単純逃走罪と加重逃走罪の違いは?対象となる行為や刑罰などをわかりやすく解説


- 「単純逃走罪と加重逃走罪の違いはなんだろうか」
- 「どんなときに加重逃走罪が成立するのだろう」
単純逃走罪と加重逃走罪は、いずれも対象が勾留された被疑者や受刑者などとなり、一見して違いがわからないかもしれません。
本記事では両者の概要や違い、共通点、逃走に関するその他の犯罪についてわかりやすく解説しています。
本記事を読むことで、逃走罪について理解を深めることが可能です。
単純逃走罪と加重逃走罪の違い
逃走罪には、いくつかの種類があります。
なかでも、刑法第97条に規定されている単純逃走罪と刑法第98条が定める加重逃走罪は、自分から逃走する種類の逃走罪です。
単純逃走罪と加重逃走罪の概要や違いについて解説します。
単純逃走罪
逃走罪は法令により拘禁されている者が逃走したときに成立する犯罪です。
勾留されている被疑者や受刑者が対象です。
そのため、まだ拘禁されていないときに逃走しても成立しません。
たとえば、事件直後に警察官を振り切って逃げた場合や警察官が自宅にやってきたために庭から脱出した場合などは逃走罪に問われません。
対象行為|看守者の実力支配を脱したといえる単純な逃走行為
単純逃走罪の成立要件は、「法令により拘禁された者が逃走すること」です。
わかりやすくいうと逮捕され勾留されているか受刑中の者が、看守者の実力支配を脱して逃亡を試みると逃走罪に問われます。
また勾引状の執行を受けた者が逃走した場合も、逃亡罪の対象です。
勾引状とは、裁判所が被告人や証人などを強制的に出頭させるときに使われる令状を指します。
裁判所が公判に被告人や証人を呼び出したにも関わらず、正当な理由なく応じないときに勾引状が出されるのです。
逃走罪は未遂でも罰せられます。
途中で確保され、刑事施設から脱出できなかったとしても処罰されます。
刑罰|3年以下の懲役
単純逃走罪の法定刑は3年以下の懲役です。
3年以下の懲役といっても、逃走後にほかの罪を犯すケースが多いため、それ以上の罪に問われることも少なくありません。
たとえば、逃走をしたあとに金銭や行き場がなく、窃盗罪や住居侵入罪を犯してしまうケースなどです。
加重逃走罪
加重逃走罪は単純逃走罪に加えて、施設や手錠などの拘束具を損壊したり暴力を振るったりという行為が伴った場合に適用されます。
単純逃走罪よりも悪質な犯罪とされ、罪が重くなります。
対象行為|拘束器具の損壊、暴力・脅迫、通謀をともなう逃走行為
加重逃走罪が対象とするのは、ただ逃走するだけでなく、次のいずれかの行為をおこなった者です。
- 拘禁されている施設や拘束具を損壊した
- 逃げるために暴行や脅迫をした
- 2人以上で通謀して逃走した
加重逃走罪は手錠や部屋の鍵などを壊したり、看守に暴行や脅迫をしたり、同じように拘束されている者または外部の誰かと示し合わせて逃走したりした場合に成立します。
刑罰|3ヵ月以上5年以下の懲役
加重逃走罪が成立した場合の法定刑は3ヵ月以上5年以下の懲役です。
拘束具などの損壊や暴力行為を伴うため、単純逃走罪よりも悪質な犯罪として重い刑罰が規定されています。
【共通】対象(主体)となるのは「法令により拘禁された者」
単純逃走罪・加重逃走罪ともに、対象(主体)となるのは「法令により拘禁された者」です。
具体的には、以下があてはまります。
- 勾留中で、拘置所や留置所に身柄を拘束されている者
- 受刑中で、刑務所に収監されている者
- 勾引状の執行を受けた者
なお民法が改正されるまで、上記のうち(3)は単純逃走罪の対象ではありませんでした。
民法の改正により、加重逃走罪と同様に(3)も単純逃走罪の対象となっています。
単純逃走罪や加重逃走罪が成立するケース・成立しないケース
単純逃走罪も加重逃走罪も、どちらも法令により拘禁された者に対して成立する可能性のある犯罪です。
そのため、保釈中の被告人や勾留の執行が停止しており釈放中である者は逃走罪には問われません。
逃走に関するその他の犯罪
逃走罪には、拘禁されていた本人が罰せられる単純逃走罪と加重逃走罪に加え、逃走を援助した者が罰せられる規定もあります。
逃走を援助した場合の逃走罪について解説します。
被拘禁者奪取罪|被拘禁者を逃がして自身の支配下に置いた場合
法令によって拘禁された者を、看守者の実力支配から離脱させて自分や第三者の実力支配下に置いた場合、被拘禁者奪取罪に問われます。
拘禁されている者を逃がしただけでは成立しません。
被拘禁者奪取罪は刑法第99条に定められており、法定刑は3ヵ月以上5年以下の懲役です。
逃走援助罪|被拘禁者の逃走を援助した場合
法令によって拘禁された者を逃走させるために、援助をした場合は逃走援助罪に問われます。
逃走援助罪は刑法第100条に定められており、法定刑は内容によって3年以下の懲役または3ヵ月以上5年以下の懲役です。
逃走を簡単にするよう、何らかの器具を提供するなどした場合は3年以下の懲役、看守者などに暴行や脅迫をおこなった場合は3ヵ月以上5年以下の懲役が科せられます。
単純逃走罪と比較すると、手助けをして逃走援助罪に問われた者のほうが、実際に逃走した者よりも重い刑罰が科される可能性があるのです。
看守者逃走援助罪|看守などが被拘禁者の逃走を援助した場合
拘禁者を看守したり護送したりする者が、法令によって拘禁された者を故意に逃走させた場合は看守者逃走援助罪に問われます。
具体的には、警察署の留置担当官や刑務所の刑務官が、看守している被告人や受刑者を逃走させるような場合です。
看守などは重要な立場であり、公務員でもあります。
その地位を利用して逃走の手助けをすることは違背行為にあたります。
そのため、法定刑は逃走罪のなかで最も重い刑罰が規定されています。
看守者逃走援助罪については刑法第101条に定められており、法定刑は1年以上10年以下の懲役です。
今後、看守としての職務を続けることもできません。
なお、事故のようなトラブルで拘禁者が護送中に逃げてしまった場合など、故意に逃走させたわけでないときは、看守者逃走援助罪には問われません。
単純逃走罪・加重逃走罪に関してよくある質問
ここからは、単純逃走罪と加重逃走罪に関してよくある質問と回答を紹介します。
単純逃走罪・加重逃走罪は未遂でも処罰される?
単純逃走罪も加重逃走罪も、未遂であっても処罰されます。
刑法第102条に規定されています。
未遂とは、犯罪の実行に着手したがこれを遂げなかった場合のことです。
逃走を図り、途中で確保されてしまい刑事施設から脱出できなかったとしても処罰されます。
未遂の種類は以下2つです。
- 犯罪を実行しようとしたものの、外部的な要因(障害)によって遂げなかった場合
- 犯罪を実行しようとしたものの、自己の意思で犯罪を中止した場合
中止未遂の場合、必要的減免事由にあたり刑は必ず減軽・免除されます。
一方で障害未遂の場合は任意的減免事由にあたり、刑を減軽するか否かは裁判官の裁量次第です。
単純逃走罪・加重逃走罪に時効はある?
単純逃走罪の時効は3年です。
一方で、加重逃走罪の時効は5年です。
ただし、いずれも海外逃亡した場合、その期間は時効期間に含まれません。
たとえば単純逃走罪を犯して刑事施設からの脱出に成功し、すぐに海外に逃亡して3年間過ごして帰国しても、時効は成立していません。
さいごに|逃亡罪に関する悩み・疑問は弁護士に相談を!
逃走罪は、逃走した者だけでなく、逃走に関与したり助けたりした者に対しても厳しい刑罰を課すものです。
拘禁されていたけれど逃走してしまった、あるいは逃走に関わってしまったなどで、不安や疑問がある方は、迷わず弁護士に相談しましょう。
加害者弁護に精通した弁護士であれば、たとえ罪を犯してしまった方であっても丁寧にサポートしてくれます。
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