通しを立てるためにも、ぜひ最後まで参考にしてください。
未遂罪とは?犯罪行為に着手したものの完遂できていない場合の犯罪のこと
未遂罪とは、犯罪の実行行為に着手したものの、完全に実行されるには至らなかった場合に適用される罪です。
未遂罪については、刑法で以下のように規定されています。
(未遂減免)
第四十三条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。
ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
(未遂罪)
第四十四条 未遂を罰する場合は、各本条で定める。
引用元:刑法 | e-Gov 法令検索
この条文からわかるように、未遂罪は原則として既遂に達した犯罪を処罰対象としつつ、例外として各犯罪の条文に規定がある場合に限り処罰されます。
そのため、全ての犯罪に未遂罪があるわけではなく、殺人罪や窃盗罪、詐欺罪など、特に重大な犯罪について未遂罪が設けられています。
未遂罪で重要となる「実行の着手」とは?
未遂罪が成立するかどうかを判断するうえで最も重要なのが、「実行の着手」があったかどうかです。
実行の着手とは、「犯罪結果を引き起こす現実的な危険が発生した時点」とされています。
例えば、万引きの場合、単にコンビニで商品を盗もうと思っただけでは着手にはなりません。
しかし、実際に商品を手に取って自分のカバンに入れようとした時点で、窃盗の現実的な危険性が発生したと判断され、実行の着手が認められることになります。
未遂罪の2つの種類|成立した際の量刑の決まり方
未遂罪は、既遂の場合と同様の法定刑が適用されますが、刑法第43条の「未遂減免」の規定により刑が減軽される余地があります。
そして、未遂罪は犯罪が完遂されなかった理由によって「中止未遂」と「障害未遂」の2つに分類され、それぞれ量刑への影響が異なります。
以下では、それぞれのケースにおける量刑の決まり方を見ていきましょう。
1.中止未遂の場合|刑罰が必ず軽減または免除される
中止未遂とは、実行の着手があったものの、自己の意思により犯罪を中止した場合を指します。
刑法第43条では、「自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、または免除する」と規定されています。
万引きをしようと商品を手に取ったものの、「やっぱりやめよう」と思い直して商品を元の場所に戻した場合などが典型例です。
ただし、ここでの「自己の意思」については、単に自分の意思でその行為を中止しただけでなく、反省や後悔、同情などの感情にもとづき中止したことが要求されるケースも少なくありません。
2.障害未遂の場合|裁判官の裁量で刑罰が軽減されることがある
障害未遂とは、実行の着手があったものの、外部的要因によって犯罪の結果が生じなかった場合を指します。
例としては、犯行に及んだが人が来たので最後までできなかった、相手に強く抵抗されたので諦めて逃亡したといったケースが考えられます。
刑法第43条では「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる」と規定されており、障害未遂は「任意的減軽事由」となります。
つまり、裁判官の裁量によって刑を減軽される場合があるということです。
減軽される場合、刑法第68条に定められた方法により、減刑の判断が下されます。
例えば、有期の懲役または禁錮を減軽する場合は、刑の長期と短期をそれぞれ2分の1にすることができます。
【一覧表】未遂罪で処罰される可能性がある犯罪
刑法では、犯罪が既遂に達した場合に処罰することが原則とされています。
しかし、例外として各犯罪の条文に規定がある場合に限り、未遂も処罰されます。
ここでは、未遂罪で処罰される可能性がある犯罪と、未遂罪の規定がない犯罪について見ていきましょう。
未遂罪の規定がある主な犯罪
以下の犯罪については、未遂罪の規定が設けられています。
- 殺人罪(刑法第199条)- 未遂罪は刑法第203条に規定
- 窃盗罪(刑法第235条)- 未遂罪は刑法第243条に規定
- 強盗罪(刑法第236条)- 未遂罪は刑法第243条に規定
- 放火罪(刑法第108条・第109条)- 未遂罪は刑法第112条に規定
- 詐欺罪(刑法第246条)- 未遂罪は刑法第250条に規定
これらの犯罪については、完遂していなくても実行行為に着手した時点で処罰対象となる可能性があります。
未遂罪の規定がない主な犯罪
以下の犯罪については、未遂罪の規定が設けられていないため、犯行が完遂されなければ処罰されません。
- 暴行罪(刑法第208条)- 暴行罪自体が結果の発生を要しないため、未遂という概念は通常適用されない
- 侮辱罪(刑法第231条)- 未遂罪の規定なし
- 名誉毀損罪(刑法第230条)- 未遂罪の規定なし
- 過失傷害罪(刑法第209条)- 過失犯のため未遂は成立しない
- 器物損壊罪(刑法第261条)- 未遂罪の規定なし
実際に未遂罪が成立して有罪判決になった事例2選
未遂罪は理論的な概念だけでなく、実際の裁判でも適用されています。
以下では、具体的な判例を通じて未遂罪の成立要件や判断基準について詳しく見ていきましょう。
1.警察官になりすまして詐欺を働いたが失敗した事例(最高裁平成30年3月22日判決)
本件は、被告人が警察官になりすまし、前日に詐欺被害に遭った69歳の被害者に対して「犯人を捕まえた」「被害金を取り戻すので協力してほしい」などと嘘を言い、被害者に預金を現金化させたあと、現金を受け取ろうとしたが、被害者宅付近で警察官に発見され逮捕された事例です。
被告人は現金の交付を求める文言を述べていなかったものの、最高裁は以下の理由で詐欺未遂罪の成立を認めました。
- 被害者を欺く嘘の内容が、現金を交付するか否かを判断する前提となる重要な事項に係るものであった
- 被害者に現金の交付を求める行為に直接つながる嘘が含まれていた
- すでに詐欺被害に遭っていた被害者が、間もなく訪問予定の被告人に即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高めるものであった
この判例は、詐欺未遂罪における「実行の着手」の判断基準を明確にした重要な事例として位置づけられています。
2.保険金目当てで自殺をさせたが死亡しなかった事例(最高裁平成16年1月20日決定)
被告人は約6億円の保険金を目的として、偽装結婚した女性を被保険者とし、自動車の転落事故を装って被害者を自殺させようと企てました。
極度に畏怖していた被害者に対して、暴行・脅迫を交えて岸壁上から車ごと海中に転落することを執拗に要求し、被害者は車ごと海に飛び込んだものの、水没前に脱出して死亡を免れています。
本件について、最高裁は以下の理由で殺人未遂罪の成立を認めました。
- 被害者が「命令に応じて車ごと海中に飛び込む以外の行為を選択することができない精神状態」に陥っていた
- 被害者に自殺する気持ちはなく、水没前に車内から脱出して死亡を免れた場合でも殺人未遂罪に当たる
- 被告人が被害者に対し死亡の現実的危険性の高い行為を強いたことについて認識に欠けるところがなかった
この判例は、第三者に自殺を強いる行為であっても、被害者の自由意思が完全に奪われた状況では殺人未遂罪が成立することを示した重要な事例として位置づけられています。
さいごに|犯罪の種類によっては未遂であっても処罰される可能性がある!
本記事では、未遂罪の成立要件や対象となる犯罪の種類、実際の判例について詳しく解説しました。
「未遂だから処罰されない」という考えは間違いであり、殺人罪や窃盗罪、詐欺罪など多くの犯罪で未遂罪の規定が設けられています。
特に、万引きを試みて店員に発見された場合のように、すでに「実行の着手」があったと判断されるケースでは、未遂であっても刑事処罰を受ける可能性があります。
もし自身の行為が未遂罪に該当する可能性がある場合は、今後の対応方針について早めに弁護士に相談することをおすすめします。
適切な法的アドバイスを受けることで、処罰を避けたり軽減したりする方法を検討できるでしょう。
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