建造物損壊罪(けんぞうぶつそんかいざい)とは、他人の建造物や艦船などを損壊する罪を言います。法定刑は5年以下の懲役のみと、重い罰則が設けられています。
また、建造物損壊罪と似た犯罪に器物損壊罪がありますが、2つの違いにはどのようなものがあるのでしょうか。今回は、建造物損壊罪の定義と、逮捕された後の流れや傾向について解説していきます。
建造物損壊罪で逮捕された家族がいたら、弁護士に相談を
建造物損壊罪の罰則は5年以下の懲役のみです。日本では起訴された場合の有罪率が約99%ですから、起訴されれば多くのケースで身体を拘束されてしまいます。
大切な家族が逮捕・書類送検されたら、弁護士に相談してください。弁護士がサポートすることで次のようなメリットがあるからです。
- 取調べのアドバイスや準抗告を行い早期釈放を目指せる
- 被害者と示談を行い不起訴処分を目指せる
- 裁判で弁護を行い執行猶予付き判決を目指せる
「ベンナビ刑事事件(旧:刑事事件弁護士ナビ)」では、刑事問題に注力する弁護士を多数掲載しています。
ご家族が逮捕された方は、下記からお近くの弁護士を探して相談してください。
それではまず、建造物損壊罪の定義と罰則についてご説明します。
建造物損壊罪の定義
建造物損壊罪の客体は他人の建造物・艦船となります。この建造物や艦船を損壊させることで建造物損壊罪に該当します。
建造物とは
後述しますが、建造物損壊罪と器物損壊罪の違いは、損壊された物が取り外せるかどうかという差ですが、例えば玄関の扉などは取り外しをすることが可能です。
しかし、玄関の扉を破損させたことで玄関の扉の重要な役割である、外界との遮断、防犯、防風、防音機能を損失させることになり得ますので、建造物損壊罪に該当すると考えられています。(平成19年3月20日 最高裁判決)
損壊とは
損壊というと、壊すというイメージがありますが、建造物損壊罪では、壊すことだけが損壊行為ではありません。判例では、「その物の効用を害する行為」が損壊とされており、物理的に損壊するだけでなく、心理的に使用できなくする行為も損壊に当てはまります。
例として、建造物に対する落書き(平成18年1月18日 最高裁判決)や多数のビラの貼付(昭和41年6月10日 最高裁判決)なども建造物損壊罪の破損と認められるケースがあります。
建造物損壊罪の罰則
建造物損壊罪の罰則は【5年以下の懲役】となっています。
建造物損壊罪は非親告罪
また、建造物損壊罪は非親告罪となっています。後述しますが、器物損壊罪は親告罪です。つまり、建造物損壊罪では、建造物の占有者(被害者)の刑事告訴が無くても刑事事件として成立します。
【関連記事】
▶「親告罪の仕組みと該当の罪一覧|親告罪では示談が有効」
過失の場合は罪にならない
また、建造物損壊罪は故意犯に対する罰則のみです。過失で建造物を損壊させた場合は、犯罪には問われません。ただ、当事者同士で損害賠償問題が発生することは十分に考えられます。
人が死傷した場合
建造物破損によって死傷者が出てしまった場合、傷害罪の罰則と比較して重い刑罰が適用されます。
- 傷害罪:【15年以下の懲役/50万円以下の罰金】
- 傷害致死罪:【3年以上の懲役】
となっており、傷害罪として刑事手続きがされていくことが多いでしょう。
【関連記事】
▶「傷害罪の定義と傷害罪で逮捕された後の流れと弁護方法」
運転過失建造物損壊罪
また、車両の運転により建造物を損壊させた場合、道路交通法の運転過失建造物損壊罪が成立します。法定刑は【6カ月以下の禁錮/10万円以下の罰金】です。
こちらは、業務上必要な注意を怠った過失の場合も罪に該当します。例えば、「ブレーキとアクセルを踏み間違えて、コンビニに突っ込んでしまった」などということが考えられます。
また、建造物の損壊によって死傷者が出た場合、過失運転致死傷罪となり法定刑は【7年以下の懲役または禁錮/100万円以下の罰金】となります。
【関連記事】
▶「過失致死とは|過失致死の刑事的責任と事件後の対応」
建造物損壊罪と似たものに器物損壊罪があります。この2つの罪の線引きはどのようになっているのでしょうか。
対象物の違い
まず、損壊された対象物(客体)の違いですが、建造物損壊罪の場合、建造物から取り外しが可能か、建造物の中で重要な役割があるかの違いです。一方で、取り外しが可能なものは器物損壊罪の対象と認められるケースが多いです。
また、乗用車に対する損壊行為の場合、乗用車は建造物とはなりませんので、器物損壊罪が該当します。
罰則の違い
建造物損壊罪は、お伝えのように【5年以下の懲役】が法定刑です。一方で、器物損壊罪に対する法定刑は【3年以下の懲役/30万円以下の罰金】です。
親告罪・非親告罪の違い
お伝えのように、建造物損壊罪は非親告罪になっており、告訴権を持たない人物からの告発や通報でも逮捕される可能性はあります。一方で、器物損壊罪は、親告罪になっており、告訴権者からの刑事告訴がなければ刑事事件に発展することはありません。
【関連記事】
▶「器物破損で逮捕されたときの流れと刑を軽くする方法」
それではこれらを踏まえて、実際に建造物損壊罪で逮捕されるケースや例をいくつか挙げてご紹介していきます。
暴行や抗争の末の逮捕
まず、建造物損壊罪は故意によるものであるとお伝えしました。事件が発生するケースとして考えられることが、暴行や脅迫の末に建造物を損壊させてしまうようなことです。
暴力団の抗争による建造物損壊罪
度々ニュースなどでも見る内容に、暴力団同士の抗争で相手の住宅に乗用車で突っ込むという事件があります。こちらは、故意に相手の自宅(建造物)を破損させる目的で乗用車を突っ込ませているので、建造物損壊罪となります。
実際のニュースでは、2016年11月に暴力団組員らが抗争中の暴力団会長の自宅に乗用車で突入したとして、建造物損壊罪と組織犯罪処罰法違反罪に問われています。被疑者らは乗用車で突っ込み車庫のシャッターやフェンスを損壊させた疑いを持たれています。
参照:神戸系会長宅に車突入疑い
金銭トラブルの末に建造物損壊罪で逮捕
また、一般の方同士のケンカや抗争で建造物損壊罪にまで発展するケースは少ないのですが、金銭トラブルによるケンカが行き過ぎた結果、建造物損壊罪となってしまうケースもあります。
実例としては、逮捕された被疑者が、金銭トラブルがあった叔母の自宅を訪れたところ、居留守を使われて腹を立てた事件です。
被疑者は近くにあった消火器を使い、玄関ドアを複数回殴り、叔母の通報により駆けつけた景観によって逮捕に至りました。
参照:居留守に逆ギレ…消火器で殴りドア壊す 容疑で30歳女逮捕|産経WEST
いたずらでも逮捕になるケースがある
上の例は、暴力・脅迫などの末の逮捕例ですが、建造物損壊罪ではちょっとしたいたずら感覚かもしれませんが、罪に該当するケースがあります。落書きなどによるものです。
落書きによる建造物損壊罪
罪の意識が薄いかもしれませんが、落書きも立派な犯罪で、落書きした対象物が建物の壁などの場合、建造物損壊罪が該当します。実際に、通っている中学校の壁にスプレー塗料で落書きをしたとして、中学生ら4人が逮捕されたニュースもあります。
参照:中学校の壁にスプレーで落書き
いたずらでも建造物損壊罪になり得る
いたずらは落書きだけではありません。2015年には48か所の寺や神社で仏像や建物の手すりなどに無色透明の液体がかけられたとして、被害届が出されています。同様の内容でアメリカ在住の日本人医師に逮捕状も出されています。
参照:「謎の油」事件に「油供養」説も浮上!?|産経新聞
それでは、実際に建造物損壊罪で逮捕されてしまったのであれば、今後どのような流れで刑事手続きがされていくのでしょうか。
逮捕
まず、逮捕されるとその後48時間以内に警察からの捜査を受けます。この間は原則的に家族の方であっても面会をすることができません。ただ、弁護士であれば面会可能で、逮捕されてすぐに「当番弁護士制度」を利用することが可能です。
▶「無料で簡単に呼べる当番弁護士は逮捕で困った被疑者の味方」
送検
警察からの捜査が終了すれば、被疑者の身柄は検察へと移されます。これを送検(送致)と言いますが、送検後の検察からの捜査は24時間以内です。この間も弁護士以外の面会は原則的に禁止されています。
勾留
検察からの捜査が長引いた場合、検察からの勾留請求によりさらに勾留期間が設けられます。勾留期間は原則的に10日間ですが、さらに勾留延長されると最大20日まで延ばされます。
起訴
いたずら程度の建造物損壊罪であれば、本人が深く反省していたり、被害者への弁済が済んでいれば不起訴となることも多いです。しかし、悪質に何度も繰り返しているような場合や、暴力や脅迫の末の建造物損壊罪の場合、起訴される可能性も高いです。
▶「起訴と不起訴の違いと不起訴処分を獲得するためにできること」
公判
起訴されると、刑事裁判が行われます。刑事裁判での有罪率は99.9%です。前科が付くことになり、何かしらの罰則を受けてしまうでしょう。また、建造物損壊罪で起訴されてしまえば、お伝えのように懲役刑しか法定刑にありません。執行猶予付き判決を受けなければ実刑判決を受けてしまう可能性もあるでしょう。
▶「実刑とは|執行猶予との違いと実刑を免れる弁護方法」
それでは、このように進められていく刑事手続きの中で、どのような対処法を取ることができるでしょうか。
被害者との示談
まずは、建造物損壊罪で逮捕されてしまったのであれば、被害者との示談をまず目指してみて下さい。被害の程度にもよりますが、建造物損壊では、被害額が高額なケースもありますし、落書きを消す程度でしたら数万円で解決する場合もあります。
ただ、示談交渉には被害者との利害調整の要素もありますし、交渉能力も必要になります。刑事事件での示談交渉は、一度弁護士に相談することをおすすめします。
早期釈放の申し立て
被疑者に逃亡や証拠隠滅の恐れがなかった状況で身柄拘束が長引いている場合は、検察や裁判官に対して勾留の抗告(不服申し立て)をすることもできます。この場合も手続きが専門的になるので、弁護士に依頼することが一般的です。
▶「勾留されても早く釈放される方法」
不起訴の獲得
また、被害の大きさにもよりますが、検察から起訴を受ける前の早い段階で被害者との示談などが済んでいることで不起訴を獲得することも望めます。不起訴とは簡単に言うと、起訴されなかったということで、実質無罪と同じです。事件の状況にもよりますので、具体的な解決方法は個別に弁護士に相談してみることをおすすめします。
▶「不起訴を獲得するための3つの弁護方法」
いかがでしょうか。建造物損壊罪には、懲役刑しかない重い罰則が設けられています。一方で、罪の意識が低いかもしれませんが、落書きなどのいたずら行為も建造物損壊罪に該当することがあります。
もしもあなた自身や身近な方が建造物損壊罪で逮捕されてしまったのであれば、まずは刑事事件が得意な弁護士に相談するようにしましょう。