強制わいせつ致傷罪とは?構成要件や罰則・類似の犯罪について解説
いわゆる痴漢と呼ばれる行為の多くは、刑事法上は刑法の「強制わいせつ罪」または各都道府県の「迷惑防止条例」違反に該当します。
ところが、痴漢行為をはたらいたときに相手にケガをさせてしまった場合は、さらに刑罰が重い「強制わいせつ致傷罪」が成立してしまう可能性があるのです。
この記事では、強制わいせつ致傷罪について解説します。要件や刑罰の重さを確認しながら、事件を起こして逮捕されたあとの刑事手続きの流れを見ていきましょう。
さらに、強制わいせつ致傷事件を起こした又は疑われた場合に、どのように対応すべきかもあわせて紹介していきます。
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強制わいせつ致傷罪とは
強制わいせつ致傷罪とはその名のとおり、強制わいせつ行為によって、相手に傷害を負わせた場合に成立する犯罪です。
刑法上では強制わいせつ等致死傷として、怪我をさせてしまった場合にくわえて死に至らしめてしまった場合を一括で規定しています。
傷害の結果は、わいせつ行為自体またはわいせつ行為の手段として行われた暴行もしくは脅迫から生じたものに限らず、強制わいせつの機会に生じたといえる場合には、同罪が成立するでしょう。
例えばこれは強姦事案の裁判例になりますが、被害者が共犯者の1人に強姦された後、さらに他の共犯者に強姦される危険を感じて逃走し、人里離れた田舎道の暗い夜道を数百メートル逃走した際に転倒などして負傷した場合に、強盗致傷罪が成立するとした裁判例があります。
なお、相手を死に至らしめると、強制わいせつ致死罪となります。
強制わいせつ等致死傷の条文
まずは強制わいせつ罪と、強制わいせつ致死傷の条文を確認していきましょう。
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
刑法第176条 強制わいせつ
第百七十六条、第百七十八条第一項若しくは第百七十九条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。
刑法第181条 強制わいせつ等致死傷
上記の通り、強制わいせつ等致死傷は、強制わいせつ罪を前提として成立する犯罪です。強制わいせつ罪を行う、もしくは行おうとしたことにより、被害者が怪我をしてしまったり、死んでしまったりする場合に適用されます。
強制わいせつ致傷罪を知るために、まずは強制わいせつ罪を理解しておきましょう。
強制わいせつ罪とは
刑法第176条のとおり、強制わいせつ罪は、13歳以上の者に対して暴行または脅迫を用いて、わいせつな行為をした場合に成立します。
また13歳未満の者に対してわいせつな行為をした場合は、暴行・脅迫がなかったとしても強制わいせつ罪が適用されるでしょう。
「暴行または脅迫」といえば、殴る・蹴るといった暴力行為や、「さわいだら殺す」といった脅し文句をイメージしがちです。しかしそれだけではなく、他人の家に侵入し就寝中に相手の意思に反して肩を抱いたり、電車内で相手の陰部を触るなどの行為についても「暴行」と判断される可能性があります。
迷惑防止条例違反との違いが問題となり得ますが、明確な線引きは難しく、悪質性が高い行為の場合に強制わいせつ罪が問われる可能性が高くなる場合があるでしょう。
類似の犯罪類型
強制わいせつ罪だけではなく、準強制わいせつ罪や監護者わいせつ罪といった罪もあります。強制わいせつ罪と類似していますが、明確な違いがあるのです。
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
刑法第178条 準強制わいせつ罪
十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第176条の例による。
刑法第179条 監護者わいせつ罪
刑法第178条1項|準強制わいせつ
準強制わいせつ罪は、人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じる、または、心神を喪失させる、もしくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした場合に成立します。
精神疾患や泥酔たなどの影響で正常な判断ができない、またはわざと泥酔させるなどしたうえでわいせつな行為をした場合は、準強制わいせつ罪にあたります。
刑法第179条1項|監護者わいせつ
平成29(2017)年の刑法改正によって新設された監護者わいせつ罪は、18歳未満の者に対して、監護者であることによる影響力に乗じて、わいせつな行為をした場合に成立する犯罪です。
典型的な例では、実の父親による子どもへのわいせつ行為や、養父の母親の連れ子に対するわいせつ行為などが考えられます。
また暴行または脅迫を用いて性交等を行った場合は、強制性交罪にあたります。強制性交罪等については、以下記事を参考にしてみてください。
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逮捕後の流れ
強制わいせつ致傷罪で逮捕された後の手続きの流れは、基本的には他の犯罪と変わりありません。
強制わいせつ致傷罪で逮捕された場合、具体的にはどのような刑事手続きの流れになるのでしょうか。
警察による逮捕
逮捕には、通常逮捕・現行犯逮捕・緊急逮捕の3種類があります。
一般にイメージされる、事前に令状を取って逮捕する、というのは通常逮捕にあたります。現行犯逮捕、緊急逮捕については、項末の関連記事を参考にしてみてください。
警察に逮捕されると、身柄を拘束されて取調べを受けます。この間、被疑者の生活の場となるのは警察署の留置場となることが多いです。
警察に逮捕された場合の警察の持ち時間は48時間です。警察はそれまでに取調べを尽くして検察庁へ送致する必要があるか否かを判断します。
【関連記事】
現行犯逮捕の条件と流れ|もし現行犯逮捕されてしまったら
緊急逮捕とは|現行犯逮捕・通常逮捕との違いや緊急逮捕3つの要件
検察への送致
送致を受けた検察官は、送致から24時間以内に捜査を行います。
そして、引き続き身柄拘束をしつつ捜査することが必要だと判断した場合、検察官は裁判官に対して勾留の許可を求めます。これが「勾留請求」です。
勾留
勾留が認められた場合、原則として10日間、延長によって最長で20日間の身柄拘束が続きます。
勾留中は、さらに取調べなどの捜査が続きます。検察官による取調べもおこなわれ、警察が収集した 証拠とあわせて起訴すべき事件であるか否かが慎重に判断されます。
起訴
検察官が起訴した場合、加害者は略式命令の場合を除いて公開の刑事裁判を受けることになります。
公判がどこまで続くかは事案によりますが、少なくとも2~3か月程度はかかることが多いです。起訴内容が事実と異なり、争うこととなる場合はさらに審理が長引きます。
上記でふれた略式命令とは、軽微な犯罪の場合に行われる略式起訴を指すものです。詳細は以下記事を参考にしてみてください。
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不起訴の場合
検察官が不起訴と判断した場合は即時釈放されます。では、どのような場合に不起訴になるのでしょうか。
嫌疑なし
捜査により、被疑者が、犯人とは人違いであったり、無実であったりすることが明白になった場合には、当然不起訴になります。
捜査段階で、弁護人が無実の証拠を集めて検察官に提示することで、嫌疑なしとなることもあるでしょう。
ただし、捜査機関はそもそもある程度証拠をつかんだ上で被疑者を逮捕していますから、嫌疑なしとなることは、あまり多くはないと思われます。
嫌疑不十分
捜査の結果、証拠が不十分で、強制わいせつ致傷罪にあたる事実の立証ができない場合も、不起訴となることがあります。
ただし、例えば検察官が、強制わいせつ罪に当たる事実は立証できるけれども、致傷との因果関係までは立証できないと判断した場合では、強制わいせつ罪として起訴する可能性があります。
起訴猶予
被疑者が、犯罪を犯したことが明白で、証拠もそろっている状況であっても、行為の悪質性や被害結果、年齢や境遇、反省状況、前科前歴の有無等を考慮して、起訴が見送られる場合もあります。
強制わいせつ罪では、被害者の処罰感情も重要になってきます。
捜査段階で、弁護人を通じて、被害弁償や示談ができれば、被疑者にとって有利な情状となり、起訴猶予となる可能性が高まるでしょう。
※ なお、強制性交等事件についての記事の中にも、刑事手続きの流れも記載しているので、そちら もご参照ください。
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まとめ
性犯罪に対する世間の厳しい声に応えるかたちで、平成29年には刑法が改正されてわいせつ・性交等に関する犯罪が厳罰化されました。
この改正前は、強姦罪(現在の強制性交等罪)、強制わいせつ罪、準強制わいせつ罪及び準強姦罪(現在の強制性交等罪)について,いずれも被害者の告訴がなければ起訴できませんでした(親告罪)。しかし、この改正で,被害者の告訴ができなくても起訴できるようになったのです。
性犯罪の中でも、強制わいせつ致傷罪は、わいせつ行為に加えて相手を負傷させるという重大な結果から、悪質性が高いものと判断されやすく、厳しい処分が予想されます。
強制わいせつ致傷事件の嫌疑をかけられた場合や、事件を起こして逮捕された場合でも、弁護人による適切な対応をすれば、不起訴となるかもしれません。
早急に弁護士に相談して、解決に向けたアドバイスを受けましょう。
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