窃盗未遂罪とは?未遂・既遂のタイミングや量刑の決まり方などを詳しく解説
- 「スーパーで商品を手に取ったままうっかり店の外へ出ようとしたところ、店員に声をかけられて窃盗だと疑われた」
- 「万引きして店を出ようとしたら、万引きGメンに捕まってしまった」
このような場面で、「自分の行為は犯罪になるのか」「前科がついてしまうのか」と不安を感じている方も多いでしょう。
この記事では、窃盗未遂罪とは何か、どのような行為が該当するのか、成立した場合にどのような刑罰が科されるのかをわかりやすく解説します。
特に、万引きを試みたが未遂に終わったケースを中心に、法律のポイントや処分の可能性、弁護士に相談する意義なども紹介します。
窃盗未遂罪とは?窃盗をしたが実現しなかった場合に成立する犯罪のこと
窃盗未遂罪とは、窃盗を実行したものの、結果として盗み終えなかった場合に成立する犯罪です。
たとえば、万引きをしようとして商品を手に取り、店内で店員に呼び止められたようなケースが該当します。
ただし、未遂という軽い処罰にならないように、実際には店外に出たタイミングで声掛けがなされる運用になっています。
店内であれば「精算するつもりだった」等と言い訳をされてしまう可能性がありますが、店外に出てしまえばそのような言い訳は成り立たず、万引きするつもりだったと明らかにできるからです。
窃盗罪については、刑法第243条によって未遂罪が定められているため、未遂の処罰の対象です。
(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
(中略)
(未遂罪)
第二百四十三条 第二百三十五条から第二百三十六条まで、第二百三十八条から第二百四十条まで及び第二百四十一条第三項の罪の未遂は、罰する。
引用元:刑法 | e-Gov 法令検索
刑法第43条本文では、「犯罪の実行に着手したが、これを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる」と定められています。
窃盗未遂で重要になる「実行の着手時期」と「窃盗の完成時期」
窃盗未遂罪が成立するかどうかは、「どの段階まで行動が進んだか」によって判断されます。
つまり、実際に盗んでいなくても、行為の進行度合いによっては犯罪として成立してしまうのです。
ここでは、窃盗未遂罪においてとくに重要となる「実行の着手時期」と「窃盗の完成時期」について、具体例を交えて解説します。
実行の着手時期
窃盗未遂罪が成立するかどうかは、「実行の着手」があったかどうかによって判断されます。
実行の着手とは、犯罪の結果が現実に発生するおそれのある段階に達したことを意味します。
たとえば、「万引きをしよう」と思っただけでは実行の着手にはなりません。
さらに商品を見ながら店内を歩いている段階でも、まだ窃盗の危険性が高まったとはいえないため、窃盗未遂罪は成立しません。
一方で、商品を手に取ってそのまま店外へ出ようとした場合や、バッグに隠すなどの行為をおこなった場合は、「盗む」という結果が発生する危険が高まったと評価される可能性があります。
そのほか、以下のようなケースにおいても「実行の着手」があったと判断されやすくなります。
- ベランダに干してある下着を物色していたが、被害者に見つかって逃げたケース
- ATMで他人のキャッシュカードを使って現金を引き出そうとしたが、カードが無効とされ引き出せなかったケース
- 自動販売機の釣銭出口に細工を施して、釣銭を取り忘れさせようとしたケース
- 特殊詐欺のように高齢者宅を訪問する直前で中止したものの、すでに危険が生じていたと認定されたケース
詳細は「【具体例】万引き行為が「窃盗未遂罪」になるかどうかの基準」でも解説しているので、合わせて参考にしてください。
窃盗の完成時期
窃盗未遂罪ではなく、窃盗既遂として扱われるかどうかの判断基準は、「犯罪が完了したかどうか」です。
法律上では、窃盗が完了した状態、すなわち「窃盗既遂」とは、盗もうとした物の占有が犯人に移ったと評価できる時点を指します。
占有とは、物に対する事実上の支配のことです。
たとえば、小売店の商品は基本的に店側が占有しており、客がカートに商品を入れていても、それが精算前であれば占有はまだ店側にあります。
一方、次のような場合には、商品が犯人の占有に移ったと判断され、既遂とされる可能性が高まります。
- 万引き犯が商品をバッグやポケットに入れ、外部から確認できないようにしていた場合
- 店外に商品を持ち出した場合
- 宝石店で小さな宝石を下着の中に隠した場合
このように、たとえ店の外に出ていなくても、「第三者の目に触れず、商品を取り返すことが難しい状態」になっていれば、占有の移転があったと評価されることがあります。
実務の現場では、いわゆる万引きGメンが犯行の現認を目的として、犯人が店を出たタイミングで声をかけることが多く見られます。
これは、「犯人が盗みを実行するつもりだったと明確にいえる段階」や「占有の移転が完了した段階」を見計らっているためです。
【具体例】万引き行為が「窃盗未遂罪」になるかどうかの基準
万引きのような行為が、どの時点で窃盗未遂罪として成立するのかは、「実行に着手したかどうか」によって判断されます。
以下では、具体的なケースごとに「窃盗未遂」にあたるかどうかを見ていきましょう。
1.コンビニ入っただけの場合|犯罪自体成立しない可能性が高い
「万引きをしよう」と考えてコンビニに入店しても、店内に入っただけでは犯罪の実行には着手していないとされるのが一般的です。
この段階では、結果発生の危険性が高まったとはいえないため、窃盗未遂罪は成立しません。
2.商品を品定めしている場合|犯罪自体成立しない可能性が高い
商品を選んで見て回っている段階も同様に、まだ行為に踏み出していないと評価されます。
犯意はあるものの、犯罪の具体的危険性が現実化していない以上、この段階では犯罪は成立しないと考えられています。
3.商品を手に取っている場合|窃盗未遂になる可能性が高い
商品を手に取り、そのまま持ち歩いているような場合は、「盗む行為に踏み出した」と評価される可能性が高いでしょう。
特に、出口の近くで商品を手にしていた場合などは、実行の着手があったとみなされ、窃盗未遂罪が成立する余地があります。
4.商品をカバンに入れた場合|窃盗既遂になる可能性が高い
商品をバッグやポケットに入れ、外部から確認できないように隠した場合には、商品の占有が移転したと評価されやすくなります。
このような行為は、すでに窃盗が完了したと見なされ、窃盗既遂となる可能性が高くなるでしょう。
窃盗未遂罪になった場合の刑事罰|中止未遂と障害未遂で異なる
窃盗未遂罪が成立した場合、すぐに実刑判決になるとは限りません。
刑法では、未遂に終わった場合であっても処罰の対象となりますが、事情によっては刑が軽減されることもあります。
ここでは、未遂の中でも「中止未遂」と「障害未遂」に分かれる考え方と、それぞれの量刑への影響について解説します。
1.中止未遂|自らの意思で犯罪を中断した場合は必ず減刑または免除される
中止未遂とは、犯罪の実行に着手したものの、自分の意思で行為を中断した場合をいいます。
たとえば、万引きをしようとして商品を手に取ったが、「やはりやめよう」と思って棚に戻したケースなどです。
そして、刑法第43条では中止未遂にあたる場合は、必ず刑が減軽または免除されると定められています。
2.障害未遂|何かしらの理由で失敗した場合には裁判官の裁量で減軽されることがある
障害未遂とは、犯罪の実行に着手したものの、外部的な要因によって犯行が中断された場合です。
たとえば、商品をバッグに入れて店外へ出ようとしたが、店員に呼び止められて止められたようなケースが該当します。
障害未遂は、裁判官の判断によって刑が減軽される「任意的減軽事由」となります。
中止未遂のように必ず軽くなるわけではありませんが、未遂で終わっている点が情状として考慮される可能性があると考えていいでしょう。
さいごに|窃盗に成功しなくても着手した段階で窃盗未遂罪にはなりえる
窃盗が未遂に終わったとしても、実行の着手が認められる状況であれば、窃盗未遂罪として処罰の対象になる可能性があります。
実際に盗んでいなくても、「盗むつもりで行動を起こしていた」と評価されれば、法的には未遂として扱われるからです。
特に、万引きなどの身近なケースでは、「少し触っただけ」「持ち歩いただけ」と思っていても、状況によっては未遂や既遂と認定されることがあります。
そのため、ご自身の行為が窃盗未遂にあたるのか不安に感じている場合は、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
適切な対応をとることで、刑事処分を軽減できる可能性も高まるでしょう。
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