騒乱罪とは|成立する要件と騒乱罪が成立した事件まとめ


騒乱罪(そうらんざい)とは、大勢で集まって暴行や脅迫行為などを行なうことで公共の平安を侵害する罪を言います。
滅多に適用される罪ではありませんが、刑法10条には騒乱罪について規定されていますので、今回は騒乱罪について分かりやすくご説明していきます。
騒乱罪とは|騒乱罪の成立要件
騒乱罪とは、お伝えのように、大勢(多衆)で集合して暴行・脅迫により公共の平安を侵害する罪です。騒乱罪については刑法106条に以下のように規定されています。
多衆で集合して暴行又は脅迫をした者は、騒乱の罪とし、次の区別に従って処断する。
首謀者は、1年以上10年以下の懲役又は禁錮に処する。
他人を指揮し、又は他人に率先して勢いを助けた者は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する。
付和随行した者は、10万円以下の罰金に処する。
もう少し細かく砕いてご説明していきます。
多衆とは
多衆とは、漢字の通り、大勢の人間が集まった状態の事を言います。何人以上から多衆になるかの基準が明記されてはいませんが、一地方の平安を侵害するに足り得る程度の人数を基準にされています。
また、集まった人物が武装しているかどうかも侵害するかどうかに影響してきます。極端な話、武装した人物3人でその地方の平安が脅かされるのであれば、騒乱罪の多衆にも該当してきます。
一方で、騒乱罪が成立しない程度の人数での集団は、暴力行為や脅迫行為罰則が科せられます。集団暴行罪や脅迫罪です。
集合とは
集合とは、ご存知の通り一定の場所に集まることです。ただ、騒乱罪での集合は組織的ではない、寄せ集めのような形でも該当しますし、首謀者がいなくても騒乱罪は成立します。
また、集合した多衆は共同意思がある必要があります。共同意思とは最高裁の判例において
- 多衆の合同力を恃んで自ら暴力・脅迫を行なう意思
- 多衆をして暴力・脅迫を成し遂げる意思
- 暴力・脅迫に同意をし、合同力に加わる意思
の3種類があります。集まった多衆の全員がこれらのどれかの意思がある事で多衆の共同意思があるとされます。
暴行・脅迫とは
暴力とは、ご存知のように人を殴る・蹴るなどの行為ですが、直接的に人に対して行われていなくても、物を壊すなどの行為も暴力行為となります(車を壊すなどです)。脅迫は、相手を脅し危険性を告知する行為です。これらの暴力・脅迫行為は、一地方の平安を侵害する程度であれば騒乱罪に該当するとされています。
騒乱罪の罰則
騒乱罪の刑罰は、騒乱行為に参加した人物の立場で変わってきます。
首謀者【1年以上10年以下の懲役/禁錮】
首謀者とは、騒乱行為を主導した中心人物を言います。かみ砕いて言うとリーダーのことで、法定刑は「1年以上10年以下の懲役/禁錮」と重い罰則が設けられています。
また、お伝えのように、首謀者が存在していなくても騒乱罪は成立しますし、首謀者が現場に集合していなくても指示などして主導した立場であれば首謀者に該当します。
指揮者・率先して勢いを付けた人物【6カ月以上7年以下の懲役/禁錮】
指揮者は、多衆の一部もしくは全体の指揮を取った人物を言います。要はリーダー格です。率先して勢い付けた人物は、率先助勢者とも言い、多衆の中で抜きんでて騒乱の勢いを付けた人物を言います。法定刑は【6カ月以上7年以下の懲役/禁錮】です。
参加者・不和随行者【10万円以下の罰金】
参加者・不和随行者(ふわずいこうしゃ)は、騒乱に参加した人物です。本人自らが暴力・脅迫行為を行わなくても共同意思があるとみなされたのであれば、処罰の対象となります。法定刑は【10万円以下の罰金】です。
他の罪との関係性
騒乱罪には暴行・脅迫行為が行われることとなりますが、騒乱罪では暴行罪・脅迫罪は騒乱罪に吸収され、成立しなくなります。一方で、殺人罪・傷害罪・住居侵入罪・恐喝罪・公務執行妨害罪・建造物損壊罪などは、騒乱罪との観念的競合の関係になります。観念的競合とは、簡単に言うと法定刑が重い犯罪が適用されます。
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▶「観念的競合の考え方|牽連犯・併合罪との違い」
騒乱罪と内乱罪の違い
騒乱罪に似たものに内乱罪というものがありますが、内乱罪は国家転覆を目的とした暴動などを言います。騒乱罪は一地方の公安を侵害する罪ですが、内乱罪は国の秩序を転覆させる罪です。騒乱罪と同じく内乱者の立場で罰則が変わりますが、騒乱罪よりも重い法定刑が設けられています。
首謀者
死刑/無期禁錮
謀議参与者・群衆指揮者などのリーダー格
無期または3年以上の禁錮
職務従事者
※業務的に内乱者の食事や場所を提供するなどを行なった人物です。
1年以上10年以下の禁錮
単なる暴動参加者
3年以下の禁錮
騒乱罪に関連する罪
いかがでしょうか。このような騒乱罪ですが、他にも関連してくる罪がいくつかありますので、関連の罪に関しても簡単に解説していきます。
暴行罪【2年以下の懲役/30万円以下の罰金/拘留/科料】
騒乱罪では暴行や脅迫が行われますが、騒乱罪が成立した場合は、暴行罪は吸収されますが、一方で騒乱罪が成立にしなければ暴行行為による暴行罪が成立します。法定刑は「2年以下の懲役/30万円以下の罰金/拘留/科料」です。
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▶「暴行罪とは」
脅迫罪【2年以下の懲役/30万円以下の罰金】
脅迫行為も同じく、騒乱罪が成立すると脅迫罪は吸収されます。一方で、騒乱罪が成立しなければ脅迫罪に問われることもあります。法定刑は「2年以下の懲役/30万円以下の罰金」です。
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▶「身近にあふれる様々な脅迫罪と逮捕されてしまった後の対処法」
公務執行妨害罪【3年以下の懲役または禁錮/50万円以下の罰金】
騒乱行為では、警察官などの公務員が駆けつけることが考えられるでしょう。そのような状況で公務員に対して暴力・脅迫行為を行うと、公務執行妨害罪も成立します。公務執行妨害罪の法定刑は「3年以下の懲役または禁錮/50万円以下の罰金」となり、罰則が重い方の処罰がされる観念的競合の関係になります。
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「公務執行妨害で逮捕されるケースと逮捕後の流れ・対処法」
傷害罪【15年以下の懲役/50万円以下の罰金】殺人罪【死刑/無期若しくは5年以上の懲役】
騒乱の結果、誰か他人に対して傷害を負わせたり、死亡させてしまうと傷害罪や殺人罪に問われます。法定刑は傷害罪が「15年以下の懲役/50万円以下の罰金」、殺人罪は「死刑/無期若しくは5年以上の懲役」となっており、こちらも騒乱罪との観念的競合の関係になります。
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住居侵入罪【3年以下/10万円以下の罰金】
騒乱罪で許可なく他人の住居や施設などに侵入すると住居侵入罪が成立します。法定刑は「3年以下/10万円以下の罰金」となっており、こちらも騒乱罪と観念的競合の関係になります。
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▶「住居侵入罪での罪の重さと逮捕後の流れ|弁護士の対処法」
騒乱罪が適応された事件
このような騒乱罪ですが、実際のところ騒乱罪が適用されることは滅多にはありませんが、過去に発生して騒乱罪も成立した事件をいくつかご紹介します。
新宿騒乱
1968年。過激派の左翼が国際反戦デーにベトナム戦争に反対するためのデモを新宿駅で行った事件です。約2,000人がデモに集結し、各所で機動隊と衝突しました。743人もの人物が騒乱罪で逮捕された事件です。
参照:「新宿騒乱-Wikipedia」
大須事件
1952年。日本社会党の代議士に対して行われた無届デモで、大須球場では約1,000人のデモ隊が集まりました。デモ隊は警察の車に対して火炎瓶などを投げ込み炎上させました。この事件で、警察官70名・消防士2名・一般人4名が負傷、デモ隊は1名死亡、19名が負傷しました。さらにこの事件により152人が騒乱罪などで起訴されました。
参照:「大須事件-Wikipedia」
阪神教育事件
1948年に大阪と兵庫で発生した、在日朝鮮人と日本共産党による朝鮮人学校弾圧反対の騒乱事件です。大阪で7,000人、兵庫で100人のデモ隊が事件に関わり、1590人もしくは7,295人が検挙されたと言われています。
参照:「阪神教育事件-Wikipedia」
まとめ
現在では滅多に起きないような事件ですが、このように騒乱罪は刑法にも規定されており、意外と重い罰則になっています。



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