少年事件の弁護士とは?国選・私選の違いと弁護活動
20歳未満の少年が起こした少年事件についても、弁護士に依頼することは可能です。
弁護士に依頼することで、早期釈放を目指したり、被害者と示談交渉をしたり、えん罪から守るための活動をするなど、さまざまなメリットがあります。
しかし、少年保護事件では、弁護士(付添人)が選任されているケースはまだまだ少ない状況です。
※少年審判では、刑事裁判のような「弁護人」という制度はなく、少年の権利を擁護する役割の「付添人」を選任できることになっています。少年法では、付添人は弁護士に限定されていませんが、実際はその大半が弁護士です。
ここでは、少年事件の大まかな流れや、少年事件における弁護士の役割などを解説します。
※2022年4月1日から改正少年法が適用されますが、ここでは現行法に則って説明しています。
少年事件を弁護士に依頼する前に|少年事件の大まかな流れを理解しておこう
少年事件では「全件送致主義」といって原則としてすべての事件が家庭裁判所へ送致されます。
また、少年事件について、捜査段階は基本的に成人と同様の刑事手続(逮捕・勾留等)がとられますが、家庭裁判所に移った後は、少年法に則って審判などがおこなわれます。
まずは、少年事件で逮捕後の大まかな流れを解説します。
逮捕
少年が犯罪を起こした場合でも、警察や検察による捜査がおこなわれます。
また、事件内容によっては少年であっても逮捕されることがあります。
逮捕後、警察は48時間以内に検察官に身体拘束をしたまま事件を送致するかを判断し,事件の送致を受けた検察は24時間以内に裁判所に対して勾留請求するかどうかを判断します。
この逮捕から勾留までの流れは、成人の刑事事件と大きく異なりません。
勾留
裁判官が勾留決定をすると、最長20日間にわたり勾留されます。
この間、警察や検察による捜査は継続されます。
なお、少年法は「勾留状は、やむを得ない場合でなければ、少年に対して、これを発することはできない」としています。
しかし実際は、少年事件であっても勾留されるケースは少なくありません。
(勾留)
第四十八条 勾留は、やむを得ない場合でなければ、少年に対して、これを発することはできない。
引用元: 少年法 | e-Gov法令検索
裁判官の勾留質問
勾留するにあたって裁判官による勾留質問がおこなわれます。
勾留質問とは、裁判官が勾留するかどうかを判断するために、少年(被疑者)に話を聞く手続きのことです。
通常は勾留請求と同じ日におこなわれますが、取扱件数が多い地域では勾留請求の翌日になることもあります。
家庭裁判所への送致
捜査の結果、検察官が少年に嫌疑があると判断した場合は、すべての事件が家庭裁判所へ送致されます(全件送致主義)。
法務省が発表した『 令和3年版 犯罪白書 』を見ると、少年犯罪の新規受理数4万5,436人のうち、家裁送致数が4万3,015人で、送致率は94.7%と高い確率で送致されていることがわかります。
家庭裁判所へ送致されると、まず裁判官が観護措置をとるかどうかの判断をします。
観護措置がとられた場合には,通常は、その日のうちに少年(鑑別対象者)の鑑別などを専門におこなう少年鑑別所に収容されることが多く、原則2週間・例外的に4週間(最長8週間)にわたり少年鑑別所に収容されます(実務上は4週間弱の期間となることが多いです)。
その間に少年は鑑別や観護処遇などを受けます。
少年鑑別所での鑑別とは
少年鑑別所でおこなわれる鑑別(収容審判鑑別)とは、非行に影響を与えた要因を明らかにして、その要因の改善に寄与する処遇の指針を立てられるようにする手続きのことです。
具体的には、担当技官による鑑別面接や心理検査などのほかに、少年の行動を確認するために行動観察や意図的行動観察などもおこなわれます。
家庭裁判所調査官の調査
家庭裁判所調査官とは、家庭裁判所で取り扱う家事事件や少年事件などの調査の専門家です。
少年事件では、非行に至った動機や原因などを調査するために、少年やその保護者などと面会したり、少年の資質や性格を把握するために心理テストを実施したりします。
また、少年鑑別所や児童相談所などとも連携しながら、少年が立ち直るための方策を検討し、それを社会記録という形でまとめて裁判官に報告します。
少年審判
少年審判は、原則非公開で行われます。
少年審判の目的は、少年に自分自身の過ちを自覚させて、更生させることにあります。
事案によっては少年が本当に非行をしたかどうかという、非行事実を争うこともあります。
その上で、家庭裁判所の裁判官はその少年に必要な処分を言い渡します。
少年鑑別所に収容されている場合は、収容期間中におこなわれるのが一般的です。
少年事件のリスク|少年審判で受ける可能性のある5つの処分
少年事件では「保護主義」という考え方のもとで、少年の性格や環境を改善するための処分が言い渡されます。
その主な処分内容には、不処分、保護観察処分、少年院送致、児童自立支援施設等送致、検察官送致の5つがあります。
ここでは少年審判で言い渡される可能性がある処分について解説します。
1. 不処分
不処分とは、少年を処分しないという決定のことです。
非行事実が認められない場合だけでなく、非行事実が認められても再非行のおそれがなく処分が必要ないと判断されたような場合には不処分となります。
2. 保護観察処分
保護観察処分とは、少年院などの施設に入所させずに社会の中で少年の更生を目指す決定のことです。
保護観察処分が決定された場合は、少年は定期的に保護司と面接して近況を報告したり、指導監督を受けたりする必要があります。
保護観察期間は20歳になるまで、または保護観察が解除されるまでとなっています。
3. 少年院送致
少年院送致とは、少年院で適切な矯正教育を受けさせるための決定のことです。
再非行の可能性が高く、社会の中で更生を目指すのが難しい場合には、少年院送致の処分を受けることがあります。
少年院では少年が社会に復帰するために、生活指導、職業指導、教科指導、体育指導、特別支援指導といった矯正教育を受けることになります。
4.児童自立支援施設等送致
児童自立支援施設等送致とは、比較的幼い少年を児童自立支援施設や児童養護施設に送致する決定のことです。
これらは開放施設であるため、非行が進んでいない少年に対しておこなわれるのが一般的です。
5. 検察官送致
検察官送致とは、少年を検察に送致(いわゆる逆送)するという決定のことです。
少年が起こした事件や内容、心身の成熟度、性格、非行性などを考慮し、保護処分ではなく刑事処分が相当と判断された場合に決定されます。
検察官は少年を起訴するかどうかを判断し、起訴されると成人と同じ刑事裁判を受けることになります。
少年事件に弁護士は必要?依頼した場合の活動とは
少年事件も、弁護士に依頼することができます。
弁護士に依頼した場合には、えん罪から少年を守ってくれるだけでなく、取り調べのアドバイスをしてくれたり、被害者との示談交渉を進めてくれたりもします。
このような少年事件における弁護士の役割や必要性も確認しましょう。
取り調べのアドバイス
弁護士は、逮捕・勾留期間中でも少年と接見できます。
その際、取り調べに関するアドバイスや、少年事件の流れに関する説明なども受けられます。
特に少年は、成人に比べて精神的に未成熟で、知識や判断能力も十分とはいえません。
捜査機関はその未熟さにつけ込んで都合のよい供述調書を作ろうとしますので、適切なサポートを受ける必要があります。
早期釈放の弁護活動
少年事件でも、最長23日も捜査機関に身柄拘束される可能性があります。
このような長期にわたる身柄拘束をさせないよう、弁護士は検察官や裁判官に対して働きかけたり、裁判所に対して勾留決定を取り消すための準抗告をおこなったりします。
また、家庭裁判所へ送致後には少年鑑別所に収容されないように働きかけます。
被害者との示談
被害者がいる少年事件では、被害者に対して示談交渉を進めることも可能です。
通常、少年やその家族から被害者に連絡することはできませんが、弁護士が検察に示談の申し入れをすると、弁護士限りで被害者の連絡先の教示を受けることができる可能性があります。
連絡先の教示を受けることができた場合には、被害者への謝罪、示談交渉をすることが可能です。
ただし、成人の刑事事件で示談が成立した場合には不起訴処分となる可能性が高まりますが、少年事件では示談が成立した場合でも,検察官が少年に嫌疑があると判断した場合には全件家庭裁判所に送致されます。
この理由は全件送致主義の考え方があるからで、その少年の健全な育成のためにどのような保護処分を与えるべきかを家庭裁判所が調査し,判断する必要があるためです。
家庭裁判所調査官との面談
弁護士は、家庭裁判所調査官に対しても働きかけをおこなうことが可能です。
家庭裁判所調査官の役割は少年が立ち直るのに必要な方策を検討し、それを社会記録にまとめるというものです。
その社会記録には「少年をどのような処分にするべきか」も書かれるため、弁護士は少年院送致を防ぐための提案・交渉・説得などをおこないます。
犯罪を繰り返さない・更正するための環境整備
少年事件で不処分や保護観察処分などを受けるためには、再非行の可能性がないことを裁判官に説明しなければなりません。
そこで弁護士は、職場や学校に対して不当な扱いを受けないよう働きかけたり、親との関係を修復できるよう努めたりします。
また、少年を不良グループから脱退させるなどもおこないます。
少年審判での対応
弁護士は、少年審判で付添人(つきそいにん)として弁護活動をおこなうことも可能です。
事実関係を認めている事件では,通常は審判までに少年の環境を整えたり、監督者を探したりして準備をしておき、審判当日に少年が少年院に入所しなくても更生できることを裁判官に説明します。事実関係を争う事件では,少年には非行事実が認められないことを裁判官に説明します。
また、証人尋問や、少年への質問などをおこないます。
少年事件で依頼できる弁護士の種類|頼れるのは私選弁護人だけではない
少年事件で依頼できる弁護士は、国が選ぶ国選弁護人(国選付添人)と、少年やその家族が選ぶ私選弁護人(私選付添人)に分けられます。
ここでは、それぞれの弁護士に依頼できるタイミングを解説します。
国選弁護人
国選弁護人とは、国選弁護制度を利用して選任される弁護士のことです。
国選弁護人として活動することができるのは、捜査段階であり、主に取り調べのアドバイスや早期釈放のサポートなどを行います。また、並行して、必要となる環境調整等も行います。
国選弁護人が選任されるタイミング
国選弁護人が選任されるタイミングは、勾留決定後になります。
国選弁護人の依頼方法
国選弁護人を依頼したい場合、裁判官に対して国選弁護人を選任したいと伝えてください。
通常は裁判官の勾留質問時に「国選弁護人を選任するかどうか」の確認がされますので、そこで国選弁護人を選任したい旨を伝えれば問題ありません。
その後は、裁判所から法テラスに連絡が入り、国選弁護人が選出されます。
国選付添人
付添人のうち、国が選んだ付添人のことを「国選付添人」といいます。
国選付添人は少年が家庭裁判所に送致されてから少年審判までを担当するため、主に少年鑑別所に収容されている少年と面会したり、少年の環境などを調整したりするのが役割です。
捜査段階で国選弁護人を担当した弁護士がそのまま家庭裁判所で国選付添人に選任されることもあります。
国選付添人が選任されるタイミング
国選付添人が選任されるタイミングは、家庭裁判所送致後となっています。
なお、国選弁護人に引き続き依頼したい場合は、同じ弁護士を「国選付添人」として選任しなおす必要があります。
国選付添人を利用できる条件
国選付添人制度を利用できる少年事件は以下の3つのケースに限られています。
- 検察官関与決定に伴うもの( 少年法第22条の3第1項 )
- 被害者等の審判傍聴に伴うもの( 少年法第22条の5第2項 )
- 家庭裁判所の裁量によるもの( 少年法第22条の3第2項 )
このうち①と②のケースは必要的国選付添人と呼ばれていて、必ず国選付添人を選任しなければなりません。
一方、③のケースは裁量的国選付添人と呼ばれていて、裁判所の裁量によって選任されるかどうか決まります。
なお③は「死刑、無期懲役、長期3年を超える懲役・禁固にあたる事件」が該当します。
私選弁護人・私選付添人
私選弁護人とは、少年やその保護者が選んだ弁護士のことです。
国選弁護人とは異なり,どんな事件でも自由に選任することができます。
私選弁護人は勾留決定される前から依頼できるため、勾留前から,取り調べに関するアドバイスや勾留請求をさせないための働きかけなども任せられます。
また、家庭裁判所送致後には「私選付添人」として、少年審判に向けた働きかけやサポートなどをしてくれます。
私選弁護人・私選付添人に依頼できるタイミング
私選弁護人・私選付添人の場合は、原則として少年が非行を犯してから裁判所に処分が言い渡されるまで、いつでも依頼することが可能です。
また、国選付添人のような利用条件もないため、どのような少年事件でもサポートしてもらえます。
早めに弁護士に支援してもらうことで、早期釈放なども目指せるようになります。
少年事件の弁護士費用の支払いが困難なときは少年保護事件付添援助制度を利用しよう
少年事件では弁護士に依頼するのが重要ですが、経済的な事情などから弁護士に依頼できないケースもあるでしょう。
そのようなときには、弁護士費用の負担がなくなる少年保護事件付添援助制度を利用するようおすすめします。
ここでは、少年保護事件付添援助制度の概要と利用方法について解説します。
少年保護事件付添援助制度とは
少年保護事件付添援助制度とは、日本弁護士連合会(日弁連)が運営している、少年が付添人の費用の援助を受けることができる制度です。
これは日弁連の特別会費として徴収された少年・刑事財政基金を財源とする援助事業であり、本制度を利用することで経済的な事情で弁護士に依頼できない少年でも、弁護士による支援を受けることができます。
弁護士白書の統計情報によると、2020年の本制度の利用件数は1,292件となっています。
少年保護事件付添援助制度の利用方法
少年保護事件付添援助制度を利用したい場合は、都道府県の弁護士会もしくは法テラスに連絡しましょう。
また、担当している国選弁護人に相談することも可能です。
なお、本制度は仮に保護者が付添人選任に対して反対している場合でも、少年自身が選任を希望している場合には利用できます。
少年事件は私選弁護人に依頼すべき?国選と私選のメリット・デメリット
国選弁護人と私選弁護人はいずれも少年事件で弁護活動をしてくれますが、活動期間や弁護士費用などは異なります。
そこで国選と私選のそれぞれのメリット・デメリットを紹介します。
国選や援助制度のメリット
国選弁護制度や国選付添制度、少年保護事件付添援助制度といった制度を利用するメリットは、少年やその家族が費用負担をしなくても弁護士による弁護活動を受けられることです。
また、費用負担が発生した場合でも少額で済むことがメリットとなっています。
国選・援助制度のデメリット
国選弁護制度や国選付添制度、少年保護事件付添援助制度を利用するデメリットには、弁護士を選択できないこと、「勾留決定から家庭裁判所送致まで」のように活動期間が決まっていることがあります。
また、それぞれに利用条件があり、その条件に当てはまらない場合は支援を受けられないこともデメリットといえます。
私選弁護人のメリット
私選弁護人を利用するメリットには、少年事件に注力している弁護士を自分で選んで依頼できることや、依頼後すぐに対応してもらえること、勾留前から支援を受けられることなどがあります。
また、基本的に家庭裁判所送致後には私選付添人として支援を継続してもらうことが可能です。
私選弁護人のデメリット
私選弁護人を利用する一番のデメリットは、弁護士費用が発生することです。
日弁連が弁護士費用を負担してくれる少年保護事件付添援助制度も、家庭裁判所送致前だと利用できません。
私選弁護人に依頼したらいくらかかる?費用内訳
私選弁護人のデメリットとして、弁護士費用が発生すると説明しましたが、実際、どのような費用が発生するのでしょうか。
ここでは弁護士(私選弁護人)に依頼する際の費用内訳を紹介します。
私選弁護人の費用内訳
少年事件を私選弁護人に依頼する場合、法律相談料、着手金、報酬金(成功報酬)、実費、日当などの費用が必要になります。なお,着手金とは別に日当を請求されない事務所も,着手金とは別に日当を請求する事務所もありますので,日当の有無についてはよく確認しましょう。
少年事件の場合、原則として全件家庭裁判所に送致されて、弁護士による長期的な支援が必要になるため、成人の刑事事件よりも弁護士費用は高くなる傾向があります。
最後に|少年事件はスピードが命!できるだけ早く弁護士に相談を
弁護士に相談すると、えん罪から守ってくれたり、取り調べで不利にならないようアドバイスを受けられたりします。
また、早期釈放を目指したり、少年院送致などを回避したりするために働きかけもおこなってくれます。
そんな弁護士には、国の制度などを利用して依頼する国選弁護人(国選付添人)と、少年やその家族が任意に依頼する私選弁護人(私選付添人)がいます。
それぞれメリットがあるため、現在のご状況に合わせて利用しましょう。
また、弁護士に相談したからといって、かならずしも依頼をしなければならないわけではありません。
お子さんが少年事件を起こしてしまったり、疑いをかけられてしまったら、まずは早期に弁護士にご相談ください。
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ご家族が少年事件を起こしお困りの方は弁護士へご相談ください
ご説明の通り、少年事件の対応によっては
少年本人の今後の人生にも大きく影響してきます。
少年自身のためにも、ご家族が早期対応、早期解決をサポートしてあげてください。
専門的な知識も必要になるため、お困りの方は早急に弁護士へご相談ください。
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