強制執行妨害罪とは|関係する3つの罪と内容を分かりやすく解説

強制執行手続きを妨害すると、強制執行妨害罪に問われる可能性があります。
本記事では、どのような行為が強制執行妨害罪に該当するのか、もしも強制執行妨害罪にあたりそうな行為をしてしまったらどんな刑罰が科せられるのかなど、強制執行妨害罪について解説します。
そもそも「強制執行」とは何か
強制執行とは、お金を支払わなければならない方(債務者)が、借金や税金を滞納し続けている場合に、強制的に取り立てをすることです。
強制執行は、お金を貸している債権者や国などの申し立てに基づいて、裁判所が命令を発することでおこなわれます。
強制執行には、次のような種類があります。
- 民事執行法による強制執行
- 民事保全法による保全執行
- 国税徴収法による滞納処分 など
また、強制執行では、次のような方法でお金を支払わせることが可能です。
- 債務者の給料や賃金を差し押さえて雇主から回収する
- 債務者の預貯金を差し押さえて銀行から回収する
- 債務者の土地や建物を差し押さえて売却する
- 債務者の自動車を差し押さえて売却する など
以上のように、強制執行は債務者の財産や給料を差し押さえて強制的に支払いをさせるという効力が大きい手段である点から、手続を進める際には、請求権を証明するために、訴訟判決などが必要です。
いわゆる「強制執行妨害罪」には3つの種類がある
強制執行を妨害すると、強制執行妨害罪にあたります。
強制執行手続きは、債権を回収するための最終手段となるため、強制執行を妨害する行為に対しては刑事罰が科されます。
強制執行妨害罪には3つの種類があり、強制執行妨害罪という罪名はありません。
強制執行妨害罪に分類される罪は、次の3つです。
- 強制執行妨害目的財産損壊等罪
- 強制執行行為妨害等罪
- 強制執行関係売却妨害罪
強制執行は、公務の一環となるため、公務の執行を妨害する罪のなかに位置づけられます。
しかし、刑法第95条が定める公務執行妨害罪よりも、重い罪が科されます。
強制執行妨害目的財産損壊等罪
強制執行妨害目的財産損壊等罪は、強制執行の対象となる財産に対して、隠匿や損壊などをした場合に処罰される犯罪です。
(強制執行妨害目的財産損壊等)
第九十六条の二 強制執行を妨害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
情を知って、第三号に規定する譲渡又は権利の設定の相手方となった者も、同様とする。
一 強制執行を受け、若しくは受けるべき財産を隠匿し、損壊し、若しくはその譲渡を仮装し、又は債務の負担を仮装する行為
二 強制執行を受け、又は受けるべき財産について、その現状を改変して、価格を減損し、又は強制執行の費用を増大させる行為
三 金銭執行を受けるべき財産について、無償その他の不利益な条件で、譲渡をし、又は権利の設定をする行為
引用元:刑法 | e-Gov法令検索
強制執行妨害目的財産損壊等罪の内容
強制執行妨害目的財産損壊等罪が成立するには、強制執行を妨害する目的と行為が必要です。
ただし、強制執行妨害目的財産損壊等罪の成立には、客観的に強制執行が妨害される状態であったかどうかが検討されます。
具体的には、事実として強制執行が実行されていた、あるいは強制執行の準備が整った状態であったことが成立の要件となります。
妨害行為とは、強制執行の対象となる不動産・動産・債権などの財産について、次のような行動をとることです。
- 財産を隠したり、壊したり、他人に譲り渡したように見せかける行為
- 財産を改変する行為
- 第三者に無償または著しく低い価格で譲渡する行為
たとえば、他人名義で預金したり、預金を引き出して自宅で保管したりする行為は、財産の隠匿にあたります。
また、差し押さえられるからといって、車を壊したり、車の名義を友人に変更して自分が使ったりするなどの行為も、同罪に該当します。
改変にあたる行為には、住んでいる家の競売を遅らせるために、本来必要のない増築工事をするなどの行為が該当します。
さらに、家の名義を無償で家族に譲渡するなどの行為も、同罪に該当します。
この場合、財産を譲り受けた方が強制執行を妨害してしまうという事情があることを知っていれば、譲受人も罪に問われるおそれがあります。
強制執行妨害目的財産損壊等罪の罰則
強制執行妨害目的財産損壊等罪の法定刑は、3年以下の懲役もしくは250万円の罰金です。
懲役と罰金の両方が科されるケースもあります。
強制執行行為妨害等罪
強制執行行為妨害等罪は、強制執行をする執行官や債権者に対して、妨害行為をした場合に処罰される犯罪です。
(強制執行行為妨害等)
第九十六条の三 偽計又は威力を用いて、立入り、占有者の確認その他の強制執行の行為を妨害した者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 強制執行の申立てをさせず又はその申立てを取り下げさせる目的で、申立権者又はその代理人に対して暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。
引用元:刑法 | e-Gov法令検索
強制執行行為妨害等罪の内容
強制執行行為妨害罪が成立するのは、強制執行の申し立てをさせない目的あるいは申し立てを取り下げさせる目的をもって、執行者や債権者に対して、次の2つの行為をした場合です。
- 偽計や威力によって、強制執行の行為を妨害した
- 暴行や脅迫を加えて、強制執行の行為を妨害した
なお、強制執行を受ける本人ではなく、家族や友人をはじめ、本人から依頼を受けた第三者が上記のような妨害行為をした場合も、強制執行行為妨害等罪が成立します。
強制執行行為妨害罪における「偽計」とは、人の勘違いや無知を利用したり、人を騙して錯誤などを利用したりする行為をいいます。
たとえば、強制執行で建物を開け渡さなければならないにも関わらず、建物内にわざと日本語を話せない外国人を住まわせ、占有者を確認できないようにする行為は、偽計にあたります。
「威力」とは、他人の意思を制圧するに足りる強い力や勢いのことをいいます。
たとえば、うその爆破予告をしたり、玄関ドアを障害物で封鎖したり、大声で怒号するなどの行為が、威力にあたります。
なお、偽計や威力を使った妨害行為によって強制執行行為妨害等罪が成立するには、実際に強制執行行為が妨害されたことが必要です。
一方で、暴行や脅迫による妨害行為によって強制執行行為妨害等罪が成立するケースには、実際に権利の行使が妨害されなかった場合も含まれます。
暴行や脅迫は、暴行罪や脅迫罪にあたる可能性もありますが、強制執行行為妨害罪が成立する場合は暴行罪や脅迫罪は成立しません。
強制執行行為妨害等罪の罰則
強制執行行為妨害等罪の法定刑は、3年以下の懲役もしくは250万円の罰金です。
懲役と罰金の両方が科されるケースもあります。
強制執行関係売却妨害罪
強制執行関係売却妨害罪は、債権者や執行官が公正に債務者の財産を売却することを、阻害する行為をした場合に処罰される犯罪です。
同罪は、2011年に新設されました。
(強制執行関係売却妨害)
第九十六条の四 偽計又は威力を用いて、強制執行において行われ、又は行われるべき売却の公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
引用元:刑法 | e-Gov法令検索
強制執行関係売却妨害罪の内容
強制執行関係売却妨害罪が成立する要件は、強制執行をするために、債権者や執行官が、債務者の財産を公正に売却することを妨害したときです。
強制執行は、最終的に債務者の財産を売却し、その代金から債権を回収する手続きです。
そのため、可能な限り高く売らなければ、回収できる金額が少なくなってしまいます。
たとえば、債務者が勝手にある財産を売ってしまったとします。
売却して債務者が得た現金なども差し押さえの対象にはなりますが、執行官が売却するほうが高く売れた可能性があるのです。
安価に売られてしまえば、公正な回収ができません。
そのため、財産の公正な売却を妨害したときは、強制執行関係売却妨害罪によって罰せられます。
なお、強制執行関係売却妨害罪における妨害は、強制執行行為妨害等罪と同様、偽計や威力を用いた行為とされています。
偽計にあたると考えられる例としては、債務者の不動産を競売することが決定したあと、債務者が該当の不動産に賃貸借契約を締結する行為などです。
賃貸借契約が存在する不動産は、競売価格が下がるケースがあるため、公正な売却の妨害をした偽計行為として、強制執行関係売却妨害罪に該当する可能性があります。
また威力にあたると考えられる例としては、不動産を競売にかけ、入札が終了したあとに、落札者に対して不動産の取得を断念するよう要求した行為が威力行為として、強制執行関係売却妨害罪に該当する可能性があります。
強制執行関係売却妨害罪の罰則
強制執行関係売却妨害罪の法定刑は、3年以下の懲役もしくは250万円の罰金です。
懲役と罰金の両方が科されるケースもあります。
さいごに
強制執行妨害罪の概要について、理解できたでしょうか。
もしも、強制執行手続きの妨害にあたる行為をしてしまった心当たりがある場合は、なるべく早めに弁護士に相談するのがよいでしょう。
弁護士を探すには、ベンナビ刑事事件の活用がおすすめです。
ベンナビ刑事事件は、全国の法律事務所が登録するポータルサイトで、刑事事件の加害者弁護に注力している法律事務所を簡単に探すことができます。
初回無料で相談に応じている事務所も多いので、迷わず相談してみましょう。



【スピード対応◎休日対応】中野区・杉並区を中心に微罪から重大事件まで幅広い刑事事件に迅速対応/外国人の方の相談もOK/示談や不起訴・執行猶予の実績も多数!まずはお早めにご相談ください<オンライン相談可>
事務所詳細を見る
【池袋駅近く】不同意わいせつ・盗撮・暴行・窃盗・万引き等、元検事率いる刑事弁護チームがスピード対応!不起訴処分/逮捕回避/示談での解決を目指すなら、すぐにご連絡ください!▶最短で即日接見可能◀
事務所詳細を見る
【初回相談0円】【性犯罪に注力◎】ご自身・ご家族が逮捕された/取調べを受けているならすぐにご相談を!刑事事件に豊富な解決実績を持つ弁護士が粘り強く対応します【早朝・深夜相談/オンライン面談◎】
事務所詳細を見る当サイトでは、有料登録弁護士を優先的に表示しています。また、以下の条件も加味して並び順を決定しています。
・検索時に指定された都道府県に所在するかや事件対応を行っている事務所かどうか
・当サイト経由の問合せ量の多寡



刑事事件の基礎知識に関する新着コラム
-
本記事は不法侵入してしまった場合に警察がどのように対応するのか、またそれに対してどのように 対応すれば良いのか解説します。
-
この記事では、痴漢で解雇されるシチュエーションや、解雇するかどうかを判断するときに考慮されるポイント、弁護士に早期相談・依頼するメリットなどについて...
-
ニュースでよく聞く「検挙」という言葉の正確な意味を理解している人は、実はそこまで多くはありません。検挙という言葉がよく使われるシーンや、似た用語との...
-
本記事では告発とは何かや、告発が必ずしも受理されるとは限らない理由、告発と告訴・被害届や内部告発との違い、告発された場合に起こることを解説します。
-
盗撮の冤罪にあいそうなときでも、対応を間違えると逆に状況が悪化する可能性があります。万が一のときに冷静に対応できるよう、正しい対処法と注意点をおさえ...
-
犯罪を犯して起訴された場合は、通常、刑事裁判に移行します。刑事裁判は有罪・無罪や刑罰が決定する重要な場になるので、先を見据えてしっかりと準備しておく...
-
本記事では、刑事罰の役割や刑法で規定されている6つの刑事罰について解説します。2025年6月に運用が始まった拘禁刑の詳細や、刑事罰の種類・重さの一般...
-
事件を起こし警察に検挙・逮捕された場合は、不起訴処分の獲得を目指すのが一般的です。本記事では、不起訴処分とは何かや無罪との違い、不起訴処分を獲得する...
-
「立件」という言葉はニュースなどで頻繁に用いられます。しかし、具体的にどのような状況を指すのか理解している人は少ないはずです。本記事では、立件の意味...
-
正当な理由なく他人の建物に侵入すると建造物侵入罪にあたります。住居侵入罪との違い、構成要件、「侵入」や「正当な理由」の定義、刑罰、逮捕後の流れ、弁護...
刑事事件の基礎知識に関する人気コラム
-
逮捕されて有罪になると前科が付きますが、前歴というものもあり、こちらは逮捕されただけで付きます。前科は間逃れても前歴が残ると今後の生活にどう支障がで...
-
犯罪事件捜査の対象になった場合、刑事手続きはスピーディに進行します。早期に刑事手続きから解放されるためには、初動の段階から迅速な対応をとることが肝心...
-
本記事では私人逮捕の条件や私人逮捕によるトラブルの対処法を解説します。
-
【弁護士監修】書類送検を徹底解説!書類送検とは被疑者を逮捕せず、書類のみ(証拠を含む)を検察官に送る手続きです。この記事では、そもそも送検とはどうい...
-
少年院(しょうねんいん)とは、家庭裁判所から保護処分として送致された少年を収容するための施設を言います。
-
鑑別所とは、正式には「少年鑑別所」と呼ばれる施設で、家庭裁判所の少年審判をおこなうにあたって、犯罪を犯した未成年の少年を一時的に収容する場所です。本...
-
観念的競合とは、1つの行動で2つ以上の犯罪を起こすことです。刑罰の考え方としては、2つ以上の犯罪の中で最も重い犯罪の刑罰が対象となります。
-
この記事では親告罪と何か、親告罪に該当する罪を解説したあと、告訴されたときの対処法について紹介しています。親告罪を犯してしまって告訴される可能性があ...
-
刑事裁判と言っても、事件内容によって方法が少し異なります。この記事では刑事裁判の種類や流れの他に、民事裁判との違いやよくある質問(裁判員制度について...
-
公訴時効とは、刑事上の時効の概念で、犯罪が終わってから一定期間が過ぎると、公訴の提起(起訴)ができなくなることです。
刑事事件の基礎知識の関連コラム
-
ナンパをしたことで通報され、警察に逮捕された事例はいくつもあります。本記事では、ナンパで問われる可能性がある罪にはどのようなものがあるのか、どこまで...
-
万引き(窃盗罪)は10年以下の懲役という重い犯罪です。本記事では、統計データを基に実刑判決となるケースや回避方法、弁護士に依頼するメリットまで、具体...
-
家宅捜索は予告なく、捜索令状を持った警察官や検察官が突然行うものです。家宅捜索に踏み入られた場合、どのような事態になり、捜索後には何が起こるのか紹介...
-
懲役(ちょうえき)とは、有罪判決を受けた人物を刑務所に拘禁し、刑務作業を行わせる刑罰です。受刑者を刑事施設に拘禁し、自由を奪う、自由刑の一つです。
-
本記事では、刑事罰の役割や刑法で規定されている6つの刑事罰について解説します。2025年6月に運用が始まった拘禁刑の詳細や、刑事罰の種類・重さの一般...
-
包丁の持ち運びは、銃刀法違反になる可能性があります。そのため、アウトドアなどで包丁を携帯する際は、 刃体の長さなどについて法的に認められる基準を理...
-
本記事では執行猶予期間中の方に向けて、執行猶予の取り消しについての定義・意味、執行猶予が取り消しになる2つのパターン、再犯をして執行猶予が取り消しに...
-
実名報道(じつめいほうどう)とは、マスメディアの報道において関係者の実名を明示することを言います。今回は、実名報道の問題点や、実名報道されてしまった...
-
本記事では私人逮捕の条件や私人逮捕によるトラブルの対処法を解説します。
-
本記事では、身元引受人になれる条件や具体的な役割、そして身元引受人が見つからない場合の対処法まで、分かりやすく解説します。
-
冤罪とは、罪を犯していないにもかかわらず、誤って犯罪者として扱われてしまうことを指します。日本の司法制度は整備されているものの、依然として冤罪事件が...
-
刑事事件における時効とは、犯罪から一定期間経過すると加害者が起訴されなくなる制度です。罪を逃れられる制度がなぜ存在しているのか、疑問に感じている人も...
刑事事件の基礎知識コラム一覧へ戻る