不同意わいせつ罪で被害届が提出されたら|逮捕後の手続きや弁護士の役割
不同意わいせつ事件については、被害者による被害届をきっかけとして捜査が進められ、加害者の逮捕に至るケースが少なくありません。
本記事では不同意わいせつ事件における被害届の意味や、加害者としてどのように対応するべきなのかについて解説します。
なお、これまでは「強制わいせつ罪」「準強制わいせつ罪」などが定められていましたが、2023年7月施行の改正刑法で統合されて「不同意わいせつ罪」が新設されました。
不同意わいせつ罪とは
そもそも刑法第176条に定められている不同意わいせつ罪とは、どのような犯罪なのか理解しておきましょう。
刑法上の正確な条文は、以下のとおりです。
(不同意わいせつ)
第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
引用元:刑法第176条
不同意わいせつ罪の定義
不同意わいせつ罪は、被害者の同意を得ていない状態でわいせつ行為をしたときに成立する犯罪です。
例えば、相手を押し倒して無理やり体を触る行為などが典型ですが、態様が悪質な痴漢行為が不同意わいせつ罪として立件されることもあります。
痴漢行為でも、下着の中に手を入れて身体に触れたりして、わいせつ行為をしているとみなされれば、不同意わいせつ罪が適用される場合もあるのです。
相手の同意がある場合には、原則不同意わいせつ罪は成立しません。
しかし、被害者が16歳未満の場合には同意があってもわいせつ行為に及べば不同意わいせつ罪が成立します(ただし、被害者が13歳以上である場合は、行為者が5歳以上年上である場合に限ります。)。
不同意わいせつ罪の法定刑
不同意わいせつ罪の法定刑は「6ヵ月以上10年以下の拘禁刑」です(刑法第176条)。
罰金刑はなく、起訴されれば、必ず公開の法廷で審理され懲役刑を請求されるため、重罪といえるでしょう。
初犯でも実刑判決を受けて、直ちに刑務所へ収監されることも考えられます。
もちろん執行猶予がついたとしても、有罪判決で前科がつくことには間違いありません。
起訴後の有罪率は99%以上
不同意わいせつ事件で被害者から被害届を提出されれば、加害者は逮捕・勾留され、最終的に起訴される可能性があるでしょう。
日本の刑事裁判は、統計上、有罪となる割合が99.9%を超えるといわれています。
そのため、前科がつくのを回避したいと考えるのであれば、起訴前の逮捕・勾留の段階での対応が重要です。
早期に弁護士に相談・依頼をして、検察が起訴・不起訴を判断する前に、何らかの対応をすることを検討してください。
なお、できるだけ的確な対応をしたい場合、弁護士(弁護人)を指定できない国選弁護人よりも、刑事事件に関する経験が豊富な私選弁護人を選択するほうがおすすめといえます。
私選弁護人であれば逮捕・勾留前から弁護人として活動することができるため、相対的に手厚いサポート・刑事弁護が期待できます。
示談と被害届の取り下げ
不同意わいせつ罪で逮捕され、起訴や有罪判決といった不利益を避けたい場合、被害届を取り下げてもらうことが重要です。
提出された被害届を取り下げてもらいたいのであれば、まず優先的に検討するべきは「被害者との示談交渉」です。
被害者との間で示談が成立すれば「この事件は被害者・加害者間では解決した」ということになり、被害者が被害届を取り下げるという対応をするのが通常です。
なお、被害者が被害届を超えて、刑事告訴している場合も同様です。
被害届と刑事告訴の違い
被害届と混同されやすい「告訴」ですが、それぞれ意味が異なります。
被害届と告訴の意味や、その役割を確認しておきましょう。
用語 |
意味・役割 |
被害届 |
被害者が捜査機関に被害を申告すること。 事実上の申告に過ぎず、捜査機関は捜査義務を負うことはないが、被害届を端緒として捜査を開始することがある。 |
告訴 |
被害者が捜査機関に被害を訴え、加害者に対して処罰を求める意思表示をすること。 告訴が受理された場合、捜査機関は捜査義務を負うため、捜査を開始しなければならない。 |
示談が成立した場合、一般的にはこれらの取下げがおこなわれます。
取り下げ専用の書面があるわけではありませんが、「当事者間では解決しているので加害者への刑罰を望まない」という旨の書類を提出するのです。
誰でも作成できる書類ですが、文言の一つひとつには気を配る必要があります。
一般的には弁護士に作成してもらい、内容に納得できれば署名をしてもらいます。
被害届・告訴の取り下げがされた場合
被害者のいる犯罪の場合、捜査機関の捜査では被害者の協力が必要不可欠です。
被害者が自主的に被害届や刑事告訴を取り下げた場合、被害者が処罰を望まなくなったという意思が示されることになります。
必ず捜査が終了するわけではありませんが、不同意わいせつ罪では被害者の自由な意思決定が保護されているため、逮捕前であれば警察の判断で捜査が終了となることもあり得ます。
また、逮捕・勾留後であっても、被害者の処罰感情を重視して、検察官が事件を起訴しないという判断をする場合もあるでしょう。
したがって、被害者が被害届や告訴を取り下げるかどうかは、その後の刑事手続の方向性を決めるうえで、重要であるといえます。
示談が成立して加害者が一定の金銭を支払うことによって、被害者にとっても「事件により被った損害が一定程度補填される」というメリットがあります。
したがって、加害者としては、犯罪が事実であれば被害者との間で示談交渉を進めることを積極的に検討するべきでしょう。
被害者との示談交渉は弁護士のサポートが必要
加害者や加害者の近親者が被害者と直接示談交渉を進めるのは、一般的に困難です。
加害者本人が逮捕・勾留されていれば、そもそも被害者への連絡が物理的に不可能であり、示談交渉どころではありません。
仮に逮捕・勾留されていなくても、性犯罪の被害者からすれば、通常加害者本人からの連絡に対して強い拒否反応を示すでしょう。
これは加害者の近親者にも同じことがいえます。
被害者の連絡先を知っていればともかく、これを知らない場合には捜査機関から連絡先を入手する以外に方法はありませんが、加害者や加害者の近親者が訊ねても情報は開示されないことがほとんどです。
したがって、不同意わいせつ罪のような性犯罪で、被害者との間で示談交渉を進めたいのであれば、刑事弁護人のサポートが必要不可欠です。
不同意わいせつ罪で逮捕されたときに相談すべき弁護士とは
不同意わいせつ罪で逮捕されたとき、どのような弁護士に弁護を依頼すればよいのでしょうか。
ここでは、不同意わいせつ罪で被害届を出されている場合の、弁護士の選び方を紹介します。
性犯罪の解決事例がある弁護士に相談を検討する
一口に「弁護士」といっても、得意分野や積極的に取り組んでいる分野はさまざまです。
弁護士であれば刑法や刑事訴訟法の基礎知識は有していますが、誰しもが刑事事件を得意としていたり、経験が豊富だったりするとは限りません。
不同意わいせつ罪の刑事弁護を依頼したいなら、「刑事弁護」に熱心に取り組んでいる弁護士を探しましょう。
また、不同意わいせつ罪は「性犯罪」に分類されるので、刑事弁護の中でも特に性犯罪に力を入れていて、解決実績のある弁護士を選ぶと安心かもしれません。
頼れる私選弁護人の選び方
不同意わいせつ事件で頼れる弁護士は、どのように探せばよいのでしょうか。
ここでは、性犯罪・刑事事件の対応経験がある弁護士を含めて確認すべきポイントを紹介します。
刑事事件・性犯罪の解決実績を確認する
刑事事件に熱心に取り組んでいる弁護士の中でも、性犯罪に長けているかを調べます。
各法律事務所のホームページや紹介ページに記載してある、実績に関する情報を確認したり、直接電話で問い合わせることも可能です。
過去の解決実績や過去に執筆した書籍、重大な事件に弁護人として関わって判例時報などに実績が掲載されているケースもあります。
解決実績が豊富な弁護士であれば、さまざまな方法で加害者をサポートしてくれるでしょう。
対応がスピーディーで近隣にいるかどうかを確認する
弁護士を選ぶとき、ホームページの情報だけではなく、場所についても確認しておきましょう。
法律事務所が、拘束・捜査されている施設・組織(留置所・拘置所)の近くにあるかをチェックしてください。
実際の刑事弁護活動において、複数回にわたって弁護士に接見してもらう必要があるケースの場合、遠くの弁護士だと対応が難しいことがあります。
また、対応がスピーディーでコミュニケーションを取りやすいことも重要な要素のひとつです。
「本人が接見を依頼してもなかなか動いてくれない」「被害者との示談交渉もなかなか進めてくれない」というような弁護士の場合、刑事手続き上の弁護活動はもちろん、精神的にも不安があるでしょう。
相談をしてすぐに対応してくれるか、電話やメールでもコミュニケーションを取りやすいか、会ったときの印象はどうかなどの観点を交えて、依頼するかどうかの参考にしてください。
親身になってくれて信頼できるかを確認する
弁護士には、今後の本人の人生を左右する重大事項を任せることになります。
「依頼者に親身な姿勢を持っている」ということが、頼れる弁護士の大切な要因といえるでしょう。
実際に会ってみたときに家族や本人に誠実な態度で接してくれたり、何でも質問しやすかったり、要望を告げやすいなど、しっかりとした信頼関係を築けそうな弁護士に依頼しましょう。
不同意わいせつ罪における示談交渉
不同意わいせつ罪で被害者との示談を成立させ、被害届や告訴を取り下げてもらうためには弁護士のサポートが必須である、ということは上記のとおりです。
ここでは、実際におこなわれる示談交渉について、具体的に確認しておきましょう。
弁護士による示談協議の進め方
弁護士が被害者との示談交渉を進める際には、以下のような流れで対応します。
被疑事実について間違いがないかどうかの確認をする
被害者との間で示談交渉をするということは、前提として被疑事実に間違いがないことを認めたうえで、被害者との間で事件解決に向けた話し合いをするということです。
そのため、被疑事実に争いがあるというケースでは、そもそも示談交渉を進めることは困難な場合がほとんどです。
したがって、被害者との間で示談交渉を進める前に、「被疑事実に間違いはないのか」「被疑事実が間違いないことを前提に示談交渉を進めてよいか」について、十分協議する必要があります。
被害者の連絡先を取得する
被害者との間で示談交渉を進めるためには、まず被害者の連絡先を入手する必要があります。
この点、被害者と加害者が顔見知りで連絡先を知っているなどの場合でなければ、捜査機関を通じて入手する以外に方法はありません。
弁護士は、捜査機関を通じて被害者に示談の意向があるかどうかを確認してもらい、示談の意向がある場合には捜査機関に連絡先を教えてもらいます。
被害者に一切示談の意向がなく連絡先を教えたくない場合には、示談交渉を進めることは不可能となりますが、示談の意向がなくとも連絡先を教えてもらえた場合には、弁護士が被害者に連絡を試み、示談に向けた交渉を行うことが可能です。
被害者が連絡先を教えてくれるかどうかが、一つの大きな分かれ目になるといえます。
示談協議・合意をおこなう
被害者との示談交渉では、被疑事実を認めたうえでの謝罪、被害者の被った精神的損害などの弁償、これを条件とする加害者への宥恕(ゆうじょ/許すこと)などを協議します。
あくまで示談が成立するかどうかは、当事者間で合意が成立するかどうかです。
例えば、被害者には示談する義務はないため、話し合いすら応じてもらえないこともめずらしくありません。
話し合いに応じてもらえたとしても、被害者から法外な賠償金が求められることもあり、加害者としてこれに応じることが不可能な場合もあります。
話し合いで双方が合意できる妥当なラインで決着できればよいですが、そうでない場合には示談は成立しないということです。
弁護士は、自身の知識・経験に基づき、被害者が妥当なラインで示談に応じてくれるよう説明・説得をおこないます。
しかし、最終的には被害者の意向が全てなので、処罰感情が強い場合などには示談が成立しないこともあります。
被害届・告訴を取り下げる
被害者との間で示談が成立した場合、被害者が加害者を許し、被害届・刑事告訴を取り下げる旨を約束してもらうのが通常です。
しかし、被害者によっては「示談には応じるが、加害者を許す文言を示談書に入れることや、被害届・刑事告訴を取り下げることは拒否する」という対応をされることがあります。
このような場合でも、被害者との間で示談が成立して被害弁償がおこなわれたという事実は、加害者に有利な事情となります。
当該条件でも示談に応じるべきかどうかはケースバイケースであり、加害者と弁護士の間で十分協議するべきでしょう。
示談金の相場とは
不同意わいせつ罪で被害者と示談するとき、具体的にどのくらいの示談金額を支払えばよいのでしょうか?
示談金は、被害者に対する損害の補填の趣旨で支払うものであるため、その金額は事案によりケースバイケースです。
数十万円のケースもあれば、百万円を超えるというケースもあるでしょう。
例えば、以下のようなケースでは、示談金が高額になる可能性は否定できません。
- 不同意わいせつの行為態様が悪質である
- 加害者の社会的地位が高い
- 被害者の被害が甚大である など
結局は「被害者が当該金額に納得するかどうか」にあるため、低い金額でまとまる場合もありますし、高額でもまとまらない場合もあります。
示談交渉に応じてもらえない場合
被害者が示談交渉に一切応じないという場合、被害者に対する直接的な被害弁償は困難です。
それでも何かしらの金銭的償いをしたいという場合に加害者としてできることは、被害者に対する賠償金を法務局に供託したり、犯罪被害者支援をおこなう組織・団体に贖罪寄付をするなどの方法があります。
供託や贖罪寄付が加害者にとって有利な情状となることには間違いありませんが、あくまでも情状のひとつにすぎないため、他の情状との関係で当該供託や贖罪寄付がどれほど有意義かはケースバイケースであり、一定の効果を有する場合もあれば、何ら意味がないという場合もあるでしょう。
もっとも、当該供託や贖罪寄付はあくまで反省の念を外部に示す意味でおこなわれるものであるため、意味がある・なしは重要なことではないかもしれません。
具体的な活動方針については、個別の事情に応じて考える必要があります。
弁護士と相談しながら、弁護の方向性を検討していきましょう。
まとめ
不同意わいせつ事件で被害届・告訴の取り下げを目指す場合、示談交渉を進めていくことが有効ですが、基本的に加害者やその関係者がおこなえるものではありません。
弁護士とよく検討して、示談交渉を進めていきましょう。
弁護士については、性犯罪などの刑事事件に関する経験・実績によって対応内容の差があることは否定できません。
できるだけ納得のいく結果を得るためにも、十分な実績があり、スピーディーに対応してくれる親身な弁護士を選びましょう。
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